043 結末な顛末
「~~♪」
何故言われるまで気付かなかったのだろう。
何故その姿を見るまで分からなかったのだろう。
Cモンキーのプレゼントボックスでも差し出す様な形で手のひらに乗って、この状況下でも唄い続けるドミニカの姿はとても印象的だった。
俺が自分でも気づかない内に手を伸ばしたのと同じ様に、ドミニカも唄いながらに手を伸ばす。
周囲のCモンキー達が睨みを利かせている為に明智も新選組も手が出せない。
そんな中で、俺とドミニカの距離が少しずつ近づいて来る。
五十センチ、三十センチ、十センチ。
九、八、七、六、五、四、三、二、一。
頭部強打。
「ったぁ!?」
「~~……♪」
姫を助けに来た王子よろしく、抱き合うのかと思いきやまさかの互いが互いの頭部目掛けてヘットバットである。
恋愛ラブコメに向かない、それが俺とその周囲の残念クオリティ。
何と無く、そんな言葉が頭に浮かんだのだが……つまりはロマンチックブレイカーと。
痛みによりドミニカは墜落して頭を抑え、その正面では俺が同じく頭を抑える。
ドミニカの頭部強度は絶対異常値を示していると思われる。
『……もっとこう、桃色展開期待してた』
『そうか?』
『予想通りだろ』
『というかお前桃色展開に賭けてたからだろ。誤魔化させねぇぞ』
『チクショウ』
ンなモンに賭けんな馬鹿共。
俺は呆れてため息を漏らした後、目の前に居るドミニカの無事を視覚的に認知できたことの喜びを抱擁という形で表してから立ち上がり、明智の方を向く。
「何? なんですか? もしかしてマッドサイエンティスティックな改造とか期待しちゃってます? そーいうのは頂いてから数時間で参上しない場合にのみお願いしたい」
「……」
「漫画や小説じゃねーんだから、攫ったらすぐに即実行とは不可能なーんーでーすー。いろいろ準備してたんだけどな」
「……」
「あーあ。攫われたお姫様は王子様に助けられて平和に暮らしましたとさ、かよ、バットエンドもいいとこだぜ」
「……ハハ、まだエンドしてねぇよ」
「ん?」
俺は言う。
何故俺が立ちあがったのか? そんなのは決まっている。
「お前を殺さなきゃ、物語は終わらない」
まあ終わったら、記憶も取り戻していない俺は『俺達の冒険はまだまだこれからだエンド』、つまりは打ち切りにあってしまっている訳だが。
「はあ、さいで」
明智はやる気の無さそうな顔をしながらも、しっかりと刀を構えていた。
そんな明智を見て俺は、今迄明智がしたことを思い出して俺は、こんな提案をする。
「そうだ、賭けをしないか明智光秀」
「賭け?」
「俺の異能は物質圧縮なんだが、当たり前が如く人間には使えない」
変形の部分はあえて口にしなかった。
エンゼルから聞いているのかもしれないが、基本人前で使っていないこの能力を大っぴらにする必要性は皆無だ。
何より、物質圧縮は凡庸性の高い異能であるとエンゼルは言った。
ただ俺のは制約が随分と緩いようではあるが。
「惜しい、使えたらスプラッタな映像見たい放題だったじゃん」
明智はそんなことを言いながらに顔を歪める。
その表情から異能の凡庸性を小ばかにしていることはありありと伝わってきたが、俺は気にしない。
「俺はそれを敢えて人に、お前に向けて発動する。何も起こらなかったらお前の勝ちだ、斬らせてやる」
「は? 何言っちゃってんの?」
「お前は楽しながらに愉悦感を感じたいんだろう? 悪く無い賭けだと思うんだがな」
現状普通に考えて、発動せぬまま終わるであろう物質圧縮。
一見あからさまに明智が有利な賭けだが、それは俺が異能の全容を隠していない事前提だ。
殺し合いにおいて、『卑怯』は無いに等しい。
だから俺が能力を偽り明智を殺したとしても何等おかしくは無い。
そんな賭けに乗る人間は正直、要ると思えない。
「ふーん。お前のそうしたい理由によっては考えてやっても良い」
「理由?」
「そこの猿共嗾ければどうとでもなるこの状況下でお前がそんなことを言いだすメリットは無い。それなのにそうする理由とは? 言わなきゃ受けねー」
逆説的に言ったら受けるのか?
いや、考えてやっても良いじゃ善処しますに等しいぞ。
でも理由ねぇ……ま、別に隠す程の事でも無し、全然言っても構わない無いようだ。
「実験だ」
「はい?」
「制約に当てはまらない方法での使用をした場合どうなるか、そんな実験」
まあ発動しないが無難なところだが……。
何と無く、何かが起こる気もしないでもないんだよな。
自分のことであるせいか、あやふやな感覚として自身に宿る異能の事が理解出来る。
それを明確にした行って言うのが理由として最も大きなものだろう。
後は、あわよくば明智が圧死すれば良いとかその程度のものだ。
「あーそういう……」
明智は、何かを理解し考えているようだった。
俺の言葉に偽りが無いという前提の思考を形成しているらしいことはその顔から理解出来たが、次に口に出された結論に至った理由は自分で言いだしたことでありながら俺自身理解することが出来なかった。
「オーケー、交渉成立ぅ。じゃ、早速やれよ」
俺が口端を吊り上げてニヤリと笑うと、明智も同様に口端を吊り上げニタリと笑った。
狂人シンパシーが如く、異質なところで似通った感性を持っているらしい俺と明智の間に賭けが成立してしまったことはまぎれも無い事実だった。
「……っ!? やめろ乗るな明智光秀! 嫌な予感がする!」
そんな中に水を差したのは土方だった。
Cモンキーが睨みを利かせる中で動けずにいる癖にそんなことを言う土方に、明智は言う。
「黙れよ。平和な時代のにわか侍が」
「……」
明智の見下したような言葉に、土方は言い返さなかった。
鬼の副長と謳われた土方歳三である筈のそいつが、侮辱の言葉に対し無言で返したのである。
「さ、邪魔な観客が何かする前に早くしよう」
「始めに言って置くが、俺に不意打ちは通用しない。俺の異能発動と同時に斬りかかろうと思ってたんなら宛てが外れている」
「バレタかー。なんてな、武士に二言はねーの。早くやれ」
まあ、なら止めるなんて言っても俺は止めなかっただろうけれど。
俺は異能、『物質圧縮・変形』を発動させる。
「ところで、その異能の名前は何だ?」
が、標的を選択する前に明智による言葉の妨害にあり、それは中断される。
「……は? 今言ったばかりだろう物質圧縮……」
「じゃない。厨二病患者よろしく、異能にはその能力を簡潔に述べたモノへルビが振られてんだろ。そっちそっち」
「知らん」
「ちなみに俺のは『死体改造』。笑っちまうだろ? 漢字の名前に漢字のルビだぜ?」
「知らん」
つまりは、その異能がお前を明智光秀と証明しているに他ならないってことか?
まあ真偽性は分からないし本当にそんな読み方なのかは知らないが。
「知らないんなら見て見ろよ、自分の命賭けるモンの名前も知らないとか滑稽すぎて笑えちまうけれど、逆もまたしかりでこっちに火の粉が飛んだ場合には笑えねー」
未確認物体にころされるとか、なんて明智は続けた。
別に義理立てする筋合も無い。
ドミニカを助けた今殺しはするが会話するのも吝かじゃないらしい俺だが、別に明智へ一ミクロンの情が生まれた訳でも無い。
……ただ、まあ。
名前を知る事位は別に何の問題も無かろうが。
千壌土久遠 19歳
職業:久遠 Lvrt2▲j5
スキル『物質圧縮・変形』『???』
「……『物質圧縮・変形』」
その呼び方からは何の意味も読み取れない。
『死体改造』のようにその言葉に意味がある訳ではないらしい。
「アシュ・ヘイケ? お前、有名どころの武士じゃないの?」
「何処の世界に二本の大剣振り回す武士がいる?」
「いや、日本だけに」
「死ね」
よく分からんが、堕ち人たる俺が日本の武士な訳も無かろうに。
「ま、いいや。今度こそどっちが死ぬか決めようぜ」
「…………」
俺は若干の苛立ちを覚えた為に無言のまま手を明智へ向ける。
正直、この観客の多い中で異能の使用は避けるべきなんじゃないかと考えさせれる時間を得てしまったせいで若干の後悔が残るが、その辺は気にしないことにする。
俺がこいつを殺せれば、何でも良い。
────『物質圧縮・変形』
結論から言って、圧縮は始まらなかった。
元々、生物の圧縮が不可能であることはその異能がこの世に存在した時点から決まっていた事だ。
ただその代わりに、この異能が俺の知らない存在の仕方をしていた事実を、俺は知る。
圧縮は起こらなかったが、物質を変形する際手に持たないと起こる浮遊作用が、明智に現れた。
「やべっ!?」
驚いた明智がそんな言葉を洩らしながらに地面へ手に持った備前近景を地面へ突き刺し、無重力状態の身体をどうにか地面へ縛り付けんとする。
人間は足が床に着いていないと不安になる生き物だ。
いや、不安にならないのは鳥や虫といった羽を持つ者だけかもしれないが。
兎にも角にも、備前近景を突き刺した明智がどうにか地面へ足を着けようとした時、『それ』は現れた。
現れた、というのには語弊があるのかもしれない。
出て来た、と言うのが正しい言い回しであることは目の前でこれから起こる現象を見てもすぐには理解出来ないだろう。
空中に黒い靄のようなモノが出たのだ。
それは何かを通す、穴のように、明智の左右両方に一つづつ、その大きさは約五〇〇センチと言ったところか。
穴と言ったがそれは、扉であるようにも見えた。
見方を変えれば、窓に見えるかもしれない。
こちらとそちらを遮るものがあって、それがガラスか建築材料かの違いである感じ。
でも多分、それは窓だと思われる。
少し常識を覆して、力を込めればガラスを割って容易にそこから出ることが出来る。
そんな感じがするからだ。
「おいおいおい! これ明らか圧縮って空気じゃないぞ!」
「……何だ、コレ」
「ふざけんな! お前が出したんだろうが! 早くこれをっ!?」
次の瞬間、ガラスは割れた。
現れ出たのは、腕だった。
大きな、とても大きな、五〇〇センチの大穴をギリギリで通過するような、そんな腕。
巨人の腕。
それは人間の様であり動物の様であり化物の様である。
人間の腕とは到底思えない黒くゴツイ無機物の様な皮膚をしたそれは、腕であるとしか理解させない。
腕であるとしか、分からない。
まるで罰を与えるかのようだった。
『物質圧縮・変形』は、ルール違反を犯した人間に対し、発動しないという無視では無く対象の破壊という行動で返したのだ。
何かを生み出す為の異能であった為に、罪の償いたり得るのは対象の破壊であると、言わんばかりに。
明智光秀は、巨人の手と手の中で、真っ赤な何かへとカタチを変えた。




