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追放された転生貴族の俺、基礎カード魔法で少女たちと運命を切り開く  作者: 夜神智
黒槌町編

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第138話 商会

その頃。


戦斧商会の正門では、衛兵と商会の護衛たちの戦いが終わりを迎えようとしていた。


通りの至る所に血痕が残り、倒れた者たちが両側へ折り重なるように横たわっている。


なおも抵抗しようとした数人の商会護衛は、盾で地面へ押さえつけられた。


手にしていた武器も、衛兵の長槍によって弾き飛ばされる。


リーイン隊長は、戦斧商会の大広間の中央に立っていた。


長刀をゆっくりと鞘へ収める。


靴が床に広がった血を踏むたび、粘ついた音が響いた。


「捜索しろ」


淡々と命じる。


背後にいた衛兵たちは、すぐに散開した。


それぞれの部屋へ押し入り、片端から中を調べ始める。


棚がこじ開けられた。


商品箱が叩き壊された。


机や椅子も、次々とひっくり返されていく。


金貨。


帳簿。


薬剤。


魔晶鉱粉。


商会が隠していたあらゆる物が、次々と外へ引きずり出された。


建物のあちこちから、悲鳴が聞こえてくる。


数人の商会員が床へ跪き、必死に命乞いをしていた。


だが、衛兵たちは容赦なく蹴り飛ばす。


リーインは、その光景に目も向けなかった。


探しているものは、最初から決まっていた。


「資料室はどこだ?」


地面へ押さえつけられていた商会員の顔から、血の気が引いた。


すぐには答えようとしない。


リーインは、その男を見下ろした。


「二度も聞かせるな」


商会員の身体が激しく震えた。


すぐに奥の廊下を指差す。


「に、二階の一番奥です……」


リーインが軽く手を振った。


数人の衛兵が男を引きずり起こし、先頭を歩かせる。


ほどなくして、資料室の扉が破壊された。


室内には、帳簿や契約書、取引先との手紙が山のように積まれていた。


封をされた木箱も、いくつも並んでいる。


壁際の棚には記録用の巻物が整然と置かれており、戦斧商会が普段、会計や取引を処理していた部屋であることは明らかだった。


リーインは中へ入る。


適当な帳簿を一冊手に取り、数ページめくった。


そこには、数多くの人名が記されている。


その中には、彼がよく知っている名前もあった。


そして。


リーイン自身の名前も、はっきりと書かれていた。


その目が冷たくなる。


「燃やせ」


そばにいた衛兵が、一瞬呆気に取られた。


「隊長、これは証拠では……?」


リーインが無言で視線を向ける。


衛兵はすぐに顔を伏せた。


「……はい」


燃えた松明が、書類の山へ投げ込まれる。


乾燥した帳簿は、たちまち炎に包まれた。


火は紙から棚へ燃え移り、赤い炎が上方へ伸びていく。


黒煙も少しずつ室内へ広がった。


賄賂。


違法取引。


商会と裏でつながっていた者たち。


それらを記録した証拠が、炎の中で丸まり、黒く焦げていく。


やがて。


一枚残らず、灰へ変わった。


リーインは炎の前に立ち、無表情でそれを見つめていた。


間もなく、別の衛兵が部屋の隅から数個の木箱を引きずり出す。


「隊長、こちらにも何かあります」


木箱の蓋が開けられた。


中には、幽青色の粉末を詰めた革袋が、隙間なく並べられていた。


先ほど大広間で見つけた量よりも、さらに多い。


魔晶鉱粉。


リーインの目が僅かに細くなる。


「すべて運び出せ」


「衛兵隊の詰所へ持ち帰りますか?」


「当然だ」


リーインは薄く笑った。


「戦斧商会が管制物資を違法に販売していた、重要な証拠だからな」


数人の衛兵が、すぐに木箱を持ち上げて部屋を出ていった。


その間にも、資料室の火は勢いを増していく。


リーインは窓辺へ歩み寄り、外の通りを見下ろした。


戦斧商会は、完全な混乱に陥っていた。


炎が半分ほどの通りを明るく照らしている。


かつて黒槌町で好き放題に振る舞っていた商会員たちは、今では一人残らず手足を縛られ、地面へ座らされていた。


リーインは満足していた。


戦斧商会は終わった。


燃やすべきものも、すべて燃やした。


あとは。


あの厄介な二人の小鬼だけだった。


リーインは窓から離れ、近くにいた数人の衛兵を見る。


「アーガとリナを捜せ」


「二人とも、ここへ連れてこい」


若い衛兵が、戸惑ったように瞬きをした。


「隊長、あの二人も捕らえるのですか?」


「ああ」


「ですが……」


若い衛兵は、僅かに言葉を濁した。


「戦斧商会の悪事を暴いたのは、あの二人ではありませんか?」


「何の罪があるのです?」


リーインは若い衛兵の肩を軽く叩いた。


声は穏やかだった。


「少し、事情を聞くだけだ」


若い衛兵は、まだ納得できていない様子だった。


リーインは安心させるように笑う。


「心配するな」


「無罪なら、当然すぐに解放する」


若い衛兵は口を開きかけた。


しかし、結局それ以上は何も言わなかった。


「……はい」


数人の衛兵が、すぐに背を向けて部屋を出ていく。


リーインはその場に立ち、彼らが廊下の奥へ消えるまで見送った。


やがて。


顔に浮かんでいた笑みが、少しずつ消えていく。


燃え上がる炎が、その瞳の中で揺れていた。


「俺を恨むなよ」


小さな声で呟く。


「お前たちが、知りすぎたのが悪い」


◇ ◇ ◇


一方。


路地の奥深く。


アーガは壁の陰へ身を隠し、激しく肩を上下させていた。


緑色の魔力装甲には、すでに無数の亀裂が走っている。


肩と背中にも、戦斧の刃によって掠められた傷が残っていた。


青カード1《治癒体》の力は、今もゆっくりと身体を修復している。


だが。


回復速度は、明らかに負傷と消耗へ追いついていなかった。


少し離れた場所にいるバルカンも、無傷ではない。


両腕。


ふくらはぎ。


肩。


そこには細かな荊棘が何本も突き刺さっていた。


革鎧も至る所が破れ、腕を伝って血が絶え間なく流れ落ちている。


それでも。


バルカンから放たれる圧迫感は、未だに強かった。


アーガは暗がりに身体を預けたまま、遠くへ視線を向ける。


戦斧商会の方角は、すでに炎の光で完全に染まっていた。


先ほどまで響いていた戦闘音も、かなり小さくなっている。


代わりに聞こえてくるのは、衛兵たちの命令と、荷物を運び出す音だった。


(向こうは、もうすぐ終わる)


アーガの目が僅かに険しくなる。


リーインが商会を制圧すれば。


次にすることは、間違いなくアーガとリナの捜索だ。


これ以上、時間をかけることはできない。


衛兵たちが到着する前に。


バルカンとの決着をつけなければならなかった。


だが、問題は。


アーガは路地の反対側にいるバルカンを見る。


実力差が、あまりにも大きい。


狭い地形によって、確かに飛斧の軌道は制限されている。


しかし、それは完全に封じられたわけではない。


アーガの反応が少しでも遅れれば。


あの戦斧はすぐに、予想もできない角度から襲いかかってくる。


バルカンも荒い息を吐いていた。


戦斧を肩へ担ぎ、一歩ずつ路地の中へ入ってくる。


その目は、恐ろしいほど暗く沈んでいた。


「小鬼」


「本当によく逃げ回るな」


アーガは答えない。


バルカンが手首を振った。


戦斧が、再び投げ放たれる。


アーガは斧が手を離れた瞬間に動いていた。


地面を蹴り、身体を壁に沿って滑らせる。


戦斧が、直前まで立っていた場所を通過した。


直後。


空中で鋭く方向を変え、背後からアーガを追う。


アーガは奥歯を噛み締め、強引に身体を低くした。


斧刃が背中すれすれを通り過ぎる。


緑色の戦甲が、さらに一層削り取られた。


鋭い痛みが走る。


着地した瞬間、膝から力が抜けた。


危うく地面へ跪きそうになり、咄嗟に壁へ手をつく。


アーガは、ゆっくりと息を吐いた。


「もう、これしかないか」


片手を腰帯へ伸ばす。


――カチッ。


青カード1《治癒体》が、スロットから排出された。


アーガはカードケースへ手を入れ、別の一枚を引き抜く。


青カード2《血怒化》。


短時間だけ、肉体のあらゆる能力を強制的に引き上げるカード。


速度。


力。


反応。


すべてが一時的に大幅強化される。


だが。


代償も明確だった。


使用時間が長くなるほど、身体へかかる負担は激しくなる。


今の状態なら。


おそらく、一分が限界。


それを超えれば。


バルカンに倒されるより先に、自分の身体が動かなくなる。


アーガは迷わなかった。


青カード2《血怒化》を、空いたスロットへ差し込む。


続いて。


赤カード3《草》を腰帯から排出した。


代わりに取り出したのは。


赤カード5《氷》。


二枚のカードが腰帯へ収まった瞬間。


緑色の魔力装甲に刻まれていた紋様が、急速に変化し始めた。


蔓のように広がっていた緑の模様へ、淡い氷青色が重なっていく。


肩の装甲も形を変え、より鋭い輪郭を持つようになった。


アーガの足元から。


冷たい白霧が、ゆっくりと広がっていく。


同時に。


青カード2《血怒化》の力が、全身へ流れ込んだ。


――ドクンッ!


心臓が激しく脈打つ。


鼓動が、一気に速くなった。


血液が燃え上がったように熱くなる。


その一方で。


氷の力によって、身体の内側から強引に圧縮されているような感覚があった。


痛い。


だが。


速い。


力が、全身の隅々まで駆け巡る。


アーガは顔を上げた。


「融合変身――」


氷のように冷たい魔力が、狭い路地へ吹き荒れる。


「《冷凍形態・二二二号》!」

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