16.本屋で書店員に告られる
『黄金の乙女』
世界にたった一人の至高の存在。
その女性と相思相愛になると、この世界はおろか、マルチバース全てが二人のものとなる、という伝説。
伝説を信じ、冒険者達は異世界転生を試みていた。
これまで
1.星野翔真 転生者。アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白した騒動を謝罪し、現在は電話で会話する仲。
2.進藤君也 転生者。三崎東高校数学科教師 生徒指導担当 校舎の屋上で告白するも失敗、仁平からあやめを守る。
3.見城利幸 三崎東高校1年 バスケ部所属 体育館裏で告白するも保留。富永からあやめの危機を救う。
4.吉水健吾 アイドルグループ・バイオレットバタフライメンバー 告白するも失敗。来春、三崎東高校に入学予定。
5.仁平茂樹 転生者。株式会社『あすなろ』社長。75歳 あやめに死を宣告するも失敗。二度と近づかない事を誓う。
6&12.富永悠一 転生者。ファストフード店元アルバイト 不治の病の妹を掬いたい、という口実であやめに近づくも失敗。夜道であやめを襲うも失敗。日本政府によりあやめ達から遠ざけられる。
7.島畑和毅 転生者。塾講師アルバイト 無理矢理あやめをわがものにしようとしたが失敗。
8.下田 三崎東高校1年 教室で告白するも保留。
9.清水良治 転生者。病院勤務内科医 母親の再婚相手としてあやめに近づいたが失敗。
10.野村正貴 三崎第二中学二年 市民プールで告白するも、あやめに諭される。
11.内藤洋二郎 転生者。雑誌編集者 原宿であやめ達に声をかけたが失敗。
13.海道信哉 警視庁SP 監禁中のあやめを救おうとして失敗。重傷を負う。一時的に『黄金の乙女』の力を発動出来る様になる。
14.氏名不詳 某国大統領 あやめと付き合いたいと伝えるが失敗。
15.渡辺慎之介 転生者。旅行代理店勤務 旅先のホテルであやめに恩を売ろうとするが失敗。
新幹線から何度か乗り換えて、最寄駅についた。
「はい。昨日今日と二日間、お疲れ様でした。家に帰るまでが旅行です。皆さん、気を付けて帰って下さい」
「そろそろ夏休みの宿題を片付けていかないと」
「私、一週間以上ほったらかしだから、何気にヤバいかも・・・」
「明日は誰の家だっけ?」
「金曜日だから、あやの家じゃない?」
「もう回って来るのか・・・わかった。準備しておく」
「じゃあ、また明日」
ちえみが家に帰る為に別れ、私とやすこの二人となった。
「どうしたの、やすこ。私もう帰るよ」
「あや、昨日の続きを話したい。ちょっと付き合って」
「・・・わかった」
私達は駅前のファストフード店に移動した。
奥にいたスタッフと思しき人が、私達を見て表情を変えたが、無視することにした。
二階で向かい合って座る。
「・・・やすこ、それで私に何を聞きたいの?」
「まず、あや自身は信じているの?この『黄金の乙女』の伝説を」
やすこの目は真剣だったので、私は出来る限りは話そうと決めた。
「以前は半信半疑だったわ。でも、今は信じている」
「・・・何でなの?こんな荒唐無稽な話を信じるなんて、どうかしてる・・・」
「それは『黄金の乙女』の力を行使出来たから、信じる信じないじゃなくて事実だからだよ」
「どういう事?詳しく教えて」
「大統領が来日する前日と当日、私が帰宅しなかった事は知ってる?帰らなかったんじゃなく、帰れなかったのよ。監禁されていたからね。・・・外に逃げる為には合計四ヶ所の施錠されたドアを突破する必要があったのよ。海道さんは私のことを憐れんでいたのかもしれない。だから、私が監禁されていた部屋の扉を開錠して、『一緒に逃げよう』って言ってくれたのよ。でも、海道さんは残る三ヶ所のドアの存在を知らなくて、戸惑っていたわ。でも、その都度『開いて』と祈るだけで、ドアは開錠されて逃げることが出来たのよ。だから『黄金の乙女』の話は事実よ」
私が長々と説明したにも関わらず、やすこの顔は不満そうだった。
「『黄金の乙女』の話が事実だというのはわかったわ。それで、あやと海道さんの『愛の逃避行』はどうなったの?」
「結局、海道さんも私もノープランだったからね。逃げ切ることは無理だった。海道さんが仲間に撃たれたのよ。胸の上を銃弾が貫通していたわ、即死とならなかったのが奇蹟だったと思う。海道さんが撃たれた瞬間から、『黄金の乙女』の力は失ったわ。だから、海道さんの怪我を元に戻そうと祈っても無駄だった。私に出来るのは、喉に詰まった血を吸い取って気道を確保することだけだった。だから、私は銃撃した警察のトップに海道さんを助けることを依頼したのよ。私が部屋に戻ることを条件にね。組織を裏切った海道さんは顔も名前も変えられるらしいの。だから海道さんは栞さんに会えるかどうかわからないのよ。部屋に戻って、私は後悔したわ。何で『海道さんと無事逃げれますように』とか気の利いたことを願わなかったのかと。・・・その時に着ていたのが、あのジャージよ。海道さんに助けられて、私は帰ることが出来る、そのことを忘れない為に着ていたのよ」
いかんなあ、思い出したら涙が出てきてしまう。克服するのはまだまだ無理だ。
「あや、この話は皆と共有してもいいのかな?」
「齋藤君にはいいけど、ショーマと進藤先生に言うのは待って欲しい」
「何で?あの二人も色々と協力してくれたよ」
「やすこ、不思議じゃなかった?どうして聞いた事も無い『黄金の乙女』の伝説を、私の周囲の人間が揃って信じているのかを。そもそもこの伝説はこの世界の伝説じゃなく、別の世界の伝説なの。現在の『黄金の乙女』がこの世界の九条あやめであることが、別の世界にも知られたみたい。彼等は私を狙ってやって来た転生者なの。仁平茂樹は私を殺して、次の『黄金の乙女』に期待していた。ということは一部か全員かはわからないけど、自分の意志で再転生が可能ということになるの。つまり、今の法律では彼等を縛ることは出来ないの、どんなに酷いことをしても平気、良心なんて期待できないし、いざとなればまた転生すればいいのだから。私が富永悠一を警戒している理由を理解してくれた?星野翔真も進藤君也も転生者だから注意が必要」
「・・・でも」
「彼等に、私が一時的にでも力を行使することが出来た事が知られたら、どうなると思う。きっと彼等はこう考えるでしょう。一刻も早く九条あやめを排除しなければならない、と。彼等は、私がこの状況を突破する方法を見つけていない、と思っているんでしょ。だけどあるのよ。この状況を抜け出す方法が。私が恋愛して、『全ての転生者がいない世界』とか『黄金の乙女のシステムの破壊』を願えば解決するの。それを知ったら転生者がどう動くかわかるでしょ。『黄金の乙女』を手にしたい転生者達は、自分の身を守る為にも私を殺しに来るわ、私が恋愛するよりも早くね。だから、二人にも言えないのよ」
「・・・隠し通すのは難しくない?」
「確かに難しいとは思う。だけど、それをしなければ私は生きていられない。恋愛もいつのことだかわからないしね。だから、私としては転生者共をお互いを監視し合う体制にしようと思っている。だから、あんまり追い詰めるのは駄目なのよ、こちらの手駒として使える存在としてキープしておかないと」
「あやの抱えている状況の一端については理解したわ」
「・・・もっとひどい、吐き気がするエピソードも一杯あるわよ」
「今はよしとくわ」
私は家に帰り、国公立の医学部への進学を決意したことを告げた。
母さんは苦笑しながらも、了承してくれた。
「だから、いい加減にダブルデートはやめるべきだと思うのよ」
私は二人に、正確に言えばちえみに言った。
「え~、後1、2回は2対2で会ってもいいじゃない。まだ1対1で会うのは怖いのよ。・・・やすこ、私達がいたら、邪魔かな?」
「・・・」
「ちえみ、やすこが答えられない様な質問しちゃダメでしょ」
「だって・・・」
「やすこ、あと1回くらいガマンしてやって」
「そうね、だけど今回だけだよ。・・・夏休み中に何とかあやに追いつきたいからね」
「へ?私に追いつく、って?」
「あやがしたんだったら、私もチューしてみたいよ、想意君と・・・」
「やすこ、別に焦らなくてもいいんじゃないの?」
「でも、あやは今フリーじゃん。想意くんはあやのストライクゾーンだから心配なのよ。あやがその気になったら、想意くんを取られそうで怖いのよ」
「見城君はあやに告白したんでしょ。私の方が危ないんじゃない?」
「二人共落ち着きなさいよ。少なくとも今の私は恋をする気分にはなれないわね。・・・まだこの胸の痛みはおさまらないのよ。敵わないことはわかっているけど、会いたいよ、もう一度。だから安心して。二人の心配するようなことにはならないから」
「あや・・・」
「私のことはおいといて、なかなか一対一のデートに進めない二人に提案があります。今度の日曜日には映画でも観に行ったらどうかなって思うのよ。最寄りのシネコンは10スクリーンあって、日曜日にはやすこの好きそうな恋愛モノが10時から始まり、男子の好きそうなアクション映画が10分遅れで始まって、終わる時刻がほぼ一緒なのよ。だから、やすこと齋藤君、ちえみと見城君で別々の映画を観ればいいのかな、って思うのよ」
「ふうん、それは一理あるかもね」
「とにかく、今日中にデートの約束は取り付けなさいね。ちゃんと約束したか明日チェックさせてもらうからね」
「私達がデートしている間、あやは何をするの?」
「・・・勉強・・・かな?期末テストの成績は中間テストより落ちているし、進学することに決めたからね」
「へえ、どこに行くつもりなの?」
「国公立の医学部。お医者さんになるつもり」
「あや、それ本気で言ってるの?」
「勿論、本気だよ。何でそんな事を聞くの?」
「あや、期末の成績何位だった?」
「270人中151位だけど。次回からテストの度に10位ずつ順位を上げる。二年の1学期で二桁順位になるし、三年の1学期には50位以内の成績を取る。受験の頃には20位台くらいまでに成績を上げるから、医学部の合格圏内に入るわ」
「そううまくいくかな?」
「だから今から頑張るんじゃない。他の人よりも早くから受験勉強を始めればなんとかなるんじゃない」
「どうしてお医者さんになりたいの?」
「私が生きているのはお医者さんのおかげだからね。・・・それにもう二度と私の前で傷付く人を見たくないのよ」
「頑張ってね。応援するよ」
「ありがと。・・・あんた達も頑張りなさいよ」
翌朝、私は久しぶりに制服を着て、学校に向かう。
学校で3時間勉強する方が、家で4時間勉強するよりも成果が出るんじゃないか、と考えたからである。また、4時間分の電気代の節約にもなるだろう。医学部に進む為にも、家計の節約も重要である。
夏休み期間中は日曜日以外図書室を自習室として開放されている。
私は図書室に向かうべく校舎を歩いていると、進藤先生に出会った。
「おう、九条。土曜日の朝から登校とは、何の用だ?」
「午前中は図書室で勉強しようと思いまして」
「どういう風の吹き回しだ?」
「進路を具体的に決めたのですが、今からスタートしないと間に合いそうもないんで」
「一年の夏に進路を決めるとは感心だな。・・・で、志望はどこだ?」
「はい、医学部に進もうと思っております」
「・・・九条、5分でいい。談話室で話をしないか」
舞台は変わって、談話室で進藤先生との会話を続ける事となった。
「・・・医学部志望は本気なのか?」
「はい。試験までは、二年半ありますから今から勉強すれば何とかなると思っています。・・・先生は無理だと思いますか?」
「いや、九条が本気で頑張れば、何とか間に合うとは思う。・・・失礼かもしれないが、私立というのは・・・」
「はい、我が家の収入では私立は無理ですので、国公立一本で考えてます。・・・それに、この学校のトラブルメーカーですので推薦は諦めてます」
「そうだな。・・・推薦どころか、退学処分になるのを防ぐだけで手一杯だ。現に今も御前起点の問題で右往左往だ」
「私、何か仕出かしましたっけ?」
「何の件かは、夏休み明けにわかるから、楽しみにしておけ。・・・ところで、外務省の件は無事に終わったのか?」
「はい、無事終わりました。・・・その件について、私は先生に抗議したいことがあります。やすこに、余計なことを話さないで下さい」
「それは御前の思惑通りに進まなかった事に対する抗議という事か?」
「それもありますけど、人の好意を疑う事を是とするのも、どうかと思いますよ。おかげで先生とショーマに吹き込まれたことを上書きするのに、より真実に近い事を話さなければなりませんでした」
「つまり、御前は俺にも星野さんにも話していない事がある、という事か?」
「当たり前じゃないですか。私と先生では利害は一致していませんから」
「それはそうだな。・・・話を元に戻すけれども、大統領の件はやっぱり例の件だったのか?」
「ええ、その通りです。但し、大統領は他の人から聞いた話で、あまり本気にしてはいませんでした。それで、あのお爺ちゃんとメル友になりましたよ」
「ようやく御前もメールを見られる余裕が出来たのか」
「余裕というか、今回の件で少し精神的に強くなった気はします」
「大統領と英語でやり取りしているのか?」
「残念ながら、先方で日本語に訳したものが届きます。大統領との話したのも向こうの国の通訳を介してでしたから。大統領も私の英語に期待していないでしょう」
「でも、外務省から英会話のレクチャーを受けただろ?訳に立たなかったのか?」
「外務省は私を娼婦という認識だったのでしょうね。夜の英会話ばかりでしたよ。受験にも役に立ちません。この5日間を返せ、って感じですよ」
「しかし、御前ちょっと雰囲気が変わったな。大人っぽくなったと言うか・・・」
「先生、私は高校生である前に、女なんですよ」
私は進藤先生との会話を打ち切って、図書室に向かった。
図書室で3時間ほど数学の問題と格闘し、12時を過ぎた頃に学校を後にした。
歩きながら今日のこれからの予定を確認する。まずは金券ショップで図書カードの購入、本屋に行って各種参考書の購入、ドラッグストアで本日の昼食から明日の朝食までの食材の購入(やすこ・ちえみの間食分も含む)、シャワーを浴びて、昼食を済ませて、夕食の準備と二人を迎える準備、といったところか。
まずは金券ショップで一ヶ月分のお小遣いを図書カードと交換する。軍資金はこの間の旅行費用の残金である。お土産と共に返そうとしたら、「あんたの進路の為に必要なものを買うんだったら、返さなくていいよ」と言われたので、有難く頂戴した。
続いて本屋に入る。雑誌とかコミックの売り場にも行きたかったが、今日はあまり時間が無いので、参考書・問題集売り場に向かう。
夏休み中の土曜の昼にも関わらず、参考書・問題集のコーナーは閑散としていた。夏休みも後半になれば小学生用の宿題のお助け本を目当てに賑わうのだろうが、まだ前半であるのでコーナー全体にゆったりとした雰囲気が流れていた。
高校生のコーナーに進み、数学Ⅰ、数学A、基礎化学の3教科の参考書を購入する。参考書は各社から発行されて何冊か書架に並んでいたが、発行年が去年か今年のもの、頁数の多いものを選定した。選定した理由については、同じ内容を解説しているのだから、頁数が多い程解説が丁寧で例題も多いだろう、といった安直な考えである。
レジに行ったが誰もいない。しかもセルフレジも無かったので、脚立に乗って書架の整理をしている書店員さんに声を掛けた。
「すいません。レジお願いします」
書店員さんは脚立から下りて、レジ対応をしてくれた。
残金のある図書カードと3冊の参考書を持って、立ち去ろうとした時、書店員が私を呼び止めた。
「九条・・・あやめさんですよね」
私の中の警戒メーターが振り切れる。転生者か?私を殺す気なのか?誰もいない。防犯カメラはどこ?大声を出せば、誰かが気付いてくれるのか?瞬時に答えの出ない疑問が次々と湧いて来る。
「そうですが、私に何か御用でしょうか」
頭の中は大混乱中ではあるが、何とか平静なフリをして答えた。
「私は常盤隆人と申します。見ての通り、書店員です」
「・・・」
「実は以前から、来店されるところを見ておりました」
「・・・」
「好きです。付き合っていただけないでしょうか」
・・・ああ。やっぱりか。どうやって断るか。逆上させない様に注意しないとね。
「何で私なんですか?私なんかより、貴方のお眼鏡に敵うキレイな人はいっぱいいるでしょ」
「そうじゃないんだ。君じゃないと、ダメなんだ。何しろ・・・」
「何しろ、って何?・・・まあいいですけど。私はよく知らない人とはお付き合い出来ません。例え殺されようとも、殺されてよその世界へ転生したとしても、この考えは変わりません」
「やれやれ、どうやら僕の正体もお見通し、ということか」
「転生者なんでしょ。それでどうするつもりなの?脈無しと判断して、私を殺して、次のお役目の人に期待するの?」
「それも考えなかった訳ではない。・・・僕はこの世界を結構気に入っているんだ。前の世界よりも随分生きるのに楽な世界だからね。だから君が他の男とくっついたとしても、この世界にいるんじゃないかな。もっとも君がこの世界を変革して僕が生きにくい世界にしたら、僕は君を殺すかもしれない」
「ふうん、正義の味方か、スーパーヒーローみたいね。・・・でもね、今度私が力を得た時には、転生者の力を奪って普通の人間にしてあげるから、覚悟しなさい」
「わかった。気を付けるよ。・・・一つ忠告しておくけれど、さっき買った参考書、あんまり評判よくないから。次からは相談してくれれば、お薦めのものを紹介するよ」
「そういうことは先に言いなさい、バカ!」
私は書店を後にした。
ちょっとばかり時間がかかってしまった。さっさとドラッグストアで買い物をして、家に帰ろう。
親友を待たせたりすると、何を言われるかわからないからね。




