第220話 暴露
ライドは冷たい声で言った。
「でたらめだ」
そして勢いよく、『血祭』の者たちへ顔を向ける。
「殺せ」
『血祭』を率いていた男が、すぐに一歩前へ出た。
男から放たれる気配は強い。
校尉級中位。
武器を抜き、冷たい目でアーガを睨みつけた。
「貴様のような者が、吸血鬼様の前で好き勝手な真似をするとはな」
リナはすぐにアーガを守るように半歩前へ出た。
しかしアーガは片手を上げ、彼女を制した。
「待て」
アーガは校尉級中位の男を見た。
「お前ほどの実力者が、本当にこいつの命令へ従い続けることに満足しているのか?」
男の足が止まった。
アーガは続ける。
「お前は校尉級中位だ。外へ出れば、十分に強者として扱われる」
「それなのに、この場所では数人の吸血鬼の前へ跪き、門番をし、人を捕らえ、同じ人間を殺すことしかできない」
男の表情が険しくなった。
「俺を挑発するつもりか?」
「挑発ではない」
アーガは男を真っ直ぐ見つめた。
「ただ一つ聞きたい」
「お前は本当に、吸血鬼女王が存在すると信じているのか?」
周囲は再び静まり返った。
その言葉は、淀んだ水の中へ投げ込まれた石のようだった。
大勢の表情が変わる。
ライドがすぐに怒鳴った。
「黙れ!」
隣に立つ別の吸血鬼も、嘲るように笑った。
「人間、自分が何を口にしているのか分かっているのか?」
「吸血鬼女王様は、貴様ごときが疑ってよい存在ではない」
「女王様の怒りは、すでに三度もこの街へ下された」
「一度目は第三城区を水に沈め、二度目は第四城区を破壊し、三度目は第一城区と第二城区を皆殺しにした」
「それでも、まだ信じないつもりか?」
その言葉を聞き、周囲の人々に再び恐怖が広がった。
鉱夫たちは顔を伏せた。
その場へ跪き、震え始める者もいる。
医者が連れてきた十数人の生存者たちも、顔を青ざめさせていた。
彼らは実際に災害を経験している。
あの恐怖が偽物ではないことを、誰よりもよく知っていた。
ライドは再び余裕を取り戻したように、陰冷な目でアーガを見た。
「今すぐ跪けば、まだ間に合う」
「さもなければ、吸血鬼女王様はお前たち全員を後悔させるだろう」
しかしアーガは、ただ静かにライドを見つめ返した。
「また吸血鬼女王か」
小さく笑う。
「誰かが真実へ近づくたび、お前たちはその名前を持ち出す」
ライドの目がさらに冷たくなった。
「死にたいらしいな」
『血祭』の男も、再び武器を強く握った。
だが、男が動こうとした瞬間、アーガが不意に言った。
「今ここで俺を殺すのは簡単だ」
「だが、俺が何を見つけたのか、聞いてみたいとは思わないのか?」
男は眉を寄せた。
アーガの声は大きくなかったが、周囲の全員へはっきりと届いた。
「俺の話が間違っていたなら、そのあとで殺せばいい」
「だが、俺が正しかったとしたら?」
アーガはライドたちを指差した。
「こいつらが何度も口にしてきた吸血鬼女王など、最初から存在しない!」
周囲が一気に騒がしくなった。
鉱夫たちは声を潜めて話し始める。
『血祭』の中にも、動揺を見せる者がいた。
アーガの言葉はあまりにも大胆だった。
ただ相手を挑発するためだけに言っているとは思えないほどに。
ライドはついに、表情から焦りを隠せなくなった。
「殺せ!」
「だから、最後まで聞いてから決めろと言っている」
アーガはライドの声を遮った。
その視線は、依然として校尉級中位の男へ向けられている。
「そこまでの力を手に入れたお前が、たった数言の話を聞く勇気さえ持っていないのか?」
男の目が僅かに険しくなった。
しかし、すぐには動かなかった。
ライドが怒鳴る。
「貴様、吸血鬼女王様の命令へ逆らうつもりか?」
男は武器を握ったまま、何度も表情を変えた。
やがてアーガを冷たく見つめる。
「話せ」
「だが、相応の証拠を示せ」
「さもなければ、俺が直々に貴様の首を斬り落とす」
アーガは笑った。
「分かった」
背負っていた大きな荷物を、ゆっくりと下ろす。
荷物が地面へ落ち、重い音を立てた。
周囲にいる全員の視線が、アーガへ集中する。
アーガは城の前へ立った。
吸血鬼。
『血祭』。
鉱夫たち。
医者と生存者たち。
そしてティアとリナ。
全員に見つめられる中、ゆっくりと口を開いた。
「それでは、最初の災害から話そう」
「ライドが第四城区へ追放された、あの日からだ」
吸血鬼たちの先頭に立つライドの顔は、すでに酷く険しくなっていた。
アーガは一度だけ彼を見たあと、群衆へ顔を向けた。
「最初の災害は、ライドが第四城区へ追放された直後に起きた」
その言葉を聞き、大勢がライドを見た。
ライドは冷たく言い放つ。
「あれは吸血鬼女王様が下した罰だ」
「違う」
アーガは即座に否定した。
「あれは偶然発生した湖嘯にすぎない」
人々が一斉に騒ぎ始めた。
「湖嘯だと?」
「ふざけるな!」
「確かに前兆は似ているが、あれほどの災害がただの湖嘯のはずがない!」
医者も反射的に眉を寄せた。
すでにアーガから分析の一部を聞いていたが、大勢の前で改めてその結論を聞くと、やはり大きな衝撃を受けずにはいられなかった。
アーガは人々を急いで説得しようとはせず、そのまま話を続けた。
「俺は最初の災害の生存者から話を聞いた」
「災害が発生する前、湖の水位は一度、明らかに低下していた」
「そして翌日、湖水が突然押し戻され、第三城区の低い土地を呑み込んだ」
「これは呪いではない」
「湖水が異常に逆流したことによって引き起こされた災害だ」
群衆の中から、一人の男が大声を上げた。
「俺も当時、湖嘯ではないかと疑った!」
「だが、あの災害はあまりにも大規模だった。普通の湖嘯とは思えなかったんだ!」
「だからこそ、偶然だったと言っている」
アーガはその男を見た。
「規模が大きかったから」
「突然起きたから」
「誰にも原因を説明できなかったから」
「ライドはその機会を利用した」
ライドの目が僅かに動いた。
アーガは片手を上げ、彼を指差す。
「こいつは災害の前日に第四城区へ追放された」
「そして連れ去られる直前、吸血鬼女王が戻り、この街を呪うと叫んだ」
「その翌日に湖嘯が起きた」
「だから人々は恐れた」
「吸血鬼女王が本当に生きているのだと、誰もが信じ始めた」
アーガの声は次第に明瞭になっていった。
「あれは吸血鬼女王が初めて力を振るった瞬間ではない」
「ライドが初めて、人々の恐怖を利用した瞬間だ」
群衆の中から激しいざわめきが起こった。
顔を青ざめさせる者がいる。
反射的に首を振り、信じることを拒む者もいた。
一方で、ライドを見る目を変え始めた者もいる。
ライドは嘲るように笑った。
「馬鹿馬鹿しい」
「すべて貴様が勝手に口で言っているだけだ」
「もちろん、言葉だけではない」
アーガは答えた。
「最初の災害が起きたあと、この街にはさらに多くの吸血鬼が現れた」
「なぜだ?」
「人々が恐怖に支配されたからだ」
「誰も反抗できなくなったからだ」
「すべての者が、吸血鬼たちの背後には復活した女王がいると信じたからだ」
アーガは『血祭』の者たちへ目を向けた。
「お前たちも、その頃から信じ始めたのではないか?」
「血を捧げ、吸血鬼へ服従し、奴らのために働きさえすれば、自分だけは生き残れると」
何人かの『血祭』の構成員が僅かに表情を変えた。
校尉級中位の男も、何も言わなかった。
アーガは続ける。
「だが、王都から来た新しい城主は信じなかった」
そこまで話すと、第四城区の奥へ目を向けた。
「他の一部の者たちと同じように、城主は最初の災害をただの湖嘯だと考えた」
「だから反抗者たちを率いて第四城区へ攻め込み、大勢の吸血鬼を倒した」
医者の後ろにいる生存者たちの呼吸が、次第に荒くなった。
あの日は、彼らが最も希望へ近づいた日だった。
しかしその日のあと、すべての希望は爆発によって葬られた。
アーガは声を落とした。
「二度目の吸血鬼女王の怒りと呼ばれているもの」
「あれは、ただの鉱山爆発だ」
ライドの隣にいた吸血鬼が、ついに我慢できず怒鳴った。
「でたらめを言うな!」
「あの爆発がどれほど凄まじかったか、貴様に分かるのか?」
「城主級の者さえ殺す力だったのだぞ!」
「もちろん分かっている」
アーガは腰を屈め、大きな荷物を開いた。
中から魔導符文によって封じられた小さな器具をいくつか取り出す。
さらに黒い小さな石片と、透明な魔導ガラス瓶を取り出した。
周囲の人々には、アーガが何を始めようとしているのか分からなかった。
アーガはすべてを地面へ並べ、全員に距離を取るよう合図した。
続いて、廃坑の近くで採取した少量の気体が入った瓶を、防護結界の内側へ置く。
そして極めて小さな火花を近づけた。
次の瞬間、瓶の中の気体が激しく光った。
短く鋭い破裂音が響く。
火は小さかった。
しかし、そこにいる全員が何が起きたのか確認するには十分だった。
周囲から一斉に驚きの声が上がった。
「何だ、今のは?」
「どうして瓶の中で爆発した?」
「魔力の動きはなかったぞ!」
『血祭』の者たちも、大勢が顔色を変えた。
医者は呆然とガラス瓶を見つめた。
唇が僅かに震えている。
「これが……鉱山で起きた爆発なのか?」
アーガは頷いた。
「廃坑の中には、燃えやすい気体が蓄積することがある」
「鉱道が突然爆発することがあり、それが非常に危険だということは、ここにいる者たちも知っているだろう」
「だが、なぜ爆発するのかまで知っている者は少ない」
アーガは、半ば溶けた黒い石片を拾い上げた。
「俺は第四城区の奥で、過去に起きた爆発の痕跡を発見した」
「あれは吸血鬼女王の力ではない」
「何者かが城主と反抗者たちを、この気体が充満した廃坑へ誘い込んだ」
「そして火を放ち、意図的に爆発させたんだ」
群衆は完全に静まり返った。
その説明は、あまりにも恐ろしいものだった。
これが事実なら、二度目の災害は女王の怒りなどではない。
最初から準備されていた、大規模な殺人だった。
医者は青ざめた顔で尋ねた。
「だから……城主級の人間まで殺せたのか?」
「そうだ」
アーガは吸血鬼たちへ目を向けた。
「そして二度目の災害は、偶然ではない」
「最初から計画されていた」




