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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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008 迷宮へ突入

 次に目を覚ました時、太陽はもう真上まで上がっていた。

 なんて言うか、枕が最高過ぎた。【爆睡】の名を持つだけはある。

 その名の通り爆睡してしまったよ、まだ日がある内に眠ってこんな時間まで……いやはやまったく……ハッハッハ…………じゃねーよ!!

 雑魚寝にも関わらず恐ろしい程良いの寝心地に俺は約二十時間も眠りに着いていたようだ。


 一見シンプルな外見のそれは、天使の翼の上で眠っているような心地にさせてくれる魔性といっても遜色ない睡眠効果を発揮させていた。

 昨日、急に動かなくなった体が心機一転、電池を入れ替えたロボットのように元気な動きを見せている。


 兎にも角にも起きたのなら行動に出よう。

 朝飯はカレー風味の野菜炒めとパン。……調味料を入れ忘れてるよ、俺。

 カレールー入れてる暇あったら調味料とか米とか持つべきものはもっと他にあると思うんだ。


 正直、ここまで来たらカレーでもいいんじゃないかというメニューだが、米無しではどうしても作る気力は起きなかったし、何より時間が掛かる。

 煮込みものは朝やるべきでは無いのだ。


 昨日、結局パン一個しか食べられなかった俺の腹は盛大に自己主張しているし、やる事もある。

 時間をかけて料理なんてしている暇は無い。


 …………って、料理は出来るんだな。



 閑話休題。今はさっさと食べてさっさと出かけよう。



「いただきます」



 そう言って手を合わせた後、箸で野菜炒めを口に運びつつ、手でパンを食すというヘンテコな食事を始める。

 俺は早々に野菜炒めで栄養を摂取し、パンで空腹を掻き消す。

 正直な話急いで作ったから味見もしてないし、味を重要視はしていなかったが、野菜炒めを口にした俺の手は震える。



「こ…………これは……!?」



 個人がどうやって固形化したのかは分からないが、このカレールー美味過ぎる。

 保管方法から市販の物でないことは明らかだが、その味は天下一品。

 野菜炒めの味付け代わりに使ってしまったことを後悔させられるような絶品で、俺は唖然とし、そして安堵する。


 唖然とした理由は言わずもかなだが、安堵した理由は単純にカレールーを少量しか使わなかったことだ。

 元々、鞄の中に入っていたとは思えない鮮度を保っていた野菜で、薄味を好むらしい俺の味覚から調味料代わりのカレールーはそれ程使わなかったのだ。


 元々お湯に溶かして使うものだし、そうじゃなくても少ししか使わなかっただろうが。

 だがしかしこれは早急に新たな野菜と、もっとも重要な米を入手し、美味しいカレーを作らねば。

 その際にはエンゼルにおすそ分けしようか。

 ただ、問題があるとすれば俺がエンゼルの所在を知らないと言うことだが……どうにもエンゼルは有名人らしいし探せば見つかるだろ。



 …………。ハッ!

 カレーのことを考えながら朝食を楽しんでいる場合では無かった!

 いや、俺の感覚では朝食だがもう昼食か?


 兎にも角にもそんなことをしている時でないことは確かだ。

 俺は早々に野菜炒めとパンを胃へ押し込め、二秒で顔を洗うと『まだ足りぬ!』と自己主張するお腹に負け、パンを口に咥えたままで靴を履き、外に出た。


 外に出ると広がる風景はとても醜いものだから空を見て走ろうか。

 太陽だけは相も変わらず輝かしいその姿を世に晒し続けていることだし、それによって生まれる青空もまたよし。


 朝から朝帰りのケバイ女とか見た日にはテンションだだ下がりだしな。


 まあ、今は昼だしそういう奴は多くも無い。

 さてまずは免許を受け取りに行かなければいかないから役所へ寄らなければならない。


 何時頃出来るとか言ってなかったが、もう出来ていると良いんだが。


 取り敢えず、地理に詳しく無い俺は路地をグニャグニャ曲がり、昨日エンゼルのナビで使った道を伝わなければ役所へはたどり着けない。

 何故エンゼルはこうも右往左往したのか分からないが、今は良い。


 昨日は歩いたが今日は走っているし、早いうちに辿り着けるだろ。


「んぉ!?」


「………………」


 そう思っていた俺は、路地で衝突事故を起こす。

 つまりは人にぶつかった訳だが、俺は盛大に後ろへ倒れてしまいながらも宙を舞った食べかけのパンを口でナイスキャッチし、よく噛んで飲み込む。


 そうして漸く、遅れながらにぶつかってしまった相手に問う。


「すまない、大丈夫か」


 と。

 ぶつかった側が弾き飛ばされている時点で向こうさんが大丈夫なのは分かっているが、一応でも加害者は被害者に対し安否の確認をしなければいけないものだ。


「…………。………………」


「はぁ、まあ俺は大丈夫ですけど」


 何と無く敬語になりつつ、俺は立ち上がる。


「………………。………………」


「え、体に異変とかは……空気感染とかするウイルスを体に持ってるんですか?」


「……」


「違う。あそう。……俺、千壌土久遠って言います。アンタは?」


「…………。最強……さん」


「強そうですね」


「………………。…………」


「そうかな、でも少なくとも苦水を飲まされることは無いでしょう?」


「…………」


 ぶつかったのは、俺より背の低い少年風の男だった。

 長い前髪で顔を隠し、俺も人の事は言えないがこの季節にTシャツ短パンという涼しい恰好。

 肌は白かった。血色が悪いと言う訳では無く、白人以上に白いまるで雪の様な肌をしていた。

 前髪が顔を隠しているせいか全体的に暗いイメージがあるが、結構普通に喋る。



「最強さんって歳幾つ?」


「………………。……」


「マジで!? その外見なのに!? 俺も見た目若いけどそこまでじゃないわ」


「………………」


「俺? 俺は十九歳」


「………………。…………」


「むしろ老けてる……だと!?」


 いやそれは流石に始めて言われたわ……多分。

 この外見で老けてるだなんて…………ってこんなことしてる場合じゃねぇ!?


「すまない最強さん! 俺これから行くとこあるんでこれで失礼します!」


「………………。………………。……………………」


「また今度! 時間がある時にでも」


「……。……………………」


 俺が再度走り出すと、最強さんはそんな俺の姿を後ろでジッと見つめ続けていた。

 兎にも角にも、数々の寄り道を乗り越え役所へ辿り着いたのはそれから一時間が経過してからのことだった。

 昨日の職員にダンジョン入場に必要な免許を受け取り、ついでにダンジョンの場所を聞き出した俺は、早々に再度駆け足で街を突き抜ける。


 周囲には(俺の外見年齢であるところの)一五歳位の子供が街を走る姿にしか見えていない。

 どうやら今の俺の辞書には歩くと言う単語が欠落しているらしいから、仕方が無い。


 ダンジョンを見てみたい。

 これから嫌と言う程見ることになるだろう場所だというのに、何故だかワクワクが止まらない。


 ダンジョンに近付くにつれて人層が変わって行くのを確かに感じつつ、俺みたいな軽装の人間がかなりすくなくなってきた。

 周囲の目は俺をおのぼりさんと見ている様だが、バリバリ生き残ってやるからそのまま見とけって話だ。

 ダンジョン入口まで来ると、武装した女性が近寄ってきて引き返すことを進めてきたりもしたが、何故か周囲の目が痛かったのでむしろそいつから逃げる。

 見た感じ、ダンジョンに一人で乗り込むのは極少数といった感じで、一人寂しく佇んでいるのは俺一人で、他は数人でチームを組んでいるようだった。


 何の予備知識も無いこの状況、一人で乗り込むのではなく何処かに入れて貰うのが最前だろうとはその場の雰囲気から読み取れる。



 だ が 俺 は 行 く 。

 一人で。



 ダンジョンは、石造りの超巨大建造物と称するに他ない大きさだった。

 形としては塔に近いだろうか、その高さは東京スカイツリーすら凌ぐのではないかという程に高い。

 無論、横にも広い。

 横だけでドーム何個分の大きさなんだろう。全体像を見れば確かに塔だが、小さな人間からしてみればこれは壁と言っても遜色ない。


 さて、そろそろ入るとしよう。

 事前の調べが無いからこそ道への探求という最高の調味料で味付けされたモチベーションがあり、周囲の『また一人死亡決定』という目が俺にダンジョンという世界に期待を膨らませる。


「ライセンスを拝見します」


「ほい」


「初挑戦ということで、一階からのスタートでよろしいですか?」


「おうともさ」


「以降はクリア階層を自由に行き来することが可能になります」


「了解」


「……各フロア事にちゃんと外に出られるから、ちゃんと生きて帰って来てね?」


「あいあい」


 最後、身を案じる言葉を受けた後、俺はダンジョンへと入る。

 出入り口となるであろうそこはまるで真っ黒い水面下のようで、手で触れて見ると波紋を立て、実際水に手を突っ込んでいる感覚を感じながら全身をその中へと突っ込んだ。


 そんな疑似水中は目を瞑る間も無く一瞬で終わり、それを抜けた俺の視界に入るのは、冒険心擽られる石造りの遺跡だった。

 ダンジョン内は火以外の灯なんて無く、薄暗い。

 ゴースト系でも出たらリアルお化け屋敷の出来上がりだろうその雰囲気は、遊び半分の人間を即退場させてしまうようなものだった。


 職員の言っていた遊び半分の連中というのは恐らく、複数人で入ったのだろうな。

 お化け屋敷感覚で奥へと進み、ロクな準備もしてないから滅多打ちにあったとか、多分そんな感じだろう。


 または男がイイカッコしようとしたせいで女が巻き添え喰らったとか?

 おもっクソ自業自得だから何とも思わないが。

 まあ兎にも角にも先へ進もう。

 取り敢えずはレベルを上げたいところだが、金になる物も集めなければいけないだろう。

 俺は鉄の剣を片手に持って、警戒しながら進む。


 一階の魔物はどんな奴がいるのだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、そいつは姿を現した。



 ゴブリンLv18



 ……貴様か。

 例によって頭上にある緑のゲージをゼロにすればいいのだろう。

 仕組みさえしっていればリーチの短いこいつから攻撃を受けることはそうそうない。

 俺が鉄の剣で三度ゴブリンを斬り付けると、ゴブリンのゲージは一気にゼロになった。



 ゴブリンの棍棒 ☆1



 またコレか。

 表示に前とは違い他の道具と同じ星が付いている。

 予想出来るのはインテリジェンスカードを飲んだお蔭ってこと位だが、今それは置いておいて良いだろう。

 それより……。



「……前より弱い?」


 昨日ゴブリンと戦った時は連撃を食らわせないとゴブリンは倒れなかった。

 レベルでいうならむしろ前より一つ上だというの何故こんな簡単に倒すことが出来たのか。


 …………あ。


「グレイプニルか!」


 確かコレにはステータス二倍とかいうスキルが付いていた筈だ。

 どうやら武器として使わずとも身に着けているだけでその恩恵を受けられるらしい。


 これなら思ったよりレベル上げがスムーズに行くかもしれない。



「よっし、この調子でレッツゴー!」


 なんだ、もしかすると順当に奥へ進めるかもしれない。



 そう思っていた時期が、俺にも有りました。




 ゴブリンLv11


 ゴブリンLv12


 ゴブリンLv13


 ゴブリンLv12


 ゴブリンLv12


 ゴブリンLv10


 ゴブリンLv10


 ゴブリンLv11


 ゴブリンLv14


 ゴブリンLv11


 ゴブリンLv17


 ゴブリンLv15


 ボブゴブリンLv19




 ねえ知ってる? ボブゴブリンって小人(ゴブリン)の癖におっきいんだよ。


 モンスターハウスだ!


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