EP 7
かまくらの中の極上ロマンス
「うわぁ……! 中はこんなに広かったのね!」
マシロとフェイトが徹夜(主にフェイトの強制労働)で作り上げた巨大なかまくらの中に入り、私は思わず歓声を上げた。
ただ雪を固めただけの空間ではない。床にはタローマン製の極厚断熱マットが敷き詰められ、中央には煙突付きの小型魔導ストーブが赤々と燃えている。さらに、壁にはランタンが掛けられ、まるで高級な雪中グランピング施設のようだった。
「ふふん、ワテの設計とフェイトの労働力の結晶や! ほらコハル、奥にレオンの旦那とくつろげる『VIP特等席』を作っといたで!」
マシロがウサギ耳を揺らして、かまくらの最奥に設置された、ふかふかの毛皮が敷かれた雪のソファーを指差した。
「姉御……俺はもう、腕が上がらねえっす……おやすみなさい……」
フェイトはストーブのそばで丸くなり、秒でいびきをかき始めた。パチンコに行けないストレスを健全な土木作業で発散し、完全に燃え尽きている。
「フェイトさん、お疲れ様ですわ。……さて、わたくしたちはストーブで暖まりながら、スルメでも炙りましょうか」
スアイさんがタローマン製の七輪を取り出し、リーザとマシロと一緒に手際よく宴会の準備を始める。
完全に現場女子の休憩室のノリだ。
「さあ、コハル。私たちは奥の席へ行こうか」
「はい、レオン様」
レオン様に手を引かれ、私はかまくらの奥にあるVIP席へと腰を下ろした。
周囲の雪壁が音を吸収するのか、かまくらの中は驚くほど静かだ。ストーブの薪がパチパチとはぜる音だけが、心地よく響いている。
「……コハル、寒くはないか?」
レオン様は私の隣にぴったりと寄り添い、大きな毛布を私の肩からすっぽりと掛けた。
さらに、彼自身の長い腕で私を後ろから抱き込むようにして、絶対に冷気を逃さないという完璧な密着体勢をとる。
「大丈夫です。ヒーターベストもありますし、何よりレオン様がくっついてくれているので、むしろ暑いくらいですよ」
私が少し照れながら見上げると、レオン様はふっと表情を和らげた。
「そうか。君のバイタルサインが安定しているなら重畳だ」
私は【通販】で取り寄せた温かいココアを二つのマグカップに注ぎ、一つをレオン様に手渡した。
「それにしても、不思議ですね。外はあんなに吹雪いているのに、ここだけ別の世界みたいに穏やかで」
「そうだな。……私はこれまで、帝国の公爵として、常に血なまぐさい権力闘争と魔物討伐の最前線に立ってきた。静寂など、私の人生には無縁のものだと思っていた」
レオン様はココアを一口飲み、漆黒の瞳で真っ直ぐに私を見つめた。
「だが、君に出会って変わった」
その低く甘い声が、私の耳元をくすぐる。
「君が作る『仕組み』は、周囲を笑顔にし、争いを終わらせる。……帝都の豪華な夜会で皇帝を論破するのも悪くないが。私にとって本当に価値があるのは、こうして君と共に過ごす、なんの変哲もない、ただ温かくて静かな時間だ」
「レオン様……」
「権威も、名誉も、帝国そのものすら、私にとっては君の微笑み一つに劣る。……コハル、改めて約束しよう。君のこの温かい日常(絶対有給休暇)は、私の生涯をかけて必ず守り抜く。だから、君はずっと、私の腕の中でその笑顔を見せ続けてくれ」
それは、ドラマチックな事件の中での誓いではなく。
何気ない休日の、静かな雪室の中で交わされる、最も深く、最も確かな『日常の約束』だった。
「……はいっ。私も、レオン様と一緒に過ごすこの時間が、一番好きです」
私がマグカップを両手で包みながら、満面の笑みで頷くと。
レオン様は愛おしそうに目を細め、私の額に、そして鼻先に、羽のように軽いキスを何度も落とした。
「ああっ……もう、レオン様ったら、くすぐったいです……っ」
「仕方がないだろう。君が可愛すぎるのがいけない。私の自律神経が、君を甘やかすことを最優先に行動しているのだから」
かまくらの中のVIP席は、外の極寒を完全に忘れさせるほどの、極上のイチャイチャと熱気に包まれていた。
――その、甘いロマンスの最中。
『ぎゃああぁぁぁぁっ!?』
かまくらの厚い雪壁の向こう側から、マヌケな男の悲鳴が微かに聞こえてきた。
『な、なんだこのアイスバーンは!? 止まらないぃぃ! ぶるるっ、ああっ、上から雪玉の入った網がぁぁぁっ!』
『助けて勇者様ぁぁっ! ビキニアーマーのお腹が冷えてお腹痛いぃぃっ!』
ドゴォォォンッ!!
ズザザザザーッ!!
スアイさんが仕掛けた『ピタゴラ的DIYトラップ』が、見事に連鎖発動している音だ。
自称・勇者パーティの先遣隊が、雪山で物理法則の暴力に蹂躙されているのが、壁越しでも容易に想像できた。
「……ふふっ」
私は思わず、ココアを吹き出しそうになって肩を揺らした。
「どうした、コハル。外のノイズがうるさいか? やはり私が今すぐあの連中をチリにして……」
「違いますよ、レオン様」
私はレオン様の胸に寄りかかりながら、クスクスと笑い続けた。
「なんていうか……私たち、本当に『安全圏』から高みの見物をしているなぁって思って。スアイさんの罠、完璧に作動しているみたいですね」
「ああ。君の言う通り、自然(現場)を舐めた非合理の末路だな。君の敵ですらない」
レオン様は私の頭を優しく撫でながら、忌々しいノイズ(悲鳴)すらも、私たちの休日を彩るBGMとして処理してくれた。
「さあ、外が静かになるまで、もう少しこのまま温まっていよう」
「はいっ」
絶対防寒の幸せなかまくら空間。
外のゲレンデで、露出狂の美意識を掲げた馬鹿な二人組が完全に雪だるまと化して自滅していることなど、今の私たちにとっては、ただの愉快な『味付け』でしかないのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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