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EP 7

『地域を潤す』善行システム

マリアベル第一王女が『王家直轄』と称して私のアラートシステムや健康ポイ活を強奪してから、わずか数日。

帝都の平民街と冒険者ギルドは、悲惨な状況に陥っていた。

「……また赤いランプが点いてる。でも昨日も赤だったのに、森は快晴で魔物なんて一匹も出なかったぞ」

「かと思えば、青ランプの日にスタンピードが起きるし……。俺のパーティ、あやうく全滅するところだった」

ギルドに掲げられた『王家アラート掲示板』は、完全に機能不全を起こしていた。

当然である。私が毎日若手冒険者から集めていた『生きた現場の情報』と『気象センサーのデータ統合』という泥臭い分析作業を、王女や近衛騎士たちがやるはずがないのだ。「適当に赤か青に光らせておけ」というずさんな運用により、アラートはただのデタラメな電飾と化していた。

その上、使えないシステムを名目に『安全税』や『健康税』が容赦なく取り立てられ、払えない者は帝都の下層区へと追いやられていく。

「お腹すいたよぉ……」

「ごめんね、王女様の税金を払ったら、今日のご飯を買うお金がなくなっちゃったの……」

平民街の路地裏には、重税でその日のパンすら買えなくなった家族が身を寄せ合い、絶望の表情を浮かべていた。

魔法院の施しなどあるはずもなく、彼らはただ飢えと寒さに耐えるしかない。権力者による典型的な搾取の末路だった。

「――お待たせしました! 皆さん、こちらへ並んでください!」

絶望に沈む平民街の中心広場に、私の声が響き渡った。

「な、なんだ……?」

力なく顔を上げた平民たちの目に飛び込んできたのは、広場に突如として出現した、巨大な白い医療用テントと、煌びやかな黄色と黒のストライプの馬車――いや、現代日本の『キッチンカー(移動販売車)』だった。

その看板には、見慣れた文字がデカデカと輝いている。

『ルナミス・キッチン(ルナキン) 平民街・特別無料炊き出し出張所』。

「今日からここで、温かい食事と栄養補給の配給を行います! 税金で苦しんでいる方、怪我をしている方は、遠慮なく来てください!」

私はナース服の袖を捲り上げ、拡声器で呼びかけた。

これこそが、【善行通販】の力。

カグヤ様から与えられた莫大なポイントをフルに注ぎ込み、ルナキンやタローソンといった異世界チェーンと『現代の災害用・大量炊き出しシステム』を連携召喚した、強固な救済インフラである。

「め、無料の炊き出し……? 本当にいいのか?」

「でも、王女様の騎士に見つかったら……」

おずおずと近づいてくる平民たち。

その不安を払拭するように、頼もしい声が広場に響いた。

「安心しな! 俺たちがキッチリ護衛してやるからよ!」

ガシャガシャとミスリルの鎧を鳴らし、フェイトが大剣を肩に担いで広場の入り口に仁王立ちする。

「さあさあ、列はこちらですわよ! 順番に、落ち着いて並んでくださいませ!」

「おらっ! 割り込みする奴はワテのドロップキックの餌食やで!」

芋ジャージ姿のリーザが手際よく列の整理を行い、マシロが巨大な寸胴鍋を軽々と運んでくる。ポンコツだがこういう時のチームワークと手際の良さは、さすがの現場組(私の親衛隊)である。

「はい、お待たせ! ルナキン特製・超栄養満点の豚汁と、おにぎりのセットよ! それからこっちは、子供用のビタミン入りゼリー飲料ね!」

私が手際よく配給を行うと、受け取った平民たちは、温かい湯気と出汁の香りにポロポロと涙をこぼした。

「うっ……美味しい……! 身体の芯から温まる……っ!」

「コハル様……ありがとうございます、ありがとうございます……っ!」

広場は瞬く間に大勢の平民たちで溢れかえった。

私のナースとしての経験(トリアージ能力)が極限まで発揮される。重症の栄養失調者には点滴セットを、怪我をした冒険者には医療テントで最新の抗生物質と湿布を。

誰も見捨てない、誰も取り残さない。これが私の『地域を潤すインフラ』だ。

「コハル様! 私たちにも、お手伝いさせてください!」

その時、広場の端から声をかけてきた集団がいた。

見ると、そこには先日のお茶会で王女に足蹴にされていたメイドのアンナと、見覚えのある数人の下働きの女性たち、さらには王城の近衛騎士の制服を脱ぎ捨てた屈強な男たちの姿があった。

「アンナちゃん! どうしたの、その荷物は」

「王女殿下の理不尽な暴力と、平民を見下す態度に……私たち、もう耐えられなくて。王城を辞めてきました」

アンナが真っ直ぐな目で私を見つめた。

「あの時、コハル様が私に掛けてくださった優しい言葉と、お薬の温かさが忘れられません。……コハル様は、私たち平民の痛みをわかってくださる。どうか、ここで一緒に働かせてください!」

「俺たち平民出身の騎士も同じです! 何が『安全税』だ。あんな搾取システムに加担するくらいなら、コハル様の盾になります!」

彼らの言葉に、私は胸が熱くなった。

王女が自分の権力を誇示するために『ゴミ』として切り捨てた手足(現場の労働力)が、自らの意志で全てこちら側(私)に寝返ってきたのだ。

「ええ、もちろんよ。大歓迎! それじゃあアンナちゃんたちは配膳を、騎士の人たちはフェイトと一緒に警備と荷運びをお願い!」

「はいっ!」

アンナたち現場のプロフェッショナルが加わったことで、炊き出しの回転率は劇的に向上した。

さらに、リーザがみかん箱の上に乗って『元気が出る慰問ライブ』を始めると、平民街の広場は、重税の絶望を完全に吹き飛ばす、温かくて活気ある「お祭り」のような空間へと変貌を遂げたのである。

――その頃、天界の白亜の神殿。

『見・て・く・だ・さ・い・ま・せぇぇぇっ!!』

月の女神カグヤが、大歓喜の悲鳴を上げながらゴッドチューブの画面にへばりついていた。

『#コハル様の炊き出し』『#真の聖女はナース服』『#王城を捨てて集う現場組』。

そんな熱いタグと共に、コハルのPV(視聴回数)と『いいね』の数が、天元突破の勢いでカウンターを破壊する勢いで回っている。

「す、すげえっす女神様! まさかの【インフラと福祉】で、感動の涙を誘う超大作ドキュメンタリーになってます!」

使い魔のウサギがポップコーンを撒き散らしながら熱狂する。

『ええ! 派手な魔法で敵を倒すだけがざまぁではありません! こうして、敵が自ら見捨てた者たちを救い上げ、確固たる民衆の支持(人望)を築き上げる……! これこそが、権威という虚像を内側から崩壊させる、最高に後味の良い逆転劇の伏線ですわ!』

カグヤの元へは、天界から溢れんばかりの『予算(神力)』が降り注ぐ。

一方、反対側の薄暗い空間では。

炎上神ワイズが、自身のチャンネルの数字が地に落ちていくのを見て、ギリィッと奥歯を噛み砕かんばかりに悔しがっていた。

「ば、馬鹿な……! なぜだ! 権力と重税で縛り付けたはずの愚民どもが、あの小娘の炊き出し一つで……いや、王城の手足までが奴の元へ集っているだと!?」

ワイズの加護は、「他者を蹴落とし、不幸にして優越感を得る」という三流のヤラセにしか作用しない。

だからこそ、コハルが行う『損得勘定抜きの絶対的な善行』と、それによって結びついた『現場の絆』を、ワイズは根本的に理解できなかったのだ。

「おのれ……! このままではマリアベルの権威が内側から崩壊してしまう! ええい、こうなれば力技だ! 王家主催の大夜会で、公爵にマリアベルを選ばせ、あの小娘を完全に孤立させてやる!」

焦燥に駆られたワイズが、さらなる悪意を王城へ送り込む。

だが、帝都の平民街ではすでに、「マリアベル王女は偽物だ。コハル様こそが、俺たちを救ってくれる真の聖女様だ」という噂が、圧倒的な熱量を持って帝都全体に広がりきっていた。

私が手を出さずとも。

王女が自らの特権意識で積み上げた砂上の楼閣は、最も強固な基盤である『民衆の支持』を完全に失い、音を立てて崩れ落ちる準備を終えていたのである。

読んでいただきありがとうございます。

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