黄昏時の音楽室
放課後の音楽室は、西日が灰紫色の影に沈んでいた。
ピアノの鍵盤が、冷たい空気を微かに震わせている。
泰代が譜面台に寄りかかり、
その鋭い視線を僕たちに投げかけてきたのは、ちょうど街のチャイムが遠くで鳴り響いたときだった。
「ねえ」
泰代の声は、低く、どこか値踏みするような響きを含んでいた。
「前から気になってたんだけど。
聖ちゃんはともかく、なんで乃雅まで男子部から女子部へ編入することになったの?
先生たち、あっさりと認めすぎじゃない?」
その問いに、まず動いたのは俊だった。
俊は鞄から一通の厳封された封筒を取り出し、
グランドピアノの上に滑らせた。
「理由は簡単だよ。
既存の社会システムを納得させるには、
客観的な説明があれば足りる。」
俊の声には、感情の起伏が一切なかった。
「これが僕の、医師からの意見書だ。
教育環境への配慮――
「……僕は、」
聖が、小さく丸めた肩をさらに縮めるようにして呟いた。
制服の裾を握りしめる聖の指先は、白く強張っている。
「僕は、ただの変更じゃない……。
授業中、下腹部が引き裂かれるみたいに痛むんだ。
調べたら、僕はXX染色体を持って生まれていた。
子宮も卵巣もあった。
男子部の制服を着ることを拒むように、
内側から悲鳴を上げていたんだ」
俊の持つ「診断書」。
聖の持つ「XX染色体と腹痛という肉体的な必然」。
二人には、女子部へ籍を移すための、完璧で論理的な理由が存在していた。
「――じゃあ、乃雅は?」
泰代の視線が、今度は僕の平坦な胸元へと移動した。
「あんたには、俊のような書類も、聖ちゃんのような染色体のエラーもないんでしょう?
なんで『女の子の器』に入ることを許されたの?」
先生は僕に言ったんだ。




