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EP 10

全帝国同時配信・極上の公開プロポーズ

最高賢者ギデオンの悪事が暴かれ、帝国魔導学園の解体とコールセンターへの配属という完璧な戦後処理が完了した翌日の夜。

帝都の空は、雲一つない澄み切った満天の星空に覆われていた。

私が構築した【善行ポイント通販・段6】による『神域の通信網(ルナ・ネット)』は、今や帝都だけでなく周辺の農村や衛星都市にまで完全に張り巡らされ、何百万もの人々が手のひらの『ルナ・スマホ』を通じて、穏やかで温かい日常の会話を楽しんでいた。

「……ふぅ。涼しくて気持ちいい風ね」

ルナ・スパ帝都本店の最上階、関係者以外立ち入り禁止の『特設展望スカイテラス』。

私は湯上がりのシルクガウンを夜風になびかせながら、眼下に広がる帝都の美しい夜景を見下ろしていた。

街のあちこちで、平民たちが手にするスマホの青白い光が、まるで地上に降りた天の川のように優しく瞬いている。

前世の限界ブラック病棟で、夜勤の合間に窓の外の真っ暗なビル街を見上げ、「私はいつまでこうしてすり減り続けるんだろう」と孤独に震えていたあの頃。

あの冷たい絶望の夜から、私は信じられないほど遠く、温かい場所へと辿り着いていた。

「コハル〜! 厨房から夜風用の『ホットハチミツレモンオロポ』持ってきたで! レオンの旦那が『コハルに冷たい風を浴びさせすぎるな』ってうるさいからな!」

テラスの扉を開けて、マシロが両手(肉球)に湯気の立つマグカップを抱えてやってきた。

その後ろには、アイドルの部屋着姿のリーザと、スマホのガチャ画面を眺めながら歩くフェイトも続いている。

「ありがとう、マシロちゃん。……それにしても、今夜は一段と静かで平和ね」

「そうやな! コールセンターでは元賢者のギデオンと元大司教のボルドーが、泣きながら『スマホの再起動方法』を平民に案内しとるらしいし、街の治安は過去最高やって憲兵隊も喜んどったわ!」

「♪悪者が〜消え去って〜、みんなが笑顔の〜最高の夜ですわ〜!」

リーザがテラスの手すりに寄り添い、楽しそうに夜空を見上げる。

「……あー、姉御。ところで、レオンの旦那はどこ行ったんすか? さっきから姿が見えねえっすけど」

フェイトが不思議そうに首を傾げた、まさにその瞬間だった。

――ピキィィィィンッ!!

突如として、帝都中のすべてのルナ・スマホ、広場の大型魔導スクリーン、果ては天界のカグヤ神殿やワイズ神殿のモニターに至るまで、あらゆる画面が一斉に眩い黄金の光を放った。

『――【超特級・全帝国緊急強制ブロードキャスト】:ルナミス公爵家・最高機密回線が接続されました』

「えっ……!? な、なにこれ!?」

私の手元の管理者用スマホも、私の操作を受け付けずに自動で画面が切り替わる。

帝都のあちこちから、「なんだなんだ!?」「またデマか!?」と平民たちのざわめきが響き渡った。

しかし、画面に映し出されたのは、不吉な警告文などではなかった。

画面いっぱいに現れたのは――

純白と漆黒の豪奢な礼装に身を包み、胸元にルナミス公爵家の最高位の紋章を輝かせた、息を呑むほどに美しく、気高いレオン様の姿だった。

あまりの神々しさと圧倒的な色気に、帝都中の画面の前で、何十万人という人々が息を呑んだ。

『――帝国の全臣民、ならびに天界の神々に告ぐ』

レオン様の低く、深く、耳朶を甘く痺れさせるような美声が、帝都中のスピーカーから一斉に響き渡った。

『私は、ルナミス公爵家当主、レオン・ルナミスである。……今宵、私がこの全帝国の通信網を掌握したのは、国家の危機を告げるためではない。……私の生涯において、最も尊く、最も不可侵たる「真実」を、この宇宙のすべてに宣誓するためだ』

「レ、レオン様……!? 一体何を……っ!」

テラスで画面を見つめる私の心臓が、早鐘のように激しく跳ね上がった。

レオン様は画面の向こうから、まるで私一人だけを真っ直ぐに見据えるように、漆黒の瞳に熱い熱情を宿して言葉を紡いだ。

『かつて、我が帝国は理不尽な労働と、古い宗教の欺瞞、そして特権階級の情報の独占によって腐敗していた。……その暗闇を、たった一人で、己の知略と温かい慈悲、そして揺るぎない「現場の医療(エビデンス)」によって照らし、すべての民に真の救いと健康をもたらした唯一無二の女性がいる』

レオン様の手が、胸元へと当てられる。

『彼女の名は、コハル。……前世の過酷な運命を乗り越え、この世界に「誰もが笑顔で休める場所」を創り上げた、我が魂の至宝である』

「コ、コハル……! レオンの旦那、これ全世界生配信で……っ!」

マシロが口を開けて呆然としている。

『私はここに、帝国全土、そして天界の神々の前で厳粛に宣言する。……我がルナミス公爵家の唯一無二の正妻、次期公爵夫人として迎える女性は、後にも先にも、コハル・ルナミスただ一人であると』

帝都中が、天界中が、完全な静寂に包まれた。

『彼女を傷つける者は、我が公爵家の全軍をもって概念ごと消滅させる。彼女が望む「絶対有給休暇」を脅かす者は、帝国法に基づき永遠の地獄へと叩き落とす。……彼女の歩む道、彼女の守る民、そして彼女の心臓の鼓動(バイタル)のすべてを、この私が生涯を賭けて守り抜くことを、我が魂にかけて誓おう』

――パシュンッ。

画面の配信が終了した、その刹那。

テラスの冷たい夜風を切り裂いて、眩い光の粒子と共に、純白の礼装を纏ったレオン様が、私の目の前へと直接転送されて現れた。

「――レオン、様……っ」

あまりの衝撃に言葉を失い、立ち尽くす私。

そんな私の前で、帝国の最高権力者であり、誰もが恐れる漆黒の覇王が――

ごく自然に、優雅に、そして世界で最も敬虔な騎士のように、右膝をテラスの床へと突き、私を見上げて傅いた。

「コハル」

レオン様は懐から、ビロードの小さな小箱を取り出し、ゆっくりと開いた。

月光を浴びて現れたのは、夜空の星を閉じ込めたような深い蒼と虹色に輝く、見たこともない神域の鉱石で作られた指輪だった。

「これは、君の『ルナ・スマホ』と魔導通信で直結し、君のバイタルサインを24時間監視してあらゆる呪いと物理攻撃を弾き返す、世界で唯一の【絶対防壁の指輪】だ。……だが、そんな機能などどうでもいい」

レオン様は私の震える左手をそっと取り、その手の甲に、羽毛のように優しい口づけを落とした。

「君が前世で味わった、あの冷たい床の上での孤独な死。……その暗闇と恐怖を、私の生涯の愛で、永遠に光で満たしてあげたい。君の創り上げたこの温かい世界を、君と共に歩み、君が疲れた時はいつでもこの腕の中で眠らせてあげたいのだ」

レオン様の漆黒の瞳から、一筋の純粋な愛の光が零れ落ちる。

「私の命、私の権力、私の魂のすべてを君に捧げよう。……どうか、私の妻となり、私の隣で、永遠の絶対有給休暇を過ごしてくれないだろうか」

【恋愛ラダー・第10段(最終到達点):全帝国規模での完全独占宣言と、正式な婚約】

逃げ場のない、圧倒的な愛の包囲網。

けれど、そこにあるのは息苦しさなどではなく、私の魂のすべてを優しく包み込み、肯定してくれる、至高の温もりだった。

私の目から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。

前世で独りぼっちで命を落とした私が、今、こんなにも愛され、必要とされている。

「……はいっ」

私は涙を拭うこともせず、心の底からの満面の笑みを咲かせた。

「はい、レオン様! 私を……あなたの隣の特等席に、ずっといさせてください!」

「――っ、コハル……!」

レオン様の顔に、これまでに見たどんな微笑みよりも美しく、歓喜に満ちた笑みが広がった。

彼は震える指先で、私の左手の薬指に、冷たいはずなのに驚くほど温かい指輪を、ゆっくりと滑り込ませた。

サイズは、寸分の狂いもなく完璧だった。

その瞬間――!

ドォォォォォォォォォンッ!!!!

帝都の夜空に、十万発を超える極彩色の祝福の花火が一斉に打ち上がった。

同時に、カグヤ神殿から送られた天界の神域紙吹雪が、光の雨となって帝都全土に降り注ぐ。

『うおおおおおおおおっ! コハル様、おめでとうございますぅぅぅぅっ!!』

『公爵閣下、万歳!! コハル様、万歳!!』

『俺たちの女神様が、ついに公爵夫人になったぞぉぉぉっ!!』

帝都中の通りから、地鳴りのような歓声と拍手と祝福の嵐が巻き起こった。

「ギャハハ! やったなコハル! これで一生涯、タローソンとルナ・スパの最高顧問として贅沢し放題やな!」

マシロが飛び跳ねて私の足に抱きつく。

「♪結ばれた〜二人の愛は〜、永遠に〜輝き続けますわ〜!」

リーザが感涙に咽びながら、最高のお祝いのウェディングソングを夜空へ響かせる。

「……へっ。末長くお幸せに、っすよ、姉御。旦那」

フェイトも照れくさそうに笑いながら、祝杯のグラスを掲げていた。

そして、コールセンターの窓からは、元大司教ボルドーと元最高賢者ギデオンが、受話器を握りしめたまま「おめでとうございますぅぅぅっ!」と大号泣しながら拍手を送っている姿が見えた。

鳴り止まない祝福の嵐の中心で。

レオン様は立ち上がると、私の腰を力強く引き寄せ、私を宙へと抱き上げた。

「――愛しているよ、コハル。私の世界、私の宇宙、私の唯一無二の妻よ」

「私も……私も愛しています、レオン様!」

満開の花火が夜空を昼間のように照らし出す中、レオン様は私の唇に、誰にも邪魔させない、永遠の誓いを込めた深く甘い口づけを落としたのだった。

知識の独占を打ち破り、真実のインフラで世界を繋いだ平民ナース。

因果の請求書は完璧に執行され、彼女が手に入れたのは、帝国の頂点からの絶対的な庇護と、最高に愛しい仲間たちに囲まれた、永遠に終わらない『極上の絶対有給休暇』だった。

第9章・完

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