表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/87

EP 10

大団円と、タローマン・アンバサダー

雪山のバカンス、最終日の朝。

雲ひとつない快晴の空の下、ポポロ山のゲレンデは平和そのものだった。

「いやぁ、昨夜はよく眠れましたわ。温泉施設はまだ開拓中ですが、ドラム缶風呂もなかなかオツなものでしょう?」

スアイさんが、タローマン製の保温マグカップに淹れたてのコーヒーを注ぎながら、清々しい笑顔で言った。

「ええ、最高でした! 雪景色を見ながらの露天ドラム缶風呂なんて、贅沢の極みですよ」

私も同じくマグカップを受け取り、芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込む。

昨夜、山の麓にあるポポロ山岳警備隊から、通信石で連絡があった。

『猛スピードで滑落しながら、全裸に近い格好でダジャレを叫び続ける不審な二人組』を雪山防護ネットで無事に回収したとのことだ。

重度の凍傷と魔力枯渇で命の危機にあった彼らは、警備隊の暖かいストーブの前で毛布にくるまれ、たっぷりと「雪山を舐めるな」というお説教(と罰金)を受けてから、帝都へ強制送還されたらしい。

非合理な美意識の末路としては、これ以上ないほど平和的でマヌケな結末である。

「おっしゃー! できたで姉御!!」

ゲレンデの端から、フェイトの歓声が上がった。

見ると、彼は徹夜で雪を固め、斜面に巨大な『何か』を作り上げていた。

「どうすかこの力作! 名付けて『スノウ・スロットマシーン』! 上から雪玉を転がして、見事『7』の穴に入れば大当たり……って、痛ぇぇっ!?」

ドガシィィンッ!!

フェイトが自慢げに解説し終えるより早く、空から降ってきたマシロの強烈なウサギ・ドロップキックが、雪のパチンコ台を見事に粉砕した。

「アホかお前は! せっかくの大自然をギャンブルで汚すな! 大人しくソリ遊びでもしとけや!」

「うおおおっ、俺の最高傑作がぁぁっ!! パチンコが打ちたいよぉぉっ!」

雪に埋もれて泣き叫ぶ白銀の剣鬼と、それを容赦なく雪玉で埋め立てる神獣のウサギ。相変わらずの騒がしいコントである。

「♪白銀の〜世界で〜、課金アイテムが〜舞う〜」

さらにその後ろでは、芋ジャージ姿のリーザが雪の切り株をお立ち台にして、誰もいないゲレンデに向かって熱唱ゲリラライブを繰り広げている。

「……ふふっ。本当に、愉快で素敵な仲間たちですわね」

スアイさんが、目を細めてその光景を見つめた。

「魔王軍にいた頃は、こんな風に笑い合うことなんて一度もありませんでした。誰もが上の顔色を窺い、凍えながら理不尽に耐えるだけの日々。……でも、貴女の周りは違いますのね。誰もが自分の意志で、心から楽しそうに生きている」

スアイさんはマグカップを置き、改めて私に向き直った。

「コハルさん。わたくし、決めましたわ」

「何をですか?」

「このポポロ山の『DASH村風・DIYキャンプ&スキー場』の共同経営者に、貴女を指名させていただきますの。貴女の【通販】の力と、その完璧な福利厚生の理念。……わたくしたちが手を組めば、この異世界に『究極の合理主義リゾート』を作れますわ!」

スアイさんは、タローマンの作業着のポケットから手を出して、私に差し出した。

「わたくしと共に、機能美とDIYの素晴らしさを広める『タローマン・アンバサダー(ビジネスパートナー)』になっていただけますこと?」

「……はい! もちろんです、スアイさん!」

私は満面の笑みで、元氷魔将軍の美しきガチキャンパーと、固い『現場女子の握手』を交わした。

これで、私の陣営にまた一人、最高に頼もしくて面白い仲間(増員)が加わったのだ。

「――おしゃべりと契約は済んだか、コハル」

背後から、長い毛皮のコートがバサッと私の肩に掛けられた。

振り返らなくてもわかる。この圧倒的な包容力と、極上の紅茶の香りはレオン様だ。

「レオン様。ええ、スアイさんとの業務提携、無事に完了しましたよ」

「そうか。ならば、君の『仕事』はここまでだ」

レオン様は私を背後から抱きすくめ、完全に自分のコートの中に私を収納してしまった。

「バカンスの残りの時間は、全て私に捧げてもらう。君の自律神経とバイタルサインが完璧に整うまで、この腕の中から一歩も出すつもりはない」

「もう、レオン様ったら過保護すぎるんですから……」

私が照れ隠しにレオン様の胸に顔を埋めると、スアイさんが「ごちそうさまですわ」とクスッと笑ってログハウスの方へ歩いていった。

雪山の澄んだ空気の中。

私はレオン様の温かい体温に包まれながら、大自然のバカンスを心の底から満喫していた。

炎上神ワイズの送り込んだ、自称・勇者の先遣隊。

彼らはあっけなく自滅したが、それはつまり、ワイズがこの世界に『本物の勇者(特大の理不尽)』を降臨させる準備を整えているという兆しでもあった。

いずれ、帝都に帰れば、権威すらも超越した『神の加護』を振りかざす、厄介な相手が立ち塞がるかもしれない。

だが、今の私には一切の不安がなかった。

私には、カグヤ様の【善行ポイント通販】があり、現場を支える心強い仲間たちがいる。

そして新たに、理不尽に屈しない元魔将軍のビジネスパートナーも手に入れたのだ。

「さあ、帰ったらまた、みんなで美味しいご飯(タローマン飯)を食べましょうか!」

絶対防寒の雪山で英気を養った平民ナースの『絶対有給休暇』は、次なる理不尽を笑顔で粉砕するため、さらなるパワーアップを果たして幕を閉じるのだった。

(第6章・完)

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ