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第165話 決着

南門の廃屋敷の外には、すでに大勢の人が集まっていた。


最初に声を上げていたのは、イータとリナだけだった。


そこへ騒ぎを聞きつけた通行人が加わり、さらに巡回中の衛兵と冒険者ギルドの者たちも駆けつけた。


廃屋敷の中央では、広い範囲にわたって土が掘り返されている。


だが、最初は何も見つからなかった。


城西の草地と同じだった。


掘り返した先にあるのは、平らな土と途切れていない草の根だけ。


まるで最初から、そこには入口など存在していなかったかのように。


レックスは大斧を肩へ担ぎ、険しい顔で立っていた。


「また同じことをするつもりか?」


イータは両手を強く握り締めた。


指先には白い霜が浮かんでいる。


「本当です! ここには、本当に地下通路があるんです!」


エイヴンはレックスのようにすぐ否定しなかった。


掘られた穴のそばへしゃがみ込み、指で土をつまむ。


眉間にはずっと皺が寄っていた。


「確かに、この土は少しおかしい」


「おかしいだけで何になる」


レックスが低い声で言った。


「城西でも同じことを言っていただろ。結局、何が出てきた?」


リナは少し離れた場所に立っていた。


顔色はまだ青白い。


傷も完全には癒えておらず、長時間立ち続けるだけでも辛そうだった。


それでも、一歩も退こうとはしない。


掘り返された地面を見つめ、指を静かに握り締めていた。


リナはアーガを信じている。


だが、今回も入口が見つからなかったら。


また全員を失望させ、自分たちが嘘つきだと思われてしまったら。


そのときだった。


遠方から、突然大きな轟音が響いた。


――轟ッ!


全員が勢いよく振り返る。


音がしたのは、晨星の家がある方角だった。


続いて夜空が一瞬だけ赤く照らされた。


まるで何かが、大地そのものを引き裂いたようだった。


イータは大きく目を見開いた。


ほとんど反射的に声を上げる。


「アーガ様が成功しました!」


その言葉が終わった直後だった。


廃屋敷の中央にある土が、突然変化した。


崩れたわけではない。


何かの力で吹き飛ばされたわけでもなかった。


完全な地面に見えていたものから、目に見えない薄い膜が剥がれていく。


土の色。


表面の模様。


地面の輪郭。


そのすべてが同時に歪んだ。


次の瞬間、穴の底に地下へ続く土の階段が現れた。


冷たく湿った空気が暗闇の奥から流れ出してくる。


その場にいた全員が言葉を失った。


レックスの表情も固まっていた。


エイヴンはゆっくり立ち上がり、完全に変わった目で入口を見つめる。


「本当に……入口があったのか」


イータの目に一気に涙が浮かんだ。


リナも小さく息を吐く。


胸の奥へ押しつけられていた重い石を、ようやく下ろせたようだった。


「アーガ様……」


最初に地下へ飛び降りたのは、エイヴンだった。


「続け。中に敵がいるかもしれない。油断するな」


レックスは低く悪態をついたあと、大斧を握り直して後へ続いた。


衛兵たちも灯りを掲げ、地下通路へ入っていく。


イータとリナも、その後ろについていった。


隠し通路の中はひどく冷えていた。


壁は湿っており、地面には何かを引きずったような跡が残されている。


奥へ進むほど、泣き声がはっきりと聞こえるようになった。


幻ではない。


夢でもない。


本当に子供たちが泣いていた。


通路の最深部へ辿り着くと、全員が足を止めた。


牢獄。


一つ。


また一つ。


何部屋もの牢が暗い地下へ並んでいた。


中に閉じ込められているのは子供たちだけではない。


衰弱した大人の姿もあった。


鉄格子の向こうにいた子供たちは足音を聞くと怯えたように壁際へ縮こまった。


だが、衛兵の鎧と冒険者ギルドの徽章を見た瞬間、泣きながら鉄格子へ駆け寄ってきた。


「助けて……」


「家に帰りたい……」


「お母さん……」


イータは口元を両手で覆った。


頬を涙が流れ落ちていく。


エイヴンの顔は恐ろしいほど険しくなっていた。


レックスはその場に立ち尽くし、喉を一度鳴らした。


しばらくして、ようやく一言だけ絞り出す。


「くそが……」


ほどなくして、ノアも発見された。


少年は牢の隅へ身体を丸め、青白い顔で座り込んでいた。


名前を呼ばれても、しばらく反応を見せなかった。


リナが牢の外へしゃがみ込み、優しく呼びかける。


ようやくノアは、少しずつ顔を上げた。


「あなたのお母さんが、ずっと待っています」


リナがそう告げた瞬間、ノアの目から大粒の涙が溢れ出した。


◇ ◇ ◇


その夜、暮星城は完全な混乱へ陥った。


晨星の家の地下牢が発見され、南門の廃屋敷にある地下通路の存在も確認された。


閉じ込められていた子供たちは、次々と救出されていく。


衛兵隊、冒険者ギルド、そして城の書記官たちが、夜を徹して現場を管理することになった。


アーガに出されていた入城禁止処分も、その場で撤回された。


暮星邸への不法侵入。


ギルドの秩序を乱した行為。


悪意ある虚偽の告発。


それまで記録されていた容疑についても、すべて再調査されることになった。


衛兵隊長はアーガ本人へ直接謝罪した。


かなりぎこちない謝り方だったが少なくとも自分たちの誤りは認めていた。


冒険者ギルドからは、銀貨十枚が渡された。


名目は「地下人身売買事件の解決に協力したことへの臨時補償」だった。


アーガは並べられた銀貨十枚を見つめ、しばらく黙った。


「十日も牢に入れられて、これだけか?」


受付係の表情が引きつる。


そばにいたエイヴンが声を潜めて言った。


「今は受け取っておけ。あとで正式な報奨金も出るはずだ」


レックスは珍しく、からかうような言葉を口にしなかった。


アーガを一度見ると、すぐに顔を背ける。


「前は、俺の見当違いだった」


ぶっきらぼうな声だった。


アーガは銀貨を袋へしまう。


「分かればいい」


レックスの口元が僅かに引きつった。


それでも、今回は言い返さなかった。


◇ ◇ ◇


三人が灰鳩亭へ戻った頃には、空が明るくなり始めていた。


部屋へ入るなり、イータは床へ座り込んだ。


白い尻尾を動かす力すら残っていないようだった。


それでも顔を上げ、アーガを見つめる。


「アーガ様……私たち、勝ったんですか?」


「少なくとも、今夜は勝った」


アーガが答えた。


リナも寝台へ腰掛け、ゆっくり息を吐く。


「本当に、大変でしたね」


その言葉のあと、部屋の中が突然静かになった。


ノアを捜す依頼を引き受けてから。


城西の草地。


南門の地下通路。


リナが捕らえられ、アーガが投獄された。


そして今夜、ついに地下牢の存在を暴いた。


すべてが限界まで張り詰めた弦のようだった。


それがようやく、ほんの少し緩んだのだ。


イータは両膝へ顔を埋めた。


「もう、誰にも信じてもらえないんじゃないかと思いました……」


「人間は、自分の目で見たものしか信じない」


アーガは外套を脱ぎ、椅子の背へ掛けた。


「だから、見せてやればいい」


リナが顔を上げる。


「アイラ様は、これからどうなるのでしょうか?」


アーガの手が僅かに止まった。


イータも顔を上げる。


「私、あの人は悪い人じゃないと思います」


イータは言った。


「前はすごく怖かったですけど……地下のことは、本当に知らなかったみたいでした」


リナも小さくうなずく。


「私もそう思います」


「アイラ様は、私の傷を治療してくれました。本当に事件へ関わっていたのなら、あのようなことはしなかったはずです」


アーガは机の前へ座り、水の入った杯を一口飲んだ。


「俺も、アイラが犯人だとは思っていない」


リナは彼の横顔を見る。


「直感ですか?」


「今のところ、サミュエルへ直接つながる証拠はそれほど多くありません」


「それに対して、アイラ様に関係する帳簿や書類は見つかっています」


アーガは少し黙ったあと、突然小さく笑った。


「商人を、あまり信用していないからかもしれないな」


そう言いながら、頭の中には古巴特商会のことが浮かんでいた。


リナはそれ以上、尋ねなかった。


イータが小さな欠伸をする。


目はもう、ほとんど開いていなかった。


アーガは彼女を一度見た。


「寝ろ。しばらく、まともに休めていなかっただろ」


イータは小さくうなずく。


すぐに寝台へ上がり、枕へ頭をつけた直後には眠っていた。


リナも横になった。


しかし、目を閉じたあとも、呼吸はなかなか穏やかにならなかった。


やがて部屋は静かになった。


窓の外では夜の色が少しずつ薄れていく。


遠くからは、時折衛兵たちの慌ただしい足音が聞こえていた。


今夜の暮星城が、平穏を取り戻すことはないだろう。


それでも灰鳩亭の小さな部屋だけは、少なくとも今のところ安全だった。


◇ ◇ ◇


アーガも、しばらく眠った。


真夜中――というより、もう明け方に近い頃。


一度だけ目を覚ました。


廊下の突き当たりにある厠へ行き、再び部屋へ戻る。


室内はまだ暗かった。


イータは深く眠っている。


白い尻尾が毛布の外へ出ており、耳だけが時折小さく動いていた。


アーガが自分の寝台へ戻ろうとしたとき、リナがまだ目を開けていることに気づいた。


彼女は横向きに寝たまま、窓の方角を見つめていた。


いつから起きていたのかは分からない。


アーガは声を抑えた。


「どうしてまだ起きている?」


リナがゆっくり顔を向ける。


薄暗い部屋の中で、その瞳は静かだった。


しかし、普段ほど落ち着いてはいない。


アーガは寝台へ戻り、端へ腰を下ろした。


「傷が痛むのか?」


リナは首を横へ振る。


「違います」


しばらく沈黙したあと、リナは身体を起こした。


寝台から降りる。


アーガが反応するよりも先に、彼女は背後へ回っていた。


そして、アーガの寝台の端へ静かに座り、後ろから彼の身体を抱き締める。


その腕は、とても優しかった。


アーガの傷へ触れないようにしているのか。


それとも、少しでも力を入れたら、この瞬間そのものが壊れてしまうと思っているのか。


「リナ?」


リナはアーガの背中へ額をつけた。


声は小さかった。


「アーガ様が無事で……本当によかったです」


アーガはすぐには答えなかった。


背中に回された腕が、僅かに震えている。


ここ数日、リナは一度も泣かなかった。


怖いとも言わなかった。


拷問を受けても。


地下へ閉じ込められても。


あれほど傷ついた状態でアーガと再会しても、最初に口にしたのは苦しみへの訴えではなかった。


だが今になって、ずっと押し込めていた感情が、ようやく少しずつ溢れ始めたのだろう。


アーガは片手を上げ、リナの手の甲へそっと重ねた。


「俺は大丈夫だ」


リナは腕を解かなかった。


アーガは身体を少し横へ向けると、手を伸ばして彼女の髪を優しく撫でた。


「むしろ、辛い思いをしたのはお前の方だろ」


リナの指に僅かに力が入る。


アーガが何か言葉を続けようとしたとき、リナが彼の手首をそっと引いた。


そして、五本の指をゆっくりと絡めてくる。


アーガは一度動きを止め、つながれた手を見下ろした。


リナは顔を上げないまま、ゆっくりと口を開いた。


「こうしていても……いいですか?」


アーガはすぐには答えなかった。


二人の絡んだ指をしばらく見つめる。


「もうしているのに、今さら聞くのか?」


少し呆れたような声だった。


だが、決して冷たい言い方ではなかった。


リナの耳の先が僅かに赤くなる。


声はさらに小さくなった。


「アーガ様が、嫌だったらと思って……」


アーガは小さく息を吐いた。


そして今度は自分からリナの手をしっかりと握り返す。


「嫌ではない」


その言葉を聞くと、リナの身体から目に見えて力が抜けた。


強張っていた肩も、少しずつ緩んでいく。


「……はい」


小さく答えたあとはもう何も言わなかった。


それでも、手を放すことはない。


二人はそのまま静かに座り続けた。


掌と掌を重ねたまま。


互いの呼吸だけが、少しずつ穏やかになっていった。

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