026 開始する修行
────森というか、山でした。
斜面がそれ程高い訳ではないものの、しっかり山でした。
山籠もりで合ってましたよこんチクショウ。
いや、何の支障もないのだけれど。
現在俺とドミニカは街より五キロ地点に存在するかなり大きい自然あふれるを大きく通り越した大自然の中へと飛び込んでいた。
こんなにも寒いと言うか、雪降ってた時点で季節は冬だろうと言うこの時期にも木々には青々しい葉が茂り、伐採された様子もないと来たもんだからもう最高だ。
空気も良ければ気分も良い。
心成しか歌う声のテンションも高い。
というか、俺の腕の中にすっぽりと納まりながらも歌い続けるってどういうことよ。
流石にドミニカ用に金魚鉢を改造した椅子を持ち歩く訳にもいかないというか重過ぎて森の中を歩くには辛すぎるというか、そんな理由で持ってこれなかったのだけれど、ドミニカだけを連れて来ようと思ったら否応無しにお姫様抱っこ以外に選択肢は無い。
まず第一に、脚が無いからおんぶが出来ない。
ドミニカが常時しがみ付いていられるならそれも可能だろうが、この細腕でそれは無理だ。
肩車も同様の理由で無理。……つーかおんぶ以上に可能性が無い。
閑話休題。
取り敢えず、拠点に丁度良さそうな場所を探し回る俺だが、この広い山の中一度迷ったら最後だろうことは言わずとも分かっている。
……筈だった。
一時間程探索して、河原付近で丁度いい場所を見つけた。
そこまでは良い。そこまではな。
結論から言うとまあ迷った訳だよ。
ここ何処って話。
マッピングとか正直忘れてたー……ダンジョン以外でも使えんじゃんアレ。
帰り道を覚えとかない登山とかアホか。
……まあ、うん。人魚抱いて山登ってる時点でアホだと思うけど。
けど正直な話不安は無い。
恐らくドミニカの歌で思考がクールな為だろう。
精神安定剤かよドミニカソング。
……中毒性とか無いだろうな。
……いや、ナチュラルにありそうなんだけど。
俺はそういうの絶対掛からないっていうよくわからない確証があるけど。
何だろう、元から知っていたから?
まあ今は兎に角修行だ修行。
俺はハイパワーΣ【欠落】と力の指輪【劣化】をそれぞれ指にはめる。
力の指輪の性能は何か重たい物でも持ってみないと分からない。
俺はハデス・アイアンを鞄より取り出し、そして驚いた。
「六〇キロの剣が、軽い?」
いや、無論アロンダイトやヴァナルガンドより軽く感じるとか、そこまで極端なモノでは無い。
だが重過ぎてまともに剣として流用することも叶わなかった時とは天と地ほどの差がある。
体感的には四〇キロ位まで落ちているだろうか。
これを振り回すにはまだまだ筋力は足りないだろうが、頑張って行くしかない。
俺は一度、剣を振る。
筋力を鍛える方法として俺が考えているのは素振りだ。
重い剣は強く握らなければ手から離れる。
それは握力も同時に鍛えられることを意味している訳で、基礎能力を上げることのみを目的としている現在、これ程効率的な物は無い。
STR 2.01
ノミ以下のままで恥ずかしく無いの?
コメントはさて置き、たった一回振っただけで『0.01』上がった。
これはハイパワーΣをつけているからこその数値だろう。
でなければ人間はあっと言う間にマッチョだろう。
それはつまり、人類マッチョ化計画がいとも簡単に遂行されてしまう世界ということになる。
……流石にヤダぞそんな世界。
取り敢えず、体重が軽いせいか足の踏ん張りが効かない感じがある。
俺は超高純度鉄を取り出すと、両足に格二〇キロ、両腕に一〇キロの重りを装着する。
そしてもう一度剣を振ってみてから身体能力測定器により再度数値を調べる。
STR 2.03
そんなにすぐ伸びないよこのノミ以下が。
伸びてんだよ馬鹿。
重りをつけたことによって伸びる数値が増えた。
成程、筋肉を苛めれば苛める程数値が伸びていくのか。
力の指輪をつけていても今はこれが限界だが、筋力に合わせて重りを追加させていけばどんどん力が強くなっていくだろう。
これは頑張らねば。
っと、意気込むのも良いが、辺りはもう暗くなり始めている。
俺は急ぎテントを立てて、その中にドミニカを放り込んでから飯を作り始める。
筋肉をつけるには食事もしっかりしなければ話にならない。
筋肉以前に引き締めるべき肉が無ければ筋力もクソも無い。
持って来た食材の量と賞味期限を考えるに、しっかりと計画性を持ってやれば一週間は籠ることが出来る。
その間に飯の確保を出来れば修行も続行出来るだろう。
そんな訳で飯を作る訳だが、やはり量食べた方が良いんだろうか。
大喰らいではあるけど別に毎日沢山食べなきゃいけないって訳じゃない。
だからこれは意味があるか無いかで色々決まってくる。
……最悪、ここで獣を狩ることを予定している。
飯を食べ終わった後は、辺りにはもう月明かりしか見えないという状況。
後はもう体鍛えるしかないというところまで来た訳で、俺は早々にハデス・アイアンを構える。
ドミニカは今も尚歌い続けているが、いつも俺が起きた時にはもう唄い始めていて一体何時眠っているのか疑問で仕方が無い。
道具に頼っての身体能力向上を謀るのは、少しインチキ臭さもあるがそれを言ったらアロンダイトも使えない。
無力な俺は素直に道具を頼る事しか出来ないのである。
なんて、辺りが暗くなったせいか若干ナイーブなことを考えながら俺は剣を振るう。
一撃一撃を恐ろしく丁寧に、全力を込めて振る。
モーションにも気を使わなければならない。
体に変な癖をつけたら取り換えしのつかないことになる。
────グギャァァァ。
「……猿か?」
その声はかなり近いところから聞こえて来た。
俺は剣を振るのを中断し、声のした方へ視線を向ける。
CモンキーLv67
シーモンキーではなくCモンキー。
そいつは一見猿なのだけれど、ゴリラという風では無いのにとても大きかった。
機械式アゲハ程では無いにせよ、その身長は俺を普通に超える。
レベルも高く、今の俺が立ち向かって勝てるかと問われれば即答は出来ない。
リットゥを使うと言う手もあるが、あれを使ってしまうとこの大自然が焦土と化してしまう可能性が高い。
一体どうすれば。
そんなことを考えていた俺に対しCモンキーは焚火によって照らされた地面に棒で何かを綴っていく。
これは……文字だ! このモンキー、文字を会得しているーっ!?
『オレリョウリトクイ。』
「は?」
文字が読めない訳じゃない。
言葉の意味が理解出来ないのだ。
『ゴハンツクル。ニンゲンタベル。カンソウキカセル』
「Cって『Cooking』のCかよ!」
要するにクッキングモンキーですね、分かります。
よくわからないがこの猿はどうにも飯をごちそうしてくれるらしい。
『ワカッタカ?』
「あー何なら朝ご飯作ってくれよ」
『ナゼ?』
「腹減ってた方が美味しく食えんだろ」
『ワカッタ。マカセロ』
……ふむ、何故か飯の心配をしなくて良くなったな。
Cモンキーの料理の腕が良いとは限らないどころかむしろ劇物を食わされそうな感じではあるが、俺は何と無くCモンキーを信じていた。
「じゃあそういうことで」
『ニンゲン、メシクワセルマデマモル。ゼッタイシナセナイ』
「はいはいありがとよ」
よくわからないがCモンキーはここに居座るらしかった。
独自の生態系を持っているらしいCモンキー……一体全体何がしたいんだろうか。
まあしかし、考えても分からないことがあるのが世界というものだ。
そういうものはそういうものと納得してしまえば基本全てに順応出来るもんだ。
例えCモンキーが此方をガン見してても。
俺はそんな中で素振りを続けたのだった。
『モットコウヤル。ニンゲンヨワイ。チカラリヨウ』
「あ、すんません」
次の瞬間には教わる立場になっていたが。
Cモンキー親切過ぎだろ。




