040 明智と死体
「おぉ凄い凄い。お前って本当は何なんだろうな」
即時ゾンビ&グール共による猛攻撃が来るかと思いきや、そんな明智の言葉により戦いは一時中断された。
俺はこの間を利用して呼吸を整える。
神葬流剣術は使うのに必要な部位が多すぎて体力消費も早すぎる。
修行の時はそれ程でもなかった気がするが、実戦となるとその消費量は長期戦に向くものでは決してない。
だから剣術でありながら波状攻撃等も存在するんだろうが、それでも体力は足りないくらいだ。
走り込みでもして体力をつけるか?
……体力はそんなすぐにつかねぇか。
日々の積み重ねがモノを言うのは駄目だな、時間が無い。
ダンジョン内を歩き回っていればいずれ体力も着いて来るだろ。
「……一つ言えるのは、お前の醜さ100%の脳味噌じゃ理解出来ないってことだ」
「おーおー言うね、そこまで言う程強くない癖に」
明智が言いたいのは多分“俺より下だかなかなかやる、褒めてやんよ”ってことなんだろうが……そもそもその物差しが間違ってんだよ。
お前のレベルが何レベルかは知らないが、今の俺にそれが関係あるとは思えない。
「……じゃ、その強く無い奴に殺されて死ね」
「あーもしかしたらだけどもしかしてお前、残り半分も片付けてやるとか意気込んでたり?」
「言葉の意味が分からない」
確かにこれからゾンビとグールを殲滅しようとした。
初めて対面する相手ではあるが、見た感じ俺に負ける要素は無い。
「その考えは幻想ってことだ」
明智がそう言った次の瞬間、オフィスの物入れが一斉に開き、溢れ出したモノがあった。
人間の死体だ。
「……悪趣味だ」
「別に趣味って訳じゃないしあんな臭いモン」
そして、明智のニヤケ面に変化があった。
目に紫色の光が宿り、その光は溢れ出した死体の山へと刺さる。
そうした次の瞬間、死体だった筈の人体が動き出した。
当然俺は驚いたが、明智のニヤケたツラを拝んだ時点でそんな驚きは思考の奥底に沈んでいる。
動き出した奴らは例外なくこう表示されていた。
『ゾンビ』と。
「死体改造。これが俺の異能さ。面倒な制約もあるが、最高の能力だ」
成程な、この場に居る腐った奴らは明智によって生み出されたって訳か。
だから異様なまでにゾンビが多く、レベルも低いのか。
まあ補充できるのならその補充された者も駆除するだけの事なのだが。
俺はアロンダイトとヴァナルガンドを構える。
「お前の考えていることは分かるぞ、ゾンビのレベルは低い。だから倒すのも容易いと、そう考えているんだろう」
「いや別に」
正直その点に感じては全く考えていなかった訳だが、というかつい数秒前までレベルに絶対的な格差が生まれていたであろう相手と戦闘を行っていた人間がそんな思考に至る訳無い気がする。
何処をどう考えたらそういう思考に辿り着けるのかある意味気になる点ではある。
「強がるなよ。寿命を縮めたいのか?」
「もう黙れよ。遺言なんて、残させない」
噛み合わない会話。
いや、噛み合わなくさせているのは俺自身なのだが、元々俺は明智とコミニケーションを取る気はサラサラない。
必要性を全く感じられないのだ。
だって殺すし、この時間が不毛に感じられる。
早く明智を殺しドミニカを助け出す。
今の俺の頭の中にある思考は正にそれだけだ。
「やれやれ、話にならないな」
「言葉通りの意味でな」
「そこにはちゃんと受け答えするのか……」
ツッコミは反射なんだよ。
あぁ、そういえば聞かなきゃならないこともあったのだったか。
「そういえば、ドミニカは何処に居る」
「唐突としか言いようのない文脈の無さ。コミュ障害かよ」
「再度問う、ドミニカは何処だ」
本来であれば一番最初に問うべき問題であった事を否定しない。
殺意に塗り固められた思考がこれを後回しにしてしまったことも。
あからさまに本末転倒だが、殺意に勝る感情の起伏はそうあるものじゃない。
俺は正義の味方ではないから、何かを助ける為を優先出来る程人間で来ていない。
だから、報復を優先する。
「知ってどうする? まさか人魚を救出して逃げようとでも考えているのか?」
「そんな訳が無いだろう」
俺はお前を殺すまで殺戮を止めない。
そういえば、Cモンキー達の方は片付いたのだろうか。
「まあどちらにしても俺が返す言葉は教える義理無しだけど」
「そうか、じゃ、死ね」
俺は飛び出した。
情報を吐かないならもう生きている意味は無いだろう。
俺のそれに対応したのは、ゾンビという肉壁共だった。
無論それは明智による指示の元だろうが、腐った死体風情で俺の攻撃を防げると思われているのは納得がいかないところである。
細切れにしてやろうか。
まあこれだけの数を前にそんなことはやっていられない。
俺はヴァナルガンドで薙ぎ払う様にして振り払い、ゾンビ共を一閃。
上半身と下半身を切り分ける気持ちで剣を振るった。
しかし。
「ハハハ、ゾンビにそんな攻撃が効くとでも?」
ゾンビ共はヴァナルガンドによる攻撃に堪えた様子も無く、そのダレた手で俺を掴みに掛かる。
あぁそうか、既に死んでいるのだから斬撃なぞ効かないか。
明智の持つ自信の一端を理解した俺は納得する。
そしてそれと同時に思う。
だからどうした、と。
俺はヴァナルガンドを腕輪へと戻した。
そしてアロンダイトだけを構え、それを口にする。
「神葬流、天使一刀」
目にも止まらぬ剣戟は、たった一撃ではあるが、そのゾンビ共全てに一撃を当てる。
普通であればそんな攻撃ゾンビには無いに等しいだろう。
武器さえ、聖剣たるアロンダイトでなければ。
次の瞬間にはその場にいた全てのゾンビの体は身に纏っていた衣類を残し、消失していた。
「馬鹿な!?」
明智はそんな言葉を吐く。
だが俺からしてみれば、手に握られた剣の正体を知る人間であるのなら、この現象は当然であると考える。
聖剣アロンダイト。
清浄な気を放つこの剣に斬られた不浄な魂がこの世に繋ぎとめられる事は無い。
何故ならば瞬時に洗い清められてしまうのだから。
斬ったのは、ゾンビだけでなくグールも同様だ。
そしてグールもまた消失という形で消えて行った。
「次はお前だぞ、明智光秀」




