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EP 8

本音の暴露と、因果の請求書

「――さあ、大司教様。あなたのその『完璧な神の神殿(身体)』の本音、帝都の皆さんにたっぷりと聞かせてあげてくださいな」

帝都の中央広場。何千人という平民や信者たちが見守る中、私は地面にフニャフニャと這いつくばる大司教ボルドーの口元へ、音声拡声用の魔導マイクを突き立てた。

ホネヌキダケの成分が完全に脳の防衛本能プライドを融解させたのだろう。ボルドーの脂肪に埋もれた顔は、まるで幼児のようにクシャクシャに歪み、その目からは大粒の涙と鼻水が滝のように溢れ出ていた。

「あ、あ、あああ……っ!」

マイクがボルドーの掠れた声を拾い、広場全体に大音量で響き渡る。

「う、嘘だ、私は国教の最高権威……こんなところで、フニャフニャになって這いつくばるなど……っ。言っちゃダメだ、言ったら私のすべてが終わって……あ、あ、あああーーーっ!!」

ボルドーは頭を抱えて激しく身悶えした。しかし、ホネヌキダケのデバフ効果は容赦がない。溜め込まれていた「本音」が、せきを切ったように彼の口から飛び出した。

「痛いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! 本当は右足の親指が、風が吹くだけで死ぬほど激痛なんだよぉぉぉぉっ!!!」

最初の一言が、広場に爆音で炸裂した。

あまりの音量と、最高権威らしからぬ情けない絶叫に、平民たちだけでなく、聖神殿の熱狂的な信者たちまでもが「えっ……?」と呆然として言葉を失った。

「神の加護なんてないよぉぉっ! 毎日毎日、激痛が走るたびに、自分で売ってる『奇跡の聖水』を隠れてがぶ飲みして麻痺させてただけなんだよぉ! でもあれ、ただの強い痛み止めだから、切れると前より何倍も痛くなるんだよぉぉっ! 助けてくれぇぇ、健康になりたいよぉぉぉっ!!」

「お、おい……今、自分でただの痛み止めって言ったか……?」

「神の加護じゃないのかよ!?」

信者たちの間で、ドミノ倒しのように動揺が広がっていく。だが、ボルドーの口はもう誰にも止められなかった。ホネヌキダケの魔力は、彼の人生のすべての「イカサマ」を、これでもかと白日の下に引きずり出していく。

「お前ら平民が、病気を治したくて、家族を救いたくて、血の滲むような思いで働いて納めた寄付金……っ! あれ全部、俺が裏の隠し金庫に貯め込んでたんだよぉぉっ! 神に捧げるなんて全部嘘っぱちだぁ! 毎晩毎晩、その金で最高級の霜降り肉を特盛で食って、ヴィンテージの高級ワインを樽ごと溺れるように飲み干してたんだよぉぉぉっ!!」

ボルドーは地面をドンドンと叩きながら、子供のように大号泣した。

「だって、美味いものが食べたかったんだもん! 贅沢三昧して、綺麗な服を着て、チヤホヤされて生きたかったんだもん! 平民どもが貧乏で苦しんでようが、病気で死にそうになってようが、俺の知ったことかぁぁっ! 奴らはただ、俺の贅沢な暮らしを支えるための都合のいい『財布モブ』なんだよぉぉぉっ!!」

「な……っ!」

「ふざけるな……っ! 泥棒神官め!!」

広場を埋め尽くしていた何千人という大衆の空気が、一瞬にして『怒りの沸点』へと達した。

信者たちは、自分たちが神聖視していた大司教のあまりにも醜悪な本音に、持っていた聖印を地面に叩きつけて激怒し、一般の平民たちは「俺たちの金を返せ!」「母ちゃんを騙しやがって!」と、怒号の嵐を巻き起こした。

「それに、あのワイズのクソ神めぇぇっ!!」

さらに、ボルドーは天を仰いで絶叫した。

「『この特保のお茶を飲めば、平民ナースの機械なんて一発で狂わせられる』って言って俺にこれを掴ませやがったな!? 体がフニャフニャで骨が抜けたみたいになって、本音しか喋れなくなってんじゃねえかよぉぉっ! あの炎上神、俺を助ける気なんて最初からなくて、ただあのモブ女を論破するための『捨て駒』にしか思ってなかったんだよぉぉぉっ! ワイズのバカヤローーーッ!!」

神の奇跡という名の医療詐欺。

そして、その裏にあった醜悪な不摂生と、炎上神ワイズの浅はかなヤラセの全貌。

それらすべてが、ボルドー自身の口から、完璧な『音声データ』として帝都の歴史に刻まれた。

古い権威主義の洗脳は、コハルが提示した「健康診断の数値エビデンス」と、彼自身が招いた大自然の理不尽ホネヌキダケの前に、跡形もなく、木っ端微塵に崩壊したのである。

「……よし。これで音声の録音は完璧ね」

私は魔導マイクのスイッチを切り、極めて事務的な、冷徹なナースの笑みを浮かべてスマホをポケットにしまった。

「さて、大司教ボルドー様。あなたの身体の異常(メタボ・痛風)だけでなく、その内面の『重度の倫理観欠如』まで、完全に数値化・可視化できましたわ」

私は這いつくばるボルドーの目の前に、あらかじめ【通販】で印刷しておいた、分厚い書類の束をドンッ! と叩きつけた。

「ひっ!? な、何だねそれはぉぉ……っ」

「これは、ルナ・スパおよびタローマン、そして帝都の全平民を代表して、あなたに請求する『因果の請求書トリアージ・レポート』よ」

私は書類の項目を一つずつ、冷酷に読み上げていった。

「第一に、長年にわたる『医療類似行為を騙った組織的詐欺および脱税』の罪。第二に、最新の公衆衛生施設に対する『不当な営業妨害および異端審問という名の脅迫』の罪。そして第三に、昨日あなたが土足でルナ・スパのエントランスを汚し、大理石の床を傷つけたことに対する『器物破損および衛生管理法違反』の賠償金」

私はページの最後の、天文学的な数字が記載された『合計金額』をボルドーの鼻先に突きつけた。

「これらの被害総額および賠償金は、あなたの隠し金庫の資産をすべて没収して充てさせていただきます。……足りない分は、あなたが一番見下していた『現場の泥臭い労働(タローマンでの一生涯の便所掃除の刑)』で、その脂肪が全部削げ落ちるまで身体で払ってもらいますからね」

「ひ、ひぎぃぃぃっ……!! 許して、許してくれぇぇっ!!」

大宗教の最高権威が、平民のナースの前に完全降伏し、無様に涙を流して許しを乞う。

その姿に、広場の平民たちからは「コハル様、万歳!!」「ざまぁみろ、泥棒デブおじさん!」と、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

「ギャハハ! 相変わらずコハルの請求書は容赦ないな! 隠し金庫の金、全部没収してルナ・スパの新しいサウナの薪代にしようや!」

マシロがウサギ耳を揺らして大笑いする。

「姉御、タローマンの品出しバイト(元勇者)の次は、便所掃除(元大司教)っすか。ウチの系列、どんどん前科持ちのビッグネームが集まってきて鉄火場みたいになってきたっすね」

フェイトが呆れたように笑い、リーザはマイクを回しながら。

「♪権威が〜溶けたら〜、ただのデブ〜! これからは〜真面目に〜、お掃除ですわ〜!」

と、完璧な勝利のエンディング曲を即興で熱唱していた。

そんな賑やかな仲間たちの中心で、私の背後から、ふわりと心地よい極上の香水の匂いが漂ってきた。

「――実に見事な処刑だったな、私の至宝」

レオン様が、漆黒の軍服の袖を翻して私の隣に立ち、その強靭な腕で私の腰をグッと引き寄せた。

広場の何千人という平民たちが注目する真ん中で、彼は私の耳元に唇を寄せ、底知れない愛と独占欲が入り混じった、低く甘い声で囁いた。

「権力や暴力に頼ることなく、ただ『現実エビデンス』と『仕組み(インフラ)』だけで、国教の権威を根底から腐らせて引きずり下ろした。……これほど合理的で、美しく、そして残酷な戦術をやってのける女性は、世界中を探しても君だけだ」

レオン様は私の赤い頬を大きな手で包み込み、周囲の平民たちが顔を赤らめて目を逸らすほど、濃厚で甘い口づけを私の額に落とした。

恋愛ラダー第9段。私の過去のトラウマ(過労死)を丸ごと抱きしめ、私の創る世界を100%肯定してくれる彼の過保護は、今や帝国全体の最優先事項として機能していた。

「この豚の隠し資産の没収、および聖神殿の解体手続きは、すべて我がルナミス公爵家が法的かつ物理的に処理バックアップしよう。君の創り上げたこの『癒やしのインフラ』を脅かす者は、神であろうと大司教であろうと、私が一人残らず地獄の底へ叩き落としてあげるからね」

「レ、レオン様……ありがとうございます。でも、みんな見てますから、そろそろ離れてください……っ」

私が顔から火が出そうになりながら押し返すと、レオン様は楽しそうにクスクスと喉の奥で笑い、私の手を引いて特等席(公爵家の豪華な馬車)へと連れて行った。

神の加護と伝統を騙る、悪質なクレーマー。

その欺瞞を完璧なエビデンスの暴力で粉砕し、平民たちの洗脳を解き放った平民ナースの逆襲は、ここに完全なる『現場の勝利』として幕を閉じたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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