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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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009 聖剣と魔物部屋

 事の初めは広い場所を見付けた時の事だった。

 一番最初に遭遇したコブリン以降、人、魔物共にエンカウントすることも出来ず、剣で石の壁に傷をつけたりしながら進んでいた時、別の所より明るい場所を見つけたのだ。

 何かしらの変化が起きるだろうことを期待しその中へ入ったのがそもそもの間違いだった。

 行ってみるとその部屋の中央に、宝箱を発見した訳だ。


 何時もなら喜んだはずなのに、ずっと薄暗い中にいたせいか情緒不安定になっていたらしい俺は期待していた魔物では無いそれに癇癪を起こし、八つ当たりが如く宝箱を蹴り飛ばしてしまった訳だ。


 宝箱は簡単に吹っ飛んだ。

 なんせ中身が空だったからな、その名の通り宝箱だけ。

 蹴っ飛ばした拍子に鍵の掛かっていない宝箱が開き、次の瞬間宝箱からは無数の刃が飛び出し、ウニと化した。

 要は罠だったんだよ、罠。


 危ねー、でも助かった。そう思ったのもつかの間、今度は警告音を連想させられる大音量サイレンが部屋内に鳴り響く。


 結果、ゴブリンわんさか。


 全っ然助かって無かったわ。

 罠は二十に仕掛けが張ってあったのだ。

 万が一串刺しにならなくても魔物達を呼び寄せて確実に仕留められるようにしてあったのだ。


 閉まる逃げ道。

 迫る魔物達。



 詰んだだろコレ。



「……まあだからと言って、黙って殺される通りはない、けど!」


 俺は一番身近な、先頭切ってやってきたボブゴブリンのでかい腹目掛けて鉄の剣を振るう。

 バキンッという何かが割れた音が部屋の中に鳴り響く。



「…………」


 手元の鉄の剣を見る。


「フー……フー……」


 待ってくれている。


「…………」


 刀身の約半分が無くなっている。


「フー……フー……」


 待ってくれている。


「…………」


 鉄の剣が折れている事を理解する。


「フー……フー……」


 待ってくれている。


「…………」


 鉄の剣を持つ手がカタカタと震え始める。


「フー……フー……」


 待ってくれている。


「…………」


 嫌な汗が滝の様に流れ始める。


「フー……フー……」


 待ってくれている。


「…………」


 ボブゴブリンの方に目を向ける。


「フー……フー……」


 待ってくれてい「どっせぇぇぇぇぇぇい!」



 ヤベェェェェェェェェ!? 詰んだ。詰んだだろコレェェェ!

 俺はゴブリン達の呼吸音しか聞こえぬ静寂に終止符を打つような大声を出しながら、ボブゴブリンに折れた鉄の剣を投げつけた。


 それを引き金にして、ボブゴブリン達は一斉に俺へ襲い掛かる。

 部屋の中は、通路よりは広いと言えども沢山のゴブリンが居る中では関係無かった。



 密室での物量戦。

 武器無し。

 逃げ場無し。


 本気で詰んだ。

 俺は必至で、気付くと一番レベルの低いゴブリンより棍棒を奪い取り、その頭部を強打していた。

 魔物相手に個の細腕で筋力重視の鈍器を使った戦闘。

 無謀としか言いようがない。そんなことを考える今も、前だけでなく横から後ろから、ゴブリンが迫りくる。



 そして、十回位棍棒をゴブリンの頭に強打したところで気付く。

 ゴブリンのゲージが全く減っていないことに。


「何で減らない!?」


 まさか魔物が使っている武器じゃダメージを与えられないのか!?

 変動する気配すらないゲージに俺は棍棒を後の敵にぶつけ、その頭を踏みつけて壁の方へ逃れる。


 背を取られるのは拙い。

 壁を背にくっ付けながらカニ移動する俺をゴブリン達は追う。

 俺に踏みつけられたゴブリンには微量ながらゲージの変動が見られるところを見ると、やはり棍棒を使って相手にダメージを与えることは叶わないようだ。



「なら……コイツでどうだ!」


 取り出したのは、前回の戦闘で手に入れたゴブリンの棍棒。

 所有権が移っているこれならダメージを与えることも叶うのではないか。


 そう思って一番近いゴブリンに叩き込んだが、駄目だった。

 先程と同じ様に、ゴブリンのゲージに変動は無い。

 もしかして、武器じゃないもので攻撃しても魔物達を倒すことは出来ないのか?


 いや、ゴブリンの棍棒は見た目武器だが、そういうことではなく。

 何というか、法則性に基づく縛りが存在するのではないかということ。


 生死を決めるゲージなんてものが存在する位だ。そんなのがあってもおかしくはない。

 おかしくはないが……だとすると状況は最悪だ。



 今現在、黒剣リットゥは使えない。

 正確にいうのなら、使ったら遅かれ早かれゲームオーバーになる可能性が高い、といったところだ。

 どうにもアレは酷く魔力を消費するらしく、今の俺だと炎はもって十秒。

 昨日俺が倒れたのはどうやらそういう理由らしかったことを、俺は何と無く知った。

 魔力が尽きてしまうと、俺は昨日の様にまた倒れてしまうだろう。


 そうなれば例えここを切り抜けてもいずれは魔物の餌食だ。

 普通に短剣として使うには強度の不安がある。

 どうにもアレの素材が分からないせいで脆い物質で出来ていたらどうしようと考えてしまう。


 そんなことでは剣に力が乗らない。

 それなら拳で戦った方がまだマシだ。


 ただ、斬っていて、踏み台にしてみて分かったのだが。

 奴らの皮膚は固い。人間の二倍位。

 アレを素手で殴る。しかも相手はその皮膚だけでなくその上から鎧まで身に着けているのだ。


 ゲージを減らすことは叶うだろう。

 しかしどちらが先に力尽きるか、という戦いになることだろう。



 ……ま、それいしかないんだがな。


 無い物強請りをしても仕方が無い訳で、死なない為に何が出来るかって聞かれたらこいつ等殴り殺すしか無い訳で。

 そうなればもう結論なんて初めから出ているようなものだ。


 殴って、蹴って、頭突きして。

 ゴブリンを殺るしかない。


 そういや腕に、呪われた腕輪とかつけてたな。

 ふと、そんなことを思い出す。


 何でこんな物つけてるのかは知らないが、そういえばこれも俺の持ち物の一つだったな。

 一見ただのアクセサリーだっていうのに外れる気は勿論の事壊れる気すらしないってんだからコレって一体何なんだろうな?


「これが武器だったらな…………何だ!?」


 そんなことを考えて、腕輪の白い方に触れた次の瞬間、溢れんばかりの白い光が腕輪より溢れ出した。

 超目が痛い。


 そんなことを思う俺に視界が戻ってくると、その手に剣が握られていることに気付く。


 その真っ白な刃は未だ暖かな光を残し、武器にしては過剰装飾ともとれる綺麗な装飾が施されたそれが、俺のてに収まっていたのである。




 聖剣アロンダイトLv12 ☆(今現在)1

 スキル HP吸収 経験値二倍 Lv変動 サンライトアーツ 固有装備




 勇者の服があって、武器が無いことを不思議に思うのを忘れていた。

 そうか、外せない筈だ。


 勇者の剣が、そこにあった。


 ご都合主義顔負けの幸運だ。

 無論、記憶を失う前であったなら当たり前の様に最初から使ったのだろうが、今の俺からしてみれば正にそんな感じだった。

 襲い掛かるゴブリン達。

 俺は驚く間もなく開始した戦いの最中へ飛び込んだ。


 そして戦いは、蹂躙に変わる。



「一撃……!?」


 聖剣アロンダイトの攻撃は、一撃で一匹のゴブリンのゲージを根こそぎ持っていった。

 倒したのはレベル一七の普通のゴブリンの中では一番レベルが高かった奴で、それはつまり残りのゴブリン達も同様に一撃で屠ることが可能という事だ。

 そしてゴブリンが砕け散った後にゴブリンの棍棒はドロップしなかった。

 どうやら必ず出るものではないらしい。


 仲間の一匹が一撃で葬られたというのに、ゴブリン達は微塵も怯まなかった。

 まるで戦闘マシーンのように各個襲い来るゴブリン達を俺はまるで同じ作業を永遠と繰り返す様に倒していく。


 地面に落ちるゴブリンの棍棒が七個になった時だった。

 残すのはボブゴブリンだけになったのは。



「フー……フー……」


 今度は待ったなしだった。

 襲い掛かって来たボブゴブリンを俺は、攻撃を避けながらに切り裂き、聖剣アロンダイトは今まで同様に一撃で命を持っていった。



 ボブゴブリンの鎧 ☆1



 ボブゴブリンが砕け散った後に残ったのは棍棒では無く鎧だった。

 全てのゴブリンを倒し終えたからなのか、真ん中に宝箱が出現した。

 恐らく今度のは罠じゃない……と思いたい。

 俺はボブゴブリンの鎧を鞄に入れ、ゴブリンの棍棒も鞄にしまった。



 ゴブリンの棍棒【破損】 ☆1



 先程攻撃に使おうとした奴はどうやら壊れてしまったらしい。

 見た目はそれ程変わっていないが、別の使い方をすればこうなるのだろう。


 全ての収納を終えると、今度は宝箱の番だろう。

 またゴブリンが出てきても、聖剣アロンダイトがありさえすれば大丈夫だろうことは先の出来事で知った。

 だが刃は自分でなんとかしなければならないだろな、なんて考えつつ宝箱を開ける。



 皮の鎧 ☆1


 服 ☆1


 サンドイッチ【腐敗】 ☆1


 唐揚げ【腐敗】 ☆1


 鉄の剣 ☆1


 鉄の斧 ☆1


 銅の槍 ☆1


 オーディオプレイヤー ☆1


 非常ベル ☆1


 ワイヤー ☆1


 マッピングツール ☆1


 ゴブリンの棍棒 ☆1


 8930円



 宝箱の中身、それは宝とは到底言えない代物ばかりな理由は言われずとも何と無く分かった。

 食品類が例外なく腐敗し、服や鎧の数が武器の数と同じことや、遺跡の様なこのダンジョンに相応しく無い物が多く存在する時点で予想するのは容易い


「…………モンスターハウスの被害者の遺品か」


 十中八九間違いない。

 こんなものばかりでは当然の様に身元など分かる筈もない。

 使うのも躊躇われる……なんて言える程俺に余裕があるとも思えない。


 腐った食べ物を除く宝箱の中身は全て鞄に収めた。

 ついでに宝箱も。


 部屋があまりに殺風景だから、飾りに使うのだ。


「……さて」


 先へ進もう。

 目標は第二層。俺はモンスターハウスを後にした。

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