第十六話
小夜は寝付けないまま朝を迎えた。
真夜中の兎月の姿......忘れることが出来ない。
この小さく愛らしい子供の姿からは想像もつかない美しい青年の姿。
美しい仕草。
そして――。
今思い出しても、ドキドキする。
「ふわぁ......小夜? おはよう!」
「お、おはよう......うーちゃん」
いつもと変わらない兎月の様子に、小夜は少し安堵する。
「さ、さぁ! 今日も朝のお務めしなくちゃね!」
「小夜」
「ん? なに? うーちゃ――」
チュ。
「?!」
突然、頬に柔らかい感触。
小夜が目を丸くすると、兎月は満面の笑みを浮かべていた。
「夜中のこと、忘れてないぞ!! 僕はいつでも小夜を想っているからな!!」
「......う、うん」
『愛してるよ、僕の小夜』
昨夜の兎月の愛の囁きが耳にこびりついて離れない。
顔が熱くなる。
まともに兎月の顔を見ることができない。
「小夜?」
「う、ううん! なんでもない! 着替えるから、先に居間に行っててくれる?」
「分かった!」
兎月はベッドからぴょんッと降りると、小夜の部屋から出て行った。
小夜はその姿を見て安堵する。
これ以上二人きりでいると......なんだか落ち着かない。
――これから、どうやって兎月と接していけばいいんだろう......
小夜はそんなことを考えながら巫女装束に着替え、兎月の待つ居間へと向かった。
「さ、小夜!!」
階段を降りると、兎月が名を呼びながら駆け寄ってくる。
「うーちゃん? どっの?」
「いいから早く! 来てくれ!!」
兎月に手を引かれながら居間に入ると、そこに広がる光景に目を見開き絶句した。
「な、なに、これ......」
「んー?なんだ......?小夜か......?」
「し、白妙様? この有様はなんですか?! 一体何本空けたんですか?! って、酒くさっ!!」
「神に向かってその態度......。躾が必要か......?」
「も、申し訳ございません!! ほら! お父さん! 起きて! 朝のお務めがあるでしょ!」
権蔵は空のお酒瓶を抱えながら眠りについていた。
それを小夜は必死に起こす。
ゆさゆさと揺さぶられ、権蔵はやっと目を覚ました。
そして辺りを見渡すと、顔をサァっと青ざめさせた。
「し、白妙様!! 申し訳ございません!! 酒の酔ってとんだご無礼をしたのでは......?!」
「いや、大丈夫だ。我こそすまなかったな。なんせ酒を飲むのは久々だったものでな。なかなかに楽しめたぞ?」
よくよく見ると、白妙も酔いが残っているのか顔が赤らみている。
そして抱えていた酒瓶を床に置くと、立ち上がり、思い切り伸びをした。
流石神様とでもいうのか。
二日酔いはしていない様子である。
「さぁ、小夜。そなたも今日はしっかりと巫女として務めをするように」
「......」
「なんだ? その目は?」
「いえ、残念な神様もいるものいだなぁ、と......」
小夜は思わず、思ったことを口を滑らせた。
放った言葉は取り消すことは出来ない。
白妙の眉がピクリと動く。
「我、神ぞ?」
「ふひまへん......」
白妙は、小夜の白く柔い頬をつねった。




