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第12話 リサ・ベルマン

アーガは一度、便所へ向かった。


中央ホールへ戻ってくると、いつの間にか一角に人だかりができていた。


集まった人々の隙間から、眩しいほど鮮やかな金髪が見える。


気になったアーガは、人と人の間を縫うようにして前へ進んだ。


人だかりの中心にいたのは、十歳ほどの少女だった。


身体にぴったりと合った銀白色の礼服を身につけ、腰には美しい装飾が施された細身の剣を下げている。


長い金髪は青いリボンで後ろに束ねられ、数本の髪が頬の横へ垂れていた。


瞳は深い青色。


大勢から注目されているというのに、少女には少しも居心地の悪そうな様子がない。


むしろ、注目を集めることが当然だとでもいうような自信に満ちていた。


「あれ、リサ・ベルマンだ」


近くにいた誰かが、声を潜めて言った。


「王国騎士団長の娘だよ」


アーガは、少女の腰に下げられた細剣へ視線を向けた。


そして、隣にいる受験生へ小声で尋ねる。


「魔法試験を受けに来たんじゃないの? どうして剣を持っているんだろう。戦士試験の会場は隣だよね?」


それほど大きな声ではなかった。


しかし、リサにははっきりと聞こえていたらしい。


少女が振り返る。


その視線は人垣を越え、すぐにアーガを見つけた。


リサは迷うことなく、彼の前まで歩いてくる。


そして、そばにあった長椅子へ片足を乗せ、上からアーガを見下ろした。


「剣を持っている者は、戦士試験しか受けてはいけないと、誰が決めたの?」


突然目の前まで迫られ、アーガは思わず半歩後ろへ下がった。


リサは得意げに顎を上げる。


「私は魔法の才能が十分にあるうえで、ついでに剣術も学んでいるだけよ」


長椅子から降りると、両腕を胸の前で組んだ。


「一つの道しか歩けない人たちとは違うの。魔法試験も戦士試験も、私は両方受けるわ」


「そうだったんだ」


本人に聞かれていたことに気づき、アーガは慌てて謝った。


「ごめん。僕の勘違いだった」


リサはアーガを上から下まで眺めた。


やがて、その青い瞳に少しだけ悪戯っぽい光が浮かぶ。


「でも、そんなに興味があるのなら、私の試験を見に来てもいいわよ」


彼女は片手を上げ、指を鳴らした。


「一番前に立って、試験官たちと一緒によく見ておきなさい。特別に許可してあげる」


周囲から、たちまち囁き声が上がった。


「あの子、誰?」


「ベルマン家のお嬢様を知らないのか?」


「服を見る限り、王都の子じゃなさそうだね。地方から来たんじゃない?」


アーガはそこで初めて、近くにいる全員の視線が自分へ集まっていることに気づいた。


「あ、ありがとう……」


慌てて一礼し、人だかりの外へ抜け出す。


ノエルのそばへ戻ったときにも、心臓はまだ少し速く動いていた。


ノエルが顔を上げる。


「どうしたの?」


「何でもない」


アーガは額に浮かんでもいない汗を拭うような仕草をし、もう一度リサのいる方を振り返った。


金髪の少女は、すでに再び人々に囲まれている。


まるで大勢の星に取り囲まれた、ひときわ眩しい宝石のようだった。


(これって、前の世界のドラマで見たような貴族のお嬢様そのものじゃないか?)


(本当にああいう人がいるんだな……)


そのとき、中央ホールの正面扉がゆっくりと開いた。


濃紺の法衣をまとった中年の女性が、扉の向こうから姿を現す。


女性が手にした杖で床を軽く叩くと、澄んだ音がホール全体へ響き渡った。


それまで重なり合っていた話し声が、一瞬で静まる。


「受験生の皆さん、よく聞いてください」


「ここは魔法試験の待機ホールです。戦士試験を受ける方は、直ちに隣のホールへ移動してください。自分の試験時間に遅れないように」


人混みの中から数人が慌てて立ち上がり、反対側の出口へ走っていった。


「魔法実技試験は、基礎カードの色に合わせ、赤、黄、緑、青の四会場に分かれています」


「一つの色だけを得意とする受験生は、一会場のみの参加でも構いません。最終的に五枚の異なる基礎カードで合格判定を得られれば、入学基準を満たしたことになります」


女性はホール全体を見回した。


「複数の会場を受験する方については、それぞれの番号札の順番を意図的にずらしてあります。一つの試験を終えてから、次の会場へ移動する時間は十分に確保されています」


「それでは、案内表示に従い、それぞれの試験会場へ向かってください」


再び杖が床を打つ。


「聖イース学院、本年度入学試験を開始します」


静まり返っていたホールが、瞬く間に騒がしくなった。


「赤の会場はどこだ?」


「通して! もうすぐ緑の試験で私の番号が呼ばれるの!」


「去年は赤の合格率が一番低かったらしいぞ……」


アーガは人の流れに乗って中央ホールを出た。


壁に設置された案内板を確認しながら進み、赤の試験会場へ向かう。


そこは、非常に広い屋外訓練場だった。


場内には数多くの人型木製標的が並べられている。


外周は淡い青色の魔法障壁で覆われ、試験中に制御を失った魔法が観客へ届かないようになっていた。


アーガは手にしている番号札を、もう一度確認する。


三番。


(ずいぶん早いな)


赤の試験会場を担当しているのは、灰白色の短い髭を生やした中年の男だった。


その背後には四人の試験官が座っており、それぞれの前には記録用紙が置かれている。


主任試験官が手元の名簿へ目を落とした。


「一番、前へ」


小柄で痩せた少年が、人混みの中から出てきた。


顔色は明らかに青ざめている。


番号札を差し出す指も、小さく震えていた。


「名前は?」


「ロ、ロイです」


試験官は情報を確認すると、訓練場の中に現れた二十体の人型標的を指さした。


「制限時間は一分。自分が使用できる赤の基礎カードであれば、何を選んでも構わない」


「始め」


ロイは大きく息を吸い、カードケースから赤の四《風》を取り出した。


「風刃術!」


半透明の風の刃が、彼の前から数本放たれた。


そのうち二本は大きく軌道を外れ、標的と標的の間にある地面へ落ちた。


残りは標的に届いたものの、大半が木製の身体の端をかすめただけだった。


正面へ命中したのは、わずか二本。


一分が経過する前に、ロイはすでに魔力を維持できなくなっていた。


「お、終わりです……」


四人の試験官が、小声で意見を交わす。


それから用紙へ結果を書き込んだ。


「下がってよろしい」


隣に座っていた教師が杖を振る。


傷ついた木製標的は、たちまち元の状態へ修復された。


主任試験官が次の名前を読み上げる。


「二番、リサ・ベルマン」


観客の間から、すぐにざわめきが起こった。


アーガも無意識に二歩ほど前へ出る。


リサが人混みの中から姿を現した。


金色の長髪は先ほどよりも固く結び直されている。


歩くたび、腰に下げた細剣が小さく揺れた。


「リサ・ベルマン。赤の基礎カード試験を受けます」


声は明瞭で落ち着いていた。


緊張している様子など、どこにもない。


試験官が開始を告げようとしたとき、リサは片手を上げた。


「少し待ってください」


主任試験官が彼女を見る。


「何か問題があるのか?」


リサは訓練場を見渡した。


「標的は、二十体だけですか?」


試験官がわずかに眉を上げる。


「何体を希望する?」


「ここにある標的を、すべて出してください」


リサの口調は平静だった。


まるで、当たり前の要望を伝えているかのようだった。


四人の試験官は互いに顔を見合わせた。


短い沈黙のあと、主任試験官がうなずく。


地面の下から、重い機構が動き始める音が響いた。


一列、また一列と、人型標的が訓練場へせり上がってくる。


全部で百体。


場内のあらゆる場所に配置され、ほとんどすべての空間を埋め尽くした。


観客たちから、一斉に驚きの声が上がる。


「百体だって?」


「普通の試験では二十体だけじゃないのか?」


「一分間で、百体全部を攻撃するつもりなの?」


アーガは息を止め、訓練場の中央に立つ金髪の少女を見つめた。


主任試験官が、時間を計る砂時計を持ち上げる。


「制限時間は一分」


砂時計が反転した。


「始め」

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