第218話 真相の目前
ティアはアーガを見つめ、静かな声で言った。
「三度目が、今回の出来事だよ」
「私たちはリナお姉ちゃんを助け出した」
「アーガたちはライドに逆らった」
「そのあと、第一城区と第二城区の人たちが全員死んだ」
医者も声を落とした。
「今、第三城区では恐怖で正気を失いかけている者が大勢いる。皆、お前たちが吸血鬼女王を怒らせたと思っているんだ」
「アーガのせいじゃない!」
ティアはすぐに医者を見た。
医者は慌てて説明する。
「そういう意味で言ったんじゃない。ただ、街の人々はそう考えるだろうという話だ」
アーガは怒ることなく、顔を伏せて考え込んだ。
最初の災害は湖と関係していた。
二度目の災害は、第四城区の鉱山と爆発に関係している。
三度目の災害は、第一城区と第二城区の住民の死、湖水の低下、そして遺体から血が失われていたことに関係していた。
まだすべての答えを導き出したわけではない。
しかし、吸血鬼女王の呪いが噂されているほど単純なものではないと、アーガはますます確信し始めていた。
「アーガ、何か分かったの?」
ティアが小さな声で尋ねた。
アーガはすぐには答えず、机の上で揺れる明かりを見つめながら、ゆっくりと言った。
「もう少し考える必要がある」
部屋の中は再び静かになった。
医者もティアも、それ以上アーガの思考を邪魔しなかった。
アーガは顔を伏せたまま、三度の災害、嵐湾城の地形、第四城区の鉱脈、湖水の変化、そして吸血鬼たちが現れた時期を、頭の中で何度も結びつけていく。
ぼやけていた一本の線が、少しずつ姿を現し始めていた。
◇ ◇ ◇
部屋の明かりが静かに揺れていた。
アーガは俯いたまま、一定ではない間隔で指先を机へ打ちつけている。
長い時間が過ぎたあと、不意に顔を上げた。
「分かった」
ティアは目を瞬かせた。
「アーガ?」
医者も彼へ視線を向ける。
アーガはすぐには説明せず、先に医者へ尋ねた。
「最初の災害について、もう少し詳しく話せるか?」
「最初の災害?」
「ああ」
アーガは頷いた。
「いわゆる吸血鬼女王が動く前に、街で何か異変は起きていなかったか? 例えば、湖水に変化があったとか」
医者は最初、何もなかったと答えようとした。
しかし言葉を口にする直前で、不意に動きを止めた。
「そう言われてみれば……」
その表情が少しずつ変わっていく。
「思い出した」
「何を思い出したの?」
ティアがすぐに尋ねた。
「最初の災害が起きる前、確かに湖の水位が一度下がっていた気がする」
アーガの目が動いた。
「下がった?」
医者は頷き、遠い昔の光景を懸命に思い出そうとした。
「あの頃、街では誰もがライドのことを話していた。自業自得だと罵る者もいれば、奴が連れ去られる前に叫んだ言葉を恐れる者もいた」
「吸血鬼を第四城区へ追いやって、鉱石を掘らせれば、それですべて終わると考える者もいた」
「だが、その日の夕方だった。湖の近くに住んでいた何人かが、水位が急に大きく下がったと言っていたんだ」
医者は一度言葉を止めてから、続けた。
「ただ、そのときは誰も気に留めなかった。嵐湾城の湖水は時折増減することがあったから、皆、上流から流れ込む水量が変わっただけだと思っていた」
「ところが翌日、湖水が突然大きく溢れ、第三城区の低い土地がすべて水に沈んだ」
アーガはゆっくりと息を吐いた。
「なるほど」
ティアも何かに気づいたように彼を見た。
「アーガ、まさか……」
アーガはすぐには答えず、さらに医者へ質問した。
「あの頃、山の上で何か起きていなかったか? 巨大な岩が崩れ落ちたとか、鉱区で落盤が起きたとか、第四城区で異変があったとか」
医者は首を振った。
「そこまでは分からない。災害が起きたときに本当に巨石が落ちていたとしても、山の下からでは小さすぎて、誰も気づかなかっただろう」
「それなら湖嘯ではないのか?」
アーガは尋ねた。
「誰も疑わなかったのか?」
「もちろん疑った」
医者は溜め息をついた。
「嵐湾城は以前にも湖嘯に襲われたことがある。ただ、あのときの規模は、それまでで最も大きかった」
「後から派遣されてきた新しい城主も、この件を疑っていたらしい。だが、その城主は間もなく鉱山で爆死した」
「それ以降、調査を続けようとする者は誰もいなくなった」
それも無理はなかった。
街の人々はすでに恐怖へ呑み込まれていた。災害の裏にある原因を、冷静に考えることなどできなかったのだろう。
アーガはさらに尋ねた。
「鉱脈の方はどうだ? 嵐湾城の鉱脈には、地下水路や古い坑道、湖底へ通じる場所はないのか?」
医者は苦笑した。
「それは本当に分からない。俺は医者であって、鉱夫ではないからな」
「第四城区の鉱脈について詳しいのは、古くから働いている鉱夫か、『血祭』の者たちくらいだろう」
「なら、自分で調べるしかないな」
その言葉を聞いた瞬間、ティアの表情が僅かに変わった。
反射的に手を伸ばし、アーガの手を握る。
アーガは彼女へ目を落とした。
「どうした?」
ティアは少し恥ずかしそうに顔を伏せたが、手を離そうとはしなかった。
「また鉱脈へ行くの?」
その声には、はっきりとした不安が含まれていた。
「あそこは危険だよ」
アーガは繋がれた二人の手を見て、小さく笑った。
「大丈夫だ」
「もう手掛かりは掴んでいる」
その夜、アーガは再び変装し、第四城区の鉱山へ潜り込んだ。
今回は以前よりも慎重に行動した。
すぐに調査を始めることも、わざと目立つようなこともしなかった。
赤骸城から来た若い鉱夫を装い、他の鉱夫たちと一緒に鉱石を運び、砕けた鉱石を選別して働いた。
『血祭』の者たちは、すでにアーガが鉱石の選別を得意としていると知っていたため、かえって疑おうとはしなかった。
中には肩を叩きながら、笑って声を掛けてくる者までいた。
「坊主、真面目に働けよ。上手くいけば、そのうち鉱石の選別専門に回してもらえるかもしれないぞ」
アーガは顔を伏せ、素直そうな笑みを浮かべた。
夜になると、鉱山に残る人間は少し減った。
『血祭』の巡回は依然として厳しかったが、鉱夫たちが交代する時間には、必ず僅かな隙が生まれる。
最初の夜、アーガは古い坑道へ忍び込んだ。
石壁には、落盤後に再び掘り開かれた痕跡がはっきりと残っていた。古い岩盤と新しく掘られた岩盤の境目も、明確に見分けることができる。
坑道の中ほどには、周囲より色の濃い水の跡が残されていた。
高さは一般的な成人の胸元ほどまで達している。
ただ湿気によってできた跡ではない。
岩盤が長期間水へ浸かったことで表面の酸化層が洗い流され、水が引いたあとも消えずに残ったものだった。
アーガは壁際から、僅かな堆積物も削り取った。
灰白色をしており、粒子は非常に細かい。
乾燥したあとは薄い殻のようになって石の表面へ付着している。
明らかに、湖底でしか生じない泥だった。
二日目の夜、アーガは鉱山の奥深くへ回り込んだ。
そこには背の低い坑道の入り口があり、頑丈な鉄格子で封鎖されていた。そばでは見張りが交代で監視しているにもかかわらず、入り口の上には「廃坑」と書かれた木の札が掛けられている。
アーガは暗がりからしばらく観察し、入り口の方向を確かめた。
この坑道は、琥珀長湖と小湖の間にある湿地帯の方角へ真っ直ぐ向いている。
さらに入り口付近に散らばっている砕石は、色も材質も、あの湖岸を形成している岩盤とよく似ていた。
つまり、すでに使われていないとされているこの坑道は、かつて湿地帯へ向かってかなり長い距離を掘り進められていたことになる。
三日目の夜。
アーガは見張りの交代する僅かな隙を利用し、塔の基礎に近い石室へ潜り込んだ。
壁の隅には、放射状に広がる暗い焼け跡が残されている。
その表面は周囲の石壁よりも硬く滑らかで、瞬間的な高温によって僅かにガラス化したことが明らかだった。
壁際に積もった埃の中には、鋭い角を持つ黒い微粒子も混ざっている。
鉱石が高温の中で突然破裂した際に生じた残滓だった。
この石室は最も近い通風口から数十メートルも離れており、周囲には松明を設置するための台すらない。
日常的に火を使ったことで生じた痕跡とは考えられなかった。
アーガはゆっくりと手を引いた。
この石室か、あるいは壁一枚を隔てた場所で、瞬間的な高温爆燃が起きたことは間違いない。
暗がりに立つアーガの目が、少しずつ冷たくなっていった。
「やはり、そういうことか」
低い声で呟く。
「吸血鬼女王など、最初から存在しなかった」
「女王の怒りと呼ばれているものは、すべて誰かが意図的に作り上げた恐怖だ」
「奴らは鉱脈と湖水の繋がりを利用して水位を操作し、洪水を引き起こした」
「さらに魔晶鉱石を爆発させ、第四城区へ攻め込んだ城主と反抗者たちを殺した」
そして今回起きた第一城区と第二城区の死も、おそらく湖水の低下や地下通路、吸血鬼と『血祭』が事前に仕掛けた何らかの手段に関係している。
まだすべての仕組みを解明したわけではない。
しかし、これだけ分かれば十分だった。
少なくとも、吸血鬼女王が触れることさえ許されない神話の存在ではないことは分かった。
恐怖の裏へ隠された、ただの欺瞞だった。
四日目の早朝、アーガは第四城区を離れ、山を下って第三城区へ戻った。
診療所へ入った瞬間、入り口のそばに立つリナの姿が目に入った。
すでに普通に動けるまで回復している。
顔色にはまだ僅かな青白さが残り、身体も完全に元へ戻ったわけではなかったが、以前のように起き上がることさえ難しいほど弱ってはいなかった。
アーガの姿を見た瞬間、リナの目に涙が浮かんだ。
そのまま真っ直ぐ駆け寄り、勢いよくアーガへ飛びつく。
両脚を腰へ強く絡め、腕を首へ回し、身体ごと彼にしがみついた。
アーガは衝撃で半歩後退し、反射的に両手でリナの身体を支えた。
「アーガ様」
リナは顔を肩口へ埋めた。
その声には、はっきりと鼻にかかった響きが混じっている。
アーガは一瞬動きを止めたあと、両腕へ力を込め、彼女をしっかりと抱き締めた。
この数日間ずっと胸へ重くのしかかっていたものが、その瞬間、ようやく少しだけ軽くなった。
「もう起きられるのか?」
リナは彼の腕の中で、小さく頷いた。
「はい。もう大丈夫です」
「そうか。それならよかった」
ティアは少し離れた場所に立ち、二人の姿を見つめていた。
指先で服の裾を軽く握り、その表情には複雑なものが浮かんでいる。
嫉妬しているわけではなかった。
ただ、アーガとリナの間には非常に深い繋がりがあることへ、改めて気づいたのだ。
数日一緒に過ごしただけでは生まれないもの。
多くの出来事をともに乗り越えるうち、少しずつ積み重ねられてきた感情だった。
しばらくして、ティアはようやく本来尋ねるべきことを思い出したように、少し言葉を詰まらせながら聞いた。
「ど、どうだったの?」
アーガはリナを下ろし、ティアへ顔を向けた。
その眼差しは、数日前とは完全に変わっていた。
迷いも、失意も、すでに消えている。
代わりに宿っていたのは、ついに答えを見つけた者の冷静さだった。
「すべて解決した」
ティアは目を瞬かせた。
「解決したの?」
リナもアーガを見る。
アーガは頷いた。
「もう、何をすればいいのか分かっている」




