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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
35/47

035 悪魔化と魔装

 俺がCモンキーの肩に乗って移動したのは、西地区に入る前までだった。

 そこまで行くとCモンキー達の馬鹿話が急に途絶え、纏う気配が変わった。


 それは殺意であり敵意であり憎悪であり嫌悪である。

 電柱にとまっていたカラス達が一斉に飛び立つ。

 Cモンキー達の覇気に死の危険を感じての脱出を試みたのだ。



 そして、その内の一羽が一匹のCモンキーに捕まった。

 ギャアギャアと鳴きながら必死にもがくカラス。

 そのCモンキーはそんなカラスを頭から食い千切り、咀嚼する。

 パキパキという骨やくちばしを噛み砕く音がCモンキーの口の中より鳴り響く。



 ────グギュゥ゛ゥゥ゛ゥ。

 Cモンキーは言葉でも無い鳴き声と共に、胴体も口の中へ放り込む。

 殺すことを抑えきれなかった。


 頭部から食い千切ったその様子はそれを物語っていた。



 俺を先頭に道路の真ん中を突っ切る行列は、統制なぞ微塵も取れていない。

 ただ俺の後を着いて来ているだけで、一列に並んで歩いている訳でも無し、Cモンキーの巨体が道路の全てを埋め尽くしている。


 それはまるで百鬼夜行。

 目に宿る憎悪の念は悪鬼のそれだった。


 砂煙は、二つの意味で叩けば埃の出るこの街から絶える事無く存在し、進む度に巻き起こる。

 薄茶色の煙幕が少しでも、俺達の殺意を覆い隠してくれればと思うも、それは無理な相談だと言わんばかりに砂埃は二歩目には去って行く。

 そしてまた巻き上がるも、それの繰り返し。


 砂程度では俺達の殺意を隠すことが叶わないらしい。



 ビルの前は、黒服によって固められていた。

 その数はせいぜい二百居るか居ないかという程だろうか。

 サングラスによってその目は隠されているが、やる気満々というのだけは伝わってくる。


 黒服達の手に例外無く収まっているのは、マジンガン。

 Cモンキー達は兎も角俺が喰らえば十中八九死に絶えるであろうそれが、全て俺達に向けられているのだ。



『ギャハハハハハ!『ハハハハ!『ハハハ!『ハハ!』』』』


 それを見たCモンキー達が笑う。


『おい久遠見ろよ、人間共はあんなもんで俺達を殺すらしい』


「……お前ら、銃って知ってるのか?」


 その余裕が銃を知らないからとかだったら笑えない。

 Cモンキーの言葉からはそうも読み取れる言動だった為に尋ねてみたが、返答を聞く前にCモンキーの表情からいらぬ世話だったと理解する。


『ああいう豆鉄砲だろ? きかねぇよあんなん』


 やはりか。

 自慢の体だと言わんばかりに胸を張るCモンキー。

 そして一匹が思い出し、気付く。


『あ、久遠一応人間だから……』


 一応って何だ。


『あー……久遠は効くのかー……肉体硬化の儀式って有ったっけ?』


『ねぇよ。俺ら最初からかてーし』


 そいつは羨ましいことで。

 というか、俺はもう二度とCモンキーの儀式を宛てにはせんぞ。

 あんな無意味に危ない真似、一度やれば十分だ。






 Cモンキー達は白い。

 白い、白い、まるで大地を覆い尽くす雪のように綺麗な体毛を持っている。

 雪が大地を覆い隠す様に、まるで、何かを覆い隠すが如く。


 これから、覆い隠されていたモノが顔を出す。



 始まりは、黒服達による射撃だった。

 リーダー格の合図と共に、此方側へ向けられていたマジンガンが全て同時に火を噴いたのである。


 豪雨の様な銃撃。

 鬱陶しい騒音と共に飛んでくる鉄の塊たる銃弾は、俺やCモンキー、周囲の物に向かい例外なく降り注ぐ。


 舞う砂埃の中へ、更に押し込まれる銃弾。

 時間にして五分。

 その間ずっと放たれ続けた弾丸の雨が収まり砂埃が晴れた時そこに有ったのは。



 悪魔だった。


 物質圧縮・変形の特性を利用した防弾。

 それをする前にCモンキー達の大きな腕が俺の全身を銃弾より守った。

 そして砂埃が晴れた時Cモンキー達は決まって同じセリフを吐いた。


 それは合言葉であり、呪文であり、呪詛であった。


 俺はリットゥを取り出していた。

 呼び出すは業炎に身を焦がす式正の鎧。


 その姿は言うまでも無く悪魔である。

 使用者の意識すらも刈り取る、皆殺しの悪魔である。




 Cモンキーは口にする。



 悪魔化(ディアブロ)と。


悪魔化(ディアブロ)

悪魔化(ディアブロ)

悪魔化(ディアブロ)

悪魔化(ディアブロ)

悪魔化(ディアブロ)

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悪魔化(ディアブロ)


「『魔装』」



 Cモンキー達は自らの醜き姿を美しき白で覆い隠すのを止めた。

 俺は自らの欲求を満たす為にその体を炎で焼き焦がした。


 Cモンキー達の身体を、禍々しく、黒々しく、毒々しく、悪々しい鎧のような皮膚が覆う。

 俺の身体を焼き尽くさん勢いで燃え盛るそれは、武者鎧の形を形成する。


 どちらも一ミクロンの面影も残さぬ変身、変形、変態。

 いや、双方共に、殺意の籠った血走る眼だけは変わらなかった。


 目的はドミニカを助けること、の筈。


 しかしやるのは明智光秀を殺すことだ。


【グ……ガ……】


 精神をも焼き尽くさんとする業火に対し、俺は対抗するのではなく順応した。


 焼けるように熱い体。

 焼き尽くされようとする精神。

 焼き切れそうな思考。


 その全てに順応し、そして使うのだ。

 武器は、使われるのではなく使う為にあるのだ。



【祭りはまだ……終わらぬぞおぉォおぉぉォォ゛ォォぉォォ゛ォぉォ!】



 支配率三〇%というところだろうか。

 体は自由に動かないし精神も安定しない。


 だけど、意識を失わない。

 目的だけは決めることが出来る。

 狙う相手を定めることも。


 これだけ出来れば、十分だ。



 ────グギャオオォォォォォォォォォォォォォォッ!!


 俺の叫びに同調するが如くCモンキー達の雄叫びが鳴り響く。


 悪魔化(ディアブロ)

 これが何なのかという明確な答えをCモンキー達は持ち合わせていない。

 しかし、Cモンキーはコレを扱える。

 生物が呼吸しなければいけないのと同義であるが如く、当たり前の様に。


 Cモンキー。

 その存在は、猿が悪魔になるのかはたまた悪魔が猿になったのか。


 その答えを知る者は未だ現れない。




 マジンガンでの奇襲が無意味に終わっただけでなく、異形なモノへと姿を変えた俺達に対し、人間は怯えた。



 元々、Cモンキーが人間の前でこの姿を取ること自体初めての事である。

 もし仮に過去人間の前で悪魔化していたとしても、それが語り継がれることは絶対に有り得ない。

 何故ならそれを目にした人間は例外無く殺されるのだから。


 元々Cモンキーの美的センスは人間に近い。

 だから自分達の今の姿が決して良いものでないことを知っている。

 そんな姿を進んで見せようなどとは思わない。


 これは、この場に居る人間を必ず皆殺しにすることを宣言しているのと同義である。



 人間達はどうしようもなく体の震えが収まらず、寒くも無いのに歯をカチカチと鳴らし、暑くも無いのに大量の汗を絞り出す。


 今目の前にしている存在。

 決して攻撃するべきでは無かったと言う今更ながらの後悔。

 声を出すことすら許されぬ圧倒的覇気を前にして、人間達は蛇に睨まれた蛙となった。



 勝利者の決まった戦いを人が何というか、君は知っているか。





 ────蹂躙が、始まる。

 『悪魔化』←これ全匹分打とうかとも思ったけど止めた。

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