025 予想外な展開
次の日、俺は取れない疲れに見舞われて、ドミニカの歌に耳を傾けながら部屋で怠惰に過ごしていたのだけれど、正直動いていないでいられたのは二時間が限界だった。
昼まで寝ることには成功したものの、起きてからの二時間は暇で暇で・・…本っ当に暇で、二時間でも結構頑張った方だと心の底から思う。
そんな訳で、動かずにいられなくなった俺は外に出てちょっと街を見て回っていた。
「イラサイイラサイ。ヤスイ、ウマイ、良イコトヅクメ」
「売り物、どう見てもアクセサリーなのに食えんのか?」
街を歩いていて見つけたのは、布を広げてそこに商品であろう指輪やネックレス等を置く露店だった。
売っている人間が怪しいと、売り物も怪しく思えてしまうのは人間の心理であり、その証拠に目の前でアクセサリーを『安い』と言って叩き売る黒人の店は誰一人として見向きもしていなかった。
何故俺だけが目を向けたか。
自分でも知らん。
まあ掘り出し物期待ってことで良いだろう。
「オー、ワタシ言葉上手クナイネ。苛メナイデー」
「いや苛めないけどさ。……お前って人間?」
何と無く、生き物って気がしないんだが……。
「イエチガイマス。ワタシ、ロボット。人型ロボットノ試作品ネ」
「それって他人に言って良いことなのか?」
「オーシマリマシタ。コノコト、内緒。オ願シマース」
「誰にだよ……」
まあ逆説的な話、誰に言う事もないのだけれど。
しかし、人型ロボットね……その話が本当なら凄いことなんだろうが……何故試作品たるコイツのキャラがこんなに濃いんだろうか。
というか、何故に黒人?
黒人に対する先入観なぞないが、商売用に造ったのならもう少し造形に気を留めるべきだと思う。
要するに、黒人でも何でもいいから売り子に『ごつい』『黒い』『オッサン』の三拍子が揃った奴チョイスすんなよ……。
周囲が俺に話し掛けるのやめとけって視線を向けているのが後ろを見なくても分かるぞ。
時たま耳元で「速く離れた方が良いよ」とか囁くやついるし。
……俺商品見る為にしゃがんでんのにわざわざだぞ?
こいつがどれだけ怪しいか、それを物語ってんな。
……ロボットってマジなのかな。
「んで? ここって何売ってんの?」
「コレコレ、ガラクタ共」
「もし仮にそうだったとしても客の前でそれを言うなよ!」
確かに並べられている商品に美的センスは欠片も感じられないし、薄汚れている。
なんか力瘤作っている腕が掘られた指輪とかもあんぞ。
取り敢えず、製作者の意図が知りたい。
マッチョか? マッチョに憧れてたのか?
俺もなりたいわ。
「デモ言ッテタ。コレ共、失敗。ガラクタ」
「お前商売する気無いだろ。そういうのは言ったら買って貰えないんだぞ」
「……コノコト、内緒オ願シマース」
「おい」
俺も客だって忘れてんだろ。
何処の世界に商品が不良品であることを内密にしてくれって頼まれる消費者が居んだよ。
……ここに居たよこんチクショウ!
「ソイエバ、言ウナイワレタ。忘レテタヨ」
「阿呆め……」
「コレアゲルカラ。全部ワスレルネー」
そう言って渡されたコレは……測定器? 何処に持ってたんだコレ。
何処となく、ゴンザレスの持っていた性欲測定機に近いものがあるけど形は違う。
見た目は……スタンガン?
何で見た目物騒なんだよ。
「コレ測定器ネ」
「何の」
「身体、ワカルヨー」
「わかんねーよ!」
意味がな!
こいつの言ってること何っっっっっも分かんないんだけど!
体が分かるって何だ!
「筋力トカ、数値化スルヨ」
「……あぁ、握力計とかと同じ部類の物ってことか」
それの性欲測定器と同種版? 見た目凶器だし。
でもこっちのはしっかり役立ちそうだな。
「ソウイウコトヨ」
「でも失敗作なんだろ?」
「……タメセバワカルヨ」
「?」
その口振りから察するに機能自体は問題無いってことか。
……まあそれに難があったら測定器名乗れないけど。
じゃあ一体何が問題有るんだ……?
俺はスタンガンを腕に当て、スイッチを入れる。
STR 2.00
ノミでももう少し筋肉ある。
ビキビキ。
叩き割ってやろうかこのクソスタンガンが。
「ソレ、クソムカツクッ! 高得点ダシテモ罵倒カエッテキヤガル!」
「……そ、そうか」
俺も腹は立ったが、こいつの怒りと比べるとそうでも無かった気がして、その余りの殺意にドン引き。
共感出来るはずなのに冷めてしまうってなんだろう。
「ア、因ミニ成人男性平均ハ1.50。女性は1.00ニナッテルヨ。ソレ以下、ゴミ扱イ」
ノミより下があったのか。
というか俺は平均より『0.5』しか高く無いのか。……まあ分かってたけどさ。
この細腕で平均以上あるなら良い方だろ。
「コレ、説明書」
「あー……クーリングオフとかは」
「受ケ付ケナイ! ワタシ無クテハッピー、オキャクサン使ッテハッピー」
「そうか、俺のハッピーは遠いな」
多分使わないし。
ぶっちゃけ身体能力の数値化とか無意味じゃね?
幾ら数値化してもそれで自分が強くなれる訳でも無し、目標を決めることは出来るかもしれないがやる気はコメントによって削がれること間違い無しだろ。
「……ちなみにコレ、名前は?」
「身体能力測定器。……ダッタカナ」
アバウト。
そしてもし正式名なら製作者ネーミングセンス無さすぎだろ。寧ろマイナスだろ。
そんな真面目な名前つけんならコメント機能無くせと。
身体能力測定器 ☆2
※合ってました。
「他なんか無いのか? 面白いのあったら買うぞ」
正直、身体能力測定器は要らないが、もし商品の全てがこんな風にギミックがある物なら中には役立つ物もあるかもしれない。
失敗作らしいけど。
「マジデカ。オキャクサン好キネー」
何かアッチの系怪しい店みたいだ。
露店だけど。
「コレナンカイイヨー。……比較的。……筋力上ゲタイ人、オススメ」
今途中、小声で比較的っつったぞ。
そう言って、商品から手に取ったのは先程の力瘤を作る腕が掘られた指輪だった。
けど筋力を上げる? そんなの指輪で出来んのか?
「コレ、着けるとレベル上ガラナクナル。代ワリニムキムキ」
「マジでか」
と、言いつつ俺だって馬鹿じゃないからちゃんと性能を確かめる。
こういうのって大抵嘘っぱちだからな、きっとこれも……。
ハイパワーΣ【欠落】 ☆3
スキル 筋力特大成長 握力特大成長 身体能力増強補正 レベル変動無効 ???
マジでかぁぁぁぁぁ!?
え、ちょマジで? レベル上がらないのを代償に筋力上げたい放題? 短期間での筋肉増強望める系?
キタこれぇぇぇ! 今俺一番欲しい奴!
ハデス・アイアンを一時間持ってただけでバテたの死ぬほど気にしてたから死ぬほど欲しい!
「凄いなコレ。一体どうやってこんなものを……」
「エジソンの科学力は世界一ィィィィィィィィィィィィィィィ!」
「エジソ……え?」
エジソンってアレか? 発明王の。
マリーさんがいる時点でアレ? とは思ったがマジものの偉人がこの国には居るのか?
時空列ぶち壊して。
取り敢えず、丁度周りに人がいない時で良かったよ。
こいつ超五月蠅い。
「……まあいいや。これって幾らなんだ?」
是非とも欲しい。
手に入れたら速攻準備してスーパー修行タイム突入だろコレ。
奴隷買ってしまったにしてもドミニカで良かったわ……アイツって世話要らないし唄ってるだけだから。
「ンー……十円?」
「安っ!?」
「ンー……十万円?」
「高っ!?」
極端な。文字的には近いけど値段的には四桁違うぞ四桁。
まあ正直な話、十万支払ったとしても十分過ぎる程欲しい。
俺は若干の交渉を交え、需要と供給を成り立たせるべく話し合い、最終的には八二七二〇円という事で落ち着いた。
現所持金130000円
俺の所持金の端数をぶった切ってくれやがりましたが、この男は納得していないようだった。
「ンー……貰イ過ギヨ。話聞ク限リ」
「そうか?」
「久遠、イイヒト。ダカラ遠慮。デモソレ不要。付ケ込マレル」
ちなみに交渉中名前を教えた。
あちらさんはダモール・段ボールというらしい。
見知らぬエジソンこの野郎って感じのネーミングだ。
「いや適正価格だろ」
「コレゴミ。ワタシ十円良イ言ッタ。ケド久遠ソレ違ウ言ッテ高額支払ウ。コレアホ。十円言ッタラ相手気ガ変ワラナイ内買ウベキ」
「あー? そうなのか?」
相手の損得も考えたらそんなこと出来ないだろ。
俺、どっちかが損をする取引とか嫌いだし。
そういう意味で言うならギルドって俺に合ってるよな。
適正価格出てるし。
「ダカラコレ、オマケ。以後気オ付ケル!」
「お、おうありがとう……」
つまりはアレだろ? 自分の得が大きくなるように動けってことだろ?
俺がコレで納得しているんだから良い気もするが、ダモールは気に食わない様子だ。
ちなみにこれも交渉中にだが、ダモールは本当にロボットだった。
皮を剥いだらその下は機械仕掛け。
何故か見せてくれて、俺はテンション上がりっぱなしだった。
なんなら拝見料も含んでると考えて頂いて構わないんだけど。
……アレは良いもの見たわ。
男のロマンが詰まってるわ。
力の指輪【劣化】 ☆3
スキル 筋力大UP
大きく上昇するのに劣化って……普通は特大なのか?
「コレ、着ケル。重イ物、振ル。修行、ハカドル!」
「ありがとう。頑張ってみるよ」
「目指セマッチョ!」
「おうともさ」
そんな訳で、ダモールの店での買い物を終えた俺は、会釈してその場を離れると、一万円程使って大量の食糧を買いこんで、急ぎ部屋へと戻った。
本日の購入明細。
ハイパワーΣ【欠落】 ☆3
スキル 筋力特大成長 握力特大成長 身体能力増強補正 レベル変動無効 ???
食料セットL ☆1
食料セットL ☆1
食料セットL ☆1
食料セットT ☆1
プロテイン ☆1
現所持金120000円
ちなみに食料セットLとは、大量の食糧がランダムに入ったお徳用商品だ。
食料買う間も惜しんで修行する気満々である。
部屋に戻ってすぐ、俺は唄うドミニカの前まで来て高らかに言う。
「俺ちょっと修行してくるから当分帰んない!」
「~~♪ ~……!?」
ドミニカの世界が停止した。
「ドミニカはここで歌でも唄ってお留守番……」
と、言い掛けたところでドミニカは俺の胸に飛び込んできて、必死に首を振る。
「イヤイヤ行かないで!」と泣く子供のように。
「えっと……ドミニカ?」
イヤイヤ!
「ほら、ドミニカって唄えればいいんだろ?」
イヤイヤ!
「俺行くとこ森だし、すぐ帰ってくるって」
イヤイヤ!
森はエンゼルに止められていた気もするが、心の声が叫ぶのだ。
修行するなら森へ行け! と。
……そんなのはさて置き、ドミニカは上目使いで瞳一杯に涙を貯めながら必死に訴えている。
おいてかないで、と。
俺は思った。
……昨日今日の付き合いなのに何でこんなに懐かれてんの? と。
「……一緒に行く?」
「~~♪!」
肯定が帰ってきました。
そんな訳でこれから山籠もりならぬ森籠りです。




