表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
84/87

EP 9

神の敗北と、健康ランドの大盛況

「な、何なんだこれはぁぁっ!? 私の……私の完璧な『国教権威・洗脳搾取システム』が、あんな平民の小娘が持ち出したおぞましい覗きからくり(医療機器)と、ただのキノコなんぞに木っ端微塵にされるなど……っ、あり得るはずがないだろうがぁぁぁっ!!」

天界の、どす黒い炎が渦巻くワイズ神殿。

炎上神ワイズは、自身のチャンネルの魔導大型スクリーンを前に、髪を振り乱して血の涙を流しながら絶叫していた。

彼が威信を懸けてプロデュースした生配信企画『#神の奇跡 vs 異端の偽医療! 愚かな平民に下る神罰の輝き』の画面には、今や見るも無残な地獄絵図が映し出されている。

黄金の法衣を泥まみれにし、クラゲのように骨抜きになって這いつくばりながら、「贅沢三昧して平民を財布だと思ってたよぉぉ!」と大号泣する大司教ボルドーの、哀れすぎるワンマンショーだ。

画面の右側では、全天界の神々やリスナーからの、容赦のない辛辣なコメントがマッハの速度で流れ続けていた。

【ワイズのチャンネルへのコメント】

『うわぁ……これが国教のトップとか幻滅だわwww』

『神の加護(笑)の中身が、ただの不摂生と重度メタボで草』

『尿酸値 11.5 は人間として終わってんだろwww』

『「平民は俺の財布だもん!」とか、最高にクズで笑う。ワイズの信徒プロデュース力、またしても底を突いたな』

『っていうかワイズが掴ませた特保のお茶、ただの「本音暴露キノコ」じゃねーか! 捨て駒にされた大司教可哀想www』

『はい、チャンネル登録解除。二度とヤラセ配信すんなよ、炎上クソ神』

「おのれ……おのれおのれおのれ、コハル・ルナミスぅぅぅっ!!」

ワイズは地団駄を踏み、神殿の床を殴りつけた。

今回の彼の作戦は、平民たちの根底にある『伝統への盲信』と『未知の医療への恐怖』を利用したものだった。どれほどコハルの施設が優秀でも、宗教的な「穢れ」のレッテルを貼れば勝てるはずだったのだ。

しかし、コハルは最初から宗教論争などしなかった。

ただ徹底的に、誰の目にも明らかな『科学的数値エビデンス』を可視化し、大衆の目の前で突きつけた。

人間の脳は、どれほど言葉で洗脳されていようとも、目の前のモニターに「自分の内臓を埋め尽くすドロドロの脂肪」と「骨を突き刺すガラスの破片(尿酸)」をハッキリ見せられれば、本能的に『現実』を選択してしまうのだ。

「私の……私のプロデュースした最高権威が、ただの『健康診断』に論破されるなど……っ! ギャァァァァッ! 登録者数が、あと数秒で一桁にまで落ちるぞぉぉぉっ!!」

天界の片隅で、またしても一人のクソ神が、現場の圧倒的な合理性の前に完膚なきまでにへし折られ、涙を流して発狂していた。

――一方、その対極にある、白レモンとミントの香りが漂う白亜のカグヤ神殿。

『大・大・大・大・大勝利ですわぁぁぁーーーッ!!!』

月の女神カグヤが、ウサギの使い魔たちとシャンパンのボトルを片手に、神殿の高級絨毯の上で激しく腰を振って踊り狂っていた。

『見ました!? 神々の皆さん! コハルちゃんのゴッドチューブチャンネル『#最新人間ドックで洗脳論破 #大司教の痛風結節』、ただいま天界の同時接続数と、おひねり(善行ポイント)のギネス記録を宇宙規模で更新いたしましたわーーーっ!!』

カグヤの端末には、全天界の医療の神や知恵の神、さらには美容の神たちから、見たこともない額の【虹色スパチャ】が途切れることなく雪崩れ込んでいた。

【カグヤのチャンネルへのコメント】

『エビデンスの暴力、最高にスカッとした!!』

『コハルちゃんプロデュースの健康ランド、マジで天界にも作ってほしい』

『レオン公爵の館内着姿の色気だけでご飯3杯いけるわ……』

『カルト宗教の洗脳を「ただの不摂生」として切り捨てるナースのトリアージ、痺れた!』

『ええ、ええ! 信仰なんていう目に見えないもので民を騙す時代は終わりですわ! これからは「公衆衛生とエビデンス」の時代ですのよ! コハルちゃん、そしてレオン公爵! 今回も最高のざまぁエンターテインメントをありがとう! この莫大な善行ポイント、全額、ルナ・スパの設備投資(新しいCTスキャンと高級サウナストーン)として還元させていただきますわーーーっ!!』

――その頃、地上(帝都)の中央広場では。

「――これより、ルナミス公爵家・法務監査部、ならびに帝国憲兵隊による、聖神殿の『電光石火の立ち入り調査』を開始する。抵抗する者は、私がその肉体を分子レベルで消去しよう」

レオン様の絶対零度の命令の下、漆黒の甲冑に身を包んだ公爵家のエリート監査官たちと憲兵隊が、大司教ボルドーの隠し金庫や教会の総本山へと一斉に突入していった。

ボルドーがホネヌキダケの作用で「裏の隠し金庫の場所」や「脱税の手口」をマイクの前でご丁寧にすべてペラペラと自白してくれたため、捜査はものの数分で完了した。

「報告いたします、レオン閣下! 大司教の私室の地下から、平民から不当に巻き上げた金貨、総額三億ルナ、ならびに不正調達された『麻痺草』の大量のストックを押収いたしました!」

「即刻没収だ。金貨はすべて、コハルの健康ランドの運営費、および騙し取られた平民たちへの『返金対応の原資』として計上しろ。麻痺草は軍の医療班が管理し、正当な麻酔薬として精製し直せ」

「ハッ!!」

レオン様の合理的かつ冷酷な戦後処理により、帝都を何百年も支配していた腐敗した宗教組織は、わずか半日で完全に解体・財産没収という形で幕を閉じた。

古い権威が消え去った代わりに、帝都の平民たちの心に芽生えたのは、神への盲信ではなく、自分たちの体を労るという『健康への意識』だった。

「はい、お疲れ様でしたー! ルナ・スパ、これより平民の皆さんに向けて、大浴場とサウナ、そして『簡易健康診断コーナー』を全面開放いたします!」

私がルナ・スパのフロントで声を張り上げると、エントランスの外で今か今かと待ち構えていた平民たちが、津波のような勢いで館内へと流れ込んできた。

「うおおおっ! 本当に聖水の洗脳が解けたぜ! これからは祈る代わりに、このお風呂でしっかり汗をかいて、コハル様の言う『規則正しい生活』をするぞ!」

「私も簡易健康診断で血圧を測ってもらうわ! 数値で自分の身体がわかるなんて、本当に安心だもの!」

「ルナ・スパ、大盛況やな! ほれコハル、受付はワテに任せとき! タオルとロッカーキーの受け渡し、マッハの速度でさばいたるわ!」

マシロがウサギ耳を忙しなく揺らしながら、肉球のついた手で見事なフロント業務をこなしていく。

「あー……。便所掃除の洗剤って、こんなに種類があるんっすね……。新人のおデブ大司教、ほら、手が止まってるぞ! そこ、尿石が残ってるから『サンポール(【通販】)』をぶっかけて、ブラシでゴシゴシ擦るんっすよ!」

「ひ、ひぃぃん! 痛風の足が痛いよぉぉ、でもサボるとあの公爵様に概念ごと消されるから、やるしかないよぉぉぉっ!!」

通路の奥からは、フェイトが元大司教ボルドー(ダボダボのタローマン作業着姿)に、容赦なく便所掃除の指導(スパルタ教育)をしている声が聞こえてくる。

かつての最高権威が、自分が一番見下していた現場の労働で汗を流す。まさに最高に後味の良い因果応報ざまぁの光景だ。

「♪古い〜神殿〜壊れたら〜、新しい〜スパの〜オープンですわ〜!」

リーザの癒やしの歌声が、湯気の立ち上る大浴場から響き渡り、平民たちの心と身体を優しく包み込んでいく。

「……ふぅ。これでひと安心ね」

私がフロントの椅子に腰掛け、冷たいオロポ(オロナミンC+ポカリスエットの【通販】特製ドリンク)を飲んで一息ついていると。

私の背後から、ふわりと極上の紅茶の香りと共に、熱い胸板が私の背中にそっと寄り添ってきた。

「――がんばったな、私の至宝コハル

レオン様が、VIP専用の漆黒の館内着の袖から長い腕を伸ばし、私の腰をそっと抱きすくめてきた。

フロントにはまだたくさんの平民たちやスタッフがいるというのに、彼の過保護な独占欲は、今や帝都の誰もが認める『公認の特等席』として機能していた。

「レ、レオン様、まだ業務中ですから……っ」

「業務はマシロやフェイトに任せればいい。昨夜、君の魂のトラウマを私がすべて癒やしたはずだが……やはり、君がこうして現場で無理をしていないか、私は一秒たりとも目が離せないのだ」

レオン様は私の顎を指先で優しく上向かせ、その漆黒の瞳に、海よりも深い愛と独占欲を揺らめかせた。

「君が創り上げたこの『健康のインフラ』は、帝都の新しい夜明けとなった。だが、君という太陽が輝き続けるためには、私が君を誰よりも甘やかし、守り抜く必要がある。……さあ、今夜も私の特等席(VIPルーム)で、君のバイタルサインを私だけの愛で完璧に満たしてあげよう」

レオン様の低く甘い囁きが、私の耳元を優しくくすぐる。

恋愛ラダー第9段。私の前世の過労死の記憶を丸ごと抱きしめ、私のすべてを肯定してくれる公爵様の存在が、私の心を満たしていく。

「……はいっ。レオン様、今夜もよろしくお願いしますね」

私が満面の笑みで頷くと、レオン様は愛おしそうに目を細め、私の唇に、周囲の平民たちが歓声を上げて拍手する中で、深く、甘い口づけを落としたのだった。

古い権威を完全なエビデンスでねじ伏せた、平民ナースのロジスティクス。

帝都の公衆衛生は守られ、私たちの『絶対有給休暇』は、さらなる究極の癒やし(大盛況)の夜へと続いていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ