17.自宅で公務員に告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 転生者。アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。
2.進藤君也 転生者。三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。
3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。千枝美琴と付き合っている。
4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。
5.仁平茂樹 転生者。株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。
6&12.富永悠一 転生者。ファストフード店元アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。夜道であやめを襲うも失敗。日本政府によりあやめ達から遠ざけられる。
7.島畑和毅 転生者。塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。
8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。
9.清水良治 転生者。病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。
10.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。
11.内藤洋二郎 転生者。雑誌編集者 原宿であやめ達に声をかけたが失敗。
13.海道信哉 警視庁SP 監禁中のあやめを救おうとして失敗。重傷を負う。一時的に『黄金の乙女』の力を発動出来る様になる。
14.氏名不詳 某国大統領 あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。
15.渡辺慎之介 転生者。旅行代理店勤務 旅先のホテルであやめに恩を売ろうとするが失敗。
16.常盤隆人 転生者。書店員。あやめに告白するが失敗。この世界での安住を望んでいる。
「全く、今日は散々な目に会ったわ」
私はやって来たやすことちえみに言った。
「あや、何をそんなにぷりぷりしているの?」
「そうよ、かわいい顔が台無しよ」
なだめようとしている二人に、私は今日の出来事を話すことにした。
「今朝勉強する為に図書室へ向かおうとしたら、ばったり進藤先生に会ったのよ。そこで世間話のつもりで、国公立の医学部に進みたいです、って言ったら、いきなり談話室で面談になったわ。何でよ。私が先生に迷惑をかけたって言うの!」
二人が何故か残念そうな目で私を見ている。
まあいい。他人の評価と自己評価とはえてして異なるものだ。
続けて不愉快な出来事パート2を話す。
「帰りに本屋さんで参考書を3冊買ったのよ。そしたらその書店員が、買った後になってはじめて『これはあんまり評判がよくないよ。次からは相談してくれたら、いいものを紹介します』って、言いやがったのよ!ふざけるな!こっちはなけなしのお金で買っているんだから」
「よくいっぺんに3冊も買ったわね」
「とにかく重かった。帰ったら、すぐにシャワーを浴びたわ」
「そうじゃなくて、高かったんじゃないの?」
「高かったよ。私の一ヶ月分のお小遣いじゃ足りないくらい高かったよ」
「あや、まさかあんた・・・」
「やましいことで得たお金じゃないよ。この間の旅行の残金で母さんに返そうとしたら、「あんたの進路の為に必要なものを買うんだったら、返さなくていいよ」とおっしゃられたので、有効活用させていただいた、という訳よ」
「安心したわ。変なことで手にしたお金じゃないのね」
「当たり前じゃないの。・・・大体あんた達、普段私の身体をさんざん馬鹿にして来て、どうしてこういう時にだけ心配するのよ。大体、私の貧相な身体に需要なんてないでしょ」
「大丈夫。どこの世界にもマニアはいるから」
ちえみ、君は何を言ってるのかね。
「とにかく、私はこの夏休みで今の文系脳から理系脳に切り替えたいのよ。これからは『ロジカルシンキングのあやめちゃん』で行くから。・・・ところで、あんた達、明日の首尾はどうなっているの?」
「勿論、私に抜かりは無いわ」
「右に同じ」
「ふうん、それならいいんだけど」
「何?何か心配なことでもあるの?」
「いや、何でもないよ・・・」
私は、何となく感じていた不安を上手く言葉にすることは出来なかった。
「まあ、明日は頑張んなさいよ。今日は早く寝て、体調を整えるのよ」
「ドキドキして眠れないよ」
「ちえみ、それでも寝ておくのよ。映画館で涎垂らして寝たりしたら、一巻の終わりよ」
「あや、見城君の前で寝たりしないよぉ」
「そう思っていても、油断すると危ないからね。一番の対策はよく眠ること。頑張りなさい」
夕方になり、二人は帰って行った。明日はどうなるか、幸運を祈る!
翌朝、自分の部屋で勉強していると玄関ホンが鳴った。
母さんは仕事なので、私が応対しなければならない・
「はーい」
私は慌てて階段を下りて、玄関へ向かう。ドアの窓から外に立っている人間の顔を確認する。見知った顔ではあったが、歓迎しかねる男だった。
「九条あやめさん、お久し振りです。外務省の小田原です。二、三伺いたい事がありまして、参りました。申し訳ありませんが、話を聞かせていただけないでしょうか」
「私には、特に貴方方に話す事はありませんが・・・」
「私共にもあなたに報告しなければならない事があります。・・・会っていただけますよね?」
私は彼が富永の件を言っていることを悟った。それならば仕方が無いか・・・。
「わかりました。狭いところですが、お上がり下さい」
私はため息をつきながら、ドアを開けた。
小田原はスーツではなく、ポロシャツにデニムというラフな格好でやって来た。つまり、これはちゃんとした業務ではない、ということだ。家族にもきちんと話してはないだろう。当たり前だ、休日に女子高校生に会う仕事が高級官僚にある訳がない。
私は小田原をリビングに通し、麦茶を出した。
「着替えてくるので、ちょっとお待ち下さい」と言って、二階に向かった。
部屋着を脱いで、タンスの抽斗を開ける。しばらく眺めた後、覚悟を決めてそれを着る。
「お待たせしました」と言って、私は小田原に向かい合って座る。
「その服は・・・」
「見覚えはあるでしょ。あなた方に監禁されていた時に着ていたジャージですから。じゃあ、私の依頼に対する進捗を聞かせてもらいましょうか」
「富永悠一については、今後一切君にも君の友達にも近づかない事を保証しよう」
「どうやって保証出来るの?近づかない、ではなく、近づけなくしたの?」
「・・・その通りだ。彼は現在身柄を拘束中で、今後少なくとも十五年は外に出る事は叶わないだろう」
「ちょっと怖いわね。いざとなれば、私もないことを理由に身柄を拘束される可能性もあるという訳ね」
「君がそんな行動を取らないでいてくれたら、何の心配もいらない。今まで通り、自由に生きる事が出来る」
「この話はここまでにしましょ。私が自由か不自由かを論じても不毛だわ。・・・それで、私に何が聞きたいの?」
「君と大統領の会談から一週間が経過したのだから、君自身もそろそろ落ち着いただろうと判断して、私はここに来ている訳だ。まず、大統領とどんな話をしたのかね。我々の提供した翻訳機を使わなくてもいいのだが、そのまま持っていたなら、こんな事を聞かなくても良かったのだがね」
「単なる世間話ですよ。あの件はお孫さんに吹き込まれていた様であまり本気にはしていない様子でしたよ。・・・今はお爺ちゃんとはメル友ですよ」
「外務省が何ヶ月かかっても攻略できなかった大統領を一晩で籠絡するとは、流石『黄金の乙女』と言うべきか」
「そんなんじゃありませんよ。お爺ちゃんは半信半疑でしたし。私はただ普通の人間として話しただけですよ」
「ふうん、『普通の人間』ね。・・・そもそも君は『普通の人間』なのかね?」
「何が言いたいの?私は『普通の人間』ですよ。もっとも特定の条件下で、人間を超えた存在になりますけどね」
「・・・その事を、誰が知っている?」
「少なくとも警視庁は認識している筈です。連絡は入らなかったのですか?」
「ああ。我々への連絡は無かった。・・・つまりどこかでこの件を秘匿したい者の意志が働いた訳だ。国家よりも、組織あるいはその者個人の利益・欲望が優先されたという訳か」
「・・・あの、その件については、私には関係無いことですよね?公務員同士で勝手に話し合うなり、戦うなり勝手にやっていただけませんか?」
「確かに君の言う通りかもしれない。しかし、こうも考えられないかい?君の存在さえ消せば、元の公務員の組織に戻せる、と」
「私を消せますか?私の背後にあの大統領がいるとしたら?この国の成り立ちから変わってしまいますが、その覚悟はありますか?」
「・・・今の我が国があの国の協力抜きにやって行くのは不可能だな。しょうがない、正攻法で行く事にするよ」
「私がそんな下心を持った男に恋するとでも思っているの?このジャージに付着している血を御覧なさい。この血は私のことを心の底から心配して、組織を裏切って監禁された私を逃がそうとしてくれたSPさんの血です。私が今ここにいられるのは彼の犠牲の上です。私は彼の好意を無にすることは出来ません。・・・そもそも誰がこの私に言い寄って来ると言うのかしら?有名芸能人ですらフッたこの私に!」
「・・・私ではどうだね?」
「は、何を言っているの?死んだ父さんよりも年上のあなたを、私が好きになるとでも思っているの?それに力を得る為には、あなたも私のことを好きにならなければならないのよ。あなたには奥さんも子供さんも、もしかしたらお孫さんもいるんでしょ」
「問題ない。どんな男も若い女性は好きなものだ。それに嫁とは既に疎遠になっている。今更そんな事は気にしないさ。・・・それに俺なら君に色々なものを提供出来る」
「どういうこと?」
「例えば、君がもし大学へ進学したいのなら、どの大学にでも合格させられるし、どこに就職しようというのも思いのままだ」
「・・・それについては興味ないわ。その程度のことなら、『黄金の乙女』の力を持てば叶うことなのよ。だからあなたの高級官僚としての地位は必要としないのよ。それに、『黄金の乙女』の事を警視庁は知りながら、国家に伝えていないのなら、あなたが『黄金の乙女』を手にしたら、あなた、殺されるわよ。その覚悟は出来ているの?・・・あなたとの会話でわかったのは、私は警視庁の動きにも注意しなければならないのね。大統領はいい駒になりそう」
「・・・」
「知らないのなら教えてあげる。『黄金の乙女』が伝説だと言うのなら、必ず昔に『黄金の乙女』と呼ばれた人がいるのよ。恐らく私の後にも『黄金の乙女』と呼ばれる人もいるのでしょう。もし『黄金の乙女』を狙っていた男が、『黄金の乙女』を得られないと悟った時、どんな行動を取ると思う?自分に自信がある男なら、私のパートナーを殺して、私に言い寄って来るでしょう。もし私を落とせないと思ったら、私を殺して次の『黄金の乙女』に期待するでしょう。・・・私に言い寄るということは、その覚悟を持っている、ということなの。あなたはどうなの?」
「・・・それは難しいかも知れない。警視庁だけなら何とかなるかもしれないが、未知の人間にも注意するというのは厳しい・・・」
「賢明な判断だと思うわ。命を賭けられる男だけが私に近づけるのよ」
「それでは、君はどうなるんだ!」
「私はあまりにも弱い。それは自覚している。物理的な力も、社会的な力もない。今のままなら私を殺すなんて簡単でしょうね。・・・だから私は言い寄って来る男をキープして相互監視体制を構築するつもり。そうすれば中央は真空状態となり、私が生き残る可能性が高まるなわ」
「君は・・・そこまで考えていたのか」
「当たり前でしょ。他ならぬ私自身が生きる為なんだから」
「『黄金の乙女』の件を抜きにして、君は素晴らしい女性だ。私の息子の嫁にならないか。息子は24歳、親の私が言うのもなんだが、いい物件だと思う」
「大統領のお孫さんに伝言を頼みましたのと、同じ趣旨のことを申します。『そういうことは直接本人が来い』」
「・・・それはそうだな。じゃあ、息子にここに来る様に言っておこう」
「どうぞ御自由に。来ても、お断りするだけですから。・・・もういいでしょ。お引き取り願えませんか」
「あ、ああ・・・」
こうして小田原は我が家から出て行った。
汗が噴き出した。暴力で来られたら、太刀打ち出来なかった。その時悲鳴を上げたら、私をマークしている組織は私を助けたであろうか。逆にその機を逃さず、殺すかもしれない。
今回の件は正に幸運かもしれない。きっと着ていたジャージが海道さんが守ってくれたのだろう。
私は部屋着に着替えて、勉強を再開した。私は絶対にお医者さんになるんだ。海道さんが命を賭けたことを後悔しない、海道さんにふさわしい女になるんだ。




