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EP 4

ポンコツたちの健康診断

翌日の大司教の『公開処刑(人間ドック)』に向けたデモンストレーションとして。

ルナ・スパのエントランス横に新設された、ガラス張りの『最新医療・検査ルーム』には、プレオープンに訪れた大勢の平民たちが興味津々で群がっていた。

「さあ、帝都の皆さん! これから私の仲間たちが、この『人間ドック(総合健康診断)』の機械がどれほど安全で、かつ正確に身体の状態エビデンスを数値化できるかをお見せします!」

私がマイクを使ってアナウンスすると、ガラスの向こうの平民たちがゴクリと息を呑んだ。

大司教に「異端の拷問器具だ」と脅されていた彼らにとって、未知の機械は恐怖の対象でもあるのだ。

「では、第一の検査。『肺活量テスト』! リーザちゃん、お願いね」

「お任せあれですわ、コハルプロデューサー!」

ピンク色の館内着を着たリーザが、自信満々に筒状の測定器の前に立った。

「この筒に息を思い切り吹き込んで、肺の機能を測るのよ。さあ、大きく息を吸って……」

「すぅぅぅぅぅぅ…………ッ!!」

リーザが深く息を吸い込んだ瞬間、周囲の空気が彼女の肺に一気に吸い込まれ、風が巻き起こった。

さすがは、深海で何時間も歌い続けることができる人魚姫である。

「いきますわよ! ♪届けわたくしの〜、メガトン・ボイィィィスッ!!」

ブォォォォォォォォォォッ!!

リーザが筒に向かって絶唱(息)を吹き込んだ瞬間、測定器のメーターが限界を突破して振り切れ、ガラス管がパーンッ! と景気良い音を立てて弾け飛んだ。

「ああっ!? 測定器が!」

「ふふんっ! 人魚のトップアイドルの肺活量、機械なんぞで測れると思いましたの?」

リーザがドヤ顔でピースサインを決める。

「……まぁ、規格外すぎるけど、肺機能が超・健康だってことは証明されたわね。後で【通販】で頑丈なやつを買い直しておかなくちゃ」

私が苦笑いしながらメモを取ると、ガラスの向こうの平民たちから「すげえっ!」「あの機械、痛くないんだな!」と歓声と笑いが起こった。

「よし、次は『体組成計(体脂肪率測定)』よ。マシロちゃん、このパネルの上に乗って、バーを握って」

「おう! 任せとき! 最近、タローソンのからあげ食いすぎてるから、ちょっと数値が心配やけどな……」

マシロが素足でパネルに乗り、両手で銀色のバーを握りしめる。

ピピッ、と電子音が鳴り、モニターに解析結果が表示され始めた。

『――測定完了。対象のデータを表示します』

【筋肉量:測定不能(神獣クラス)】

【骨密度:アダマンタイト級】

【体脂肪率:エラー(成分の90%が『モフモフの毛』として認識されました)】

「……なんやこれ! 誰がモフモフやねん! ワテはシュッとしたスタイリッシュ神獣やぞ!」

「マシロちゃん、怒らないの。人間用の機械にウサギの毛皮のデータが入ってないだけだから。でも、内臓脂肪はゼロだし、完璧な健康体よ」

「ほんまか? ならええわ! ギャハハ!」

マシロがパネルから降りてガッツポーズをすると、平民たちも「ウサギのモフモフ測定器かよ!」「可愛いな!」と手を叩いて笑い転げた。

未知の機械に対する恐怖心は、ポンコツで愉快な仲間たちの姿によって、すでに完全に払拭されつつあった。

「さて。じゃあ、最後の大トリね」

私は、極上のナース・スマイルを浮かべながら、部屋の隅でガタガタと震えている白銀の剣鬼へと振り返った。

「フェイト。あなたの番よ。『上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)』のベッドに横になりなさい」

「ひぃぃぃぃっ!!」

フェイトは、私が手に持っている黒くて細長いチューブ(【通販】で取り寄せた最新型の極細内視鏡)を見て、顔面を蒼白にして後ずさった。

「あ、姉御……っ。その、先端が光ってる黒い蛇みたいなやつ、まさか俺の口の中に突っ込む気っすか!?」

「当たり前でしょ、胃の中を見るんだから。安心しなさい、昔のやつと違って細いし、喉にバナナ味の麻酔スプレーをするから痛くないわよ」

「バナナ味とかそういう問題じゃねえっす!! 無理無理無理! 俺、剣で切られるのは我慢できても、喉の奥に異物が入ってくるのは絶対に――あべばばばばっ!?」

私がフェイトの口をこじ開け、シュッと麻酔スプレーを吹きかけると、フェイトは涙目になってベッドに倒れ込んだ。

「はい、力抜いてー。リラックスしないと余計に苦しいわよー」

「う、うぅぅ……。レオンの旦那ぁ、助けてくだせえ……。この平民ナース、悪魔っす……っ」

フェイトがすがるような視線を向けるが、部屋の隅で優雅に腕を組んでいたレオン様は、ふっと冷酷な笑みを浮かべた。

「私の至宝の慈悲深い治療を拒むというなら、私が物理的にお前の胃袋を引きずり出して、直接目視で検査してやろうか?」

「おえぇぇぇっ!? 飲みます! 飲みますからぁぁっ!」

究極の二択(過保護な脅迫)を突きつけられ、フェイトは観念して口を開けた。

私はモニターを見ながら、手慣れた手つきでスルスルと内視鏡を進めていく。

「はい、ごっくんして。……うん、上手上手。食道、異常なし。胃壁も綺麗ね。ピロリ菌もいなさそう。十二指腸も……おや?」

「おぐっ……あ、姉御、何か異常が……っ?」

フェイトが涙目でうめく。

「異常はないけど……胃の中に、さっき大食堂で食べた『特盛カツカレー』がまだ大量に残ってるわね。検査前は絶食って言ったのに、つまみ食いしたでしょ」

「ばれだぁぁぁっ!?」

内視鏡のモニターに映し出された、未消化のカツカレーの映像。

それがガラス張りの向こうの大型モニターにも共有されると、外で見守っていた平民たちは、ついに腹を抱えて大爆笑し始めた。

「ぎゃははは! あの剣士のお兄ちゃん、カツカレー食ってたのがモロバレだぞ!」

「すげえ! あの機械、本当に身体の中身が丸見えになるんだな!」

「それに全然血も出てないし、痛そうじゃない! 俺も明日、胃袋の中を見てもらいたいな!」

ガラスの向こうは、もはや恐怖や権威への畏れなど一切ない、楽しげなエンターテインメントの空間と化していた。

「はい、検査終了。お疲れ様、フェイト。ストレスも胃潰瘍もない、立派な鉄の胃袋よ」

私がチューブを抜き取ると、フェイトはベッドに突っ伏したまま「もうお嫁にいけねえ……」と泣き言をこぼしていた。

「……ふふっ」

私は、医療機器を片付けながら、ガラスの向こうで笑顔を浮かべる平民たちを見て、深く安堵の息を吐いた。

これで、明日の大司教の公開処刑(人間ドック)の準備は完璧だ。平民たちはもう、この機械が出す『エビデンス(数値)』を、神の奇跡よりも正確な真実として受け入れてくれるだろう。

「見事だな、コハル」

背後から、レオン様が歩み寄り、私の肩を優しく抱き寄せた。

「あの豚がバラ撒いた『異端の恐怖』を、君の仲間たちの騒がしい日常コメディによって、あっという間に『親しみ』と『信頼』へと変えてみせた。……君は、医療という名の魔法で、民の心を完全に掌握したな」

レオン様は私の額に落ちた前髪を指先でそっと払い、漆黒の瞳で私を深く、甘く見つめ下ろした。

「君のその、他者の健康を守り抜こうとする徹底した執念。……実に美しく、そして尊い。だが、君は他人のバイタルサインばかりを気にして、自分のそれを後回しにする悪癖がある」

レオン様の大きな手が、私の頬を包み込む。

その手は、驚くほど熱く、そしてどこまでも過保護だった。

「今夜は、この施設のVIPルームを完全に貸し切った。……明日の戦いの前に、君のその小さな身体に溜まった疲労を、私が直接、細胞の隅々まで癒やしてやろう。逃げることは許さないぞ、私の至宝」

平民たちの笑い声が響く明るい検査ルームで。

レオン様の甘く危険な囁きが、私の自律神経を別の意味で限界突破させようとしていた。

大司教との決戦を前に、平民ナースの『絶対有給休暇』は、極上の夜の休息へと突入していくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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