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異動ガチャ  作者: 泉北亭南風
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18 リハビリ出勤開始

 12月17日。中央児童相談所でのリハビリ出勤を開始した。ちなみに給与は出ない。そして交通費も出ない。「分限休職」を解いてもらうために、職場を借りてリハビリに励むという位置付けである。当然のことながら、公権執行に関わる仕事には就けない。


 最初の1週間は午前中だけの勤務になる。総務課で統計処理の仕事をした。私は専門職であるが本庁勤務経験が長く、事務能力には長けている。皆が悪戦苦闘していた仕事をサクサクこなすものだから、同僚にずっとここにいてくれたらいいのにと言われた。


 そのやり取りを聞いていた田村次長が


 「高槻さん。それは無理なんよ。山口所長は休職に入った時に所属していた課に戻るのが原則と言ってます。」


 と申し訳なさそう話に割って入ってきた。


 「次長、でも5月には他課での復職の提案がありましたし、実際前例もありますよね?」


 私が切り返すと、次長は苦笑いをしながら自席に戻っていった。


 「このクソタヌキ・・・」


 私は心の中でつぶやいた。


 総務課でのリハビリ勤務は予定通り1週間で終了。年明けからはいよいよ緊急対応課での勤務になる。勤務時間は15時までに伸びる。


 お正月は少しゆっくり過ごし、1月7日からリハビリ出勤に戻った。朝総務課で使っていたデスクに座り、引き出しの中の荷物を緊急対応課のデスクに運ぼうとしたところ、中には何もない。すでに別の職員が運んでいるという。私物をそんなことするか・・・?


 緊急対応課では、主にケースファイルの整理や帳票入力の仕事をした。しかしながら電話が多い。業務時間中ずっとどこかの電話が鳴っている。10年前にいた時とは全く違う雰囲気である。そしてほとんど知っている職員がいない。特段会話をすることなく、ひたすら単純業務を繰り返す。これってリハビリの意味があるのだろうか?


 そして鳴り響く電話の音・・・これは相当堪えた。夜寝ていても電話が鳴っているような気がして飛び起きる。主治医の安藤先生に相談したら、安定剤を少しだけ処方された。しかしながら全く効果なし。山中課長に「席を変えてくれ」と相談したが能面で一蹴された。


 2月。リハビリ出勤も後半戦に入った。ここからは17時半までのフルタイム勤務になる。仕事も単純作業だけではなくケース面接やケース会議の同席や記録取りが加わった。


 若手職員とともに面接室に入る。そして虐待を働いた親を指導する。横で聞いていても、法律で決まっているからあれをしたらダメだのこれをしたら虐待になるだの・・・親に響くわけがない。


 年度初めの訓示で「守備固め」に徹しろと檄を飛ばした山口所長・・・本来ある程度の裁量が認められているはずのケースワーカーが守りに入ってしまい、面接技術が全く育っていないのだ。


 そして社会資源に関する知識のなさ・・・先述のとおり、リハビリ出勤中は公権執行に関わる仕事をしてはいけないと厳命されており本当はいけないのだが、面接の停滞を防ぐために何度割って入ったことか・・・。


 この職場に復帰する意味があるのだろうか・・・?


 これが本当に私のやりたい仕事なのか・・・?


 「やりたくない仕事はやらなくてもいいのではないですか・・・」


 いつぞやの喫茶ガジュマルのマスターの言葉が頭をよぎる。


 つまらない乾いた毎日は淡々と過ぎ去り、復職への見極めとなる統括産業医との面談の日を迎えた。


 「高槻さん。ここまでよく頑張りましたね。あなたの経歴を見ていて、何故こんなことが起きたのかとずっと疑問に思っていました。よほど異動が辛かったんやね。でもね、公務員は仕事を選べません。与えられた職責を全うしてください。一度折れた心は脆くなっています。本人も気を付けなければいけないのだけれど、周囲も気をかけてあげてください。田村次長、わかりましたか?」


 統括産業医の橋本先生は、私と同席していた田村次長にそう告げた。

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