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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
30/47

030 帰宅後の活動

 昨日の疲れがまだ残っている。

 Cモンキーに見送られながら下山して街までの道を歩く最中、欠伸を噛み殺しながらに考える。

 どれだけの金を稼げばあいつら全員を連れ歩けるような土地を所有することが出来るのか。

 正直な話、別に西区や北区である必要性は皆無であると考えている。

 その理由はCモンキー達の技術力であり、あれ程の速度で家を造り上げることが叶うのなら既にある住宅を再利用する必要性は皆無だ。

 町近辺の土地所有権が誰のものであるか確認してみるのも手か。


 町へ入ると、約一週間ぶりに人の声を聞いた。

 Cモンキー達の言語より聞き取りやすく感じる聞き慣れた人語は、俺に向けられたものでは無きにしても耳を通り抜ける。


 久し振りにマリーの声を聞きただだだだだだ!?

 俺がこの地で出会った友の事を思い出し、その声を聞きたいと思った瞬間俺の頭部に激痛が走る。

 ドミニカさんドミニカさん。

 俺の頭は食い物じゃありませんよ。

 ……てか食いつきながらどうやって唄ってんの!?


 閑話休題。


 ただでさえ、人魚を抱いていることで視線を集めていたというのに、その抱いていた人魚に噛みつかれるというファインプレーを見せた俺はより一層視線を集めてしまい、速足でその場を去る。


 何故ドミニカが食いついたのか。

 それをご本人にご高説頂こうと試みるも、返ってくるのは歌ばかりという分かり切った結論しか得られなかった。

 そういえば何故ドミニカは喋らないのだろう。

 よくわからないがドミニカはとてもお喋りな気がするのだけれど。

 本当に何と無くそう思う俺は、その疑問に対し首を傾げるしかない。




 漸く部屋へと戻ってくるとガラスの椅子にドミニカを座らせ、俺自身も畳に腰を下ろす。

 取り敢えず今は体を休めたいという思考と、ダンジョン行けという思考が俺の中を周る。

 いや、ダンジョンは論外だろ。

 今日これから行って階段見付けれる気はしないし、突かれていたせいで死んだなんて笑えない。


 まあダンジョン行きは冗談にしても、もう眠るという選択肢を除けば酒を煽りたい気がしないでもないから酒場へ行くのも良いだろう。

 飯を作るって気分でもないから、ついでに飯も食うか。

 ここ一週間金使ってないから飲み代くらい普通にある。

 例え使い尽くしても明日稼げば良い話だ。


 俺は三〇分位の時間を休息に使いドミニカの歌へ耳を傾けた後、重たい腰を上げて玄関へと進む。


「いってきます」


「~~♪」


 そしてドミニカの歌を背に、部屋を出る。

 外には相も変わらずしけた街並みが広がっているが、この辺で人に会う事かなり少ないのだけれどここは何のためにあるんだろうか。

 そんなことを思いつつも、中央区へ繰り出した俺は、酒場を探して練り歩く。


「喧嘩だー!」


「誰と誰が?」


「えっ……それは知らないけど」


 知らない奴の喧嘩なのに騒いだのか?

 野次馬根性も結構だが、邪魔だから人だかりを作るのは止めて貰いたい。

 俺は人間の塊を掻き分けて前へ進む。

 見知らぬ相手の喧嘩に首を突っ込む趣味はない訳だけれど、先には進みたいのだからここを突っ切るしかない。

 ……にしても、日中堂々喧嘩して大丈夫なんだろうか。

 この町にだって警察かそれに類似した組織位あるだろうに、見つかったら面倒なことになるぞ。


「いけーゴンザレスーそこだー……ん?」


「いいぞーやれー。……ん?」


「……お前ら何してんの」


 喧嘩しているのが思い切り知り合いだった件について。

 突っ切る際、人混みに流されること無く直進した結果俺は騒ぎの中心へと突撃してしまったようであり、そこに居たのは毎度おなじみ三バカ共である。


「いやさ、どっかの馬鹿が我らのリーダーに喧嘩売っちまって」


「リーダーが『ンだと!?』的な感じに安い挑発乗った結果がコレ」


「ふぅん」


 あいつキレっぽいのな。

 そんなことを思いながら向ける視線の先に有るのは、男同士の醜い殴り合い。

 その名の通り動きに美しさが皆無のガキ以下な喧嘩が繰り広げられており、俺は残念な気持ちになる。


「ゴンザレスって雑魚なのか?」


「んにゃ。頭が弱い事を除いたら強い右方だと思うよ」


「多分あれ、相手の異能が原因だよ」


 Iコフ曰く、どうやらゴンザレスは相手と対峙した瞬間に何故かあんな有様に成り果てたのだという。

 それが本当なら確かに異能によるものだろう。

 その能力は何だ?


「まあそれは良いや。喧嘩の原因は?」


「えっと……何だっけ」


「本人に直接聞いたら? 内容がアレだけに近付いても何等問題無いでしょ」


「それもそうか」


 俺はYランドに勧められるがままあほらしくも殴り合う二人の男に近付き、そして尋ねる。


「お前ら何で喧嘩してんの?」


「コイツが俺を怒らせた。それだけのことだ」


「…………」


 相手側は返事すら帰ってこない。

 それどころかハエが止まりそうな程遅い拳を此方にも向けてきやがった。

 俺はそれを難なく回避した訳だが、マジで何してんだこいつ等。



「新撰組だァァァァァァァ!」



「何だと!?」


「!?」


「……何?」


 言う程興味があった訳でも無し、退散しようかと思った矢先に刺す様な叫び声が耳へとぶつかって疑問符を浮かべる。

 新選組って……アレか? 幕末に居た武装組織。

 そういやアレって警察だったっけなーなんて考える俺の腕を、ゴンザレスが掴む。


「何してんだ! 早く逃げんぞ!」


「は? 俺は関係ないだろ」


「良いから早くしろ! 飯奢ってやるから!」


「了解。おい! 行くぞテメェら!」


「「オス!」」


「なんでお前ちょっとリーダーっぽく振舞ってんの?」



 等と言う雑談が繰り広げられながらも、俺達は急ぎ、その場を離れるのだった。





 新選組なる集団から逃げた先に行き付いた先は酒場だった。

 前回ゴンザレス達と一緒に呑んだキャバクラでは無く普通の、女一人では入りずらそうであり男には居心地がよさげな居酒屋。

 逃げた距離を換算すると五キロ位だろうか。

 注目を集めていたとは言えども所詮野次馬達にとって赤の他人たるゴンザレスの顔を覚えている人間は少なかろうし、余程のことが無ければ追撃は無いだろう。


「お前ってどっか行ってたのか?」


 席に着いて店員に酒と飯を注文したところで、ゴンザレスは最初「相も変わらずよく食うな……」なんて呟いていたのだがそれはあくまで独り言。

 そんなことを尋ねられた俺はその意図が分からずも飯を心待ちにしながらゴンザレスの問いに答える。


「あぁ、ちょいと山籠もりを」


「前時代の修行か。今ならダンジョン潜れば嫌でも強くなれっだろ。何しに行ったんだ?」


 正にその修行をしにいった訳だが、俺に物事の過程を自慢する趣味は無い。

 修行なんてのは所詮、なにかをする前の事前練習に過ぎない。

 であればこれは恥ずべきことであり、隠すべきことか。


「山菜摘みみたいなもんだ」


「泊りがけでか? この季節に?」


「案外あったぞ、山菜」


 実際、Cモンキー達の作る料理の付け合せに山菜を使った料理がちょくちょく出てきたりしていた。

 見た限りあれら全ては鮮度が最高潮。

 つまりは採ったばかりのものだった。

 俺も修行の休憩がてら少し探してみたら冬だと言うのに結構な数の山菜を発見。


 あの森って冬だろうがなんだろうが関係ない気がするな。


「そ、そうか……」


「でもなー……持ってくること出来なかったんだよなー」


「何で?」


「食っちまった」


「あぁー……泊まったりするからだ、アホ」


 まあ実際はそれが目的じゃないし当たり前なのだけれど。

 そういえばドミニカ、Cモンキー達が作った飯まるで食べなかったな。

 元々水さえあれば生きていける種族であるのは分かるが、七日間で一口も口にしないなんて、とは少し思った。


「でもなんでンなこと聞いたんだ?」


「マリー様が少し前に『もう五日も久遠が来ないんだよ』とか仰ってな。目に見えて落ち込んでたんだよ」


「ちょっと用事思い出したわ」


 マリ────ッ! 会いたかったのは俺だけじゃ無かったんだな!

 一週間会わないだけでマリーが俺の事を忘れている可能性を配慮に入れていた分嬉しさは大きい。


「落ち着けって。ほら、飯が来たぞ」


 ゴンザレスの言葉の通り、店員が沢山の料理をテーブルまで運んできた。

 ちなみにIコフYランドの二人は、俺達が着た時既に酒盛りを始めていたグループに混じってあっちで騒いでいる為に今この場にいるのは俺とゴンザレスだけだ。

 店に入った瞬間に俺が『散開!』と叫んだのが要因の一つであることは言わずもかなである。


 閑話休題。


 俺にこんだけの飯全部を食わせる気かというゴンザレスの冷静を装いながらも無茶だろと心の底より訴え掛けてきている言葉に免じて俺は席に座り直す。

 そうだった、奢ってもらってんだった。

 なんかゴンザレスと飲む時必ず奢ってもらっている気がするが、まだ二回しか飲んでないしそんなこともあるかと納得する。


 自分がたかり野郎になっていないことを願うばかりである。


「まったく…………なあ」


「ん?」


 ゴンザレスの表情が何処となく暗い。

 何だ? 食欲ないなら飯は全部俺が平らげるから心配ないぞ?


「お前ってマリー様好きなのか」


「大好きだけど?」


 そっちか。

 いや、大好きに決まってんじゃん。マリー嫌いな奴とかいんの?

 そもそも嫌いなら友達になろうとも思わない訳で、そう考えると当たり前の返答である。

 しかしゴンザレスはそう思わなかったようで、


「そうか……」


 という自分で聞いた癖に何とも暗い返答を返してきた。

 そしてチラチラと何度も俺の顔を見た後に溜息を吐いてからこう続ける。


「俺もマリー様が好きだ」


「知ってるけど。だからお前51コンボ喰らったんだろ」


 好きな女の子へのアピールを失敗したから、そんな結果を生み出した。

 好きな女の子へ悪戯して気を引いて良いのは小学一年生までと相場が決まってるんだよ。


「それに俺は『好き』じゃなくて『大好き』だからな」


 この違いって結構大きいよ。

 “愛してる”と“好き”が違う様に、“大好き”もまた違うのだと俺は思う。

 大好きだと言った俺に対し、自分も大好きだと答えることの出来なかったゴンザレスは既に気持ちで負けてると思う。


 言葉って言うのは考えずに出した物ほど本音と自分を映し出すものだ。

 様付けして呼んでる時点で分かってたけど、ゴンザレスは先程の野次馬共と変わらないミーハーなだけなんだよ。

 まあマリーって見た目可愛らしいしな。

 周囲の人間がほっとくかっつったらNOだろうし……まあ、そういうことだろ。



 俺は気付いてしまった事実に若干鬱な気分を感じさせられつつ、テーブルの上に並べられた料理に手を付けるのだった。


 うん、美味しい。

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