EP 2
異世界ホムセン『タローマン』と作業着の美女
帝都の郊外。
私たちが乗った公爵家の馬車は、巨大な黄色と黒の看板がそびえ立つ、広大な平屋の建造物の前で停まった。
『♪タロ〜マン、タロ〜マン〜。武器も防具も、愛と木材も〜。あなたの街の、タロ〜マン〜』
どこか気の抜けた、しかし一度聞いたら耳から離れない絶妙なテーマソングが、魔導スピーカーから大音量で流れている。
一般の冒険者向けから、ガテン系の職人向けまで、幅広い武器防具と衣服、そしてありとあらゆる日用品を取り揃える、異世界最大のホームセンター『タローマン』である。
「うおおおっ! すげえ、見たことない魔導コンロや、巨大なBBQ網が山ほどあるで!」
マシロがウサギ耳をピンと立てて、アウトドアコーナーへ猛ダッシュしていく。
「おっ!? 姉御、あっちのコーナーに『魔石で回る! 携帯用スロットマシーン』が……」
「雪山にパチンコ台を持ち込むな!! 今日は防寒具を買いに来たの!」
私は、フラフラと娯楽コーナーへ吸い込まれそうになるフェイトの首根っこを掴み、衣料品コーナーへと軌道修正した。
「コハル。君の美しい肌を包む服だ、値段など気にする必要はない。この店で一番高価な、火竜の毛皮のコートを百着ほど買い占めよう」
「レオン様、そんな重たくて派手なコート、雪山で動けなくなっちゃいますから! 私が探しているのは、もっと『実用的』なものです」
私は過保護な公爵様を宥めながら、タローマンの奥地――『プロ職人(ガテン系)専用・防寒作業着コーナー』へと足を踏み入れた。
前世の限界ナース時代、冬の夜勤の行き帰りで私を救ってくれたのは、高級ブランドのコートではなく、現場の職人たちが愛用する『安くて、軽くて、絶対に風を通さない作業着(プロ仕様)』だった。
「あったわ! これよこれ。タローマン独自の『超撥水・極暖ストレッチジャケット』。それに、汗を熱に変える高機能インナー!」
私が目を輝かせて黄色い作業着を手に取った、その時だった。
「……おや。そのインナーの『吸湿発熱性』と『機動性』の価値がわかるとは。お嬢さん、なかなか見どころがありますわね」
ふと、隣から透き通るような、それでいて芯のある凛とした声が聞こえた。
振り返ると、そこにいたのは『息を呑むほどの超絶美女』だった。
透き通るような白い肌に、氷のように美しいアイスブルーの長い髪。顔立ちは17歳くらいの可憐な少女のようだが、全身から漂うオーラは、修羅場をくぐり抜けてきた大人の女性のそれである。
しかし、何より目を引いたのは、その『服装』だった。
彼女は、そんな神秘的な美貌を持ちながら、私が手に持っているのと同じ『タローマンのガテン系作業着(カーキ色・極厚防寒仕様)』を、信じられないほどスタイリッシュに着こなしていたのだ。
足元には頑丈な安全靴。腰には、大工道具と一緒に、何処までも伸びそうな『鎖の付いた片手斧』がカチャカチャと揺れている。
「あ、ありがとうございます……。雪山に行くなら、見栄えよりも機能性が一番だと思いまして」
私が少し緊張しながら答えると、その美女は「ふふっ」と美しく微笑んだ。
「全くその通りですわ。……世の中には、氷点下の雪山に行くというのに『女は露出の多いセクシーな鎧を着るべきだ』などと抜かす、頭の湧いた男ども(上層部)が多すぎますのよ」
美女は、タローマンの棚に並んでいた『女性用ビキニアーマー(※寒冷地仕様と書かれているがただの布切れ)』を冷ややかな目で見下ろした。
「意味のないエロスと、機能美としての色気は全くの別物です。寒い場所で腹を出すなど、ただのセクハラであり、防寒対策を怠る生存戦略の放棄。……あぁ、思い出しただけでも、世俗の非合理さが鬱陶しいですわ」
その言葉を聞いて。
私の限界ブラック病棟で培われた『合理主義魂』が、激しく共鳴を起こした。
「わ、わかります!!」
私は思わず、美女の手をガシッと握りしめていた。
「寒い時に薄着をさせられるなんて、体力を無駄に消耗するだけですよね! 現場の苦労を知らない上の人間は、すぐに見栄え(露出)ばかり重視して、実際に働く私たちの健康を全く考えてくれないんです!」
「おぉ……! あなた、若いのに現場の『真理』を完全に理解していますわね!」
美女の瞳が、パァァッと輝いた。
「わたくし、以前勤めていた職場(魔王軍)で、氷の魔法を使うからという理由だけで、吹雪の中でビキニアーマーを着せられそうになりましてね。『こんなブラック企業、やってられませんわ』と、退職届を叩きつけてきたところですのよ!」
「素晴らしい決断です! 自分の身(健康)を守れない職場なんて、さっさと辞めるのが正解です!」
「ギャハハ! コハル、なんかめっちゃ意気投合しとるやん!」
マシロがBBQ用の炭を抱えながら笑っている。
その後ろで、レオン様が「私の至宝に気安く触れるとは」と微かに殺気を漏らしていたが、今の私とこの美女の間には、謎の『現場女子(合理主義)の熱い絆』が生まれていた。
「わたくしは、スアイ。しがないフリーランスの、開拓キャンパーですわ」
「私はコハルです。スアイさん、その腰の鎖と斧も、タローマンで?」
「ええ。わたくしの愛用品ですの。……さて、今日はこれから山の開拓に戻らないといけませんから、この辺で失礼しますわ。コハルさん、雪山は冷えますから、そのインナーを二枚重ねにしていくと良いですわよ」
スアイさんはそう言うと、レジへ向かい、店員も引くほどの『大量の極太チェーン(鎖)』と『建築用木材』を軽々と荷車に乗せて、颯爽と店を出ていった。
「……かっこいい。あんな風に、自分の信念と合理性で生きている大人の女性って、素敵ね」
私が感嘆の溜息を漏らすと、フェイトが信じられないものを見るような目で私を見た。
「姉御……あの姉ちゃん、顔は超絶美人でしたけど、着てたの完全に『土方のおっさん』の服でしたぜ? 何が悲しくて、あんな色気のない……」
「フェイト?」
私が氷点下の笑顔で振り返ると、フェイトは「ヒッ」と短く悲鳴を上げて口を閉ざした。
「機能美を理解できないポンコツは、雪山に着いたらそのミスリルアーマーを没収して、タローマンの薄手のジャージ一枚で外に放り出すわよ」
「す、すんやせんしたぁぁっ! 俺も極厚インナー買います!」
私たちはタローマンで最強の防寒着(ガテン系作業着)を大量に買い込み、ポポロ山へと向かう馬車に乗り込んだ。
この時、私たちはまだ知らなかった。
先ほど出会ったばかりの『スアイ』という美しき合理主義の元魔将軍と、雪山で最高のDIYバカンスを共にすることになるということを。
読んでいただきありがとうございます。
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