045 約束は氷と共に
「何……だと」
ドミニカ救出作戦が終わった次の日、俺が徹夜でランクモンキー達とランクモンキー達の寝床に着いての相談をしていた時の話だった。
場所は自宅。
BモンキーとCモンキーが合計四匹無理矢理に入ったせいで入口は大破。
どう考えても高さの足りない天井には大穴が空き、一部床も転落済み。
こちらには顔だけだしている馬鹿もいたりする。
帰路でCモンキーの一匹が道端で拾ったブラウン管テレビをどうにか(Bモンキーが)修理し、見れる様にしたところ、そのテレビはブラウン管ではなく真空管というもっと前のテレビ……要するになんと、白黒テレビだったのだ。
『いや違うだろ』
CモンキーはBモンキーになると、ボケ成分の他にツッコミの素養が芽生えるらしいという説明をランクモンキーより受けてはいたが、よもやモノローグにツッコミを受けることになるとは誰が考えようか。
『テレビ、やっと映ったんだからテレビ自体じゃなく映像見とけよ』
「昨日までカラス食い千切るやんちゃしてた癖に」
『言わないで! それは黒歴史っ!!』
ちゃんと残ってるボケ成分に働きかけてみると、精神的にも成長しているだろうことが読み取れる。
『……つーか団長って俺らの見分けつくんだな』
「は? 当然だろ」
友達の見分けもつかんとかどんなだよ。
言って置くが俺は瓜二つだと評される双子であったとしてもそれが友達であったなら見分けられる……という記憶も無いのに変な確証がある。
『俺らでもちょくちょく間違えんのにな……』
『あぁ……俺、この前嫁とお前間違えた』
「性別認識も出来てねェじゃねぇか!」
なんか何故俺が認識出来んのか疑問に思えて来たぞ。
まあランクモンキーには個人を特定する記号たる名前という概念が存在しないというのだからそもそも個人を見分ける必要は無いのかもな。
いや、それでも嫁と男間違えんな。
『あー……俺も『あれ?』 そうだったかもなんて思ったアレな』
「気付けと。声を大にして言いたいっ!」
『言ってんじゃん』
『てかテレビ見ろや! 思いの外直すの大変だったんだぞ! 真空管とか扱い知らねぇよ!』
ここでBモンキーによるツッコミが入る。
まあ確かに、テレビがついてるのに内容全く聞こえないし、喧しくし過ぎた感はある。
行動を無意味にされるのは思いの外嫌なものだし、しっかりと聞くことにしよう。
「♪~~~♪~~~」
「……ま、どちらにせよ聞こえん」
『姐さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!』
『『『DO! MI! NI! KA! Hay! DO! MI! NI! KA! Hay!』』』
『お前らも黙れぇぇぇぇぇぇぇ!』
その後、なんやかんやがありつつもどうにかしてテレビで情報を得た俺を除くその場にいる者共は狂喜した。
ニュースで報道されていたのは、明智光秀の死。
そしてそれに成り代わって将軍となる者の発表、そしてその人物が俺だったのである。
それに伴い西区は俺の勢力圏となり、区を自由にする権利を得たのだ。
『ヒャッハァァァァァァァ! 寝床ゲットォォォォ!』
『フッヒャァァァァァァァ! 大仕事の始まりだぁ!』
『ヒィィィホォォォォォォ! 汚物は消毒消毒ぅぅ!』
『落ち着けお前ら! まずは町の一掃だ! この廃れた街を破壊し、俺達で新たに街を構成するのだ!』
『俺達の特技は~~~?』
『『『破壊!』破壊!』破壊!』
『俺達の特技は~~~?』
『『『創作!』創作!』創作!』
『そう! 破壊と創造は表裏一体! 散開!』
『『『爆発!』爆発!』爆発!』
『待てぇぇぇ! 爆発は止めろぉぉぉ!』
カオス……!
次の瞬間、無理矢理に入って来た段階で入口を大破されていたマイホームは屋根を全壊、半分の床を失ってその代わりに静寂という平穏を残した。
「♪~~~」
訂正、静寂は存在しえなかった。
「ぴんぽーん」
インターフォン……だと?
そんな馬鹿な……いや、有り得ない……マイホームの入り口は今や大穴だ。
インターフォンなんていう便利グッツは既に瓦礫と化している。それなのに俺の後ろからは間違いなくインターフォンにおける定番その物な、『ピンポーン』という音が聞こえてきて。
有り得ん……有り得んぞ……それに今下は焙れたランクモンキーの巣窟と化していて、人間がここへ侵入するのは不可能……ということはまさか……。
黒光りの……『G』ッ!!
あの包囲網を抜け、こんな場所へ来られるのは奴らしかいない。
馬鹿な……後ろを取られたというのか! この俺が、なんて慢心しているつもりはないが、よりにもよって奴らに……黒光りの『G』に……!
クソ! なんてプレッシャーだ……後ろを見れないなんて……こんなことが起こり得るのか……!
しかし、このまま時間が進めば俺は、後ろから攻撃を受けることになる……。
ドミニカもその存在に気付き、俺の後ろの存在に威嚇しているではないか!
「だーれだ?」
────ま、真後ろだとぉぉぉぉぉ!?
馬鹿な……あの大きさでなんという速さだ。
しかも、視界を塞がれた!?
クソ……俺もここまでか……ん? あれ?
そういえば、黒光りの『G』に俺の視界を塞げる程の体積が有る筈はないんじゃないか?
それに【駄亜礪陀】という呪詛の言葉……それを発した声に俺は聞き覚えがある。
後、後ろから伝わってくる柔らかい感触……必要以上の密着から香るこの匂いは……。
「マリー……か?」
「当たりなんだよ」
全身から力が抜けていくのを感じる。
座っていたから大袈裟にぶっ倒れたりはしないが、少しマリーに寄り掛かってしまう。
「驚かせるな……」
「?」
マリーに寄り掛かるのは思いの外安心感があった。
言うなれば戦場で頼りになる強靭な上官の後ろに居る……そんな感じの。
もしかすると強さが全てらしいこの国の人間であるマリーもかなりの実力を隠しているのかもしれない。
「久遠、約束通りスケートに行くんだよ」
「あぁ、それで迎えに来てくれたのか」
「そうなんだよ」
家を教えた覚えは無いのだが、どうやって来たのだろう。
ニュースで自宅の報道でもされたのか? それなら近くにカメラがあったりするかもな。
……ドミニカは何時まで威嚇しているんだろう。
入って来たのは黒光りの『G』じゃなくてマリーだったというのに。
「早速出発だよ?」
「あぁ。……しかし」
俺は玄関跡地の方を一瞥してから立ち上がり、マリーに向き直っていう。
「よくこっちに来れたな」
玄関跡地からこっちへの道は、大穴という障害で阻まれているというのに。
所変わってスケート場。
氷の張った床が一面に広がる室内スケート場は、沢山の人で賑わっていた。
俺は行くと言って(はいないがニュアンスで)聞かないドミニカを背負ったままにここまで来て、マリーと桃色(笑)トークを繰り広げる度にドミニカに噛みつかれると言う痛みの伴う移動が終わったことに安堵していた。
というか、何故俺は噛まれるのだろう。
助けるのが遅かったからだというのであれば、麻痺毒なんて使って足止めしてきたエンゼルに文句の一つでも言いたくなるものだが、残念なことにこの場にエンゼルはいない。
俺とマリーはスケート靴をレンタルすると、早速氷の大地へ足を踏み入れた。
そして無論、俺はドミニカを背負ったままで両手を使えないのである。
「わぁ! 久遠、早速滑るんだよ!」
「ネタが?」
「? 何を言ってるの?」
移動中にも思ったが、ツッコミが……いない……!
先程まで居たツッコミ役のBさんは今何をやっているんだろう。
Bモンキーに非常に会いたくなった訳だが今それをすれば属に言うドタキャンという低俗な行為を俺がしたことになるのだろう。
『む! 今団長が俺を求めた気がする!』
『キモい』
『…………』
一方町破壊に磯住むランクモンキー達の中でそんなやり取りがあったとか無かったとか。
スケートというものを俺は記憶を失って初めてやる訳だが、なんか問題無く滑ることが出来た。
まあ転んだらドミニカまで氷の大地へダイブするからってのもあるんだろうが、後ろで人一人分の重量を支えながらにこのバランス感覚。
……神葬流剣術会得がその要因か、それとも。
「久遠! 二人一緒にクワドラプル決めるんだよ!」
「あぁ。……この状態で四回転しろと!?」
やってみたら案外出来た、なんていうオチが着いて来るのはやはり女性たるドミニカが俺の背にいるからだろうか。
そんなこんなでスケートを始めて一時間が経つと、一時休戦ということになった。
途中からスケート対決に打って変わり、美女と美しさ対決なんていう無謀な戦いに挑んだ俺は見事なまで敗北に敗北を重ねた完敗後の休憩となった。
「歌に合わせたパフォーマンスは反則だと思うんだよ」
「いや、それ勝者の言葉じゃねぇだろ……」
「? 勝ったのは久遠」
「は? マリーだろ」
「久遠」
「マリー」
「久遠」
「マリー」
「久遠」
「メリー」
「今、貴方の横に居るんだよ」
「…………」
「…………」
静寂。
一見、仲睦まじい二人がお互いの健闘を称えているよう見えるその光景は次の瞬間崩壊する。
「どっからどうみても久遠なんだよ!」
「ハァ!? 美しさでマリーに勝てるって思う程俺はナルシストじゃねぇよ!」
「技キレッキレだったじゃないか!」
「それはお前もだろ!」
「それを言うなら久遠もなんだよ!」
一発触発。
先程までの光景を微笑ましげに、または羨ましげに横目で見ていた奴らは全員「何で!?」という思いを心に収めたまま通り過ぎて行く。
俺からしてみれば、俺がマリーに勝てた要素は微塵も無い。
あるとすれば俺の技では無くドミニカの歌だろうことは誰でも分かることだろう。
だというのにマリーはそんなことも分からないのか、俺の勝ちだと言い張るのだ。
何がしたいのだろう。
後、俺は美しく無いぞ。
「……で、久遠とマリー様。お前ら何やってんの」
「えっとねアルマゲドン君」
「アルマゲ……!? ゴ、ゴンザレスでは……?」
「奥さん今の反応見ました?」
「えぇ見ましたとも。最早本名も名乗ることが出来ず、ゴンザレスって名乗りましたわ」
「あぁはなりたくないですわね~」
「いやはや本当」
「……というか、お前ら何故ここに?」
現在、俺とマリーは正座中で、ドミニカはベンチで歌唱中。
そして今迄この場に居なかったゴンザレス、Iコフ、Yランドがこの場に参上し、場が収まっている。
「運動だ。で?」
「久遠が勝利を認めないんだよ」
「マリーが勝ちを受け入れない」
「ふむ……さっぱり分からん。もうどっちも優勝で良いだろ」
「何その今時の幼稚園によくある温い運動会」
勝者は何時でも一人っ!
その後、ゴンザレスたちも加わったスケート大会で俺は二位を勝ち取った。
一位は当然の様にマリーで、勝敗は全員審査員による多数決での決定で、異議を唱えようもない。
「また遊ぶんだよ」
そんな言葉を閉めに、マリーとの約束は果たされ、スケートは幕を閉じた。
俺が最後に告げられたマリーの言葉に肯定の意を示したのは言うまでもないことだろう。
そして俺が西区が廃墟になっている、なんて知るのはもう少し先のことになる。




