046 前途多難な再出発
2014/7/30 加筆あります。
少ないですが若干ストーリーに影響します。
第四層。
アリクイのようなフォルムに禍々しさと奇妙さを絶妙なバランスでミックスしプライスレスで不可思議さという名のスパイスがふんだんに使われている。
そんな魔物の巣食う相も変わらず薄暗い石造りの迷宮内で俺こと千壌土久遠は聖剣を振っていた。
アーリクイLv32
今まさに斬り捨てて、HPゲージがゼロになりガラスが割れたように砕け散ったのを確認すると俺は溜息を洩らしながらに聖剣をリングへ戻す。
「……やはり駄目か」
明智戦にて出来た聖剣と魔剣の同時召喚。
何故かは分からないが、あの後一回たりとも成功する事が無い。
無論、どちらか一振りずつならどちらも答えてくれるが、同時に剣にしようとするとどうしても上手く行かない。
そもそもあのよくわからない職業になる事も出来ない。
あの後見たら『勇者』に戻って居てどんなに頑張っても変更不可。
レベル表記もバグっていたし、アレは完全にあの場限りのモノだったのだろうか。
しかしその職業『久遠』。
俺の名前が付いたそれの持つ効果は絶大。
どうにも職業にはそれに見合った特性があるらしいことが少し前に分かったのだが、『久遠』はその中でもかなり上の部類に入るであろう効果を兼ね備えていた。
レベル概念無効。
レベル表記がバグったのはそれが原因であろうことは何と無く予想出来るその能力は、そもそもレベルを上げる意味を失わせるものに相違無かった。
つまりは職業を久遠に出来ればレベル上げの必要性をほぼ全て持っていくことも出来るのだが、残念ながらそれは叶わなそうである。
まあ、どうにも俺はこのレベル上げというのが嫌いでは無いらしい。
むしろ好きと言っても過言ではない。
強くなっていっているという実感が全身を満たすのは中々に快感であるのだ。
……だから記憶を失う前の俺は一体どんなキャラだったんだよ。
レベルが上がったのを確認した時にくる高揚感がそんな疑問を俺に持たせるが、まあそれも置いておこう。
やっぱり、脳筋だったであろうことだけは伝わってくるのである。
閑話休題。
俺が今日以前、最後に迷宮へ潜ったのは二ヵ月前のことである。
その要因となったのは主に二つ。
前までの廃れた街がまるで無かったことにされたかのように開拓されていく西区を監視していないと、何故か懐かれてしまった最早ゴリラに相違ない大猿集団たるランクモンキー達は事もあろうか区のど真ん中に『団長象』なるものを建設せんと行動を開始するからだ。
最初それに気が付いた俺は問答無用で未完だった俺象を圧縮、無駄に重い石の球を作り上げた後、こんなアホなことを始めたランクモンキー達へ説教という名の拷問に近い言葉を小一時間浴びせた。
……のだが、なんと団長象の建設という名の目論みは費えなかった。
二回目、次の朝起きると異様に纏わりついて来るCモンキー共に、これは何かある、と察した俺は即時Cモンキー共を撒き、撒く前にCモンキー達が俺を行かせんとした方向へ進撃、そこで見たのは町を作り出す何倍も時間を掛けて作り出さんとしている途中過程の石像(頭部のみ完成)が。
圧縮。
三回目、一週間後に、今度は何処となく俺を西区より追い出そうとする気配が見られたため、不審に思った俺はまたもCモンキー達を撒き、西区内を捜索。何時の間に造ったのやら、日が暮れた頃にようやく地下室の存在を発見。
中ではBモンキー達が石像(胸の辺りまで完成)を石より削り出し中だった。
圧縮。
その後五回に渡りそんなことが行われ、ランクモンキー達が漸く諦めた為に俺はここに居る訳だ。
ちなみに言わずもかなだが、俺がそこまで俺象の制作を阻止せんとする理由はそんな恥ずかしいモノを町のど真ん中に置かせない為だ。
例え今後、俺の居ぬ間にあいつ等が完成させたとしても俺は迷いなく圧縮するだろう。
そしてもう一つの理由、それはランクモンキー達より教わった神葬流が関わってきている。
これはスケートをやった次の日のこと、俺は数十匹のランクモンキー達と明智と対峙した時の反省会をして、俺が神葬流を“技名を言う事で心のスイッチを切り替え、反射による全自動で無理矢理に技を使っていた”なんてことがバレて猛説教。
元々七日だけの修行、神葬流はとてもじゃないが実戦投入できる代物では無かった。
ランクモンキー達は俺がリットゥを使ってあの状況へ持っていったものと考えていたらしく、話の中で神葬流という単語が出て来た時点で既にもう説教ムードだった。
あの状態で使うとかアホか。
死にたいのか。
『神殺し』使ってたら粉塵骨折は免れなかった。
というか多分ビル半壊。
え? 団長の力でも?
団長の力だからビル半壊で済む。
あ、それで禁じ手なのな、『神殺し』
おい。
一部、とんでもない言動が混じってはいるが、どうにも俺が明智に『神殺し』を使えなかったのは結果的に良かったことらしい、なんてのは説教する立場が逆転した時に知った。
なんて物を危険についての説明も全くなく教えんだ、おい、と。
閑話休題。
兎にも角にも、俺は神葬流を一々切り替えなきゃ使えない状態から脱却するまで実戦を禁じられ、毎日十二時間の猛特訓が行われた。
山での修行なんてまるで比べ物にならない程過酷なそれは、最初全くついていけなかった。
もう一昔前の漫画に置ける一段階を軽く超えるレベルアップでもさせられるような訓練。
実際にやると死ぬんだな、俺はこの二ヵ月でそれを知った。
神葬流を、一顧の技として使うのではなく当たり前に剣を振る流れで剣技を使いこなせるまでの道のりは本当に長かった。
いや、長い。
全然ゴールなんて見えなくて、漸くスタート地点に立った辺りだとランクモンキーは言う。
今の俺は神葬流を“知って振り回されているだけ”で、“知り付くし使いこなしている”というわけでは無い。
Bランクまでの技を知っている。
知っては、いる。
だが知ってるだけなのだ、それは書物と何等変わらない。
俺はCランクの技の中で、ギリギリ戦えるレベルになるであろうところまでは出来た。
使えるようになった技自体は二桁にも満たず、対人戦においては長期戦となるとまず勝てないであろうことが戦わずとも分かる内容だ。
それでも、そんな程度の腕でさえも、神を屠る剣技は力を発揮する。
この剣技を考えた奴は天才だと思う。
俺も色々な剣技を知っているが、ここまでのものは…………。…………?
あれ、いや、知らないな。
『こういう武術がある』ってところまでは分かるのだが、その内容が全く出てこない。
ど忘れとか、そう言う次元じゃなく、ぽっかりと穴が開いているかのように分からない。
何だ? 記憶が無いにしてもおかしな欠落の仕方だ。
これじゃまるで、戦い方のみを持っていかれたみたいじゃないか。
俺は首を振って、思考を止める。
どうにも俺の記憶喪失は何者かによるものである可能性があるようだが、記憶が無い以上今の俺にはどうしようもない。
……だが、真実を知ったその時は、絶対にどうにかする。
誰かにやられたなら復讐する。
どんな大義名分が存在しようとも、
どんな正義を語ろうとも、
必ず殺してやる。
「────ん? 何だこれ」
職業を久遠にするのを諦め、次に遭遇した『アーリクイLv33』をヴァナルガンドで捻じ伏せたのだが何時もアーリクイの落とす『アーリクイの鼻 ☆1』ではなく、別の物が落ちていたのである。
アーリクイカード ☆3
……本当に何だコレ!? その名の通りアーリクイがリアルに描かれたカードなのだけれどスキルも何も無く本当にただのカードにしか見えない。
よくわからないが、普通のドロップアイテムより明らかにレア度が高いのが気になる。
まあ、分からないモノは分からないモノでさて置いて、迷宮の中を廻り歩く俺を着け歩く者の存在に気付かない程俺が鈍く無いのは、今までの所業から読み取って欲しい物なのだが、如何だろう。
それは迷宮に来る前から感じていた視線であり、何故気付いた瞬間に対処しなかったのかと問われれば単純に悪意は感じられなかったからというのに相違無い。
『こちらスネ〇ク。目標に異常無し』
「お前何してんの」
毎度お馴染み何時でも何処でも鬱陶しいのが売りになりつつあるランクモンキーさんです。
わー皆、拍手は良いんで物投げでこの猿追い払って。
何故か頭部を段ボールで隠し、匍匐前進で此方を付けてきていたこいつは一体何をしたいのか。
そして今、何処にどうやって報告したのか。
『……待たせたな!』
「待ってねぇよ。帰れよ」
一蹴した。
一先ず、一蹴して、ため息を漏らした後に、いぶしげな表情を浮かべながら、本題に入る。
「お前、何してんの?」
『いやほら、団長まだ弱いし。もしもの時用の保険、見たいな?』
「激しく大きなお世話だから。お前は初御使いに隠れて突いて行く母親か」
『そうよ! 実はアタイ……』
「黙れ」
『いや最後まで言わせろよ! ボケ倒させろよ! 俺達の存在意義ってそれだけなんだぞ!』
それだけなのかよ。
どんな存在意義だよ。
『ぶっちゃけ出番無すぎて暇なんだぞ! さっさと上階行ってピンチになれよ!』
「お前言ってること滅茶苦茶だからな」
再度溜息が漏れてしまったのは仕方が無いことだとして、こいつが吐いた理由から見てどうにもランクモンキーってのは過保護過ぎるな。
その子供が物を使って訓練しているのを見てもそう思ったが、こいつ等の危機感って言うのは人間と遜色無いレベルで、とても野生の生物であるとは思えない。
まあ言語を理解して社会を形成しているのだから当然といえば当然なのかもしれないが、それでもこの巨体がそんなことをしていると違和感がある。
まあ危機から子供を命がけで巣食っている場面というのは結構容易に想像できるのだけれど。
アーリクイLv33
とかなんとか話しているうちに向こうさんからやって来てくれたのは、今の俺にとって幸運に相違ないだろう。
何故なら俺は、神葬流剣術を一秒でも早くモノにしなければならない状況を自ら作り出してしまったのだから。
『フンッ』
「あっ」
とかなんとか、剣を構えようとしながらに考えている合間に、何時の間にやら俺の前へ進んでいたランクモンキーによって拳が振り下され、アーリクイの身体は弾け飛び、HPゲージも一瞬の内にゼロとなった。
その攻撃力は俺を遥かに凌いでいて、とても追いつけ無さそうなもの。
…………って、いやいやいや。
「お前何してんの!」
『アイタッ』
ナチュラルに獲物を取られた。
止める間なんて一秒も無く、何の迷いも無くランクモンキーはアーリクイを捻じ伏せ、やってやったぜ見たいな顔をしていたから俺は後ろから蹴りを入れた。
『何すんだよー』
「お前! 迷宮内で魔物見付けんの大変なんだぞ! 何横取りしてんだ!」
『OH……』
「OH……じゃない!」
その後ランクモンキーを小一時間叱り付け、項垂れるランクモンキーを引き連れて第四層の攻略に挑んだ俺だったが、ちょっとしたミスでアーリクイから攻撃を受け、顔にかすり傷を作ってしまった瞬間ランクモンキーが滅茶苦茶慌てふためいて、その二秒後には俺を担いで元来た道を爆走し、西区までノンストップで舞い戻ったかと思えば大量の包帯を手に待っていたランクモンキー達の出迎えが待っていたのである。
前途多難である。
前途多難過ぎである。




