EP 10
大団円と、タローマン・アンバサダー
雪山のバカンス、最終日の朝。
雲ひとつない快晴の空の下、ポポロ山のゲレンデは平和そのものだった。
「いやぁ、昨夜はよく眠れましたわ。温泉施設はまだ開拓中ですが、ドラム缶風呂もなかなかオツなものでしょう?」
スアイさんが、タローマン製の保温マグカップに淹れたてのコーヒーを注ぎながら、清々しい笑顔で言った。
「ええ、最高でした! 雪景色を見ながらの露天ドラム缶風呂なんて、贅沢の極みですよ」
私も同じくマグカップを受け取り、芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込む。
昨夜、山の麓にあるポポロ山岳警備隊から、通信石で連絡があった。
『猛スピードで滑落しながら、全裸に近い格好でダジャレを叫び続ける不審な二人組』を雪山防護ネットで無事に回収したとのことだ。
重度の凍傷と魔力枯渇で命の危機にあった彼らは、警備隊の暖かいストーブの前で毛布にくるまれ、たっぷりと「雪山を舐めるな」というお説教(と罰金)を受けてから、帝都へ強制送還されたらしい。
非合理な美意識の末路としては、これ以上ないほど平和的でマヌケな結末である。
「おっしゃー! できたで姉御!!」
ゲレンデの端から、フェイトの歓声が上がった。
見ると、彼は徹夜で雪を固め、斜面に巨大な『何か』を作り上げていた。
「どうすかこの力作! 名付けて『スノウ・スロットマシーン』! 上から雪玉を転がして、見事『7』の穴に入れば大当たり……って、痛ぇぇっ!?」
ドガシィィンッ!!
フェイトが自慢げに解説し終えるより早く、空から降ってきたマシロの強烈なウサギ・ドロップキックが、雪のパチンコ台を見事に粉砕した。
「アホかお前は! せっかくの大自然をギャンブルで汚すな! 大人しくソリ遊びでもしとけや!」
「うおおおっ、俺の最高傑作がぁぁっ!! パチンコが打ちたいよぉぉっ!」
雪に埋もれて泣き叫ぶ白銀の剣鬼と、それを容赦なく雪玉で埋め立てる神獣のウサギ。相変わらずの騒がしいコントである。
「♪白銀の〜世界で〜、課金アイテムが〜舞う〜」
さらにその後ろでは、芋ジャージ姿のリーザが雪の切り株をお立ち台にして、誰もいないゲレンデに向かって熱唱を繰り広げている。
「……ふふっ。本当に、愉快で素敵な仲間たちですわね」
スアイさんが、目を細めてその光景を見つめた。
「魔王軍にいた頃は、こんな風に笑い合うことなんて一度もありませんでした。誰もが上の顔色を窺い、凍えながら理不尽に耐えるだけの日々。……でも、貴女の周りは違いますのね。誰もが自分の意志で、心から楽しそうに生きている」
スアイさんはマグカップを置き、改めて私に向き直った。
「コハルさん。わたくし、決めましたわ」
「何をですか?」
「このポポロ山の『DASH村風・DIYキャンプ&スキー場』の共同経営者に、貴女を指名させていただきますの。貴女の【通販】の力と、その完璧な福利厚生の理念。……わたくしたちが手を組めば、この異世界に『究極の合理主義リゾート』を作れますわ!」
スアイさんは、タローマンの作業着のポケットから手を出して、私に差し出した。
「わたくしと共に、機能美とDIYの素晴らしさを広める『タローマン・アンバサダー(ビジネスパートナー)』になっていただけますこと?」
「……はい! もちろんです、スアイさん!」
私は満面の笑みで、元氷魔将軍の美しきガチキャンパーと、固い『現場女子の握手』を交わした。
これで、私の陣営にまた一人、最高に頼もしくて面白い仲間(増員)が加わったのだ。
「――おしゃべりと契約は済んだか、コハル」
背後から、長い毛皮のコートがバサッと私の肩に掛けられた。
振り返らなくてもわかる。この圧倒的な包容力と、極上の紅茶の香りはレオン様だ。
「レオン様。ええ、スアイさんとの業務提携、無事に完了しましたよ」
「そうか。ならば、君の『仕事』はここまでだ」
レオン様は私を背後から抱きすくめ、完全に自分のコートの中に私を収納してしまった。
「バカンスの残りの時間は、全て私に捧げてもらう。君の自律神経とバイタルサインが完璧に整うまで、この腕の中から一歩も出すつもりはない」
「もう、レオン様ったら過保護すぎるんですから……」
私が照れ隠しにレオン様の胸に顔を埋めると、スアイさんが「ごちそうさまですわ」とクスッと笑ってログハウスの方へ歩いていった。
雪山の澄んだ空気の中。
私はレオン様の温かい体温に包まれながら、大自然のバカンスを心の底から満喫していた。
炎上神ワイズの送り込んだ、自称・勇者の先遣隊。
彼らはあっけなく自滅したが、それはつまり、ワイズがこの世界に『本物の勇者(特大の理不尽)』を降臨させる準備を整えているという兆しでもあった。
いずれ、帝都に帰れば、権威すらも超越した『神の加護』を振りかざす、厄介な相手が立ち塞がるかもしれない。
だが、今の私には一切の不安がなかった。
私には、カグヤ様の【善行ポイント通販】があり、現場を支える心強い仲間たちがいる。
そして新たに、理不尽に屈しない元魔将軍のビジネスパートナーも手に入れたのだ。
「さあ、帰ったらまた、みんなで美味しいご飯(タローマン飯)を食べましょうか!」
絶対防寒の雪山で英気を養った平民ナースの『絶対有給休暇』は、次なる理不尽を笑顔で粉砕するため、さらなるパワーアップを果たして幕を閉じるのだった。
(第6章・完)
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