第222話 反撃開始
アーガの最後の言葉が響いた瞬間、城の前の空気が凍りついた。鉱夫たちは呆然と彼を見つめ、医者が連れてきた十数人もその場から動けない。『血祭』の構成員たちも、武器を強く握る者、無意識に後ずさる者、ライドたち吸血鬼へ疑いの目を向ける者と、反応は様々だった。
「吸血鬼女王なんて、最初から存在しない。少なくとも、お前たちが恐れてきたような――少し気に入らないことがあっただけで街を水に沈め、鉱脈を爆破し、二つの城区の住民から血を吸い尽くすような吸血鬼女王は存在しない」
アーガの声は大きくなかった。それでも夜風を押し退けるように、周囲へはっきりと届いた。その言葉は最後の一本の針となり、嵐湾城を何年も支配してきた恐怖を完全に突き破った。
「じゃあ……俺たちはこの何年間、一体何を恐れてたんだ……?」
誰も答えなかった。だが答えは、すでに目の前にある。群衆の中で一人の老鉱夫が突然膝をつき、両手で顔を覆った。
「俺の息子は女王に殺されたんじゃなかった……お前たちに騙されて鉱道へ入れられて、爆発で殺されたんだ……」
別の中年男も目を赤くして『血祭』の者たちを睨みつけた。
「俺は何年もお前たちのために鉱石を運んだ! 塔も建てた! 血まで差し出した! 全部、生き延びるためだった! なのに最初から俺たちを騙してただけだったのか!?」
「こいつの戯言を聞くな!」
ついにライドが怒鳴った。周囲で血の魔力が蛇のように蠢き、十数人の吸血鬼も牙を剥く。だが今回は、『血祭』の者たちはすぐにアーガへ襲いかからなかった。校尉級中位の男もその場に立ったまま、激しく揺れる表情でライドを見ている。
恐怖は、そう簡単には消えない。疑い始めた者がいる一方、今も吸血鬼を恐れる者もいた。中には武器を握ったまま、「女王様は本当にいる……偽物のはずがない……」と何度も呟き続ける者までいる。だが、それ以上に多くの者たちの目が変わっていた。一度生まれた疑念は、もう簡単には押し込められない。
その光景を見たライドも理解した。これ以上アーガに話をさせれば、『血祭』そのものが崩壊する。
「殺せ! こいつを殺した者こそ、吸血鬼女王様の忠実な僕だ!」
恐怖に支配されたままの構成員が数人、真っ先に飛び出した。だがほぼ同時に、鉱夫たちの中からも誰かがつるはしを掲げる。
「まだこいつらの言うことを聞くのか!? 何年も騙されてたんだぞ! 吸血鬼女王がいようがいまいが関係ねえ! 今日、俺はまずこの塔をぶっ壊す!」
最初の怒号が響くと、二つ目、三つ目の声が続いた。ずっと顔を伏せ、沈黙することに慣れていた鉱夫たちが、限界まで圧力を加えられた岩のように一斉に爆発する。『血祭』へ向かって走る者、城外の木柵を叩き壊す者、鉄鎖を引きずって鉱山の門をこじ開けようとする者。第四城区は瞬く間に暴動へ飲み込まれた。
吸血鬼を守るため鉱夫を鎮圧しようとした『血祭』の者が、すぐ隣の仲間に止められる。武器を捨て、青ざめた顔で離れていく者もいた。今になって、自分たちがこの何年間、誰のために命を賭けていたのか分からなくなったのだ。
「役立たずどもが! この卑しい人間ども! 吸血鬼女王様は決してお前たちを許さない!」
吸血鬼たちは激昂して怒鳴ったが、その言葉にはもう以前のような力がなかった。今夜までなら、「吸血鬼女王」という言葉だけで誰もが跪き、震えていただろう。だが今は、より多くの者たちが赤い目で吸血鬼を睨み返していた。
アーガは混乱が始まった瞬間、リナを連れて塔へ飛び込んでいた。
「エラとイタは、まだ中にいるはずだ」
「はい。アーガ様、私も一緒に行きます」
アーガはカードを抜いた。黄2――チーター。力が身体を流れた瞬間、二人は残像へ変わり、以前調べておいた経路を通って塔の奥深くへ駆け込む。
内部もすでに大混乱だった。『血祭』の構成員が至るところを走り回り、上階からは吸血鬼たちの怒鳴り声が響く。外の騒ぎに気づいた囚人たちも、必死に扉へ身体をぶつけていた。アーガは行く手を阻む者を次々に弾き飛ばし、以前覚えておいた道を辿って捕虜たちの部屋へ向かう。
扉には魔導錠が掛けられていた。アーガは緑2――貫通の力を手へ集め、一撃で錠の内部を破壊し、そのまま扉を蹴り開けた。
部屋の中では、エラとイタが魔導枷で壁際へ繋がれていた。
「アーガ様!」
最初に顔を上げたのはイタだった。顔色は少し青白く、身体には擦り傷も多いが、意識ははっきりしている。隣にもたれていたエラも声を聞いた瞬間に勢いよく顔を上げ、疲れ切っていた目が一気に輝いた。
「アーガ様! やっと来てくれた!」
二人の無事を見た瞬間、アーガは胸の奥から大きく息を吐いた。
「大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃないけど、まだ戦える」
「わ、私もです。魔力は少し抑えられてますけど、大きな怪我はありません」
追いついたリナも二人を見て、明らかに安堵した。
「よかった……」
アーガはすぐに二人の枷を外し、身体の状態を確認した。多少血を抜かれてはいたが、リナほど酷い失血状態ではない。エラは手首を揉みながら、不満そうに口を尖らせた。
「あいつら、私の血は不味いって嫌がったんですよ。喜んでいいのか怒ればいいのか分かんないんだけど」
「わ、私もです……」
イタまで真面目な顔で続けると、リナの表情が僅かに固まり、少し恥ずかしそうに顔を伏せた。アーガもようやく小さく笑う。
「全員無事なら、それでいい」
「当然です。まだアーガ様と一緒に、あいつらをぶっ飛ばしてませんから」
その瞬間、外から巨大な轟音が響いた。塔の下ではすでに本格的な戦闘が始まっている。恐怖による支配が崩れたと悟った吸血鬼たちは、以前のように人々を操れなくなり、ついに無差別に人を殺し始めていた。しかし暴動に参加した者はあまりにも多く、『血祭』そのものも分裂している。第四城区全体が完全な混乱へ陥っていた。
間もなく、『血祭』四鬼がそれぞれ別方向へ逃げ出したという情報が入った。
ワイト。グルン。セル。ライド。
四人は混乱に乗じて包囲を突破し、それぞれ異なる方向から第四城区を脱出しようとしている。
アーガは軽く肩を回した。
「ここからは、俺たちの反撃だ」
「はい、アーガ様」
「準備できています」
「ずっと待ってました」
三人の返事を聞き、アーガは彼女たちを見た。何日もの間、胸の中へ重くのしかかっていたものが、ようやく消えていく。全員助け出した。真実も暴いた。残るのは清算だけだ。
だが追跡へ向かう直前、アーガはふと何かを思い出した。
「お前たちは先に外へ出て、皆を援護してくれ」
「アーガ様は?」
「少し取ってくる物がある」
そう言うと、アーガは一階の奥へ走った。そこには鉱夫として潜入していたときに見つけた密室がある。当時は遠くから一度見ただけだったが、常に見張りが立ち、中から非常に強い魔晶の波動が漏れていた。
今は塔全体が混乱し、見張りもいない。アーガは一気に密室の前まで走り、錠を破壊して扉を開いた。
濃密な魔力が、一気に押し寄せてくる。
部屋の中央には重厚な石箱が置かれていた。蓋を開いたアーガは、その場で動きを止める。
中には十個の上級魔晶石が、綺麗に並べられていた。
どれも普通の魔晶石より遥かに純度が高く、控えめな光の奥に極めて濃密な力が宿っている。
「こんなにあったのか」
四、五個見つかれば十分だと思っていた。どうやら吸血鬼たちは、嵐湾城の鉱脈から産出した貴重な魔晶石をここへまとめて隠していたらしい。ならば、手間が省けた。
アーガは迷わず一個目を手に取り、そのまま飲み込んだ。膨大な魔力が体内で弾ける。二個目、三個目、四個目――そして九個目まで飲み込んだとき、身体の中では荒波のような力が渦巻いていた。
魔力は体内を巡り、腰のベルトへ集まり、そこから少しずつカードへ注ぎ込まれていく。
赤2――水。赤6――雷。黄3――カンガルー。黄4――ヤマアラシ。黄5――白鳥。青3――集中印。青4――零慣性。緑3――重撃。緑4――切断。緑5――束縛。
十枚の新たなカードが次々に形を成し、それぞれ異なる色の光を放った。
アーガは一枚ずつ手に取り、そこに宿る力を確かめる。そしてついに、口元を上げずにはいられなかった。
今回の嵐湾城では多くのものを失い、多くの苦痛にも耐えた。だが少なくとも今、この吸血鬼たちが蓄えてきたものは、そのまま自分の反撃の武器になった。
十枚のカードをしまい、アーガは密室の外に広がる混乱へ顔を向けた。
「ごちそうさま。来た甲斐はあったな」




