表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
102/204

第102話 仲間の集結

闘技場に残っていた熱気と煙が、ゆっくりと薄れていく。


アーガが融合変身を解除すると、赤い魔力装甲は光の粒となって消えた。


闘技場全体が、しばしの静寂に包まれる。


そして――


「しょ、勝者――アーガ・ラインハルト!」


実況役の声が、ようやく凍りついた空気を打ち破った。


その声には、隠しきれない驚愕が滲んでいる。


「うおおおおおおっ!」


次の瞬間。


観客席から、耳をつんざくような歓声が爆発した。


声の波は、闘技場の天井さえ吹き飛ばしそうな勢いで広がっていく。


賭博に勝った者たちは、手にした券を狂ったように振り回した。


商人たちは興奮のあまり商品棚を倒しても気づかず、普段は感情を表へ出さない貴族たちまで立ち上がって拍手を送っている。


「凄すぎる!」


「四枚のカードを融合したぞ!」


「あんな魔法、生まれて初めて見た!」


「最後の一撃も、わざと急所を外していた!」


リナは観客席の柵を強く握り締めていた。


指の関節は白くなっていたが、その顔には明るい笑みが浮かんでいる。


いつの間にか片手を上げ、ほかの観客たちと一緒に歓声を送っていた。


イータの尻尾は、大きく膨らんでいる。


琥珀色の瞳には涙が浮かんでいた。


だが、それは恐怖によるものではない。


純粋な喜びから溢れた涙だった。


「アーガ様……」


イータは小さく呟き、無意識にリナの袖を爪でつかんだ。


「本当に……すごいです……」


◇ ◇ ◇


副城主専用席を覆っていた幕が、ゆっくりと開かれた。


ヴァルガの大きな身体が、観客たちの前へ姿を現す。


暗金色の鎧は、強い陽光を受けても冷たい光しか返していなかった。


顔には、相手を称賛するための完璧な笑みが浮かんでいる。


しかし、その奥にある瞳は底知れず、獲物を狙う毒蛇のように冷たかった。


「本日の試合は、実に見事なものだった」


ヴァルガの声が、拡声魔法によって闘技場全体へ広がった。


「勝者となった三名は、前へ出よ」


アーガは目を細めた。


闘技場の中央には、すでにケイスとロックが立っている。


ロックの片腕は不自然に下がっており、かなりの傷を負っていることが分かった。


ケイスも顔色は青白かったが、その眼差しには鋭さが残っていた。


従者が金色に装飾された盆を持って現れた。


盆の上には、硬貨を詰め込んだ三つの重い袋が載せられている。


ヴァルガは袋を一つずつ手に取り、三人へ直接渡した。


「若いながら、将来有望だ」


その声は、周囲の観客にも聞こえるように大きかった。


アーガは表情を変えず、金の袋を受け取る。


「副城主様のご評価、感謝いたします」


続いて別の従者が、銀色の盆を運んできた。


その上には、透明な美酒を満たした四つの杯が並んでいる。


ヴァルガは自ら一杯を取り、残る三杯をアーガたちへ配らせた。


「我らが勇士たちへ!」


ヴァルガは酒杯を高く掲げた。


「赤骸城の栄光が、常に諸君とともにあらんことを!」


ケイスとロックは疑う様子もなく、杯を掲げようとした。


「お待ちください」


アーガが突然、一歩前へ出た。


指先で酒杯をゆっくりと回す。


声量は大きくなかったが、その言葉は拡声魔法によって会場の隅々まで届いた。


「この酒を飲む前に、少しだけ話をさせてください」


ヴァルガの視線が、一瞬で鋭くなった。


しかし、数千人の観客が見守る前で拒絶するわけにもいかない。


表情を崩さず、小さくうなずいた。


アーガは観客席へ身体を向け、酒杯を持ち上げる。


「まず、血髑髏闘技場へ感謝を」


「ここは俺を何度も絶望的な状況へ追い込み、そのたびに本物の力を身につけさせてくれた」


観客席へ目を向ける。


その視線は、リナとイータの姿を捉えた。


「そして、この土地にも感謝している」


「飢えずに暮らせるだけの金を手に入れ、守りたいと思える仲間とも出会えた」


最後に、ヴァルガを真正面から見た。


口元へ、意味深な笑みを浮かべる。


「だが、何より感謝したいのは、ここにいる観客たちだ」


「皆の歓声があったからこそ、俺は限界へ追い込まれるたび、さらに先へ進むことができた」


アーガは酒杯を高く掲げた。


「この一杯は――」


清らかな声が、闘技場へ響く。


「俺の成長を見届けた、この大地へ捧げよう」


手首を優雅に返した。


透明な酒が陽光を反射し、輝く弧を描いて地面へ落ちる。


酒液は、炎によって黒く焦げた砂の中へ染み込んでいった。


近くに生えていた数本の枯れ草が、かすかに震える。


ケイスは、その様子を考え込むように見ていた。


やがて突然、大声で笑い始める。


「いいことを言うじゃないか!」


「それなら、俺もこの大地へ捧げるとしよう!」


ケイスもまた、杯の酒を地面へ注いだ。


その液体が落ちた場所では、食べ物を運んでいた数匹の蟻が、突然動きを止めた。


ロックは困ったように頭を掻いた。


「そ、それなら俺は、観客たちへ捧げるぞ!」


そう言って、杯の中身をすべて地面へ撒いた。


ヴァルガの笑みは、今も完璧な形を保っている。


だが、その目元がわずかに引きつっていた。


「実に……独特な乾杯だ」


ヴァルガは自分の杯を一息で飲み干した。


「今夜の祝宴では、もう少し伝統的な飲み方をしてもらいたいものだ」


従者たちが慌てて前へ出て、空になった酒杯を回収し始める。


アーガは、その動きを注意深く観察していた。


彼が使った酒杯だけは、従者が新しい絹布で丁寧に包んでいる。


一方、ほかの杯は無造作に盆へ戻されていた。


ヴァルガはしばらくアーガを見つめた。


「今夜、再び諸君と酒を酌み交わせることを楽しみにしている」


アーガは心の中で冷笑する。


当然ながら、ヴァルガ自身が飲んだ酒には毒など入っていない。


その程度の小細工で、騙されるはずがなかった。


「今夜の祝宴には、必ず時間どおりに来るように」


ヴァルガが念を押した。


アーガの瞳孔が、わずかに縮む。


だが、表情には出さなかった。


「必ず出席いたします」


◇ ◇ ◇


ヴァルガが従者たちを連れて立ち去ると、ケイスがすぐにアーガへ近づいた。


「あの酒には……」


「魔力攪乱剤が入っていた」


アーガは、酒が染み込んだ地面を見つめた。


砂の表面には、わずかな腐食の跡が残っている。


「無色無臭だ。飲んでもすぐには異変が起きない」


「だが、魔力の流れが乱され、まともに魔法を使えなくなる」


ロックは地面へ唾を吐いた。


「畜生が。やっぱり最初から、俺たちを殺すつもりだったのか!」


「ついてこい」


アーガは短く言い、観客席にいるリナとイータにも合図を送った。


◇ ◇ ◇


使われていない武器庫の内部は、ひどく湿っていた。


壁へ掛けられた松明の光が揺れ、異様に歪んだ影を作り出している。


ロックは苛立った様子で、近くに置かれていた錆びた鉄桶を蹴り飛ばした。


金属が床を転がる大きな音に驚き、屋根の上にいた鳥が一斉に飛び立つ。


「理解できねえ!」


ロックは声を荒らげた。


「どうして副城主は、俺たちをそこまでして殺したがるんだ?」


ケイスは武器棚へ背中を預け、考え込むように腕を組んでいた。


「おそらく、闘技場の上位五人全員が狙われている」


「さっきも妙だと思っていた」


「第一位のレックスは、勝った直後に何かを注射されていた。少なくとも、治療薬には見えなかった」


二人の視線が、同時にアーガへ向けられる。


「お前たちは、不思議に思わなかったのか?」


アーガが静かに尋ねた。


「血髑髏闘技場では、何年経っても最強の者が遊侠級から変わらない」


ロックは記憶を探るように眉を寄せた。


「そう言われてみれば、確かに変だな」


「俺がここへ来たばかりの頃は、まだ第二十位だった」


「当時、上位には遊侠級上位が一人か二人いたはずだ」


「だが、そのうち一人は試合で殺されて、もう一人は突然いなくなった……」


「やはり、そういうことか」


ケイスの声が低くなる。


「赤骸城は、自分たちの支配を脅かすほど強くなった人間を消している」


イータの尻尾が、不安そうにアーガの脚へ巻きついた。


「それでは、さっきのお酒も……」


「魔力攪乱剤だ」


アーガはもう一度説明した。


「おそらく宴が始まる頃には、正常に魔法を使えなくなる」


ロックは拳を振り上げ、隣の石壁へ叩きつけた。


「そんなくだらねえ理由で、今まで何人殺したんだ!」


「だから、俺と協力しないか?」


アーガはケイスとロックをまっすぐ見た。


「本来なら、俺たち三人だけでは成功する可能性はほとんどない」


「だが、お前たちが俺の計画へ加わるなら、話は変わる」


ケイスは武器棚から離れ、アーガの周囲をゆっくりと一周した。


そして突然、胸元の服をつかみ上げる。


「本当に信用できる計画なんだろうな?」


その視線には、剥き出しの殺気が宿っていた。


「俺は自分の命を、この計画へ賭けることになる」


「騙したら、ただでは済まさないぞ」


一方、ロックは突然大声で笑い始めた。


「面白い!」


「俺も前から、この腐った街を出たいと思っていたんだ!」


「計画は三段階に分ける」


アーガは近くにあった鉄板へ、三本の傷を刻んだ。


「二人には、それぞれ一つずつ仕事を任せる」


まず、ケイスを手招きする。


アーガは耳元へ顔を寄せ、声を落として計画を伝えた。


ちょうどその瞬間、武器庫の外から鳥の鳴き声が響き、二人の会話を覆い隠す。


ケイスの表情は、疑いから驚愕へ変わった。


やがて、冷たい笑みを浮かべる。


「本当に可能なのか?」


「この方法しかない」


アーガの返事には、完全な確信があるわけではなかった。


それでも、迷いはなかった。


次にロックが顔を近づける。


アーガは彼の掌へ、指先で一つの印を描いた。


ロックは目を見開き、右足で地面を強く踏みつける。


「はあっ!?」


「お前、俺を罠にはめるつもりじゃないだろうな!」


「俺が行く場所は、一番危険じゃねえか!」


「最初に戦ったとき、お前は俺を殺さなかった」


アーガはロックの肩を軽く叩いた。


目を逸らさず、はっきりと言う。


「だから今度は、俺がお前の命を助ける」


ロックはしばらくアーガを睨んでいた。


だが、やがて大きく息を吐いた。


「分かったよ」


イータが恐る恐る近づいてくる。


「皆さん、一体何をしようとしているんですか……?」


アーガは突然、その冷たい手を握った。


先ほど受け取った金貨の袋を、懐から取り出す。


「イータには、市場で用意してほしいものがある」


「お買い物ですか?」


「ああ」


アーガは袋を渡した。


「この金を使って、煙幕弾をできる限り集めてくれ」


「それから――」


必要な品を一つずつ、イータの耳元で伝えていく。


イータは緊張した顔で何度もうなずいた。


続いてアーガはリナへ向き直り、一通の手紙を差し出す。


「リナには、人を捜してほしい」


「この手紙を渡すだけでいい」


リナは手紙を受け取った。


「どこへ行けばいいのですか?」


「クロードに教えてもらった住所だ」


アーガはリナの耳元で、相手の名前と住んでいる場所を告げた。


「今から向かってくれ。まだ間に合うはずだ」


リナの表情が、わずかに変わる。


「それは以前、アーガ様がお話しされていた、あの兄弟ですか?」


「そうだ」


アーガはうなずいた。


そして最後に、計画の全体を全員へ説明する。


話が終わると、武器庫は完全な静寂に包まれた。


松明が燃える小さな音だけが響いている。


やがて、ケイスが鼻で笑った。


「いいだろう」


「今回は、お前の言うとおりに動いてやる」


「どうせ殺されるなら、最後まで足掻いてやるさ」


ロックも地面へ落ちていた小石を拾い、アーガへ差し出した。


「俺も、お前を信じる」


アーガはその石を受け取り、今度はリナへ渡した。


リナは意味を理解したように、強く握り締める。


◇ ◇ ◇


夕日の残光が、赤骸城の街並みを血のように赤く染めていた。


迫り来る夜を前に、不穏な影が街全体へ広がっている。


ケイスは煙のように姿を消した。


ロックは大きな戦斧を肩へ担ぎ、夜の街へ踏み込んでいく。


アーガは、クロードの使者が届けた品を最後にもう一度確認した。


準備に不足がないことを確かめ、外套をまとって暗闇の中へ消える。


鐘楼の鐘が、八度目の音を響かせた。


アーガは帽子を深くかぶり、入り組んだ路地を素早く進む。


一歩ごとに、松明の光と建物の影が交わる境界を踏んでいった。


指先は無意識に、腰のカードケースを撫でている。


アーガは闇の向こうを見つめ、口元へ冷たい笑みを浮かべた。


「さあ――」


赤骸城の夜に、鐘の余韻が広がる。


「幕開けだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ