婚姻届け
泰代は聖が妊娠したと聞いたとき、
胸の奥がきゅっと縮んだ。
「……やっちゃったの?
相手は誰?」
聖は静かに答えた。
「乃雅だよ」
泰代の声が震えた。
「乃雅に……してもらったの?」
声が震えているのがわかった。
でも、
「未来を授かった」という事実 が、
泰代の胸を刺した。
(……羨ましい。)
自分には子宮がない。
卵巣もない。
妊娠できない。
それを受け入れてきたつもりだった。
でも、
聖の身体が未来を宿したと聞いた瞬間、
胸の奥の“沈黙”がざわついた。
(私も……未来を抱きしめたかった。)
泰代はその感情を隠すように、
静かに息を吐いた。
(でも……これは四人の未来。
聖だけのものじゃない。
私も、その未来を守る役目がある。)
羨望と痛みと、
それでも未来を祝福したい気持ちが、
泰代の胸の中で静かに混ざり合っていた。
聖が妊娠したと聞いたとき、
俊は笑おうとした。
「……そっか。
よかったね。」
でも声は震えていた。
胸の奥で、
言葉にならない不安が膨らんでいく。
(……乃雅ちゃん、
僕のこと、もう必要ないのかな。)
俊は自分の身体を“選んで”作り替えた。
乃雅の空白を羨み、
泰代の内側を羨み、
聖の逆転を羨んできた。
でも、
未来を宿したのは聖だった。
(僕は……
乃雅ちゃんにとって、
“未来を作れない身体”なんだ。)
その事実が、
俊の胸を静かに締めつけた。
そんな二人の前で、
聖はふいに言った。
「でもね、ここに“裏切り者”がいるの。」
乃雅が息を呑む。
「乃雅が決断できなかったから、
私は、自分で“未来を選んだ”の。」
乃雅の顔は蒼白になった。
「……聖……」
聖は机の上に一枚の紙を置いた。
婚姻届け。
「俊。」
俊が顔を上げる。
「知ってるよ!
乃雅のお嫁さんに成りたくて、手術までしたんだよね?
戸籍はまだ“男”のままだけど。
このまま独身でいたい?
それとも……私と結婚する?」




