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泰代の乃雅「スイッチ」

事故のあとに残された“沈黙の領域”。


外から見れば、

ただの平坦な皮膚の面。

縫合痕が一本、

薄く走っているだけ。


けれど泰代は、

その沈黙の奥に

わずかに残された“反応の回路”を

誰よりも正確に知っていた。


「ここだよね、乃雅。」


その声は、

責めるでも、甘やかすでもなく、

ただ事実を確認するような静けさを帯びていた。


乃雅は息を呑んだ。


泰代の指先が触れたのは、

股間の平坦な皮膚の奥——

事故のあとに残された、

わずかな硬さと温度の変化だけが

かろうじて“そこに何かがある”と知らせてくれる場所。


男の形は失われている。

女の構造もない。

ただ、

外界から切り離されたような沈黙の組織が

ひっそりと残っているだけ。


その沈黙の中心に触れた。


「乃雅くんの身体、

 ここだけは……ちゃんと応えるんだよね。」


言葉を返せなかった。


ただ、

身体の奥に眠っていた“回路”が

一瞬だけ目を覚ますような感覚。


それは、

泰代の方がよく知っている反応だった。

その反応を確かめるように

指先の圧をわずかに変えた。


「大丈夫。

 怖くないよ。」


その声は、

身体の“沈黙”を理解している

唯一の声だった。


自分の身体が世界から外れていることを

ずっと恐れていた。


けれど、

泰代の指先に触れられると、

その“外れ”が

まるでひとつの“形”として

認められたような気がした。


「乃雅くんの身体は……

 壊れてなんかないよ。

 ただ、世界の型に合わないだけ。」


その言葉は、

胸の奥に

静かに沈んでいった。


二人の身体は、

どちらも“完全”ではない。


けれど、

その不完全さが重なるときだけ、

世界のどこにもない

新しい輪郭が生まれる。


「今度は乃雅がするの番だよ!」


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