第五話
あれだけ叫んでいたというのに、小夜はもう何もなかったかのように朝食の支度にとりかかる。
その間、白妙と権蔵は膝を突き合わせて話をしていた。
「ほ、本当に、本当にあの白蛇神様なのですか......?」
「くどい!! 何度言わせる気だ?」
何度も聞き返す権蔵に白妙は少し、いや、大分呆れていた。
「我はこの神楽坂神社に祀られている白蛇神、白妙である」
「あ、あぁ......まさかこの目でお目にかかれる日が来ようとは......光栄です!!」
権蔵はあまりにも神々しい白妙に手を合わせながら涙する。
しかし、権蔵には疑問が一つあった。
「それにしても......何故急にお姿を現したのでしょうか?」
「ん?あぁ、それは......」
「あああああ!! ご飯できたよぉ!!」
「む。小夜、そなた自分のやったことを隠すつもりか?」
「う......」
権蔵はそのやり取りを不思議そうに見ていた。
"隠す"とは一体どういうことなのだろうか?
「権蔵。そなたの娘は我の依り代を倒したのだ。それにより我は目覚めたと言うわけだ」
「ハァ?! 依り代を?! 倒した?! 小夜、一体どういうことだ!!」
「ま、まあまあ落ち着いて。そのお陰で白妙様にお目にかかれたんだからさ!」
権蔵は頭を抱えた。
落ち着きのなさは昔からあったとはいえ、まさか依り代を倒すとは......。
「それにしても、そんなに騒ぐことなの?昨日まで像だったんだよ?」
「その像が依り代、神様だったんだろうが!!」
「そっかぁ」
「納得するな!!」
小夜と権蔵が親子漫才を繰り広げていると、白妙はため息をつきながら呆れた。
「......騒がしい親子だな」
「いつものことだ」
そんな白妙に、兎月が笑いながら答える。
「そ、そんな事よりご飯できたよ? 冷めないうちに食べよう?」
「......まったく。お前はマイペースにも程がある。大体なぁ......」
「あーもー!! ごめんなさーい!! ほら!! ご飯ご飯!! ――神様と守護霊ってご飯食べるの?」
「必要はないが食べることならできる」
「小夜のご飯?! 僕も食べたいぞ!!」
兎月の言葉に、小夜は嬉しくなり、二人の分のご飯も用意しておいてよかったと思った。
具沢山の味噌汁のとてもいい匂い。
それに焼き鮭にふわふわの玉子焼き、ほうれん草のおひたし。
朝からバランスのとれた、豪華なメニューだ。
これがいつもの神楽坂家の朝食だ。
「僕、ずっと小夜のご飯食べてみたかったのだ!!」
「本当?」
「そうだよ!! いつも権蔵と透が食べてるの見てて羨ましかったんだから!!」
「......飯というのはいつぶりだろうか」
「白妙様はずっと像の中にいたんですよね?」
「そうなるな」
「......もう何百年も食べてない、とか?」
「そうなるな」
「えぇ!!」
小夜は目をまん丸くした。
「それなら!! いっぱい食べてください!!」
「神に飯を勧める人間がどこにいる」
「ここにいます!!」
そんな会話をしながら皆で朝食を囲む。
「さぁ、皆。手を合わせて。」
小夜が両手を合わせる。
「いただきます!!」
「「「いただきます」」」
朝の神楽坂家に、四人の声が響いた。




