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EP 4

ポンコツ・インフルエンサー爆誕

「はい、お父さん! これが帝都の新時代インフラ『ルナ・スマホ』よ! 初期設定は全部完了してるから、この緑のボタンを押せば家族といつでも通話できるし、画面をスワイプすれば最新のニュースやお買い得情報が見られるわ!」

「えっ……こ、こんな手のひらサイズの綺麗なガラス板が、本当にタダ……いや、たったの銅貨十枚(十ルナ)でいいのかい、コハル様!?」

「ええ! 月額通信料も【善行ポイント】から全額補填(キャッシュバック)されるから、実質永久無料よ! 壊れたらタローマンの窓口で即日無償交換するから、ガンガン使い倒してね!」

帝都の中央広場に設置された特設テント。

私とスタッフたちが声を張り上げる中、テーブルの前には『ルナ・スマホ』を求める平民たちで、見渡す限りの長蛇の列ができていた。

【善行ポイント通販・段6:神域の通信網(ルナ・ネットと平民スマホ)】。

天界の女神カグヤ様から流れ込む莫大な神力予算をバックに、私は帝都中の平民家庭に向けて、安価で頑丈、かつ直感的な操作ができる魔導スマートフォンを大量配布する大作戦を決行していた。

「すげえええっ! 画面を指で触るだけで、タローソンの今日の特売チラシが見られるぞ!」

「見て母ちゃん! 遠くの畑にいる親父の顔が、この板の中に映って喋ってる!」

「文字が読めなくても、音声案内が全部喋ってくれるから簡単だわ!」

エリート賢者たちが「平民は無知な獣だから、高度な通信機など扱えるはずがない」と高をくくっていたのは大間違いだ。

人間は誰しも、便利で楽しいものには秒速で適応する。

前世の日本でも、おじいちゃんやおばあちゃんがあっという間にスマホで孫の写真を共有していたように、帝都の平民たちも配布からわずか数時間で、まるで何年も使っていたかのようにスマホをタップし始めていた。

そして――。

この通信革命の波に、誰よりも早く、そして最もカオスな形で飛び乗ったのは、我が陣営の誇るポンコツ仲間たちだった。

帝都全域に開通したルナ・ネット。その公式動画プラットフォーム『ルナ・チューブ』の急上昇ランキングは、開設初日から凄まじいことになっていた。

「――はいどーも! 帝都の美味いもんは全部ワテの胃袋に収めるでお馴染み、神獣マシロちゃんの【モグモグちゃんねる】やでー!」

画面の中で、ピンクの特製エプロンをつけたウサギの神獣マシロが、カメラに向かって短い前足をブンブンと振っていた。

彼女の目の前には、タローマン帝都支店のスイーツコーナーから運ばれてきた新作『飲むカスタードプリン大福・特大メガ盛り仕様』が山積みにされている。

「今日はな、学園のエリート賢者どもが『平民の飯は不衛生』とか舐めたこと抜かしとるから、このタローソンの至高の新作をワテが豪快に実食したるわ! ほな、いただきまーす!」

バクゥッ!!

マシロは自分の頭よりも大きなプリン大福を、豪快に一口で丸呑みにした。

両頬をリスのようにパンパンに膨らませ、ウサギ耳を幸せそうにピコピコと激しく揺らす。

「んん〜〜〜ッ!! 濃厚なカスタードの甘みと、モッチモチの求肥が口の中で爆発しとる! 甘党なら即昇天間違いなしや! ちなみにお値段は銅貨五枚! 賢者様の高い魔法薬一杯分の金で、これ百個食えるで! 概要欄にルナ・スパの割引クーポン貼っとくから、みんなポチッとな!」

【マシロの動画へのコメント】

『食いっぷりが良すぎて見てるだけで腹減ってきたwww』

『耳ピコピコ可愛すぎる! チャンネル登録した!』

『今すぐタローソン行ってプリン大福買ってくるわ!』

視聴回数、公開から二時間で十万再生突破。

マシロは一瞬にして、帝都ナンバーワンの『大食い系モフモフ・インフルエンサー』として君臨していた。

一方、その隣のライブ配信タブでは。

「♪届け〜わたくしの〜、デトックス・ボイス〜! ルナ・スパの〜露天風呂から〜、生中継ですわ〜!」

きらびやかなアイドルのステージ衣装(耐水仕様)に身を包んだリーザが、湯気の立ち上るルナ・スパの『薔薇風呂』の特設ステージから、圧倒的な美声でゲリラライブを配信していた。

「皆さん、ごきげんよう! 深海の人魚姫、リーザですわ! 学園のおじ様たちが『赤死病のウイルスが〜』なんてデマを流していましたけれど、見てくださいまし! わたくしのこのツヤツヤの美肌と、透き通る尾鰭の輝きを! これがウイルスに冒された身体に見えますこと?」

リーザがカメラに向かってウインクを飛ばし、高音のビブラートを響かせると、画面には視聴者からの投げ銭(善行ポイントチップ)の嵐が吹き荒れた。

【リーザの生配信へのコメント】

『歌姫様マジ天使!!』

『赤死病どころか、画面からマイナスイオン出てるんだが!?』

『今からルナ・スパ行って同じ薔薇風呂入ってくる!!』

そして。

ランキングの第三位、最もコメント欄が荒れに荒れていたのは――。

「頼む……ッ! 来てくれ! ここで最高レア【神聖聖騎士・アーサー(確率0.01%)】を引かなきゃ、俺の今月の給料(ルナ・スパのバイト代)が全部パーになっちまうんだよぉぉぉっ!!」

ルナ・スマホにプリインストールされた、私が前世の知識で作った魔導ソシャゲ『帝国ガチャファンタジー』。

そのガチャ画面を前に、白銀の剣鬼フェイトが、血走った目で狂ったように画面を連打していた。

「うおおおおぉぉぉっ! 金色の魔法陣演出キタァァァッ!! 昇格演出! 頼む、アーサー様ぁぁっ!!」

ピカァァァッ! と画面が光り、現れたのは――。

【獲得:スライムの粘液(レアリティ:N)】

【獲得:折れた木の棒(レアリティ:N)】

【獲得:スライムの粘液(レアリティ:N)】

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁっ!!! なんでスライムの粘液が十連中八個も出るんだよぉぉぉっ! 俺の全財産がぁぁぁっ!!」

発狂したフェイトがスマホを床に叩きつけようとした瞬間、背後から飛んできたマシロのウサギ・ドロップキックが彼の後頭部にクリーンヒットした。

「高級な端末を床に投げるなアホたれぇぇっ!!」

「ぐふっ!?」

【フェイトのガチャ配信へのコメント】

『草ァァァァァァァ!!!』

『安定の爆死芸助かる』

『剣の腕は一級品なのにガチャ運は最底辺の男www』

『メシウマすぎる。元気になるからもっと課金して爆死してくれ』

仲間たちがそれぞれの個性を遺憾なく発揮し、帝都のネット空間をあっという間に掌握していく。

平民たちもまた、彼らの配信を見て大笑いしながら、「ルナ・スパなう! サウナ最高!」「オロポ飲んだけど普通に超美味いし元気出たぞ」「学園の賢者のデマに騙されて損した!」と、リアルタイムの『口コミ(集合知)』をSNS上に次々と投稿し始めていた。

情報の独占によって平民を操ろうとした賢者ギデオンの思惑は、この圧倒的な『楽しさと真実の拡散』の前に、早くも音を立てて崩れ去りつつあった。

「……ふふっ。みんな、すっかりインフルエンサー気取りね」

特設テントの裏手。私は手元のスマホでタイムラインを眺めながら、思わず吹き出してしまった。

平民たちが自発的に情報を共有し、フェイクニュースを笑い飛ばす空気(ファクトチェックの文化)が、想像以上のスピードで出来上がりつつある。

「――実に騒がしいが、効果的な戦術だな。私の至宝」

ふわりと。

最高級のダージリンの香りと共に、私の背後からたくましい腕が伸びてきて、私の肩を優しく抱きすくめた。

「レオン様。見てください、帝都の平民たちがもうこんなにスマホを使いこなしていますよ」

「ああ、見ているとも。……だが、私の関心は帝都の動向などではない」

レオン様は漆黒の軍服のポケットから、特別仕様の『超・重装甲型ルナ・スマホ(漆黒と金のルナミス家特注モデル)』を取り出した。

その画面を見せられて、私は思わず目を丸くした。

「レ、レオン様……この画面、なんですか?」

画面には、私のリアルタイムのバイタルサイン(心拍数・体温・血圧)のグラフと、現在位置を示すGPSマップ。

さらに、SNS上で私のアカウントにリプライを送ってきた不届きなユーザーのリストが、真っ赤な『粛清対象(キルリスト)』としてズラリと並んでいた。

「私のスマホにプリインストールさせた、コハル専用・絶対防壁管理システムだ。君の体温が一度でも上がれば即座に私が駆けつけ、君に不快なコメントを投げた輩は、我が影の部隊が物理的に特定して帝国外へ追放する仕様になっている」

「ちょ、ちょっと! ネットのコメントに物理で追放とかダメですからね!? それに、私のバイタルを常に監視するのも過保護すぎます!」

「過保護で何が悪い」

レオン様は私の抗議を極上の微笑みで一蹴すると、私の手からスマホをそっと取り上げ、私の指を自分の指と深く絡め合わせた。

「君がこの『神域の通信網』で世界を繋ぎ、平民たちに真実を与える女王であるならば……私は、その通信網の頂点から、君という至宝を永遠に独占する唯一の存在でなくてはならない」

レオン様は私の耳元に唇を寄せ、周囲のスタッフたちが見て見ぬ振りをしてサッと散っていく中で、低く甘い声で囁いた。

「コハル。この通信網が帝国全土を完全に覆い尽くした時……私は、全帝国民の前で、ある『重大な発表』をするつもりだ。……君には、逃げ道など最初から用意していないからな」

「じ、重大な発表……?」

レオン様の漆黒の瞳に宿る、甘く危険な独占欲の光。

その意味を察した私の心拍数が跳ね上がり、レオン様のスマホの画面に『警告:対象の心拍数上昇(原因:胸キュン)』のアラートが無情にもピコンと鳴り響いた。

「ほら見ろ。君のバイタルは、私の言葉一つでこれほど乱れる。……愛おしくて堪らないな」

「もう……っ、レオン様ったら!」

エリート賢者たちが築き上げた「情報の檻」を、平民たちの笑顔と集合知、そして公爵様の重すぎる愛が完全に破壊し尽くす瞬間は、すぐそこまで迫っていた。

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