EP 6
絶対防寒とDIYトラップ
「さあみんな、一列に並んで! 寒冷地任務のスペシャル装備を支給するわよ!」
自称・勇者パーティの先遣隊が、寒さに震えながらゲレンデの奥へと消えていった後。
私はエプロンのポケットからスマホを取り出し、【善行ポイント通販】の画面を素早くタップした。
ポンッ!という音と共に、雪の上に大量の黒いベストと、小さな四角い箱が出現する。
「コハルさん、これは? 随分と薄手のチョッキですけれど」
スアイさんが不思議そうにベストを手に取る。
「現代(地球)の叡智の結晶、『電熱ヒーター内蔵ベスト』よ! これをタローマンの作業着の下に着込んで、このボタンを長押ししてみて」
スアイさんが言われた通りに胸元のボタンをポチッと押すと、ベストに内蔵されたカーボンファイバー製のヒーターが瞬時に起動した。
「……っ!! な、なんですのこれ!? 魔石も使っていないのに、背中と首元から、温泉に入っているような爆発的な熱が……っ!」
スアイさんがアイスブルーの瞳を見開いて驚愕する。
「ええ。タローマンの防風ジャケットで冷気を完全に遮断し、その内側でヒーターベストが発熱する。これこそが、吹雪の中でも絶対に体温を落とさない、『絶対防寒レイヤリング』よ!」
「す、素晴らしいですわ……! これさえあれば、魔王軍のクソ親父どもが押し付けてきた極寒行軍も、鼻歌交じりでクリアできましたのに!」
機能美の極致を体感したスアイさんは、感動のあまりベストをスリスリと頬ずりしている。
フェイトやマシロ、リーザたちも次々とヒーターベストを着用し、「うおお! こたつの中にいるみたいや!」「これ着たまま寝れますわ!」と歓声を上げた。
「……コハル」
最後に、レオン様が私の背後からそっと私の肩に極厚のコートを掛け、ご自身の長い腕で私をすっぽりと包み込んだ。
「君のその気遣いは素晴らしいが、君自身が少しでも冷気を感じるなら、やはり今すぐ宮廷魔導師団に命じて、この山の気候を強制的に亜熱帯に変更しよう」
「だから生態系が狂うのでやめてくださいってば! 私はレオン様の体温だけで十分ポカポカですから!」
私が慌ててレオン様の胸板に顔を埋めると、レオン様は満足そうに目を細め、私のつむじに甘いキスを落とした。
(……相変わらず、レオン様の過保護オーラが一番の防寒具ね)
「さて、コハルさん。わたくしたちの完全防寒は整いましたわ」
スアイさんが、タローマンの作業靴で雪をギュッと踏みしめた。
その手には、彼女のトレードマークである『何処までも伸びる鎖の付いた片手斧』が握られている。
「あとは、あの自称・勇者という名の、自然を舐め腐った露出狂どもに、痛快な『お灸』を据えるだけですわね」
「ええ。殺傷能力のある罠はダメだけど、彼らの非合理さを浮き彫りにするような、みっともないトラップをお願いできる?」
「ふふっ、お任せなさい。元氷魔将軍の陣地構築スキル、お見せしますわ」
スアイさんは斧をヒュンッと振り回すと、ゲレンデの斜面に向かって目にも止まらぬ速さで投擲した。
ガキンッ! と、斧が雪の中の立ち木に食い込む。
そこから伸びる無数の『絶対に切れない鎖』を、スアイさんは手品のような手付きで雪の下に編み込み、タローマン製の超弾力バンジーロープと連結させていく。
「斜面の死角に『スリップ誘発アイスバーン』を敷き、その先に『雪玉巻き込みネット』。さらに、彼らの無駄な動き(魔法)に反応して作動する『自動雪崩(小規模)落とし』……」
凄まじいスピードで構築されていく、ピタゴラ装置のような極悪DIYトラップの数々。
その職人芸に、フェイトが「ひぃっ」と震え上がった。
「あ、あの姉ちゃん……怒らせたらレオンの旦那の次にヤバいっすね……」
「ワテも絶対に敵に回したくないタイプやな」
「よし、完成ですわ。あとは、あの馬鹿どもが勝手に滑って自滅するのを待つだけですの」
スアイさんが満足げに鎖を巻き取った。
一方、ゲレンデの頂上付近では。
「ぶ、ぶるるるるっ……! あ、あいつら、絶対に見返してやるわよ……!」
自称・勇者パーティの女性魔法使いは、露出した肌を真っ赤(通り越して紫色)にしながら、ガタガタと激しく震えていた。
極寒の中でビキニアーマーという狂気の服装により、彼女の体力と魔力はすでに限界を迎えつつある。
「そうだぜ! 俺たちの華麗な滑りを見せつけて、あの地味な作業着女どもに、勇者パーティの『圧倒的な美しさ』を思い知らせてやるんだ!」
黄金の鎧の剣士も、強がりながら鼻水を垂らしている。
彼らは炎上神ワイズの加護を信じ切り、自分たちは何をしても最後には「奇跡的」にカッコよく決まると本気で思い込んでいるのだ。
「い、いくわよ! 私の、華麗な、シュプールを……っ!」
女性魔法使いが、凍え切った足でスキー板を滑らせる。
だが、感覚のなくなった足でまともな体重移動などできるはずもない。
「あっ……!」
彼女の板が、スアイさんの仕掛けた『スリップ誘発アイスバーン』に乗り上げた。
全く踏ん張りが効かず、彼女はそのままの姿勢で、ツルッと斜面を滑り落ちていく。
「……ふふっ。かかりましたわね」
ゲレンデの麓。
スアイさんがニヤリと笑う。
「さあ皆さん。あの馬鹿どもの自滅ショー(コメディ)が始まるまで、少し冷たい風を避けましょうか。マシロさん、アレを」
「おう! 任せとき! コハルのために、ワテが徹夜で(フェイトをこき使って)作った特製の待機室や!」
マシロが指差した先。
そこには、大人が十人は余裕で入れるほどの、巨大で立派な『かまくら』が完成していた。
「わあ、すごい! 中にストーブまである!」
私が目を輝かせると、レオン様が私の手を取り、エスコートするようにかまくらの中へと誘った。
「さあ、コハル。外の三流の茶番など放っておいて、君は私の腕の中で、温かいココアでも飲みながら寛いでいなさい」
「はい、レオン様!」
吹雪く雪山に作られた、絶対防寒の密室空間。
外で自称・勇者たちが罠に引っかかり、雪だるま式に自滅への道を転がり落ちていくのをよそに、私たちの極上で甘い休息タイムが始まろうとしていた。




