EP 4
サウナ建設とサ飯の餌付け
「よし、これでサウナストーンの配置は完了ね!」
ポポロ山の中腹、スアイさんが手作りした美しいログハウスの隣。
私はエプロンのポケットからスマホを取り出し、【善行ポイント通販】の力で取り寄せた現代の『フィンランド産・最高級サウナストーン』を、組み上げた魔導ストーブの上に敷き詰めた。
「す、素晴らしいですわコハルさん……! この石、熱を蓄えるのに完璧な密度と耐熱性を持っていますのね! これなら最高のロウリュ(蒸気浴)が楽しめますわ!」
スアイさんが、タローマンの作業着の袖を捲り上げながら目を輝かせている。
合理主義のDIY女子にとって、ハイスペックな建材は何よりのテンションが上がる代物なのだ。
「水風呂の準備もできてるでー!」
マシロが、凍りついた湖の氷をウサギのキックで綺麗に丸くくり抜き、天然の『シングル(水温一桁)水風呂』を完成させて戻ってきた。
「姉御、薪割りも終わりましたぜ……。ハァ、ハァ……パチンコのレバーを叩けない右腕の鬱憤を、全て丸太にぶつけてやりましたよ……」
フェイトが放心状態で斧を構えている。完全に労働を更生プログラムに利用されているが、本人は気づいていない。
「お疲れ様、みんな! それじゃあ早速、女子組で一番風呂をいただきましょうか!」
「……あぁ〜っ、最高ですわ……」
仄暗いログハウスサウナの中。
白樺の枝葉を束ねたアロマ水がサウナストーンに掛けられ、ジュワァァッという心地よい音と共に、熱い蒸気が室内に立ち込める。
スアイさんは、氷魔将軍だった頃の面影など微塵も感じさせない、完全に『とろけた顔』でベンチに横たわっていた。
「氷属性の魔族なのに、サウナは大丈夫なんですか?」
私が尋ねると、スアイさんは顔の汗を拭いながら深く頷いた。
「ええ。自分で『温まるために』熱を浴びるのは、最高のデトックスですわ。魔王軍のクソ親父どもに『氷属性なんだから薄着で雪山を行軍しろ』と強制されるのとは、天と地ほどの差がありますの」
「わかります。自分の意志で選ぶ環境と、上から押し付けられる苦痛は別物ですよね」
「コハルさん……貴女とは本当に、朝まで語り合えそうですわ」
「♪汗を〜流して〜、スパチャを〜稼ぐ〜」
隣では、リーザがサウナハットを被りながら謎のサウナソングを口ずさんでいる。
限界まで体を温めた後、私たちは外へ飛び出し、マシロが作った『氷の湖の天然水風呂』へ。
「ひゃああっ!」と声を上げながら一瞬だけ浸かり、すぐにタローマンの防寒着を羽織って、雪原に設置した『インフィニティチェア(通販で取り寄せた無重力リクライニング椅子)』に深く腰を掛ける。
冷たい雪山の空気と、芯まで温まった体。
血流が全身を巡り、頭の中がフワァァッと真っ白になる感覚。
「……ととのいましたわ……」
スアイさんが、天を仰いで恍惚の表情を浮かべた。
「コハル。湯冷めする前に、これを」
私がインフィニティチェアでフワフワしていると、背後からスッと、最高級のふかふかなバスタオルが私の体を包み込んだ。
レオン様である。
「レオン様……ありがとうございます。でも、男子禁制の結界の外で待っててくれたんじゃないんですか?」
「私の至宝が極寒の雪山で水風呂に入るという、心臓が止まりそうな蛮行を放置できるわけがないだろう。……だが、君がこれほど幸せそうな顔をしているなら、今日だけは許容しよう」
レオン様は私の濡れた髪をタオルで優しく拭きながら、その大きな手で私の冷えた頬をそっと包み込んだ。
彼の体温と、極上の過保護な眼差し。
サウナの熱とは違う、甘くてドキドキするような熱が、私の胸の奥をジンと温めていく。
「……ごちそうさまですわ。本当に、素晴らしいお相手ですのね」
スアイさんがクスッと笑う。私は顔を真っ赤にして、「さ、さあ! サウナの後はご飯ですよ!」と立ち上がった。
サウナ後の食事。それはサウナーにとって『サ飯』と呼ばれる神聖な儀式である。
私はログハウスのキッチンを借り、【通販】のポイントを惜しげもなく使って、とびきりのスタミナ飯を錬成した。
「お待ちどおさま! まずはサウナ後の定番ドリンク、『オロポ(オロナ・マジックCとポーション・スウェットの黄金比ブレンド)』よ!」
黄金色の炭酸飲料が入ったジョッキをドンッと置く。
スアイさんがゴクリと一口飲むと、その瞳が見開かれた。
「な、なんですのこの神々の霊薬は……!? 失われた水分とビタミン、そしてミネラルが、乾いた細胞の隅々にまで爆発的な勢いで染み渡っていきますわ……っ!」
「ギャハハ、スアイの姉ちゃん、いい飲みっぷりやな! そしてメインはこれやで!」
マシロが、湯気を立てる大皿をテーブルの中央に運んできた。
「タローマン併設食堂の看板メニュー再現! 『特盛・豚の生姜焼き定食(キャベツの山盛り付き)』と、『炊きたて銀シャリ(一升)』よ!」
ジュージューと音を立てる分厚い豚肉に、特製の甘辛い生姜ダレがたっぷりと絡んでいる。
現代のガテン系職人たちの胃袋を支え続ける、最強のスタミナ飯だ。
「いただきますわ……!」
スアイさんは上品に手を合わせると、豚の生姜焼きを一切れ口に運んだ。
その瞬間。
「…………っ!!」
スアイさんのアイスブルーの瞳から、滝のように涙が溢れ出した。
「スアイさん!?」
「あぁ……っ、美味しい……! 豚肉の脂の甘みと、生姜の鮮烈な香り、そしてこの濃厚なタレを、ふっくらとした白いお米が優しく包み込んで……っ!」
スアイさんは、涙を流しながら猛然と白米を掻き込み始めた。
「魔王軍時代は……来る日も来る日も、凍りついたカチカチの干し肉と、冷たい雪解け水しか口にさせてもらえませんでしたわ……! 『氷魔将軍なんだから温かい食事など贅沢だ』と……!」
「なんてひどいブラック職場……!」
「こんな……こんな温かくて、美味しくて、優しさに満ちたご飯が食べられるなんて……。コハルさん、わたくし、魔王軍を辞めて本当に良かったですわぁぁっ!!」
スアイさんは大泣きしながら、特盛の生姜焼き定食をペロリと平らげ、オロポを飲み干した。
「おかわり、まだまだありますからね」
私が微笑んで新しいご飯をよそってあげると、スアイさんは私の手をガシッと握りしめた。
「コハルさん……! もしよければ、このポポロ山の開拓事業、貴女の『絶対有給休暇』の提携リゾート(ビジネスパートナー)として、一緒に運営していただけませんこと!? わたくし、貴女のその完璧な福利厚生と合理主義に、一生ついていきたいですわ!」
「ええ、もちろんよ! タローマンの作業着仲間だもの!」
こうして、私たちの賑やかな陣営に、最強のDIYバカンス空間を作り上げる『元氷魔将軍のガチキャンパー』が、胃袋を完全に掌握される形で正式加入(増員)を果たしたのだった。
「姉御ー! 俺の分の生姜焼きは!?」
「フェイトは薪割りのノルマがまだ残ってるでしょ。終わるまでおあずけよ」
「鬼ぃぃぃっ!!」
ポポロ山の夜は、美味しいご飯の匂いと、仲間たちの温かい笑い声に包まれて更けていく。
しかし、この完璧なバカンスの平和を乱そうとする『非合理な足音』が、すぐそこまで迫っていることを、私たちはまだ知らなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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