↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/105

EP 3

公爵の粛清ストップと、コハルの提案

「君が暴力ではなく『知略』で奴らの鼻を明かすと言うなら、私はそのためのすべてのリソースを君に捧げよう。……さあ、その学園の傲慢なエリートどもを、どのように料理してやろうか?」

ルナ・スパのエントランス。先ほどまでの殺気は影を潜め、レオン様は私の決意を尊重するように、その漆黒の瞳に静かな信頼を宿して微笑んだ。

帝国全土の魔導通信網を支配する『最高賢者ギデオン』という強大な敵を前にしても、レオン様は微塵も動じない。彼にとって、国一つを更地にするのも、一人の学者の悪巧みを暴くのも、すべては『私の至宝であるコハルを満足させるための些事(さじ)』でしかないのだ。

「ありがとうございます、レオン様。……でも、暴力で学園を潰してはいけない。彼らの流したデマは『支配者層(賢者)』が『被支配者層(平民)』に対して行った、構造的な洗脳だから」

私は、誰もいなくなったスパの静かな館内に、凛とした声を響かせた。

「あの男たちは『情報』という武器を独占している。だから、平民たちは何も知らされず、ただ恐怖に震えることしかできない。もしここで我々が権力で彼らを押し潰せば、後々『あのルナミス公爵は、真実を知っている賢者様たちを物理的に消した』という新たな噂が広まるだけよ。それは、私たちの求めている『平和』じゃないわ」

「ふむ。では、君はどうやってこの腐った情報の海を浄化するつもりだ?」

私はエプロンのポケットから【善行ポイント通販】のデバイスを取り出した。

これまで第5段階まで進化させてきた、神域の兵站網(ロジスティクス)。その先にある、さらに高次の権限。

今の私の善行ポイント残高は、カグヤ様のゴッドチューブ放送で得たスパチャにより、天界の予算をも凌駕するレベルに達している。

「……私の前世の世界ではね、すべての人が等しく『真実』にアクセスできる権利があったの。誰かが嘘をついても、別の誰かが即座にそれを検証できる仕組みがあった」

私は空中に浮かび上がった【通販】の管理画面に、真っ直ぐに指を突き立てた。

「権威ある人が言ったから真実ではない。数字(データ)と事実こそが、唯一の真実なのよ。……スキル解放。第6段階」

その瞬間。

ルナ・スパの屋上に設置されていたドローン通信局が、眩い純白の光を放ち、帝都全域を覆い尽くす不可視の波形を放射し始めた。

それは、魔法の通信網を根底から書き換え、誰もがリアルタイムで情報を共有し、真偽を検証できる『神域の通信網(ルナ・ネット)』の起動だった。

【善行ポイント通販・段6:神域の通信網(ルナ・ネットと平民スマホ)】が解放されました。

「これは……?」

レオン様が、ふわりと掌の上に現れた、掌サイズの薄い板状の魔導具(スマホ)を不思議そうに見つめる。

「帝都のすべての平民に、この『ルナ・スマホ』を配布します。マシロちゃん、フェイト! 今から、倉庫に眠っている在庫をすべて台車に積んで!」

「おう! 了解や!」

「また肉体労働っすか……! でも、あのデマ野郎をぶっ潰すためなら、いくらでも運んでやるぜ!」

私の計画はこうだ。

ギデオンたちが独占していた「情報の流れ」を、私たちの技術でハッキングし、帝都中の平民一人ひとりに『真実のフィルター(ファクトチェック機能付きの掲示板)』を渡す。

「賢者たちの嘘(フェイク)を、平民たち自身がスマホで検証し、笑い飛ばせる環境を作る。……嘘つきは、論理的に論破されて嘲笑されるのが、一番の罰なのよ」

「なるほど。権威を破壊するのではなく、その権威が依って立つ『情報の独占権』そのものを無価値にしてしまうわけか」

レオン様は私の策を理解すると、その漆黒の瞳に獲物を狙う狩人のような冷徹な光を宿し、すぐさま自身のスマホ(特注品の極大サイズ)を取り出した。

「面白い。ならば、情報戦における『防壁』は私が構築しよう」

「防壁? レオン様、通信網のセキュリティですか?」

「いや。君のスマホが、他の男からの不届きな通知を受け取らないようにする『絶対防壁』だ。……それから、この通信網を悪用して君を侮辱する輩がいないか、私が影の部隊を使って24時間体制でパトロールさせる」

「……それは、防壁というか、ただの過保護な監視ですよっ!」

レオン様はそんな私の抗議もどこ吹く風で、慣れた手つきでスマホを操作し、瞬く間に「ルナミス公爵家・公式情報局」のネットワークを立ち上げていく。彼の魔力は通信網の暗号化にも適用され、帝国軍の暗号すらも凌駕する堅牢なサーバーが構築されていく。

「さあ、準備は整った。……学園のあの愚か者に、現代の情報戦というものがどういうものか、君のその冷徹なやり方で教えてやるがいい」

私はレオン様の頼もしい(重すぎる)サポートを受けながら、まずは通信網のテスト送信を開始した。

私のスマホから、帝都中の平民が持つスマホへと、一斉に通知が飛ぶ。

『――ルナ・スパからのお知らせ。ウイルスなど存在しません。ただの健康な温浴施設です。信じられない方は、今すぐ画面の【ライブ中継】ボタンを押してください。現在、スタッフがスパの中で美味しそうにカレーを食べている様子が見られます』

パシャリ。

送信ボタンを押すと同時に、帝都中の平民たちのスマホが一斉にピロリンと鳴り響いた。

「えっ……? なにこれ、通知が来たぞ?」

「ライブ中継……? ええっ、スパの中のスタッフさんが、本当に普通にカレーを食べてる!」

「赤死病で血を噴くなんて、嘘だったのか!?」

帝都の街角のあちこちから、驚きと安堵の声が漏れ始めた。

ギデオンが作り上げた「恐怖のデマ」が、情報の即時共有によって、ものの数秒で『ただの滑稽な嘘』へと転落していく。

「ふふっ。これよ、これ。情報格差(デジタルディバイド)は、技術(インフラ)で解決するのが一番なの」

私はスマホを片手に、窓の外に広がる帝都を見下ろした。

賢者ギデオンは、自分が平民を見下し、情報を独占しているつもりだった。

しかし、その慢心こそが彼の最大の敗因だ。

「さあ、レオン様。次のステップへ行きましょう。……彼らが撒いたデマを、今度は『平民たちの集合知』で完膚なきまでに論破して、彼らの社会的地位を地獄まで突き落とす作業ですわ」

「ああ。君のその冷徹な知略……今夜もたっぷり見せてもらおうか」

レオン様は、私の肩を抱き寄せながら、不敵に口角を上げた。

かつて知識を独占し、民を操ってきたエリート学園の賢者たち。

彼らがこれから味わうことになるのは、自分たちが最も蔑んでいた「平民」たちによって、その浅はかな知識と嘘が、リアルタイムで赤裸々に検証され、バズり、消費されるという、最高の屈辱(ざまぁ)である。

「ねえ、レオン様。この通信網の防壁の中に、一つだけ『婚約発表用』の隠し機能を入れておきません?」

「……ほう。君らしくない、実に素晴らしい提案だな」

二人の不敵な笑みの中、帝都の平民たちのスマホ画面には、かつてないほど刺激的で、そして痛快な「反撃の狼煙」が上がり始めていた。

フェイクニュースを粉砕し、真実が拡散する速度は、神々の想定を遥かに超えて、音速で帝国全土を飲み込もうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。