君たちの出番だ
ヲウス討伐を生き残った十番隊には次なる試練が訪れる。
「豊穣演舞祭だと?」
アーサーは大声でそう言った。
「うむ、今年から始めるそうだ」
「この時期というと、前からある新演舞祭と旧演舞祭が重なる月だろ。その二つはどうなる? 今年から止めるわけじゃねぇんだろ」とジュノは指摘する。
「新演舞祭を上旬の五日間、豊穣演舞祭を中旬の五日間、旧演舞祭を下旬の五日間でやるそうだよ」
「六月は祭りの月にするのか。で、そのバカな考案をしたのはどこの一族だ?」
「五王だよ」
「マジかよ……つまり開催決定じゃねぇか」
そう、決定だ。ぼくたちが何を言っても豊穣演舞祭は開催される。
「まぁ、おれたちは夜禅で忙しいから祭りには参加できないだろうな」
「――いいや、豊穣演舞祭には参加してもらう」
『は?』
「夜禅十番隊としてね」
豊穣演舞祭、それは何をする祭りなのか。ぼくは説明に入る。
「豊穣演舞祭で君たちには他國の夜禅部隊と戦ってもらう。個人戦ではなくチーム戦だ」
要するにチームで演舞の競い合いだ。
「戦うって……例えば剣と剣でキンキンってやつ?」
「そう。豊穣を祈る祭りには力を魅せなくてはならない。特にぼくたちはけものから偽りの果実を収穫しなければならない立場だ。ぼくたち夜禅部隊の力がどの程度なのか現世界に知らしめなくてはならない」
「でも、他國の夜禅部隊と戦うってどういうこと? どうして力を示すために夜禅部隊が戦うわけ? 理想郷の上級アルカディオスでもいいんじゃない?」
「五王の決定だよ、理由はないと思う」
「仕事はどうなるの?」
「仕事は仕事、祭りは祭りだ」
「つまり理想郷での夜は夜禅、現世界での夜は祭りを堪能しろってことか」
「そう。豊穣演舞祭の開催地はここ実ノ國・常陸宮。他國からは選抜された夜禅部隊が来る。全國放送もされるからみっともない姿は見せられないよ」
「ってことは、牡丹派からなんでおれたち十番隊が選ばれたんだ? 一番隊とか優秀な部隊が選ばれるのが当然だろ?」
「総隊長殿と一番隊長殿の推薦もあり、なおかつぼくからも君たちを推薦した」
「どうしてそんな面倒な催しに推薦するんだよ……」
どうしてと言われても……仕方ないじゃないか、君たち名門一族が出ないでどうやって祭りを盛り上げるというんだ。名前を出すだけで盛り上がるのは三相劃の一族と七道巫の一族でしょうよ。面倒にしないで盛り上げていきましょうよ、そうしましょうよ。
「推薦の理由はどうでもいいんだけど、隊長は出ないの?」
「出るけど、豊穣演舞祭ではなく旧演舞祭に出るよ」
「旧演舞祭か……フィナーレには持ってこいのプログラムになってるんだろうな?」
「もちろん、夜禅部隊の隊長には個人戦が用意されている。まとめると、今年からは豊穣演舞祭が追加され、新演舞祭と旧演舞祭に戦いが追加されたってことだよ」
「優勝者にはなんかないの?」
良い質問だ。出場するからには何かしらの報酬が用意されている。
「新演舞祭の優勝チームには最新の理想石製品、豊穣演舞祭の優勝チームにはお食事処『天上』の食事券一年分、旧演舞祭の優勝者には秘密の報酬があるらしい」
「まじ? あの天上の食事券一年って、最高じゃねぇか!」「絶対に優勝! 優勝以外ない!」「食べ物に釣られるとは、ルーナもまだまだだね」「ヘレーラよだれ垂れてるよ」
と、みんな少しはやる気になってくれたようだ。
「君たちの出番はもちろん日が落ちてからだ。ぼくとの修行で対人戦はお茶の子さいさいだろうけど、一応対人戦というものを一から学んでおこう」
「それってまた修行じゃねぇか」「わたし演舞祭回りしたいんだけど」「そうそう、お祭りなんだし修行じゃなくて酒豪になる練習しようよ」「夜禅の仕事が終わった後はゆっくり現世界でお祭りを楽しみたい気分です」
そんなことを言う隊員たちへ向けて甘い言葉をかけてもいいが、今回のぼくはもっと厳しく行こう。
「正直言おう――君たちはまだ何者でもない名無しの権兵衛だ。現段階で観客に演舞を披露できるような器ではないし、他國の夜禅部隊と演舞で競えるほどの実力もない。向こうは優勝狙いの最強部隊、対して君たちは一族の名前で応援されているだけの牡丹派最弱部隊。休んでいる暇なんてないんだよ」
と、ぼくが辛辣に言うと十番隊の隊員たちは黙った。
ちょっと言い過ぎたかな? しかし正直に言わないと現在の自分と向き合わないだろう。
「牡丹派最弱って、十番隊ってそんな弱いのか……」「他國の最強部隊……」「そうだよね、ぼくたちってまだ弱いんだよね……」「一族の恥曝しですからね……」
いやいや、そんなに落ち込むことはないですよ! 十番隊は成長途中の若い苗ですから、これからどんな花を着けるのか楽しみですよ!
「――だからこそ、君たちの出番ってことだ」ぼくは言う。
いくら厳しくといっても辛辣な発言だけではダメだ。総隊長殿のようにヒトが成長できるような言葉を使わなければならない。うん、ぼくは隊長としての振る舞いを心掛けよう。
「ぼくは十番隊を最強の夜禅部隊に育てる。それで他國の最強部隊に勝てなくても君たちが悪いわけではない……いいや、勝たなくてもいい、ただ一輪咲かせて観客を魅了するんだ」
豊穣演舞祭に勝ち負けはある、ただ、ぼくの価値観とは相容れない勝ち負けだ。そりゃあ勝てれば誰もが納得する結末となるだろうけど、先代の方々が繋いできた演舞に勝ち負けをつけるのは恥を曝す行いだ。だからぼくたちは一輪咲かせるんだ。
「一族の恥曝しなんてもう言わせないから安心してください」
ぼくは驕っているわけではない、十番隊の隊員なら汚名返上できる。この十番隊はいつの日か現世界に黄金の時代を築くと信じている。
「ふふっ、下克上ね」「いいねいいねぇ、なんかもっとやる気出てきたぜ」「最強に育てるか、つまりそれって隊長が最強じゃないといけないわけね」「十番隊の隊長は最強でしょ、だって単独でヲウスの穢れを祓ってしまったのだもの」「ぼくたちの隊長は誰よりも誇り高いんだ」
「豊穣演舞祭は君たちの出番だ――誇り高く舞い踊ろう」
ぼくがそう言うと、十番隊の隊員は不敵な笑みをもらした。




