EP 5
自称・勇者パーティの見下し
ポポロ山でのバカンス二日目。
朝から快晴の雪山は、太陽の光を反射してキラキラと眩しく輝いていた。
「素晴らしいパウダースノーですわ。これなら最高のシュプールが描けますわよ」
「本当ですね! スアイさんが自作した圧雪ローラーのおかげで、ゲレンデのコンディションもバッチリです!」
私とスアイさんは、タローマンの防寒作業着を着込み、手作りのスキー板を抱えてゲレンデの頂上に立っていた。
フェイトとマシロは下のソリ遊びエリアで雪合戦(物理法則を無視した剛速球の投げ合い)をしており、リーザは雪だるまに向かってライブを行っている。レオン様は「君の滑る姿を特等席で記録する」と言って、最新の魔導カメラを構えて待機中だ。
完璧な休日。
さあ、ひと滑りしようとゴーグルを下ろそうとした、その時だった。
「――おいおい、なんだこの古臭い手作りのゲレンデは。せっかく俺たち『勇者の先遣隊』が来てやったってのに、華がねえなぁ!」
静かな雪山に、ひどく場違いでチャラい男の声が響いた。
振り返ると、そこには見知らぬ二人組が立っていた。
一人は、無駄に装飾の多い黄金の鎧を着た、金髪の若い剣士。
そしてもう一人は……。
「ぶるっ、さ、寒いわね……。でも、これも勇者様を輝かせるための試練……!」
ガチガチと歯を鳴らし、唇を真っ青にしながら、寒冷地仕様(と称するただの布切れ)の『ビキニアーマー』を着た女性魔法使いだった。
(……出たわね。異世界ファンタジーにおける、絶対的非合理の象徴)
私はジト目でその女性を見た。
マイナス10度の雪山で、腹と太ももを完全に露出している。ナースの視点から言わせてもらえば、あれはすでに重度の低体温症の初期症状が出ているバイタルサインだ。
さらに、私の目は彼らの背後に揺らめく『薄暗いモヤ』を捉えていた。
炎上神ワイズの加護――他者を蹴落とし、ヤラセで優越感に浸ろうとする三流のオーラだ。
先日ワイズが「偽りの勇者を降臨させる」と息巻いていたが、どうやら彼らはその勇者パーティの『先遣隊』らしい。スケールが小さすぎて逆に驚く。
「おい、そこの地味な女ども!」
チャラい剣士が、私とスアイさんを顎でしゃくった。
「俺たちは、神の加護を受けた勇者パーティの先遣隊だ。このゲレンデは今日から俺たちが接収する。お前らみたいな華のない平民は、とっとと麓に下りな!」
「は? 華がない、ですって?」
スアイさんのアイスブルーの瞳が、スッと細められた。
「ああっ、見なさいよその服。黄色と黒のダボダボな作業着なんて、女を捨てている証拠じゃない。色気が全くないわ!」
ビキニアーマーの女性が、ガタガタ震えながら私を指差して嘲笑した。
「女たるもの、男を立てるために常に美しく、セクシーな鎧を着て戦場に立つべきよ! 私のようにね! ぶるるっ……!」
「アホですか貴女は」
スアイさんが、氷点下の声で即答した。
「美しさと露出狂を履き違えるなと言っているのです。そんな格好で雪山に登るなど、自然を舐め腐ったただの自殺志願者ですわ。……それとも何か? 脳まで凍りついて、合理的な判断ができなくなりましたの?」
「なっ……! 生意気な! 勇者様のパーティである私たちに向かって!」
「俺たちを誰だと思ってる! この最強の剣技で、そのダサい作業着ごと真っ二つにして……」
剣士が黄金の剣に手をかけた、その瞬間。
「――私の至宝と、その友人に刃を向ける気か。ならば、その愚かな命ごと、雪山の塵に変えてやろう」
ドスッ、という重たい殺気と共に、漆黒の軍服を靡かせたレオン様が、音もなく剣士の背後に立っていた。
周囲の雪が、レオン様の放つ怒りの魔力で一瞬にして蒸発し、シューッと白い湯気を上げる。
「ひぃっ!?」
剣士と魔法使いが、カエルが潰されたような悲鳴を上げて腰を抜かした。
「レオン様、ストップです」
私は慌ててレオン様の腕を掴み、殺気を収めさせた。
「あんな小物に、レオン様が手を下すまでもありません。それに……」
私は、限界ブラック病棟で『自称・健康マニアのクレーマー患者』をあしらう時の、あの極めて冷徹なナースの目で、震える二人組を見下ろした。
「大自然(現場)の恐ろしさを舐めている人間は、放っておいても勝手に自滅しますから。彼らの非合理な美意識が、この雪山でどこまで通用するか……見せていただきましょうよ」
「……コハルがそう言うなら、今日のところは命だけは預けておこう」
レオン様が冷たく言い放つと、二人組は逃げるようにゲレンデの中央へと走っていった。
「お、覚えてなさいよ! このゲレンデは私たちが華麗に滑って、勇者様のプロモーションビデオにしてやるんだから! ぶるっ……!」
ビキニアーマーの女性が、強がりながら叫ぶ。
「……ムカつきますわね。わたくしが丹精込めて作ったゲレンデを荒らされるなんて」
スアイさんが、腰の『伸びる鎖付き片手斧』に手をかけ、ギリッと奥歯を鳴らした。
「スアイさん、怒らないで。……彼らは『男を立てるための露出』なんていう時代遅れの思想で私たちを見下した。なら、私たちは『究極の防寒と機能美』で、彼らが自滅するのを特等席で眺めていればいいのよ」
私はエプロンのポケットから【通販】のスマホを取り出し、ニヤリと笑った。
「スアイさん、DIYの腕前、トラップ(罠)作りにも応用できる?」
「……ふふっ。元・魔王軍の氷魔将軍の陣地構築能力、見くびらないでいただきたいですわね。一時間もあれば、このゲレンデに『絶対に回避不可能なピタゴラ的物理トラップ』を仕掛けてみせますわ」
合理主義を愛するガチキャンパーと、限界社畜ナースのタッグ。
炎上神ワイズの加護を受けた自称・勇者(小物)たちに対する、底抜けに痛快で容赦のない『コメディざまぁ』の準備が、今、雪山で密かに始まろうとしていた。




