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追放された転生貴族の俺、基礎カード魔法で少女たちと運命を切り開く  作者: 夜神智
嵐湾城編

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第217話 三度の災害

アーガは濁った湖水を見つめながら、少しずつ目を険しくしていった。


ティアは、まだ彼の言葉を完全には理解できていない。


「アーガ、それって……吸血鬼女王は偽物だってこと?」


「まだ断定はできない」


アーガは首を振った。


再び遠くにある第三城区と小山の方角を見ながら、頭の中で嵐湾城の地形を何度も思い返す。


第一城区、第二城区、第三城区、第四城区。


二つの湖。


それほど高くない小山。


山にある鉱脈と、この一年ほどの間に建設された灰黒色の高塔。


この街で起きたすべての出来事は、まるで「吸血鬼女王」という名前によって覆い隠されているようだった。


誰かが死んだとき。


災害が起きたとき。


誰かの反抗が失敗したとき。


人々は何の疑いもなく、それを吸血鬼女王の怒りだと考える。


だが、そうではなかったとしたら?


いわゆる「女王の怒り」とは、誰かがその伝説を利用して引き起こした出来事だったとしたら?


アーガはしばらく湖面を見つめたあと、低い声で言った。


「ただ、もう少し調べたいことがある」


ティアはすぐに彼を見た。


「何を調べるの?」


「まず第三城区へ戻ろう」


アーガは答えた。


「これまでに起きたことを、最初からもう一度聞きたい」


二人が第三城区の診療所へ戻った頃には、すでに日が暮れようとしていた。


第三城区の通りは、昼間よりもさらに緊張した空気に包まれている。多くの人々が急いで家へ戻り、商店も一軒ずつ扉を閉ざしていた。道端では第一城区や第二城区で起きたことを囁く者もいたが、大声で話そうとする者は一人もいない。


診療所へ戻ったアーガとティアは、まずリナの様子を確認した。


リナは今も休んでいる。


医者によれば、朝よりもさらに容体は安定しているが、まだ自由にベッドから下りられる状態ではないらしい。


アーガはリナが無事であることを確認してから、ティアとともに隣の小部屋へ移った。


そこは本来、医者が薬草を保管するために使っていた部屋だったが、今は二人が休めるよう簡単に片づけられていた。


部屋は狭く、窓は閉ざされている。机の上には、小さな明かりが一つ灯っていた。


椅子へ腰を下ろしたアーガは、遠回しな言い方をしなかった。


「ティア」


「うん?」


「以前に起きた二度の大虐殺と、吸血鬼が初めてこの街へ現れた頃のことを、もっと詳しく話してくれないか?」


ティアは僅かに目を見開いた。


アーガが突然そのことを尋ねるとは思っていなかったらしい。


しかしすぐに顔を伏せ、記憶を辿り始めた。


「最初、吸血鬼は一人しかいなかったの」


アーガが目を上げる。


「誰だ?」


「ライド」


その名を口にした瞬間、ティアの声が明らかに小さくなった。


「前にあなたたちを追ってきた、あの吸血鬼」


アーガは僅かに眉を寄せた。


ティアは続ける。


「本当は最初の頃、ライドはこの街で酷い扱いを受けていたの」


「正体を隠して、長い間嵐湾城で暮らしていた。あの頃は、吸血鬼だと知っている人はほとんどいなかった。ただ、少し変わった人だと思われていたみたい。日光を嫌っていて、いつも一人で行動していたから」


ティアは一度言葉を止めた。


話すことを躊躇っているようだった。


「でもあるとき、正体が知られてしまった」


アーガは口を挟まず、そのまま話を聞いた。


ティアは声を落とした。


「あの頃、街の人たちは吸血鬼をとても恐れていたの。二百年以上前の伝説がたくさん残っていて、みんな吸血鬼は不吉な存在だと思っていた」


「ライドが吸血鬼だと分かったあと、街の人たちは彼に酷いことをした」


「捕まえて、奴隷のように働かせた。殴る人もいたし、銀製品を熱して身体へ押しつける人もいた」


アーガは黙り込んだ。


ティアは続けた。


「最後には全身傷だらけになって、街の外へ捨てられた」


「あいつは吸血鬼だから、街で暮らす資格なんてない。第四城区で一生鉱石を掘っていろって、そう言われたらしいの」


「街の外へ捨てられたとき、ライドはずっと叫んでいた」


アーガは尋ねた。


「何を叫んだ?」


ティアは顔を上げた。


その瞳には、複雑な感情が浮かんでいた。


「吸血鬼女王が戻ってくるって」


「女王がこの街を呪い、自分を傷つけた人間たち全員を後悔させるって」


一瞬、部屋の中が静まり返った。


アーガは僅かに目を細める。


ティアはそのまま続けた。


「その翌日、湖の水が急に溢れたの」


アーガが勢いよく顔を上げた。


「湖水が?」


ティアは頷いた。


「次の日の朝、湾の湖の水位が突然大きく上がって、第三城区の湖に近い低い土地が全部水に沈んだ」


声が次第に小さくなる。


「逃げるのが間に合わなかった人も、たくさんいた」


「第三城区では、大勢の人が死んだの」


「それが最初の大規模な災害だった」


アーガは突然片手を上げ、ティアの話を遮った。


「待て」


ティアは驚いたように彼を見る。


「どうしたの?」


アーガは答えず、部屋の扉へ視線を向けた。


椅子から立ち上がり、ゆっくりと扉の前へ歩いていく。


「外にいる者」


声は平静だった。


「盗み聞きする必要はない。入ってこい」


ティアは目を瞬かせた。


「え?」


次の瞬間、アーガは勢いよく扉を開いた。


外には、一人の中年男が身体を硬直させて立っていた。


診療所の医者だった。


手には薬の入った器を持っており、顔には気まずそうな表情が浮かんでいる。


「ええと……」


医者は乾いた笑いを漏らした。


「気づかれていたのか?」


ティアは大きく目を見開いた。


「先生?」


アーガは医者を見つめた。


「なぜ盗み聞きをしていた?」


医者は慌てて両手を振った。


「わざとじゃない、本当にわざとじゃないんだ。薬を届けに来ただけだったんだが、吸血鬼女王について話しているのが聞こえて、つい少し聞いてしまった」


アーガの目から警戒は消えなかった。


医者は溜め息をつき、顔に浮かんでいた気まずさを、次第に重い表情へ変えた。


「俺は、最初の災害の生存者なんだ」


部屋の中が静かになった。


ティアも驚いたように医者を見る。


医者は薬を持ったまま部屋へ入り、後ろ手に扉を閉じた。声も先ほどより小さくなる。


「あの頃、俺はまだこの診療所にいなかった。家は第三城区の、湖に近い低い場所にあったんだ」


「あの日、湖水が急激に溢れ、両親は逃げられなかった。俺だけが、近所の人に高台まで引っ張り上げてもらった」


医者はティアを見た。


「お前の話は間違っていない。あの日のことは、今でもはっきり覚えている」


「その前の晩には雨が降っていた。だが、大雨ではなかった」


「雨……」


アーガは、その言葉に奇妙な違和感を覚えた。


しかし今は深く追及せず、そのまま尋ねる。


「その災害をきっかけに、街の人間は吸血鬼女王が復活したと信じ始めたのか?」


医者は頷いた。


「ああ」


「ライドが第四城区へ捨てられた翌日に、第三城区が災害に襲われた。街の者たちは皆、吸血鬼女王の報復だと言った」


ティアが続けた。


「そのあと、吸血鬼が二人増えたの」


アーガは彼女を見た。


「誰も、どこから来たのか知らなかった」


「吸血鬼女王が呼び戻したと言う人もいれば、ライドが呼び寄せたと言う人もいた」


医者も言葉を付け足した。


「あの頃から、街を覆う恐怖が一気に強くなった」


「吸血鬼女王は今も生きていると信じる者が増えて、誰も反抗しようとしなくなった」


「吸血鬼たちが第四城区に城を建てるよう要求し始めたのも、その頃だ。今あるあの高塔のことだ」


アーガは低い声で尋ねた。


「鉱夫たちに建てさせたのか?」


「ああ」


医者は頷いた。


「鉱夫や労働者を使って塔を建てさせ、鉱山で採れた鉱石も差し出すよう要求した」


「最初の頃は拒む者もいたが、反抗した者は次々に姿を消した」


ティアが言った。


「そのあと、街にはさらに何人もの吸血鬼が増えた。全部で二十人くらいだったと思う」


「最も強い者は、校尉級上位に達していた」


アーガの目が僅かに険しくなった。


二十人ほどの吸血鬼。


その中には校尉級上位の者もいる。


普通の都市が簡単に対処できる規模ではなかった。


ティアは机の上で揺れる明かりを見つめながら、話を続ける。


「二度目の大虐殺は、王都から新しい城主が派遣されてきたときに起きたの」


医者も黙り込んだ。


嵐湾城の者にとって、思い出したくない出来事なのだろう。


ティアは言った。


「その城主は、城主級に達していた」


「彼が来たとき、街の人たちはようやく助かると思った。あの頃は、まだ何人かの冒険者やギルドの構成員、護衛たちも立ち上がって、吸血鬼へ反抗しようとしていたの」


アーガが尋ねる。


「最初に第四城区を攻めたのか?」


ティアは頷いた。


「うん。城主は反抗する人たちを率いて第四城区へ攻め込み、そこで十人以上の吸血鬼を倒した」


医者も口を開いた。


「あの日は本当に激しい戦いだった。第三城区にいた俺たちにも、第四城区から戦闘の音が聞こえてきた」


「誰もが、今度こそ吸血鬼たちを追い出せると思っていた」


ティアは続ける。


「でも、死にかけた吸血鬼たちは、また同じようなことを言ったの」


アーガには、すでにその言葉が予想できていた。


ティアの声が低くなる。


「俺たちに逆らえば、吸血鬼女王が怒るぞって」


「城主は相手にしなかった。その日のうちに、生き残った人たちを率いて第四城区の奥へ進んでいった」


医者が続きを引き継いだ。


「そして、その夜だった。第四城区で巨大な爆発が起きた」


部屋の明かりが僅かに揺れた。


アーガは医者へ目を向ける。


医者の顔色は酷く悪かった。


「凄まじい爆発音だった。第三城区にいた俺たちにも、はっきり聞こえた」


「山の上では一晩中火の光が燃え続けていた。翌日、多くの者が第四城区へ近づこうとしたが、山へ上がることはできず、遠くから荒れ果てた様子を見ることしかできなかった」


ティアは低い声で言った。


「城主は死んだ」


「一緒に向かった人たちも、全員死んだの」


「それが二度目の大規模な虐殺だ」


医者が付け加えた。


アーガは指先で机を軽く叩いた。


最初の災害。


ライドが第四城区へ捨てられたあと、その夜に雨が降り、翌日には湖水が溢れて第三城区で大勢の人間が死んだ。


二度目の災害。


城主が第四城区へ攻め込んだあと、山の上で巨大な爆発が起き、城主と反抗者たちは全滅した。


三度目の災害。


今回起きた、第一城区と第二城区の住民全員の不可解な死。


どの災害も、誰かが吸血鬼たちを怒らせた直後に発生していた。


どれも吸血鬼女王の怒りだと説明されている。


しかし実際に起きた災害の形は、三度ともまったく異なっていた。


アーガの表情が、少しずつ明るくなっていった。


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