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EP 8

危険食材『ダダモレダケ』と、情報漏洩(ざまぁ)

「お、おのれ……おのれぇぇぇっ! 平民の分際で、この最高賢者ギデオンの知略をあざ笑うかぁぁっ!!」

ルナ・スパの地下ボイラー室。

召喚したはずの魔獣ヘドロ・ヒドラが一瞬で良質な肥料へとスライスされ、自らの自作自演テロの全貌を三十五万人以上の帝国民に4K画質で生中継されたギデオンは、もはや理性のタガが完全に吹き飛んだ獣のような目で絶叫した。

「まだだ……! まだ終わらんぞ! 私には、炎上神ワイズ様より賜りし『叡智の極大霊薬』があるのだ! これを飲めば、私の脳の処理速度は百倍に跳ね上がり、貴様らの作った粗悪な通信網など、私の魔導演算で一瞬にしてハッキングしてサーバーごと消去してやるわぁぁっ!!」

ギデオンは懐から取り出した、毒々しい蛍光ピンク色に発光する液体が入った薬瓶の栓を、歯で強引に引き抜いた。

「待ちなさい! それを飲んでは――」

私が制止の声をかけるよりも早く、ギデオンはその怪しげな液体を、一滴残らず自分の喉の奥へと流し込んでしまった。

ゴクン、と大きな嚥下音が静まり返ったボイラー室に響く。

その瞬間、ギデオンの身体からバチバチと紫色の魔力スパークが弾け飛んだ。

「……は、ハハハッ! 湧き上がる……! 脳が、頭蓋骨が割れんばかりの膨大な情報と知識で満たされていくぞ! 見よ、これこそが神の叡智! 我が思考の全てを、この帝都中の端末に直接叩き込んで、貴様らのくだらない嘘を上書きしてやるわぁぁぁっ!!」

ギデオンは両手を広げ、天を仰いで狂喜乱舞した。

しかし、私はエプロンのポケットから【善行ポイント通販】のスマホを取り出し、すでに彼に向けて『生体・成分スキャン』を完了させていた。

画面に表示された警告文を見て、私はナースとして思わず深いため息を吐いた。

『――警告。対象はダンジョン深層由来の危険食材を過剰摂取しました』

【固有名称:ダダモレダケ(情報漏洩茸)のエキス】

【危険度:クラスS(社会的尊厳の完全崩壊)】

【効果:摂取した者の脳内データ、過去の記憶、隠蔽していた悪事、さらには『最も他人に知られたくない恥ずかしい秘密や検索履歴』に至るまで、あらゆる思考が魔力電波となって周囲の通信機器に無制限に強制ブロードキャスト(ダダ漏れ)される魔のキノコ】

「……またやったわね、炎上神ワイズ」

私が呆れ果てて呟くと、マシロが首を傾げた。

「コハル、なんやそのダダモレダケって? 賢者のおっさん、頭から湯気出しとるけど」

「脳の処理速度が上がるのは本当よ。でもね、上がった処理能力のすべてが『自分の隠し事の全世界送信』に使われちゃうの。……エリート様の一番知られたくないデータが、今から帝都中のスマホに全自動プッシュ通知されるわ」

「ぶふっ!? それ、最高にエグい拷問やんけ!」

マシロが吹き出した、その瞬間だった。

――ピピピピピピピピピッ!!

帝都中の三十五万台のルナ・スマホ、さらには広場の大型魔導スクリーンが一斉に点滅し、ギデオンの頭上から巨大なホログラムウィンドウが何十枚も噴き出すように展開された。

『――【緊急ダダ漏れ通知】:最高賢者ギデオンの脳内ストレージが全開放されました』

「な、なんだこれは!? 私の頭から、光が……!?」

ギデオンが自分の頭を押さえて狼狽する。

そして、夜中の帝都の空と、全平民の掌の上に、ギデオンが何十年もかけて隠蔽してきた『特大の悪事の証拠データ』が、鮮明な画像と音声付きで次々と映し出された。

【ファイル名:帝国魔導学園_裏金横領帳簿.pdf】

帝国政府から支給された研究費のうち、八割(金貨五億ルナ)を自分のプライベート用の黄金の別荘と高級馬車の購入に流用。

成績優秀な平民出身の生徒の論文を盗用し、自分の名前で発表して学会の賞を総なめにしていた記録。

炎上神ワイズとの裏取引契約書(『コハルの施設を潰せば、次期文部大臣のポストを約束する』という生々しい音声ログ付き)。

「ひ、ひぎゃあああああぁぁぁぁぁっ!? な、なぜ私の裏帳簿が空に浮いているのだぁぁぁっ!?」

ギデオンが発狂して叫ぶ。

ルナ・タイムラインのコメント欄は、もはや文字が読めないほどの超光速で流れていった。

【ルナ・タイムラインの反応(同時接続:五十万人突破)】

『うわああああああガチの横領犯じゃねえか!!!』

『平民の論文を盗作して最高賢者気取りとかダサすぎて草枯れる』

『金貨五億ルナ横領って、国家反逆罪レベルだろ憲兵隊急げ!!』

しかし、ダダモレダケの真の恐ろしさは、単なる犯罪の告発(ざまぁ)だけでは終わらなかった。

「や、やめろ……! 思考を止めろ、私の脳よ! これ以上はダメだ、それだけは……それだけは全世界に見せるなぁぁぁっ!!」

ギデオンが血の涙を流しながら頭を抱えて床を転げ回る。

だが、隠そうとすればするほど、脳は強くその記憶を意識してしまう。

次に画面いっぱいに強制表示されたのは――ギデオンが深夜に一人でこっそり行っていた、**『最高に恥ずかしいプライベートの検索履歴と裏日記』**だった。

【ギデオンのルナ・ネット検索履歴(直近3日間)】

『50代 賢者 モテる 魔法の香水』

『白髪 隠す 簡単な呪文』

『部下にナメられない 威厳のある咳払いの仕方』

『人魚姫リーザ ファンクラブ 裏垢で入会する方法』

『マシロちゃん モフモフしたい 合法』

【ギデオンの非公開・妄想ポエム日記】

『我が名は漆黒の知恵を統べる孤高の堕天使……今宵も愚民どもを見下ろしながら、特製ミルクティーを飲む私、超カッコいい……(自撮りポーズ写真付き)』

シーン…………と。

真夜中の帝都が、あまりの痛々しさに一瞬だけ完全な静寂に包まれた。

そして――次の瞬間。

「「「「「ギャハハハハハハハハハハハッ!!!!」」」」」

帝都の街中から、地鳴りのような爆笑の嵐が巻き起こった。

「♪ちょ、ちょっと〜〜〜っ! わたくしのファンクラブに裏垢で入ろうとしてたんてすの!? 気持ち悪すぎますわーーーっ!!」

リーザが鳥肌を立てて叫びながら、マイクを投げ捨てそうになる。

「誰がモフモフさせっかボケェェェッ! 欲望がダダ漏れなんじゃ変態賢者がぁぁっ!」

マシロの渾身のウサギキックが、床で悶絶するギデオンの尻にドスッと炸裂した。

「……あー、姉御。こいつ、威厳のある咳払いの練習とか鏡の前でやってたんすね……。俺のソシャゲ爆死より遥かに見ててキツいっす……」

フェイトが同情を通り越してドン引きの目を向けていた。

「う、あ、あああ……っ! 私の……私の威厳が……私のプライドがぁぁぁぁっ!!」

ギデオンは顔から火を噴かんばかりに真っ赤になり、泡を吹いてその場にバタリと倒れ伏した。

知識を独占し、平民を見下し、フェイクニュースで世界を操ろうとしたエリート賢者の社会的尊厳は、彼自身の脳内データ(ダダモレダケ)によって、何百万人もの民衆の前で完全に木っ端微塵に消滅したのである。

「……よし。すべての証拠データ、帝国憲兵隊のサーバーへ転送完了ね」

私は手元のスマホを操作し、ナースとしての極めて冷徹なトリアージの笑みを浮かべた。

「さて、元・最高賢者ギデオン様。あなたの悪事、そして恥ずかしい性癖に至るまで、完全に全世界へ可視化されましたわね」

私は床で痙攣しているギデオンの目の前に、分厚い書類の束をドンッ! と叩きつけた。

「これは、ルナ・スパおよび全帝国民を代表して請求する『因果の請求書(トリアージ・レポート)』よ。横領した研究費五億ルナの全額返還、ならびに虚偽の情報拡散による営業妨害の賠償金を請求します。……足りない分は、あなたが一番見下していた『平民向けのコールセンター業務(タローマン・カスタマーサポートの超絶クレーマー対応)』で、一生涯かけて電話口で平謝りしながら払ってもらいますからね」

「ひ、ひぃぃぃぃん……! 謝りますぅぅ、何でもしますから、あの検索履歴のデータをネットから消してくださいぃぃぃっ……!!」

かつての最高賢者が、平民ナースの足元で無様に泣き叫んで許しを乞う。

完全なる『現場のエビデンスと集合知』の勝利だった。

「――実に見苦しく、そして最高の見世物だったな」

背後から、漆黒の軍服の裾を翻してレオン様が歩み寄ってきた。

彼は床に転がるギデオンを一瞥すらすることなく、ごく自然に私の腰を抱き寄せ、ご自身のたくましい胸元へと私を閉じ込めた。

「レオン様……」

「君の手を煩わせるまでもない。この愚か者の身柄の拘束、ならびに学園の解体と資産凍結は、我が公爵家の法務部がすべて完璧に処理(バックアップ)しよう」

レオン様は私の顎を指先で優しく持ち上げ、4K生中継のカメラが至近距離で回り続けていることなど一ミリも意に介さず、熱く、甘く、底知れない独占欲を宿した瞳で私を見つめ下ろした。

「さあ、害虫の駆除は終わった。……残るは、私と君の『約束』だけだな。コハル」

レオン様の低く甘い声が、生中継の最高音質マイクを通じて、帝都中の全平民のスマホへと直接響き渡った。

「帝都の全臣民、そして天界の神々よ。……明日の夜、このルナ・ネットのすべての画面を空けて待っておくがいい。我がルナミス家の、真の覇権の幕開けを見せてやろう」

「れ、レオン様……っ!」

私が真っ赤になって息を呑む中、レオン様は極上の微笑みを浮かべ、全世界が見守るカメラの前で、私の唇に深くて熱い口づけを落としたのだった。

フェイクニュースを粉砕し、知識の独占を完全に打ち破った平民ナース。

いよいよ物語は、全帝国を巻き込んだ『最高に甘くて逃げ場のない、公開プロポーズ』の夜へと突入していくのだった。

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