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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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034 追跡する復讐鬼

 殺すと宣言してみて初めて気が付いたのだが、俺は明智光秀の居場所を知り得ていなかった。


 恐らくゴンザレスに尋ねてもあの様子じゃ答えてくれはしないだろう。

 エンゼルが敵となった今、エンゼルの友人たる小町との接触も得策じゃない。

 となれば尋ねることの出来る相手は二人しかいない。


 内一人は消息不明だが、もう片方はその居場所を知っている。

 俺は走ることなくユラリと歩き出す。

 その動きは亡霊を思わせるものがあっただろうことは周囲の反応を見れば明らかだった。


 駅まで行って、電車に乗り、目的地で降りる。

 それだけの動作で俺は一体どれだけの視線を集めただろうか。

 俺は駅から出ると再度歩き出し、そして辿り着く。


 ダンジョン入口に。

 マリー・アントワネットの居る場所に。


「マリー」


「久遠! 今迄何処に……どうしたの?」


「知りたいことがある」


 マリーは俺の異変に気付いたらしかったが、俺がそう言うと少し考えた後「何?」と聞き返してきた。

 その察しの良さに感謝しながら俺は尋ねる。



「明智光秀は何処に居る」


「……明智光秀?」


「そうだ。西地区を統括しているらしい明智光秀。その本拠地を知りたい」


 明智光秀。

 そう名を呼ぶたびに俺の中で憎悪が渦巻く。

 この感情は奴を殺さねば収まることなどないだろう。


「えっと、西区にあるあの大きなビル。あの一点だけ綺麗なとこ。あそこが西地区総督府だよ」


「そうか、ありがとう」


 ふむ、遠回りをしてしまったな。

 明智光秀、目と鼻の先にいたらしいことは喜ぶべきか悲しむべきか。

 いや、悲しむ必要性は皆無か。

 何故悲しむという選択肢が生まれたのだろう。

 俺は自分の思考に首を傾げながらもマリーに会釈すると元来た道を歩き出す。


「久遠!」


 そして、マリーに呼び止められる。

 事情を知らないマリーだが、何か感じるところがあるのだろうか。


「……何だ?」


 マリーは何処となく落ち着かない様子。

 頭の中で考えを纏めている風でもあるが、呼び止められて数秒の沈黙があれば此方側は首を傾げるしかない。


「明日、スケート行こうよ」


「スケート……」


「うん、私はしたことないんだけど楽しいらしいんだよ」


 遊びの誘いだった。

 明日……随分と急だが、明日なら何の問題も無い。

 俺が一日も先延ばしにする筈……否、出来る筈が無いのだから。


「了解した」


「ホント?」


「あぁ」


「約束なんだよ」


「約束だ」


 死亡フラグ。

 そんな単語が頭を過りもしたが、所詮フラグはフラグでしかないと俺は一蹴する。

 所詮は起こりうる可能性。確率論に過ぎないのだ。

 であれば確実性において捻じ伏せれば良いだけのこと。


「……?」


 気のせいか。

 体が軽くなったように思う。


「久遠、約束は守る為にあるんだからね?」


「俺がマリーとの約束を破る訳無いだろ」


 まあ元々、マリーとの会話は元気の源だった。

 癒し効果でも働いたのだろう。



 アホな考えはさて置いて、俺は今度こそ立ち去った。

 そして向かうのは駅の筈だった。





「Cモンキーの大群が来るぞぉぉぉぉ!」


「!?」


 電車に乗る直前の事だった。

 そんな叫び声が俺の耳に届いたのは。


 そして、地響きと共につい数時間前まで行動を共にしていた白い巨体が此方へ近付いて来ていることに気が付いたのはもう間もなくの事だった。


 この街の人間は、滅多なことで山へ入らない。

 その理由はCモンキーの存在。

 Cモンキー一匹の戦闘能力はダンジョン攻略者百人分とされている。

 無論、双方共に個体によりけりだが、平均化されてしまえばどうしてもそういう計算になる。


 そんな中で、Cモンキーの個体数は多い。

 一つの森の中に四メートルを超える巨体が約七〇〇匹。

 しかも生殖系の頂点に君臨したことから日に日にその数を増大させていっているらしいことを、Bモンキーから聞いた。


 二年後には千匹を超えているのは確実らしい。

 Cモンキーは案外潔癖で異種族との血の交わりを極度に嫌うらしく、対抗した敵には確実な死しか待っていない。

 Cモンキーにとって基本人間は好ましいモノでないらしいことも聞いた。

 なら何故俺と接触した時殺さなかったのかと尋ねたら、敵意が無い相手を殺るのは心苦しかったから威嚇して向かって来たところを殺そうとしたところ、友好な関係を気付けてしまったのだとか。


 飯御馳走する威嚇とかどんなだよと思わなくも無いが、俺がかなり危ない橋を渡っていたらしいことはよく分かるご高説だった。

 ……だからついてくると言った時、人間を蹂躙すると何でもない口振りで言っていたのである。



 まあ、過ぎた事はどうでも良いか。


 Cモンキー達が、俺の前に立つ。

 その数は百や二百は軽く超えているのは確かだが、具体的な数は分からない。


『久遠』


「何だ」


『水臭いぞ。何故人間を相手にするなら俺達を呼ばない』


「……何故知っている?」


 Cモンキー達の言動には、事情を知った風な感じが確かにあった。

 こいつらが俺の敵でないことは分かる。

 しかし何故、そんな疑問が生まれることは止むを得ない。


『知ってるさ。姐さん攫われたんだろ? 超音波でSOSが来た』


『久遠がそれで動かない訳無いでしょ』


「……ドミニカ、そんなこと出来たのか」


『人間には聞こえない音波でだから知らなくても仕方ない』


『姐さんのメッセージは自分を助けろじゃなくて久遠を守れだった。久遠はどうする?』


 どうする、ねぇ。

 ドミニカは自分の身を心配していれば良いものを……何で俺の心配なんかするのかねぇ。

 俺の性格から次に出る行動を予想しての言葉なんだろうけど……まるで俺の事を昔から知ってるみたいだな。

 流石に数日の付き合いでそうまではなれないだろ。


 ……ドミニカがどんなことを思っていてもやることは変わらない。


「明智光秀ぶっ殺す」


『だよな。あけちなんちゃらブッコロ』


『姐さんには悪いけど、メッセージには従えないわ』


『SOSには対応してみせよーぜ』


 Cモンキー達がこの戦に参加するのなんて、言わずもかなだった。

 周囲にはもう、誰一人として人間は存在しない。

 白で溢れかえったこの場で俺は宣言する。




「俺達の友達に手を出す家畜を、駆逐しにいくぞ」



 そんな言葉にニヤリと笑うのがCモンキー達であり、その内の一匹が俺を肩の上に乗せる。


『当たり前よ』


『信頼してるぜリーダー』


『ボスの方がよくね?』


『んー微妙』


『団長』


『それだ』


『久遠はこれから俺達の団長だ』


 何でも良いけどよ。

 お前らが良いなら、この中で最弱たる俺が、最強たるお前らを率いてやる。

 そして駆逐しよう。人間共を。


「全軍、向かうべき所はあそこに見えるビルだ」


『おぉ、全軍だってよ』


『俺達軍隊か。カッケー』


『何軍隊? 久遠軍隊?』


「だせぇ!」


『本人駄目だってよ』


『んー……じゃあ────』



 Cモンキー達の脚が早くなっていくのを、俺は肩の上で感じていた。

 切り裂く風が、髪を舞わせながら目に写る物を変えていく。



 電車を追い越すことも可能だろうCモンキー達の突進。

 そんな中でただ一人人間たる俺は、この中で最も殺意に身を焦がしていた。


 俺が、から俺達へ。


 俺達は、お前を殺す。

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