18.病院で勤務医に告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 転生者。アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。
2.進藤君也 転生者。三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。
3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。千枝美琴と付き合っている。
4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。
5.仁平茂樹 転生者。株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。
6&12.富永悠一 転生者。ファストフード店元アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。夜道であやめを襲うも失敗。日本政府によりあやめ達から遠ざけられる。
7.島畑和毅 転生者。塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。
8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。
9.清水良治 転生者。病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。
10.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。
11.内藤洋二郎 転生者。雑誌編集者 原宿であやめ達に声をかけたが失敗。
13.海道信哉 警視庁SP 監禁中のあやめを救おうとして失敗。重傷を負う。一時的に『黄金の乙女』の力を発動出来る様になる。
14.氏名不詳 某国大統領 あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。
15.渡辺慎之介 転生者。旅行代理店勤務 旅先のホテルであやめに恩を売ろうとするが失敗。
16.常盤隆人 転生者。書店員。あやめに告白するが失敗。この世界での安住を望んでいる。
17.小田原雅和 外務省事務次官。あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。
小笠原が退去した後、私はしばらく考えた。
あの時、警視庁幹部にはっきりと啖呵を切った。そして、『黄金の乙女』の力を行使することを宣言してしまった。だから、私は警察組織と対立する立場にいる訳だ。だけど、私はいつでも警察に復讐出来る訳ではない。それなりの環境が必要で、そんな時に警察への報復を思い出せるかどうかはわからない。
しかし、警察は違う。いつでも私を殺せる立場にいる。しかし、この一週間は平穏無事だ。私が死ぬことでの不利益は何だろう。考えられるのは、まず大統領の不興を買うこと。これは日本の国益を考えても、いい判断とは思えない。大統領が退任したら、遠慮なく私を殺すのか?これも検討はしなくてはならないが、まだ時間はある。他の懸念点を考えると、次の『黄金の乙女』に対する恐怖があるのではないか、と思う。私が死んで、次の『黄金の乙女』が色々とやばい人物であった場合にどうするのか?私の様な善良な常識人であるのは奇蹟の様なものだろう。だから国益に反しない限り泳がせておく、という態度なのか。まずは警察の真意を知りたいのだが、残念なことに伝手がない。仕方が無い。この件は放っておくか、怖いけど。
同時に考えるのは、私の身の回りで私の動きをマークしているグループのことだ。構成員は星野翔真、進藤君也、齋藤想意、安河内ひまりの四人。気になるのは同級生の二人が、大人二人の考え方に引っ張られないか、ということである。やすこには最近機会があったので注意はしておいた。これで盲目的に大人組の言うことを信じるのでは無く、自分で色々考えてくれるだろう。問題は齋藤君だな。彼女の言うことと、自分が信じている大人の言うことのどちらを信じるだろうか?例えば、ショーマと進藤先生が「九条あやめを殺すことが正義だ」と言い出した時、安易に賛成しないだろうか?齋藤君にはやすこと同じく真実をより高い強度で話すべきなのか、それとも遠ざけるか、どちらがいいのだろうか?少なくとも二人が巻き込まれることだけは避けないと・・・。
月曜日になり、私は午前中は学校の図書室で勉強し、お昼をドラッグストアで買ったお弁当で済まし、やすこの家へと自転車で向かった。
真夏の昼過ぎに自転車での移動なので、やすこの家に着くなりシャワーを借りた。部屋着とか着替えの下着とかタオルは持参したものだ。
やすこの部屋に戻り、出されたジュースを一気に飲み干すと、午前の勉強を再開する。
休憩時間となり、私は二人に昨日のデートの進捗を尋ねた。
「やすこ、昨日のデートはどうだったの?」
「あの・・・その件なんだけど、進展はあったのよ。・・・ただ・・・」
「ただ?どうしたの?」
「ちょっと想定より進み過ぎた、というか・・・」
「もう、はっきり言いなさいよ」
「映画を観て、ちえみと見城君とも別れて、二人っきりになったのよ。で、公園のベンチに座って話をしていたら、その時に何となくそんな雰囲気になっちゃって、チューしちゃったのよ」
「ふうん、ファーストキスしちゃったんだ」
「うん。・・・その時に、想意君の手が私の胸に・・・」
「ちょっと公園で何やってるのよ!まさか直接・・・」
「流石にそれは・・・。勿論、服の上からだったけど。思わず、想意君を払いのけたのよ。そうしたら、『ごめん』って言って帰っちゃったのよ。あや、どうすればいいと思う?」
そんなことを私に聞いても仕方無いだろ、とは思うものの、他ならぬ親友の質問だけに無い知恵を絞って答えようと思った。
「やすこは齋藤君との交際を続けたいんでしょ。だったら、気にしないで話しかけるしかないんじゃない。それで、キスから先ははっきり断るべきじゃないの、やすこがまだその気が無いんだったら」
「断ったりして嫌われないか、心配で・・・」
「それは気にしたって始まらないんじゃない。齋藤君の気持ちなんて多分齋藤君自身でさえわからないと思うから、やすこがあれこれ考えたって仕方無いよ。もしやすこが断ったせいで齋藤君が離れるんだったら、齋藤君はやすこが好きなんじゃなくて、女の子の身体に興味があっただけなんだから、さっさと別れて、新しい恋を探すべきよ。・・・大丈夫、齋藤君は自制心があると思うから、やすこに嫌われることなんてしないよ」
「私もそう思うんだけど、不安で・・・」
「折角毎日会おうと思えば会える環境なんだからさ、二人で話し合って、二人で喧嘩して、二人で決めて行けばいいじゃん。齋藤君だって、何でも言う事を聞いてくれるお人形さんが欲しい訳じゃないでしょ。どんどん言いたいことを言えばいいのよ」
「・・・わかった。頑張ってみる」
「やすこ、頑張んなさい。・・・それでちえみの方はどうだったの?」
「・・・何も無かった。映画観て、御飯食べて、それで終わった・・・。私ってアピ足りないのかなあ・・・」
「そんなことはないと思うけど。まあ。あなたはあなたなりのペースの進めたらいいんじゃない。やすこのペースが、ちえみにとっての正解じゃないからね」
「でも・・・」
この件については、ここで話は打ち切りとなった。
私もやすこも、ちえみに灯っている青い炎に気付いていなかった。
その夜、病院から帰ってきた母さんに話しかけた。
「明後日、年一の検診で病院に行くよ」
「あやめ、ごめんだけど、一人で行ってちょうだい。ちょっと、休み取れないのよ」
「うん、大丈夫、一人で行けるよ」
「それから、ついでにお父さんに会ってきて。お盆前だから、まだあそこにいるでしょ。お父さんによろしく言っといて」
「うん、わかった・・・」
定期検診の日、私はいつもより早く家を出て、駅に向かった。
駅に併設されているバス乗り場から、市民病院行きのバスに乗る。
バスに乗り、市内各所を回りながら約三十分かけて、郊外にある市民病院に到着した。
ここで、診察券カードを機械に挿入して、プリントアウトされた受診票を持って泌尿器科へ向かう。
そこで受付され、採血、検尿、レントゲン検査をすることを指示される。
採血と検尿をとっとと終わらせて、レントゲン科に行く。
レントゲン科の受付でもらったNo.に従って撮影室に入る。
更衣室で金属類を外し、荷物等を纏めて、上下の服だけで撮影台に仰向けの姿勢で寝る。
腰に掛けられたタオルケットの下でズボンを膝まで下げる。タオルケットを取られるとパンツ丸出しの恰好だ。
レントゲン技師から容赦の無い要求がされる。
「下着を少しだけ下げてもらえますか?」
「はい・・・」
タオルケットの下でもぞもぞと手を動かして、レントゲン技師の要求に応える。恥ずかしいけど、仕方が無い。きちんとした写真が撮られなければ、どんな診断をされるかわからない。
レントゲンを撮り終えると、私はパンツとズボンを引き上げてから、更衣室に向かった。
泌尿器科の受付に戻り、3つの検査を終えた事を告げると、次はエコー検査で部屋の前に待機させられる。
順番が来て、部屋に入ると、昇降式ベッドに仰向けに寝る。シャツをめくられ、ズボンをちょっと下げる。看護師さんに背中にジェルを塗りたくられて、エコー検査が実施される。ジェルの上に何か機材をくっつけて腎臓の様子を見ているのだろうが、モニターに何が写っているのかベッドの上からではわからないし、見たところでどう理解すればいいのかわからない。ここまで私はなすがままであった。
検査が終わり、ベッドが降下して、看護師さんがジェルを拭き取ってくれる。私はちょっと身なりを整えてエコー検査室を退去し、診察室の前に待機する。
順番が来て、診察してに入る。
「一年ぶりですね、九条さん」
「はい」
私の前にいるのは、昨年から私の担当となっている戸川先生だ。実際に執刀した戸川先生の息子さん。父親である戸川先生の定年退職に伴い、息子先生に引き継がれた訳である。市民病院での親子の引継ぎは珍しい事だが、私にどうこう言う筋合いの話でもない。
戸川先生の他に二人の看護師がいる診察室で、先生が検査結果について所見を話してくれる。
「昨年より著しく低下している数値はありません」
やれやれ。後遺症的なものはないんだ、父さん、ありがとう。
「ですが、ここにちょっと気になる影がありまして・・・」と戸川先生がレントゲン写真のところを指差した。
「え、どこですか?」
私はレントゲン写真の方向に前かがみになった。
突然、両肩を抱かれて、耳元で言われた。
「九条さん、結婚を前提に僕と付き合いませんか?」
周囲の気配を窺う。いつの間にか二人の看護師は部屋にいなかった。戸川先生が用事を与えて、室外に出していたのだろう。
「いやです。・・・大声を出しますよ」
「どうして拒むんだい?君も医学部志望なんだろう。僕だったら、大学受験レベルの勉強なら教えてあげられるし、三代医師の家系だからこの辺りの病院にもコネがある。まさか開業医を目指している訳でもないだろ」
「恋愛はメリットやデメリットで考えたくありません。逆に、先生はどうしてあたしなんかと付き合おうと思うんです。年齢も離れているし、私が先生に提供できるものは何もありませんよ」
「そんなことはない。僕は君だからこそ付き合いたいんだ」
「私が『黄金の乙女』だから?」
先生から何の答えも無かったので、私は説得を試みる。
「どうしてこんな持っている人ばかり、『黄金の乙女』を欲しがるんだろ。・・・きっと付き合い始めたら、あなたはこう言うわ。『こんな筈じゃなかった』ってね。この伝説について熟知しているとは思うけど、念のため忠告してあげるわ。私を狙っている男はあなた一人じゃない。他の男の立場に立てば、私と付き合い始めたあなたは邪魔者になる。中にはあなたを殺そうとする者も現れるでしょう。それにいくらあなたが私のことを好きになったとしても、私があなたのことを好きにならないと何も得られないのよ。そんなリスクを背負ってまでチャレンジすることなの?」
先生は無言のままだった。迷っているのだろう。私は妥協案を提示することにした。
「これまで通り、私は患者で、あなたはお医者さんでいいんじゃないの。もし私が病気になって、あなたが献身的に治療してくれたら、私はあなたに好意を抱くかもしれないわよ」
「そうですね。あなたの好意を得る為にどうすべきか、それを第一に考えるべきですね。今日のところはそれで我慢しましょう。・・・もし、あなたが誰かと付き合い始めたら、当然僕も妨害する側に回りますよ。覚悟して下さいね」
「わかりました。受けて立ちますよ。・・・それじゃあ、取り敢えず来年の検診日を決めましょうか?」
「・・・そうですね」
泌尿器科を後にして、私はトイレに駆け込んだ。
恐怖で胃が痙攣する様な感覚、涙を流しながら、吐けるもの全てを吐き出してから、身支度を整える。
精算した後、私は市民病院を後にした。
次の目的地は、市民病院から歩いてすぐのところにある市営墓地だ。約4ヶ月ぶりに、父さんの眠る場所へ来た。持参したのは新聞紙、タオル、線香、蝋燭、チャッカマン、ゴミ袋等。
入口で生花を買い、父さんに会いに行く。
父さんの墓地に着くと私は台に荷物を置くと、敷地内の雑草を抜くところから始める。
次にタオルで墓石を拭く。この為に、いつもおニューのタオルをおろしている。少なくとも、頬ずり出来るくらいまでは、丁寧に墓石の汚れを取る。
誰が来てもいい様に灯篭の中の蝋燭を新しいものに交換する。
生花を飾り、線香を立てる。
墓前にそっと缶ビールを置いて、私は父さんに話しかける。
「ごめんなさい、父さん、日本酒じゃなくて。私も母さんも日本酒は苦手だから、ビールで我慢してね。今日、病院に検査に行って来たよ。父さんからもらった腎臓は、何の問題も無く働いているよ。ありがとう、父さん。・・・高校に入って、色々大変なこともあるけど、楽しくやってるよ。母さんには言ってないけど、初恋も経験したし、キスもしたんだよ。安心してね、私は父さんの娘として恥ずかしくない大人になるから。それから、医学部に入って、お医者さんになることに決めたから。しばらく、父さんに会いに来るペースは落ちるかもしれない。だから父さん、お盆にはちゃんと家に帰って来てね。・・・あ、そうだ母さんがよろしくって言ってたよ。母さんは相変わらず忙しくしてるよ、私が『医学部に行く』って言ってからは特にね。母さんはこの間、再婚しようとしたけど失敗したから、慰めてあげてね。・・・ねえ父さん、いつになったら、ちゃんと会えるかなあ。もう一度会いたいよお・・・」
ひとしきり泣いた後、私は生花や線香を片付けて、帰ることにした。
一旦家に戻って、ちえみの家で勉強するとしよう。




