乃雅の鎧
蛍光灯の光に晒された、鎧だった。
(あの、血の滲むような練習)
脳裏の、あの自宅の浴室の白い湯気と、鼻を突く医療用接着剤の匂いが急速に立ち上ってきた。
――それは、事故から数ヶ月が経った頃の記憶。
「男の子らしく立つんだよ。しっかり狙いを定めなさい。」
浴室の洗い場、タイルの上に立たされ。
背後には、僕を見下ろす母。
恥丘から会陰の縫合痕にかけて、ねっとりとした冷たい医療用接着剤が塗布される。
「くっ……痛い、痛いよ……!」
エピテーゼの内部に仕込まれた細いゴムの管を正確に尿道に誘導し、
前方向へと尿をコントロールする。
「……っ、」
下腹部に力を入れ、括約筋を緩める。
しかし、最初からうまくいくはずがなかった。
排泄の圧力に耐えかねた熱い液体は、
エピテーゼの管を通る前に、
接着面のわずかな隙間から一気に横漏れを起こした。
「ああっ!」
温濁たる尿が、接着剤を溶かすようにして、
乃雅の太腿の裏から足元へと惨めに流れ落ちる。
「ダメだ、こんなんじゃ小便器の前に立てないよ。
もう一回、もう一回やり直しだ!」
何度も剥がされ、溶剤を塗り、また貼り付けられる。
恥丘の皮膚は赤くじくじくと爛れ、下腹部は不随意な痙攣を繰り返した。
母は。
「もうあきらめたら、お母さんは子供の時から座ってしてるわ。
こっちの座ってするのにしようか?」
母がケースから取り出したのは、座ってするタイプのエピテーゼ。
乃雅の、あの『空白』にある尿道口の位置に噛み合うよう設計された、人工物。
外見的な「男の象徴」として造形された、座った姿勢で尿道口から排泄できる器。
「これならね、乃雅。
あなたの尿道口にぴったり合うから、
横漏れもしないし、
お肌が爛れることもないのよ。
女の子みたいに、
ただ座って、静かに流せばいいの」
外では男の象徴としての鎧を、内では座位用の鎧で女になることを静かに促される。
ただ『男であること』を証明するためだけに、皮膚を血で滲ませながら偽物の鎧を貼り付け続けたのだ。
それ以来『鎧』により砦は守られた。
ピアノの前で泰代は、
泰代がその鋭い視線を『空白』へと移した。
「――じゃあ、乃雅?」
泰代が一歩、僕との距離を詰める。床の木目がギィと小さく軋んだ。
「あんたのお股は、どうしてそんなことになっちゃったの?
どうして、何もない『空白』になっちゃったのよ」




