俊のダイレーション
新栄町の部屋は静かで、
時計の秒針の音が胸に刺さるようだった。
俊はベッドの上に器具を並べ、
深く息を吸った。
手術後の身体は、
まだ新しい境界を覚えきれていない。
触れるだけで緊張し、
ダイレータを少し動かすだけで痛みが走る。
俊は仰向けになり、
膝を立て、
ゆっくりと呼吸を整えた。
「……大丈夫。
これは
僕の身体を守るため。」
声に出すと、
少しだけ勇気が湧いた。
器具を手に取る。
手が震える。
恐怖が先に来る。
(……痛いのはわかってる。
でも、やらなきゃいけない。)
器具が身体に触れた瞬間、
俊の背中が反射的に跳ねた。
「っ……!」
痛みではなく、
“拒絶”の感覚。
身体が固く閉じてしまう。
呼吸が浅くなる。
喉が乾く。
俊は目を閉じ、
ゆっくりと息を吐いた。
(落ち着け……
落ち着け……
僕はできる。)
少しずつ、
ほんの数ミリずつ、
器具を進める。
痛みが走る。
でも、
それは“壊れる痛み”ではなく、
“生きている痛み”。
俊は歯を食いしばり、
額に汗が滲むのを感じた。
「……っ……は……」
声が漏れる。
涙がにじむ。
位置に届いたとき、
俊は大きく息を吐き、
天井を見つめた。
胸の奥が、
静かに痛んだ。
でもその痛みは、
孤独の痛みではなく、
“自分で自分を守れた”という証の痛みだった。
俊は目を閉じ、
ゆっくりと涙を拭った。
(……大丈夫。
僕は生きていける。
この身体で。)
俊は、
自分の身体と向き合った。
それは痛みと、
同時に、
俊がひとりの人間として
“立ち上がった”。




