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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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038 最強の手助け

 最強さん。

 正直それが本名だとは思わないが、そう名乗った少年の事を俺はよく知らない。


 Tシャツの文字に拘りがないことは知っている。

 カレーがお気に入りであることは知っている。


 それだけしかしらない。

 実年齢や血液型は勿論、今しがた少年と言ったが実際は少女かもしれないのだ。

 体格的には子供で、まだ身体的特徴に性別が出て来る歳ではなかろう外見年齢とその中性的な顔立ちは性別を正しく認知させることが出来ないのだ。


 まあ、性別なんてものに頓着はしないし、親しくなっていくうちに知る機会もあることだろう。

 そんなことよりも今は、最強さんの最強さんたる所以を考えてみようと思う。


 無論、俺が最強さんを知り得ていない為にあくまで予想の範疇を超えないのだが。

 



 最強さんがそう名乗るのは、最強だからである。


 言葉を上手く交わせない最強さんが考えたのは、名前で自己主張するということである。

 唯一ともいうべき自分の特徴を名前とする。

 そしてその名を裏付けるが如く最強さんは、“力”を、誇示した。



「…………。…………」



 最強さんは何時の間にかそこに居たのだ。

 そしてまるで空気でも掴んだかのような手軽さで、リットゥの力ではどうしようもなかった大名蜈蚣の拘束を解いたのだ。


 大名蜈蚣を殺すと言う形で。

 どうやったのかまるで理解出来ないそれは果たして、最強さんにとって攻撃だったのだろうか。


 服に着いた埃を払うように、邪魔だったから除けた。

 それだけのことをしたような風に、最強さんは平然としていた。



 俺は、魔装を解いた。

 何故か急にする必要性を感じられなくなったのだ。



「……最強さん、何故ここに?」


「…………。……」


「俺? 俺は明智光秀をぶっ殺しに」


「……。………………」


「いや俺やるつってんじゃん。何で最強さんがやるのさ」


 所々に未だ火が残り、未だ進めぬ部屋の奥にはエンゼルと、二匹の虫。

 だが最強さんは気にしない。気にも止めない。



「……。…………」



「え?」


 先に行けと、最強さんは言う。

 まるで全ての事情を知っているような風に、あたかも死亡フラグのようなシチュエーションにも関わらず微塵もそんな風は無く。

 それは絶対的な自信から来ているものなのか。


 それとも、勝つことを確信しているからなのか。



「行かせる訳にゃいでしょ」


 エンゼルの言葉と共に、機械式アゲハと機械式ヤママユガはその巨体で襲い掛かる。

 そして、消滅した。


 文字通りの意味での、消滅。

 消失と言っても過言ではないそれは、機械式アゲハ、機械式ヤママユガ双方の欠片も残ってはいない。



 要因は、分からない。


 最強さんによるものであろうことしか、俺には分からない。



「……流石最強ね。なんでワタシの邪魔をするのかは知らにゃいけど」


「…………。………………」


「……相も変わらずだんまりだし。ホント何がしたいのさ」



 ……だんまり?

 エンゼルは一体何を言っているのだろう。

 今最強さんは確かに答えた。

 この状況下で何故俺の味方をするのか、その理由を。



 ただ、最強さんの言う理由は俺にとってイマイチ理解出来ないものだった。

 どういうことなのか説明を聞きたいところだが、今はそんなことをしている暇も無い。


 エンゼルの言葉を聞いて、悲しそうな表情を浮かべながらも最強さんは目で先に行けと俺に言う。

 人の好意を無下にするしない以前に、この申し出を受けない理由が無い。

 リットゥは途中で解除したからまだMPも残っている。

 ただ、この短時間の使用で大半を持っていかれている為、もう魔装をするべきでは無い。

 俺はアロンダイトを腕輪より剣に変えて握る。


 久しぶりに持った気がするアロンダイトはまるで、羽のように軽かった。



「最強さん、先行く。目的済ませたら追い着いて来て」


「……。…………」


「まあ俺も早く終わらせたいんだがな。というか、例え追いついて来てもそっちは手伝わなくていい」



 明智光秀を殺すのは、俺だ。



「させる訳にゃいでしょ」



 次の瞬間、光の球より大量の虫が出現……いや、作成される。

 それはどれも虫と呼ぶには巨大で、人間を容易に食い千切る事が出来るだろう虫独特の牙を持った化物。

 俺の顔から血の気が引いて行くのは絶対相手のレベルが圧倒的だったからではないな。



「久遠、行っちゃ駄目だって。じゃにゃいと……」



 俺は前に歩き出した。

 敢えて走るのではなく歩くことを選択したのは余裕を見せる為だろうか。

 一体何に虚勢を張っているんだろうな? 俺は。


 襲い来る虫達は全て例外無く消失した。

 まるでバリアでも張ってあるかのように、半径一メートル以内に入った虫は消失。

 最強さんは動いてすらいない。


 しかし俺はなにもしていないのだから、これをやっているのは最強さんということになる。

 これも異能なのだろうか? しかし、動く事も無くこれだけの事をやってのける能力なんてこの世に存在するのか……?



 俺の足の裏が奥へと続く通路の赤い絨毯の上へ乗る。

 ただ歩いて進んだだけで突破した。


 これはそういうことになるのだろうか。



「待つにゃ! 先へ進んじゃダメなのよ!」



 エンゼルの言葉を無視した俺の脚は気が付けば走っていた。


 多分体が待ちきれなくなってしまったのだろう。


 明智光秀を殺す。

 それを一秒も我慢できない。


 おかしいな、さっきまでは大丈夫だったのだが。

 ……あぁ。



「クセェ三下臭漂う馬鹿に近づいたせいか」


 こんな奴にドミニカをと思う俺の心がそうさせているんだろうな。

 こんな場に、アロンダイトは相応しくないかもしれないな。


 ある種の聖戦である気がして出した聖剣だが、この感情のままに戦うなら魔剣の方が相応しい気がしないでもない。


 だが聖剣で行く。

 というかそもそも、コレを誰かに見せるのは初めてか。

 俺はドミニカの前で戦うなら勇者でありたいよ。



 道は無意味に長かった。

 通路自体は数分走っただけで途切れたが今度は階段ときたもんだ。

 最上階のさらに上は屋上な気もするが、取り敢えず違うようなので先へ進む。


 まさかヘリで逃げないよな。

 無論そんなことをさせる気は微塵も無いが、もしそうなったら俺は殺意を抑えられるだろうか。


 恐らくは一緒にドミニカもいる。

 ヘリごと殺害、なんてのは出来ないだろう。


 そして、階段の終わりに辿り着いたのはまたも広い部屋だった。

 ただ、今度の場所は先程と違いオフィスらしい物が置かれているし、何よりも先程と違うものがある。



 明智光秀が居る。



 漸く見つけたぞ。

 明智光秀。



「オヤァ? エンゼルさんは失敗したのか?」



 会話する気は無い。

 次の瞬間には俺がオフィスの入り口には居ない。

 聖剣片手に明智の死角へ入っての移動を開始しているからだ。



 俺は声を出さない。

 明智光秀は呆気無く殺す。

 何でも無いモブキャラが如く、名前も覚えられない存在のように。



 死ね。


 これから殺すから。



 殺意は飲み込み、洩らさない。

 仮にも戦国を戦った武将だ。そういう気配には敏感だろう。

 だが、殺意の無い攻撃に対してはどうか?



 消えた俺に明智が唖然としたのは一秒にも満たない。

 そして俺を捉えるのに必要とする時間は恐らく十秒にも満たないだろう。


 しかし、この距離なら六秒あれば余裕だ。

 余裕で、殺せる。


 次の瞬間には、明智の完全なる死角たる後ろに俺は居た。

 そしてその手に持ったアロンダイトを振り上げ、殺意を飲み込んでも尚変わらぬ殺意に染まった目でその後姿を視界に入れると、まるでギロチンのように振り下した。



 手応えはあった。

 しかしそれは明智光秀を斬った手応えではない。



「……猿?」


 Cモンキーでは無い。

 大きさ的にも色合いてきにも普通っぽい猿だ。

 ただ言えるのはそいつが恐ろしく不細工だってことだ。


 そしてその猿は、既に死んでいる。



「危ないなー。うっかり仲間盾に使っちゃったじゃねぇか」



「……仲間?」


「そーそー仲間、仲間。こいつらみーんな」



 明智光秀の言葉に応じるが如く現れたのは沢山の魔物。

 そして明智光秀は素早く俺の間合いより出て魔物を背に勝ち誇りながら言う。



「こいつ等はお前の何倍もレベルの高い魔物。俺が養殖した」



 養殖……そんな事が出来るのか。

 まあ、正直な話だからどうしたと俺は言うだろう。



「あ、ちなみに“元”お前の人魚はこいつらの……」


「黙れ、殺す」


 殺意が、漏れ出した。

 明智の口よりドミニカの話が出た瞬間、俺の我慢に限界が来た。


 酷く刺々しいのに濃厚な殺意は、明智にのみ注がれる。


 ……俺の殺戮を邪魔するのは……ダレダ。



「……殺れ、お前ら」


 明智の命令により、魔物達が動き出した。

 養殖と明智は言ったが成程コレは確かに養殖だ。

 確かにレベルは高いのだろうな、戦闘訓練もしたのか?


 だけど、それだけだ。

 野生の魔物とは程遠い、Cモンキー達とは地球と月位に差が見受けられる。


 こいつ等は、雑魚だ。


 それ故に。




「……不毛」


 俺は構えるのを止めた。



 そして、空いていたもう片方の手にもう一本の剣が収まる。


 魔剣ヴァナルガンド。


 聖剣と魔剣。


 勇者たる者左手に聖剣を。

 魔王たる者右手に魔剣を。



 俺はこの日初めて二刀流を披露する。

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