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神鎧戦騎 アトラス  作者: 谺響
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第11話 「日常への回帰」

山狩りに向かった村の大人たちも、新しい扉らしき物を幾つか見付けていた。それらはアトラスたちが見付けた物と同じ様に、光の矢が降り注いでできたクレーターの奥、地面の下から顔を覗かせていたという。

記録された地図を見ると、扉が見付かった場所はかなりの広範囲に広がっていた。それらが全て一つに繋がっているとしたら、あの遺跡は村を丸々はめ込んでもなお余る、とんでもない広さを持っていることになる。

しかし、遺跡の奥まで入れた者は、アトラスたちの他にはいなかった。祭壇の扉のように、光の矢で破れた所から中へ這入り込めたとしても、すぐに別の扉で行く手を阻まれてしまうというのだった。

明日は扉の見付かっていないクレーターの確認と、崩れた祭壇の崖の掘り起こし作業に力を入れようと決めて、その日の捜索隊は解散した。


その晩、アトラスは灯りを消して横になった後も、ずっとアーティーのことを考えていた。

アーティーが何かと村の皆から姿を隠したがる理由が分からないし、あの遺跡の奥に一人で居続けなくてはならない理由がある様にも思えない。イアは


「きっと誰にも言えない、アーティーなりの事情があるのよ」


と言って諭したが、それでもアトラスには納得がいかなかった。

何か問題があるのなら、相談して欲しい。自分も何か一つでもアーティーの力になりたい。

しかし、そうやってアーティーのことを案じて悶々とするアトラスのことを遂に見兼ねてイアは、


「アトラスはどうしてそんなにアーティーのことを信じられるの?」


と訊ねた。それを聞いたアトラスは思わず跳ね起きた。

一瞬、イアが空の上に連れて行ってもらえなかったことを根に持っているのかと、アトラスは疑ってしまった。しかしその眼は訝しむのではなく、不安と心配で満ちた、いつもの姉の目そのもので、そんな目で見られてはアトラスも、


「きっとアーティーが、僕たちを心配させまいと下手に取り繕おうとするのがいけないんだよ。そのせいで何だかかえって変な風になっちゃうんだ」


というくらいしか、返せなかった。

実際、別れの挨拶は最期の言葉のように聞こえた。それが何か本心を隠している、少なくとも100%純粋な心からの本音でないことは、アトラスも感じ取っていた。だからこそアトラスは、アーティーのことが心配でならないのだった。


次の3日間で祭壇跡の土砂は概ね、取り除かれていた。アトラスとイアの二人も、大人たちに交じって発掘作業に加わったので、破れた扉の中に這入ったのだが、なるほど、入ってすぐ目と鼻の先に新しい扉がそびえ立って、行く手を塞いでいた。当然、初めて入った時にはそんな扉はなかったのだが、後で聞けばあの日イアが一人で脱出する際にも、来た時に見た分かれ道に壁が出来ていて、通れないように塞がれていたという。どうやらあの遺跡の中はアーティーの意のままで、望まない者の侵入を拒むことくらいは朝飯前のことらしい。

発掘作業は一応、ということで扉の内側も可能な所まで行われた。滑らかな床と壁に神聖さを感じる人の多い中、しかし薄気味悪いと近付こうとしない者も少なくはなかった。

アトラスは全部大人たちにぶちまけてしまおうかとも思った。イアに相談すればきっと一緒に証言してくれるだろう。しかし、今更という気もしたし、大人たちを引き連れてアーティーの所に押し掛けても会ってもらえないような気がする。大人たちとアーティーを引き合わせられなかったら、自分がホラふき呼ばわりされるだけだと思って、アトラスはその案を少し雲の広がってきた空に投げ捨てた。


更に3日もすれば、村にはすっかり日常が戻っていた。

山の捜索は特に目新しい発見もないまま終了し、山中のクレーターで見つかった扉はそのままだが、祭壇の扉の周りは随分とすっきりとしたものだった。

いつもと変わらぬ空の下、普段と変わらぬ仕事に精を出す村人たち。

何の変哲もない昼下がりに、しかし村には珍しく来客があった。深緑のフードを目深にかぶり、上背のある背中を少し丸めて歩く姿は、やつれた修道僧に見えた。

客が村長の家に入って行くのをアトラスも興味深く見ていたが、やがて使いの者が来てアトラスとイアも村長の家に呼ばれた。

やって来た客は一番近くの街にある教会に所属する神学者だった。


「初めまして。マウロといいます。よろしく」


シャンと背筋を伸ばして握手を求めて来た彼は、村の中を歩いていた時とはまるで別人に見えた。フードを取った顔は意外なほど若々しく、声も優しいながらも活力に満ちていた。

二人と握手を交わし、テーブルの向こうに掛けたマウロが目くばせすると、村長は頷いて部屋を出て行った。部屋に3人きりになったところで、マウロは話を切り出した。


「私は教会の指示で先日の異変について調べに来たんだけど、聞けば君たちはまさにその時、祭壇の傍にいたというじゃないか。その時にあったことを是非、聞かせて欲しいんだ」


その話にアトラスは思わずイアと顔を見合わせる。

それを見たマウロはにこやかに言ってのけた。


「大丈夫。ちょっとくらいいけないことをしてたって、誰も怒らないよ。3人だけの秘密だ」


唇に人差し指をあてて悪戯っぽく笑ってみせるマウロを前にして、イアとアトラスの二人はただ困惑するのだった。

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