十二支の獣ヲウス
十二支の獣――白大イノシシ――討伐当日。
「みなさん、ついにこの日がやってまいりました。夜禅を生業としてきたわたしの一族でも十二支と戦うのは初めてです。相手の力量も測れない今、不安も大いにあるでしょう。しかしわたしたちはけものと渡り合ってきた者たちです、己の力を信じ、あの緊張感を忘れずにまいりましょう――いいか皆の者! 絶対に討伐するぞ!」
『おぉー!』
総隊長殿の言葉にみなの士気は高まったようだ。
「やばい、緊張しすぎて気持ち悪くなってきた」「死ぬ、今回は絶対に死ぬ、死んだら化けて出てやるからな」「緊張してきた」「ぼくも緊張でお腹がキリキリする」
と、士気は高まった……のだろうけど、十番隊はまだまだ実戦経験が無いに等しいヒヨコたちだ。己で羽ばたけるようになるまでは時間がかかる。
「十番隊長さん、あの約束を守ってくださいね」とキキョウさんはぼくに言ってくる。
「はい、守ります」
「なに隊長、キキョウと何約束したの?」「なになに? 男と女の約束?」
ルーナとヘレーラは気になっているようだ。
「ああ、巫を――」
「――十番隊長、わたしたちふたりの秘密ですよ」
と、キキョウさんに耳打ちされたぼくは言いだせなくなった。これは秘密の共有か、恥ずかしいが、そう言われては仕方ない。すまないルーナにヘレーラ。
――総隊長殿が足を止めた。
「索敵部隊がヲウスを発見したようです」
その情報を聴いたみなは己の武器を創り上げた。いい反応だ。
天種降臨の武器を一瞬で創り上げるまでに成長した十番隊隊員、その成長具合を見る総隊長は笑顔を見せた。
「十番隊は相当成長されていますね」
「はい、彼ら彼女らの努力の賜物です」
と、総隊長はぼくの言葉を聴くと目つきを変えた。どうやらゆっくり話している時間は無いので作戦説明に入るようだ。
「では、戦法壱の通り小物の相手は二番隊と五番隊に任せます。一番隊はヲウスの体力が削れたのを見計らい参戦し、舞技で決着をつけます。残りの部隊はヲウスへ攻撃を集中させ、なるべく早く体力を奪うことに努めましょう」
みなどうか生きて帰りましょう。と総隊長殿は加える。
「散開!」
総隊長殿の命令で全部隊は散り散りとなった。
ぼくたち十番隊はヲウスの体力をできる限り削る役目を任された。
さあ、お相手願いましょうヲウス殿。
<グオオオオオォ!>
ヲウスが動いた。
「先手必勝! 演舞――炎之舞」
アーサーが突っ込み一撃目を与えようとするが、
「チクショウ! こんな硬い肉断てるわけねぇだろ!」
アーサーの言う通り、思っていた以上にヲウスの肉は硬い。
「演舞――炎之舞」
三番隊長はヲウスに痛手を与える。
「演舞――雷之舞」
「演舞――水之舞」
他の隊長たちもヲウスに痛手を与え体力を奪っていく。
「はぁ? どうして隊長たちはヲウスを斬れるんだよ! 同じ五属舞だぞ!」
なぜ隊長たち以外の攻撃がヲウスに通らないのか、要因は複数ある。まず一つは天種降臨の武器が洗礼されていないことだ。たった一カ月そこらで原罪と贖罪を調和させたところで十二支相手には木の棒クラスの武器にしか至れなかったということになる。二つ目は呼吸と舞がまだまだ研ぎ澄まされていないということ。ぼくの呼吸法と舞を完全にコピーしたからと言ってヲウスに痛手を与えられるわけではない、もっと時間をかけて修行をする必要がある。三つ目は、この白大イノシシは十二支の中でも一二を争う怪物に成長していることだ。
「クソ! これじゃあ無限に舞えたところで無駄じゃねぇか!」
やはり隊長各以外は十二支の獣を相手にするのはまだ早い――しかし、それはヲウスの体力が万全の時だ。そのうちヲウスは隊長たちの攻撃で防御力を失っていく。そこが好機だ。
<戦法弐に移行します>と総隊長殿の無線が入る。
戦法壱はヲウスの肉がそこまで硬くなかった時、集団火力で一気に叩く脳筋作戦だった。
「演舞――五属舞、一閃」「二閃」「三閃」「四閃」「五閃」
『五属五閃!』
隊長たちの技がヲウスの肉を断った。
「やべーぞ、隊長たちばかりにヲウスの相手をさせてる」
「隊長が無限に舞えるとしても、あの攻撃を躱しながらじゃあ嫌でも呼吸が乱れる」
「じゃあどうするの? このままじゃ隊長たちの体力が底を尽きるよ」
「大丈夫だ、そのうちヲウスは疲れてくる。その時に君たちの出番だ」と、ぼくは隊員たちに言ってヲウス目がけて駆け抜ける。
「演舞――五属舞、五伝五光」ぼくの舞技がヲウスの右前足を切断した。
<グオオオオォォ!>
隊長たちの舞技はヲウスに効いている。しかし倒すまでとは至らないのが現状だ。
これはおかしい、こんなにも痛手を与えているのに地面に倒れこみもしないなんて。
<回復されていますね、時期に右前足も元に戻るでしょう>
と、また総隊長殿の無線が入る。
ヲウスの体力を奪って防御力を損なわせる、隙を見て各隊の隊員が舞を一斉に使う。これが戦法弐だったが、自然治癒力を有するとなれば話は変わってくる。
「けものと同じように戦っていては時期にわたしたちの体力が無くなります」
と、総隊長はぼくの隣に着地した。
「戦法参はけものと同じく長期戦を予定していましたが、自然治癒持ちの十二支となれば体力は底が知れませんね」
<グオオオォォ!>彼の神狩りのけものは荒れ狂っている。
「戦法を考えはしましたが……あなたの言う通り全て無意味だったようです」
七番隊長はぼくに話しかけてきた。
「十番隊長、何かいい手はありますか?」と総隊長殿。
あるといえばある、しかしこれはぼくだけしか出来ない。
「こうなっては、持久戦は全滅を意味しますので――瞬間火力をヲウスにぶつけるしかありません」
「瞬間火力……しかし大和舞や隼舞を舞える者はここにはいません」
「大和舞や隼舞ではなく、贖罪の力を限界まで引き出して舞う、型無しの――劣等繋伝舞です」
「そんな舞、ここに出来る者はおりませんよ」
「ぼくが舞います」
「わたしもお供しましょう。わたしも劣等繋伝舞であれば舞えます」
と一番隊長が前線に舞い降りた。
「いいえ、ぼくひとりで十分です」
「それでは一番隊は何もやっていないことになります」
「ぼくが失敗した場合、一番隊長殿に後を頼みたい」
「……分かりました。しかし絶対に死なないでください」
一番隊長の言葉にぼくは頷いた。こんなところでぼくは死ねない、ぼくの挑戦はまだまだ始まったばかりだ。
まだ親父殿から託された刀は抜けない。いま刀を抜いてはならない。
「神託――十束剣・千戦百式」
ぼくの奥の手だ、贖罪を使ったこれ以上の火力は現時点で出せない。
「援護をお願いします!」
「二番五番以外は十番隊長の援護に回りなさい!」
総隊長殿の声が上がれば、各隊はぼくを取り囲むような形態になった。
ぼくは守られてばかりだ。だから今度はぼくがみんなを守る。
行くぞヲウス!
「演舞――月下舞、童師閃蘭」
「演舞――獅子舞、双頭刃岩」
「演舞――大蛇舞、血戦咲禍」
五属舞以外は体力をかなり消費してしまうが、これしかヲウスを倒す手段はない。
<グオオオオォォォ!>
叫びだ。祟りに憑かれた十二支の獣の叫び。
「来るぞ!」『隊長!』「何してんだ逃げろよ!」
逃げないよ、ぼくは逃げない。
「鉄輪ノ陣」
陣、それ即ち領域。故に十束剣はぼくの領域内にいるヲウスを絶対に逃さない。
これで終わりだ。
「演舞――丑刻舞、八常村雨」
――両断。太く硬いヲウスの首を、ぼくは一太刀で切り伏せた。
「なっ……」「嘘だろ……あの十二支の首を一撃で?」「はっ、どっちが化け物なのか分からねぇな」「野蛮人族だからね」「宇宙人族だろ」
と、十番隊の隊員がぼくのことを愚弄しているところ悪いが、ぼくは何か嫌な予感を抱いていた。
なんだこの違和感は、確かにヲウスの首を斬った。なのに手ごたえがまるでない。
「やったね隊長!」「さすが十番隊の英雄!」
違う――
「――来るぞ!」
ぼくはみんなに向かって大声を上げた。
ヲウスを見れば、首から血ではない黒い液体が流れ出ている。




