咲かぬなら、咲かせてみせよう
「三番隊遅い!」と、三番隊長は声を上げる。
「七番隊! 他の隊の動きを見て!」と続けて七番隊長も声を上げた。
「みんな頑張れー」と四番隊長は応援している。
数十匹の上級理想郷生物を相手に、各隊は連携を取る修行をしていた。
もちろん各隊の隊長は隊員たちを傍観……ではなく隊員へアドバイスの言葉を投げかけたり、応援をしている。隊長たちが連携に加わらない理由は、隊長が上級の理想郷生物と戦っても連携を取る前に倒してしまうからだ。そういうわけで、隊長は傍観している。あ、傍観ではない。
「十番隊長さん」と、ぼくは総隊長殿に話をかけられた。
「はい、何でしょう?」
「この短期間でよくぞここまで隊員の強化を成功させましたね。素晴らしいです」
「いえ、みんなが日の心構えで臨んだので、その結果が出ただけです」
「日の心構えですか……血は争えませんね」
血? 確かに親父殿と御袋殿に日の心構えを教わったから血は争えないのだろう。しかしその言葉を聞くと他のことを連想してしまうな。
「ところで十番隊長さん、アイリスと何かなさるおつもりですか?」
総隊長殿は怪しむような目でぼくを見てきた。
いえいえ、ぼくは何も怪しいものではありません、ただの変な人です。
「アイリスとは現世界の復興に挑みたいと思っております」
と、ぼくが正直に言えば、総隊長はぽかんと口を開けて、次にニコリと微笑んだ。
「ほうほう、なるほど、十番隊長ってかなりのお馬鹿ちゃんだよね」と三番隊長。
「こら、それは十番隊長に失礼でしょ。でも……ちょっとお馬鹿ちゃんかもね」と九番隊長。
そう言うふたりの隊長。そのふたりの頭にチョップをかますのは一番隊長だ。
「ひとりの挑戦がふたりの挑戦になる。ひとりのヒトの挑戦は巡り巡って他の誰かの挑戦と結びついていく。それが善となるか悪となるか……」と一番隊長。
「挑戦の果てでヒトは善にも悪にもなります。しかし、今までアイリスの挑戦に関わってきた者は善にも悪にもなれず、ただの屍のようになってきました。わたしはその屍です」と、総隊長殿は己を貶した。
「そんなこと言わないでください、総隊長殿は美しく咲いております」
あの誇り高い総隊長が己を貶めるなんて思わなかったからなのか、ぼくはそう言っていた。
「ふふふっ、十番隊長さんはまだまだ無知ですね。わたしは咲いておりませんよ」
そう、わたしたちは咲かない花なのです。と総隊長殿が加えて言えば、他の隊長たちも何やら暗い顔をした。
ぼくは隊長たちのそんな顔を見たくなかった。美しく舞い踊る彼女たちは野に咲く花だ。嵐に見舞われても倒れることなく咲き続ける彼女たちは花だ。只の草ではなく、未だ名前の無い花たちだ。
だから――
「――咲かぬなら、咲かせてみせましょう!」
ぼくはそう言った。言ってしまった。己でも何を言っているんだコイツと後悔した。しかし言ってしまったことを無かったことには出来ない。恥ずかしいことこの上ない。
『あはははっ』と、隊長たちは笑った。
やっぱりぼくの言葉は恥ずかしかったですよね、そうですよね。気持ち悪かったですよねごめんなさい。この今の時間をタイムリープしてやり直したいんですけどいいですか? ごめんなさい出来ません出来たらそうしたいです。
「あなたがアイリスと歩める理由が分かった気がします」と総隊長殿。
そう言われても、まだまだ歩めていない。アイリスの方が何歩も先を歩いている。ぼくは彼女を追いかけているにすぎない。だからこそ、もっと頑張らなくちゃいけないんだ。
とそこで、
「隊長殿! 全部討伐完了だぜ!」とアーサーはぼくの方に大声で報告してきた。
「どうだ? おれの舞をちゃんと見てたか?」「わたしの舞はどうだった? 悪いところとかなかった?」「ぼくは呼吸が乱れたところがあったからそこを改善するためにもっと頑張らなきゃ」「隊長の御方々、我が一族の絃張り拝見していましたかな?」
上級の理想郷生物が予想より早く討伐し終わっていたことにぼくも含め各隊長は驚いていた。
「隊長、今日は頑張ったからご飯奢りね」「マジ? 奢り? じゃあおれも隊長に奢ってもらおう」「あ、ずるい、わたしも隊長の奢りで食べたい」「わたしも食べるー」「奢りなら一緒に行ってあげてもいいですけど」「みんな酷いよ。隊長、ぼくも隊長の奢りで」「なんか面白くなってきた、わたしも奢りというものに興味があります」「隊長に迷惑かけんなよクズども、金持ってるんだから自分の分は自分で払えやこの金持ち共。なぁ隊長、おれには奢ってくれよな?」
ぼくの隊員はぼくのいないところで今日の打ち上げの話をし始めている。ぼくの財布大丈夫かな?
「あれだけ舞い踊ったのに十番隊は元気ですね」と総隊長殿。
「あはは……元気過ぎて最近困ってます」
十番隊の隊員の疲れない呼吸法は完璧と言ってもいいだろう。
「元気なのは結構です。しかし、けものも十二支の獣も理不尽ですよ。十番隊が未だけものと相対せないとなれば、死人が出るのは必然です」
一番隊長は厳しい意見をする。確かにそうだ、けものと戦えていない十番隊の隊員は十二支の実力を下回っているかもしれない。夜禅部隊の目からすれば(たかが上級理想郷生物)という枠組みだ。
「理不尽は現世界で味わっていますので、十番隊の隊員は理不尽にも耐えられると思います」
「それは根拠に欠けます。理不尽に奪われるいのちは見ていて悲惨ですよ」
「理不尽に奪われるいのちがあるから、ぼくたち夜禅部隊がそのいのちを守らねばなりません。理不尽には理不尽で返さねばなりませんから」
誰よりも強く生まれたからぼくたちが守らねばならない。人員の少ない夜禅部隊はヒトがヒトらしく生きるために己を犠牲にしている。いいや、普通のヒトらしく生きれない夜禅部隊は、己を犠牲にしなければヒトらしく生きれないのだ。
「ぼくはいつの日か、理不尽な日の光を祓いたいとも考えております」と加えた。
三相劃の一族や七道巫の一族が現世界の日を浴びれるようにしたい。アイリスとの約束も叶ったら、日の光の下で伸び伸びと育つ野菜や花を観てもらいたい。ぼくはそう言っているのだ。
すると、一番隊長はようやく笑顔を見せた。
「あなたのようなヒトが夜を照らす光となるのでしょう」
現世界の復興は夢のような物語だ。でも、誰かを笑顔にさせることが出来る今があるように、いつの日か現世界も笑ってくれるはずだ。
全世界は、誰かを笑顔にするためにあるとぼくは信じている。このセカイも、悲しみより歓喜を願っているはずだ。
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