031 酒盛の転機
「……ハァ、何でお前が相手なんだろうな」
なんて、恐らくは俺に向けられていないだろう独り言を拾った俺は、その言葉の意味が分からないながらに反応する。
「何の? 『狂喜! 大食い競争~猛毒始めました~』?」
「違ぇよ。怖ぇよ。何始めてんだよ」
普通に違った。
「いや、まあこの料理に猛毒が仕込まれてれたら食欲減退だけどさ」
「それ以前の問題だろ。つーか減退って食うには食うのか」
取り敢えず、地獄耳のシェフさんの眼力が恐ろしく怖いからこの話は止めておこう。
見た感じ自分の料理に自信を持ってるっぽいし、これ以上話したら『俺の料理に何か文句でも?』とか言ってこっちに来ちまうよ、アレ。
その後の展開は……そうだな、厨房に連行されて食材の気分を味わうことになる、とか?
「てか猛毒入ってたら大食い対決じゃなくてロシアンルーレットだろ。ハハ」
ゴンザレス空気読めなさ過ぎ。
あぁ……やってくる……ノッシノッシとその巨体をアピールしながらやってくる。
料理長が……やってくる。
「俺の料理に何か文句でも?」
「え」
「お巡りさんコイツです」
「」
料理長はゴンザレスの頭をその大きな手で鷲掴みにすると、そのまま厨房の方へと戻って行った。
そして、待つ事一時間。
俺が最初に頼んだ飯を平らげ追加注文し、それも半分位平らげてからの事だった。
全身が腫れて膨れ揚げっているゴンザレスが戻って着たのは。
「お帰りー。どうだった?」
「ミンチにされたった」
「ふーん」
献立はハンバーグだったそうです。
それはさて置き、俺は戻って着たゴンザレスが椅子に座り直すのを見ながらにハンバーグを頬張る。
それを見たゴンザレスが『止めろ……止めてくれ……! く、食わないっ!? あああ゛ああ゛ああ゛あああああ!?』なんて悲鳴を上げながらに言うもんだから余りの喧しさに俺は熱々のハンバーグを一口で平らげた。
やかましいよ。
てか口の中熱いよ。
「……で?」
「? で、とは?」
「相手って何」
「……あぁ、ほらマリー様の事でさ」
「あぁ……俺の勝ちだな、あれは」
不意打ちだった気もするがアレは俺の勝ちだ。
さっきも話で出て来たな、51コンボ。
……あの時は何か体が動いたんだよな。
「ケッ、言いやがる。やっぱ自信あんのか?」
※恋愛的な意味で。
「んー……ま、最近は少しついてきたかもな」
※戦闘技術的な意味で。
「やっぱ生まれ持ったモンが違うしな……」
※容姿的な意味で。
「あー……それで片付けられると納得いかないんだが?」
※才能は努力で覆せる的な意味で。
「ンだよ、何か頑張ってることでもあんのかよ」
※容姿向上的な意味で。
「あぁ、素振りとかな」
※剣術的な意味で。
「えっ」
※理解出来ない的な意味で。
「えっ」
※理解出来ない的な意味で。
「やっぱ顔だよな」
※イケメン的な意味で。
「はぁ?」
※ヘットバットでもすんのかよ的な意味で。
「ンだよ、俺間違ってるか?」
※世の中顔的な意味で。
「いや、基本は腕筋肉だろ」
※戦い的な意味で。
「えっ」
※理解不能的な意味で。
「えっ」
※理解不能的な意味で。
……何か、話が微妙に噛み合ってない気がする。
ゴンザレスもそう感じ始めたのか首を傾げている。
まあ酒も入ってるしな、もしかしたら少し酔っているのかもしれない。
「……ま、議論しても結果は動かないってことで」
「だな。……って、ムカつくなこんチクショウ」
「ハハ、まあそれならリベンジすれば良いだろう」
「リベンジ……ね」
? 俺は今変なことを言っただろうか。
俺の言葉に何か含みのある言葉を洩らすゴンザレス。
あぁ、ムカつきはしても別に再戦したいって訳じゃないんだな。
バトルジャンキーでもなければそりゃそうか。
「あぁ、リベンジと言えば」
「ん?」
「お前もリベンジしてみれば? この性欲測定……」
「デストロイッ!」
「あぁ!? 性欲測定器二代目っ!?」
ふん、良いんだよ。
どうせ俺みたいな人間にはそういう方向の出来事は起こり得ないんだから。
というか、性欲が無いことと男失格であるかは別問題なんだぜ?
そういう機会が絶対に訪れないだけであって、出来ない訳じゃない。
やれるけどやらない、それだけのことなんだ。
……負け惜しみだな、自分でも分かったわ。
まあ事実だけど。
兎にも角にもゴンザレスが取り出した拳銃型測定器をデストロイした俺は、若干苛立ちに傾いた感情を食べ物と一緒に呑み込んでしまうが如くの勢いで皿の上の料理を平らげて行く。
「すみませーん。また注文良いですかー」
「お前遠慮無さ過ぎだろ。……まあハンバーグさえ頼まなければ幾らでも食ってくれて構わんが」
「ハンバーグを重点的にお願いしまーす」
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ふふん、コレが久遠クオリティ。
なんて、これじゃあただの嫌な奴なのだけれど、ゴンザレスの反応が漫才のようでついやってしまう。
そうなると俺がボケになってしまうのか。
「つーかさ」
「俺はハンバーグじゃない俺はハンバーグじゃない俺はハンバーグじゃない俺はハンバーグじゃない俺はハンバーグじゃない俺はハンバーグじゃない俺はハンバーグじゃない俺はハンバーグじゃな……何だ?」
いやどんだけ恐怖擦り込まれたのさ。
ゴンザレスの怯え様にはドン引きするばかりだけど、今それは置いておこう。
「ゴンザレスってあの測定器シリーズどっから仕入れて来てんの?」
「ん? デパートに売ってんだよ。性欲測定器は十八禁の所にあったから買った」
「ふぅん、ちなみにそこでは他に何を買った?」
「エロ本」
「ドン引き」
「聞いといてかよチクショウがぁ!」
いやだってさ。
明らか三十代後半のオッサンがさ、春本買って家で見てる姿想像してみ?
ふっつうにドン引きだわ。
ていうかキャバで飲みまくれる金あんなら買う必要ないだろ。
ちなみにそれを尋ねてみたところ返ってきた言葉はコレ。
「別腹」
「半径五万キロメートルは近寄らないで」
「出てけってか。いい歳した色情狂は地球から出てけってか」
やかましいよ。
こんなどうでもいいところで人間の性欲に飽きれつつ俺は、運ばれて来た料理を再度口に運ぶ。
ハンバーグはゴンザレスの前に置いて見たらなんか同胞を見る様な危ない目してたからそのハンバーグは胃に収めることでゴンザレスを正気に戻した。
『ジェニファァァァァ!』とか絶叫してたからかなり危ない状況だったと思う。
ナイスセーブだ俺。
いやアウトだろ俺。
まあ、そんなこんなで酒盛は続いて行くわけだよ。
ぶっちゃけ俺の性欲は食欲に食われちまった線が濃厚だと思うのだけれど、おかわりが五回目に突破した辺りで俺の胃袋にブラックホール疑惑が発生した。
いや、異能はそんな感じだけど圧縮してないよ?
……そういえば、ブラックホールって作れるんだろうか。
今度試してみよう。
「千壌土久遠という奴はここに居るか?」
そんなことを考えていた時の話だった。
この場所へ来ることは誰にも教えていないのに、俺へ来客が来たのは。
酒場へ入りながらにそんなことを言ったのは、若い男だった。
黒服にサングラスの巨体共を引き連れて、いかにもお坊ちゃんって感じの。
「……おい、アイツのこと知ってるか?」
「知らない。誰」
「いや知らないから聞いて……いや待てよ。アイツ……」
ゴンザレスが何か思い出さんとしているところに、男と黒服共の目が此方へ向いた。
「君が千壌土久遠かね?」
「彼はゴンザレスだけど?」
「ゴンザ……随分と馬鹿な名を名乗る男だな」
「お前、俺と全国のゴンザレスさんに謝れ。つか俺はゴンザレスじゃねェ!」
あれ、そういえばゴンザレスってマリーに無理矢理押し付けられた名前だったか。
本名……聞いてないな。
俺、本名も知らない奴に奢ってもらってたのか……?
まあいいや、後で聞こう。
「ふん……で、そっちの君は?」
「俺? 俺は千壌土久遠。ゴンザレスはこいつだけ」
「いやダブルゴンザレスってどんな関係だよ俺ら」
とてもカオスな関係だろうな。
「そうか、君が千壌土久遠か」
「いや多分アンタの探してる千壌土久遠じゃないと思うけど。同姓同名の別人じゃね?」
接点皆無だし。
「いいやお前で合ってるよ。……確かによく聞けばあの時の声か」
「え、何言ってんのキモい」
接点皆無なのに声知られてるとか有り得ないんだけど。
全身に身の毛もよだつ程に気持ちの悪い発言を男より頂いた俺は思ったままの感想を口にして、周囲に笑いを巻き起こす。
周囲から同調の声が上がり始めたところで、男はポーカーフェイスを気取ったままに言う。
「知らないのも無理は無い。何故なら俺が君の声を聞いたのはオークション会場でだからね」
「……は?」
「僕の要件っているのはとても単純なものだ」
男は一度間を置いてから、したり顔でこう言った。
「君がオークションで手に入れた人魚を寄越せ」




